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ヘリオスオーブ・クロニクル(旧題:刻印術師の異世界生活・真伝)  作者: 氷山 玲士
第四章・マイライト山脈の緊急事態
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出発の朝

 本日は、フレデリカ侯爵の私室で朝を迎えました。

 はい、ご想像の通り、抱きました。

 しかもプレグネイシングっていう妊娠促進魔法を使ってですから、プリム達と違って完全に子供を作ることが目的です。


 エルフは胸が薄い種族だから、フレデリカ侯爵はプリムはもちろん、ミーナやフラムよりも小さかった。

 だけどそんなことは気にならないぐらい、とても綺麗な肌をしていた。


 フレデリカ侯爵は褐色肌のエルフだからダークエルフとも呼ばれているが、何百年か前にヘリオスオーブに現れた客人まれびとが、肌の白いエルフをライトエルフ、褐色肌のエルフをダークエルフと勝手に呼んだだけなので、肌の色以外明確な違いはない。

 逆にその呼び方が定着してしまっていて、エルフの間でもそう呼ぶことはごく普通のことになってしまってるのが恐ろしい。

 なのにハイエルフに進化したら、ダークエルフでも透き通るような白い肌になるそうだから、まったくもってよくわからない世界だ。


「あ、おはようございます、フレデリカ侯爵」

「ごめんなさい、起こしちゃった?」

「いえ、実は少し前から起きてました」


 隣で寝ているフレデリカ侯爵と目が合った。

 照れてる姿が可愛いが、本当に10分ぐらい前から目は覚めてたんですよ。

 ちなみに俺の右側にはフラムが、フラムの隣にはプリムが、フレデリカ侯爵の隣にはミーナが寝ている。

 プリムは朝が弱いからまだ寝てるかもしれないが、ミーナとフラムはは起きてる気がするな。


「どうされたんですか、フレデリカ侯爵?」


 予想通り、ミーナは起きてたか。


「いえね、幸せだなって思ってたの」

「分かります。これで女になれたワケですし、何より侯爵は子供を産むことが前提ですから、多分私達とは感覚も違うと思いますし」


 それはあるかもしれないな。

 プリム、ミーナ、フラムは妊娠しないようにコントレセプティングっていう避妊魔法を使っているが、フレデリカ侯爵は妊娠するためにプレグネイシングを使っているし、俺も子供を作ることが前提で抱くのは初めてだから、いつもとは気分が違う。


「そうなの?ってそれもそうか。3人ともハンターとして活動を始めたばかりなんだから、子供を作るのはまだ先になるわよね。ということは私が産む子が、一番年上になるのかしら?」

「そうなりますね。みんなと子供を作るとしても、何年か先になると思いますし」

「わ、私は別にいつでもいいんですけど……」


 消え入りそうな声でミーナさんがそう言ってくるけど、アウトサイド・オーダーになれるかはまだ分かってないんだから、しばらくはハンター活動もしといた方がいいと思うぞ。

 もちろん、絶対ってわけじゃないが。


「ところで大和君、お願いがあるんだけどいいかしら?」

「何ですか?」

「私にも、みんなと同じように接してほしいの。夫婦になったわけじゃないのにおこがましいけど、私はあなたを夫だと思って接したい。だから大和君も、私を妻だと思って接してほしいの」


 あー、なるほど。

 いずれ結婚するつもりはあるが、それは子供が家督を継いでからになるし、フレデリカ侯爵が領地に帰った後でも時々は訪ねるつもりだったとはいえ、俺はそこまでしていいのか判断がつかなかった。

 だけどフレデリカ侯爵は俺との結婚を望んでるわけだから、他人行儀じゃなく嫁さんの1人だと思って接してもらいたいってことか。

 そういうことなら、リクエストに応えるべきだな。


「わかった。それじゃあ、これからはリカさんって呼ばせてもらうけどいいかな?」

「え?リカって……?」

「フレデリカだからリカ。だけど、年上を呼び捨てにするのはちょっとあれだからリカさん。どうかな?」


 最初はフレディって呼ぼうかと思ったんだが、そっちは男、しかも殺人鬼の名前だから絶対に無理。


「いえ、とっても嬉しいわ。別に呼び捨てにされてもよかったんだけど、大和君がそういうならどちらでも構わない」


 さすがに年上を呼び捨てにする度胸はないんだよ。

 フラム?

 確かに年上だけど、最初は同い年だと思ってたから、今更さん付けは逆に厳しいんだよな。


「あ、もちろんミーナ達もよ。立場で言えば同じ婚約者になるけど、結婚した場合は私の方が下になるんだから」

「さ、さすがにそれは無理ですよ!」


 まあ侯爵に敬語はいらないなんて言われても、オーダーのミーナには難しいよな。

 村人だったフラムはもっと厳しいかもしれない。

 プリムは喜びそうだが。


「遠慮しなくてもいいのに。それならせめて、あなた達もリカって呼んでくれる?」

「よ、よろしいんですか?」

「ええ。私が妻になるのはまだまだ先だけど、気持ちだけはそう思ってる。だから、対等に付き合っていきたいのよ」

「そ、そういうことでしたら……これからもよろしくお願いします、リカ様」

「ありがとう、ミーナ。よろしくね」


 話はまとまったみたいだな。

 フラムが青い顔しそうだが、プリムが元公爵令嬢だってことは知ってるし、意外と早く順応するかもしれない。


「さて、それじゃあプリムとフラムも起こしてから飯にして、準備をするか」

「10時出発ですもんね」


 そう、俺とプリムはアライアンスに参加して、マイライトにあるオーク集落に向かうことになっている。

 そこにはオーク・キングとオーク・クイーンがいることが確認されているから、集合までまだ時間があるとはいえ、ゆっくりしている余裕はない。

 目的地近くで野営することにもなってるから、昨日完成したばかりの獣車を受け取っているが、2人で乗るにはデカすぎるし、何より初乗りはユニオンメンバー全員でしたいから、寝るときだけ使うことにしている。

 最近は従魔契約をしているヒポグリフのジェイドとフロライトに乗る機会が減ってるから、若干拗ねてる感じもするし、丁度いいかもしれないんだが。


 今回のアライアンスでは、ジェイドとフロライトも戦闘に参加することになっている。

 希少種に進化して体も大きくなってきてはいるとはいえ、まだまだ子供だから、あんまり無理はさせないようにするつもりだ。


「私達は待ってることしかできませんが、気を付けてくださいね」


 フラムも起きたか。


「ああ、もちろんだ。おはよう、フラム」

「おはようございます、大和さん、ミーナさん……その、リカ様」

「おはよう。ありがとう、フラム」


 話は聞いてたのか。

 それでも、まだ躊躇があるみたいだが。


「い、いえ……私なんかが、そんな呼び方をしていいのかと思って……」


 やっぱり、そんなこと考えてたか。

 ミーナもそうだが、フラムも俺達に対しても敬語のままだから、そこは直してほしいと思ってるんだけどなぁ。


「そんなことは気にしないで。それにもユーリアナ殿下もここに加わるかもしれないんだから、私相手にそんなことじゃ、先が大変よ?」

「そ、そうなんですけど、その、やっぱり緊張してしまって……」


 ユーリアナ姫のことは、まだどうなるかわからんが、覚悟はできてたと思ったんだけどな。


「昨夜は一番激しかったのに?」


 そうなんだよな。

 どうも妖族は性欲が強いらしく、フラムはいつも激しい。

 初めてだったリカさんはもちろん、プリムやミーナも、フラムの前じゃタジタジだからな。


 今は人化魔法が解けているが、解くかどうかは本人次第だ。

 人化魔法は魔法で変化してはいるけど魔力はそこまで使わないらしいから、寝てても解けない人はけっこう多いそうだ。

 一度使ったら、本人が解除するまでは解けないって認識でも間違いじゃないみたいだからな。

 それでも窮屈な感じがする時はあるらしく、フラムは寝る時は解除することが多い。

 寝る時ぐらいはリラックスしたいからな。


「あとはプリムか。おーい、起きろ。そろそろ起きないと、置いてかれるぞ?」

「大和ぉ……」


 寝惚けてプリムが抱きついてきた。

 当然裸だから、大きなお胸様が俺に押し付けられて、朝から大変なことになってしまいそうだ。


「ったく、そら、よっと」

「きゃっ!つ、冷たいけど、いったい何が……あ、あれ?もう朝?」


 氷属性魔法アイスマジックを使って小さな氷を作り、それをプリムの背中に押し当てる。

 いつもはこんなことしないんだが、さすがに今日はゆっくりしてられないからな。


「そうだよ。よく眠れたか?」

「それはもうグッスリと。あ、おはよう、みんな」

「おはようございます」

「おはようございます、プリムさん」

「おはよう、プリムローズ嬢。それじゃあみんな起きたことだし、朝ご飯にしましょうか。ああ、先にお風呂の方がいいかしら?」

「できればそっちの方がありがたいけど、用意が大変なんじゃない?」


 俺もそう思う。

 昨夜入ったからわかるが、アマティスタ侯爵家の風呂は水瓶に用意してある水を入れてから、魔導具を使って湯を沸かす。

 準備だけで1、2時間はかかるそうだから、普段は入浴する日と時間を決めているそうだ。


「部屋に入る前にミュンが用意しておくって言ってくれたから、大丈夫だと思うわ」


 と思ってたら、既に準備できてるのか。

 抜け目ないな、ミュンさん。

 あ、そういえばリカさんのお母さんにも挨拶しなきゃだよな?


「どうしたの、大和?」

「いや、リカさんのお母さんに挨拶してないことを思い出してな……」


 いずれ結婚するとはいっても、リカさんは侯爵家の当主だ。

 跡継ぎが必要なことはお母さんもわかってるだろうが、それでもどこの馬の骨ともわからない男と子供を作って、さらには結婚なんかしたりしたら、お母さんもいい顔はしないだろう。


「大丈夫よ。そもそも私の相手の候補は、大和君より頼りない人ばかりだったから」


 俺が頼りになるかは別として、近い内に結婚かシングル・マザーのどちらかを選ばなきゃいけなかったんだから、そりゃ候補ぐらいはいるか。


「それには同意ね。というか、リカさんって?」


 まだ少し寝惚けてる感じはするが、その話をした時のプリムは寝てたから、話は聞こえてなかったか。


「フレデリカ侯爵の呼び方だよ。結婚はかなり先になるけど、ミーナやフラムと同じ婚約者ってことになるだろ?だから他人行儀な呼び方じゃなくて、みんなみたいに呼んでほしいってことなんだ」

「なるほど、フレデリカだからリカってことね。可愛い呼び方じゃない」

「ありがとう。厚かましいかもしれないけど、私もプリムさんって呼んでもいいかしら?」

「もちろん。よろしくね、リカさん」


 プリムは元公爵令嬢だから、順応早いな。

 元々リカさんにはあんまり敬語使ってたイメージはなかったが、アプリコットさんがここに滞在してるってこともあるかもしれない。


 それよりも、いつリカさんのお母さんに挨拶に行くかだな。


 アマティスタ侯爵領は王都のすぐ北、エモシオンのあるテュルキス公爵領やソフィア伯爵が治めるトゥルマリナ伯爵領の南になる。

 アライアンスが終わったら王都に行くことになってるから、その後でリカさんを連れて、ってことになるか。

 陸路だと1週間かかるって話だから、滞在期間を含めると往復で20日ぐらいは見ておかないとだな。


「ということは、この後でお母様にご連絡をされるわけですね?」

「ええ。相手がエンシェントヒューマンだってことも、伝えないワケにはいかないから」


 そりゃどこの馬の骨かもわからない奴より、エンシェントヒューマンの方が貴族としてはいいだろう。

 なにせエンシェントクラスは3人いるが、プリムはリカさんと同性だし、グランド・ハンターズマスターは子供を作れない年齢だからな。

 あ、そう考えると、俺に言い寄ってくる貴族が多いって話も理解できるな。

 マジで勘弁なんだけど?


「あと、あたし達は同じ宿だから問題ないけど、リカさんはそういうワケにはいかないから、何日かに一度はここに来ることになりそうね」


 そして俺は、迂闊にもヘリオスオーブの女性が妊娠しにくという事実を忘れていた。


 リカさんは、俺との間に子供を作るために抱かれている。

 となると当然、妊娠するまで行為を続けなくてはならない。

 プレグネイシングを使ってるから、平均すると1、2ヶ月ぐらいで妊娠するそうだが、あくまでも平均なので、妊娠しない人も珍しくないらしい。

 なので最短でも1ヶ月、長くても3ヶ月ほどは、リカさんを抱く必要があるということになる。


 なのでリカさんの屋敷に拠点を移すか、リカさんに魔銀亭に来てもらうかになるんだが、どちらにしてもすぐには決められない。


 とりあえず3日に一度はリカさんの屋敷に泊まることにして、あとは今まで通り魔銀亭に泊まることになった。

 リカさんの屋敷を拠点にしたとしても妊娠が発覚すれば出ていくつもりだから、それまでは通うか、もしくは家を買ったほうがいいかもしれない。

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