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ヘリオスオーブ・クロニクル(旧題:刻印術師の異世界生活・真伝)  作者: 氷山 玲士
第四章・マイライト山脈の緊急事態
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ハーピーの解放

「そういうことなら、俺はこの場にいない方が良さそうだな。話も終わったし、俺は行きますぜ」


 話が合金から俺とフィーナの結婚に移ってしまい、ガラバさんが居心地悪そうに口を開いた。

 いや、待ってくれガラバさん!

 まだ話は終わってねえんだよ!

 言いたいことは色々あるが、フィーナのことは後回しにするしかねえ!


「いや、待ってください。まだ終わってないんですよ!」

「終わってない?だが翡翠色銀ヒスイロカネ青鈍色鉄ニビイロカネの取り決めは、ほとんど終わっただろ?」

「その2つについてはそうだけど、ある意味じゃこっちが本命なんですよ」


 なにせ翡翠色銀ヒスイロカネ青鈍色鉄ニビイロカネも、魔力の消費を抑えるために、取り合えずって感じで試してみたら出来ちまっただけだし、大和にとっては丁度良いダミーだからな。

 なんにしても、ガラバさんの離脱は阻止できたか。


「これが前座かよ……。いったい何なんだよ?」

「まだ何かあるっていうのかい?」


 ガラバさんもラベルナさんも、何が出てくるのかって感じで驚いてるな。

 これを知ったら、果たしてどんな反応するのやら、だな。


「なんて言ったらいいか、元々大和が提案したのは、別の合金なんです。だけどそっちを作るのは、俺の魔力をかなり使う。メルティングのおかげで楽にはなったけど、それでもあいつらの望む量を作るのは、簡単じゃなかったんです」


 実際、あのインゴットを1本作れる魔力があれば、翡翠色銀ヒスイロカネ青鈍色鉄ニビイロカネなら5本はいけるからな。


「お前の魔力はフェアリーハーフってこともあって、普通のドワーフより多いだろ?」

「だね。そのあんたがそんなことを言うってことは、並大抵のクラフターじゃ作れないってことになるよ?」


 魔力量は、もちろん個人差もあるが、種族による差っていうのもある。

 翼族、妖族、竜族、人族、獣族っていう順番だな。

 その中でもフェアリーは全種族中最高峰の魔力量を誇っていて、フェアリーより上となるとドラゴニアンしかいない。

 逆にドワーフは、エルフやヒューマンより少ないな。


 俺はフェアリーハーフ・ドワーフだから、魔力量だけでいえばドラゴニュート、もしくは妖族の中じゃ魔力が少ないって言われているラミアと同程度はあるそうだ。

 ちなみにフェアリーハーフ・ドラゴニュートのマリーナは、俺より魔力量が多かったりする。


「タロスさんが試してくれたんですけど、翡翠色銀ヒスイロカネなら1日に10本、青鈍色鉄ニビイロカネなら8本が限界みたいです。ちなみに俺やマリーナは、どっちも最低20本はいけますね」

「タロスか。あいつはエルフにしちゃ魔力が少ない方だが、それでもドワーフよりは多い。そのあいつが、1日にそれだけしか作れないのか」

「ということは、あんたが元々作ってた合金ってのは1日に1,2本が限界、いや、そもそも作れないっていうクラフターも、少なくないってことになるよ」

「ええ。俺でも5本が限界でした」


 魔力回復ポーションを使えばもうちょい行けるんだが、それは誰でも同じことだから、別に言わなくてもいいだろう。

 あとはレベルを上げるぐらいか。


「それはそれで問題だね。で、その合金ってのは?持ってきてるんだろ?」

「ええ。あいつらにとっての本命は、この瑠璃色銀ルリイロカネです」


 マリーナが絶妙なタイミングで、ミラーバッグの中から瑠璃色銀ルリイロカネのインゴットと剣を取り出した。

 この剣も俺が打った物だから、翡翠色銀ヒスイロカネ青鈍色鉄ニビイロカネの剣と形状は一緒だ。

 サンプルなんだから違う形状にする意味もなかったし、慣れてる形だから魔力も抑えることができたしな。


「な、なんだこれはっ!?神金オリハルコン並じゃねえか!」

「まさか、さらに上があったなんてね。さすがに予想外だったよ……」


 予想外の合金の登場に、さすがのクラフターズマスターやスミスチーフも、すげえ驚いてるな。

 さっきの比じゃねえぞ。

 ちなみにフィーナは、驚きすぎて絶句している。


「少し強度が劣るけど、重さは魔銀ミスリルより少し重い程度ですから、神金オリハルコンと同等って言ってもいいと思う。だからあいつのリクエストにピッタリなんですけど、逆にそれが問題になりましてね」

「だろうね。さっきの2つだって十分革新的なのに、この瑠璃色銀ルリイロカネはそれを超えている。だからこそ、こいつは迂闊に公表なんでできないよ。仮にこいつを売るとしたら、魔力を食うって話だからそれなりに高値にせざるを得ないけど、それでも神金オリハルコンより安価で手に入れられるのは間違いない。これの存在を知ったら、確実にソレムネが動くよ」

「ですな。作れる奴は少ないかもしれねえが、全くいない訳じゃねえだろう。それに1日に1本しか作れないとしても作れる奴が総出で作れば、それなりの量は揃えられなくもない。つまりアミスターとソレムネの国力の差は、さらに開くことになる。そんなことを、ソレムネが許すはずがねえ」

「だね。だからソレムネは、フィリアス大陸を統一するために、各国に戦争を仕掛けるだろう。魔銀ミスリル晶銀クリスタイトの産地であるアミスター、金剛鉄アダマンタイトの産地であるバレンティアは、確実に戦火に包まれることになるよ」


 いや、俺が思ってたより、全然デカい問題じゃねえか。

 神金オリハルコン並とはいえ、たかが金属でそこまでの事は起きるなんて思ってもなかったぞ。


「フィリアス大陸、ひいてはヘリオスオーブの統一を目論んでるソレムネからすれば、十分な動機になる。なにせソレムネがアミスターを越えられない理由の1つに、魔銀ミスリル晶銀クリスタイトの存在があるんだからな」


 それはさすがに知ってるぞ。


 鉄はヘリオスオーブじゃどこでも、とは言わないが、多くの場所で手に入れられて、ソレムネにもいくつかの鉄鉱山がある。

 だけど鉄鉱山なんて、山の多いアミスターじゃほとんどの街が持ってるから、ソレムネが自前で鉄を用意できても、アミスターはそれ以上の鉄を用意できちまう。

 さらに魔銀ミスリル晶銀クリスタイトっていう魔力伝達率の高い金属まで採れるし、クラフターズギルドの発祥国ってことでクラフターの技術も高いんだから、装備の質はソレムネより上だ。


「そうだ。晶銀クリスタイトは魔力伝達率以外は鉄より脆いから武器になることはないが、魔銀ミスリルはそうじゃない。これはソレムネにとって、屈辱的な差なんだ。その魔銀ミスリルを使って、神金オリハルコンと同等の金属が出来ちまったんだから、ソレムネとの差はさらに広がる。そうなるとソレムネが、これ以上差が広がる前に何とかしたいって考えても、不思議じゃないってことなんだよ」


 うわ、マジで面倒くさい問題なんだな。

 ってことは瑠璃色銀ルリイロカネって、公表できないんじゃないのか?


「無理だね。神金オリハルコン並の金属を作れるなんて知られたら、君達の身が危険すぎる。翡翠色銀ヒスイロカネ青鈍色鉄ニビイロカネだって、ソレムネからしたら十分過ぎる脅威になるんだから、広まる前に何とかしたいと思うだろうしね。最低でも君達の身の安全が確保できてからでないと、公表なんてできないよ」

「ああ、そっちは多分、何とかなると思う。こないだ、大和達とユニオン組んだんで」

「なるほど、エンシェントヒューマンが風除けになってくれたのか。大和君の提案だし、それはわからない話でもないね。だけどね、それでも完全に危険が払拭されるわけじゃない。まあ幸いにも瑠璃色銀ルリイロカネを公表するつもりはないみたいだし、翡翠色銀ヒスイロカネ青鈍色鉄ニビイロカネもクラフターが総出で用意すれば、多分数日あればオーダーズギルドが使う分は用意できると思う」

「ハンターに回す分はハイクラスを優先ってことにすれば、こっちも何とかなるだろう。だが一気に広めるにはグランド・クラフターズマスターに頼む必要があるから、王都に行かなきゃならねえ。そうなると誰がって話になるが、そんなのはお前以外にいねえだろ?」


 いや、提案したのは大和なんだから、大和でいいじゃねえかよ。


「実際に公表しに来たのはあんただし、そのためにメルティングっていう新魔法まで奏上したんだから、提案したのが誰であれ、この合金の開発者はあんたってことになる。だからあんたが行くのが筋ってもんだよ」


 それを言われると、反論できねえ。

 メルティングだって、そんな理屈で奏上できちまったんだからな。


「ソレムネが知れば騒ぐだろうが、いくら騒ごうと既に国内に広まっちまえばどうしようもねえ。なにせ妨害しても、それまでに作り上げた現物は無くならねえからな」

「当然奪うことは考えるだろうけど、剣が一振り二振り奪われたところで、戦の趨勢を決められるワケじゃない。グランド・ハンターズマスターや大和君と同じエンシェントクラスがいればともかく、ソレムネのハイクラスはアミスターより少ないって言われてるからね」


 その噂は俺も聞いたことがある。

 ソレムネにエンシェントクラスがいれば、アレグリアは落ちているだろうって言われてたはずだ。

 並のハイクラスじゃ、何人いてもグランド・ハンターズマスターには届かない。

 最低でも、大和やプリムと同程度の実力は必要だろう。

 あいつらクラスがそうそういるとは思えないから、確かにソレムネに翡翠色銀ヒスイロカネ青鈍色鉄ニビイロカネの剣が何本か渡ったところで、結果は変わりそうもないな。


「それと、王都に行くなら急いでくれよ。なにせレティセンシアが、不穏な動きをしてるからね」


 それも大和から聞いてる。

 元ハンターズマスターが、レティセンシアのスパイだったってやつだろ?

 あんな真似されたんだから、普通なら開戦ものだからな。


「ってことは、レティセンシアが軍を動かす前に翡翠色銀ヒスイロカネを用意して、オーダーズギルドの装備を翡翠色銀ヒスイロカネに更新するってことですか?」

「そうしておくべきだろう。特にハイオーダーは、武器に不安を持っているんだからね」


 本当なら盾や鎧も翡翠色銀ヒスイロカネ製に更新するべきなんだろうが、さすがにそれは難しいか。

 そういやマリーナが大和達のコートを見て、裾を短くして装甲も減らした感じのコートをデザインしてたな。

 それも大和の刻印具から基本デザインは拾ってたが、それをローズマリーさんに売り込むとか言ってた気がする。


「もっともこれはあくまでも私の予想だから、陛下がどう判断を下されるかはわからない。だけど瑠璃色銀ルリイロカネのことは、早めに陛下のお耳にも入れておくべきだと思うよ。あんたなら、個人的にお会いすることもできるはずだからね」


 それも含めて、俺に王都に行けってことか。

 だけど陛下に個人的に会うなんて、普通なら無理でっせ?


 普通なら、ってとこが問題だよな。


 陛下は(プラチナ)ランククラフターなんだが、王位を継ぐ前にじいちゃんに弟子入りしていて、今でもフィールに来る度にじいちゃんに会いに来る。

 だから俺も、何度も会ったことがある。

 その縁で今フィールに来てるユーリアナ殿下はもちろん、兄のラインハルト殿下、姉のマナリース殿下とも顔見知りだ。

 王都に来たら、いつでも歓迎するとまで言われている。


 だから俺が王都に報告に行ってその足で城に向かえば、高い確率で会えてしまうことになっちまう。


 面倒極まりないが、俺が思ってたよりすげえデカい問題になりそうな気もするから、王都に行くしかないかもしれねえな。


「王都に行く日が決まったら教えてくれ。大和君達に護衛依頼を出すから。エンシェントヒューマンに依頼するワケだからとんでもない額が報酬で飛んでいくけど、あんたの身の安全を考えたら安いもんさ」


 ガラバさんも大きく頷いてるけど、そこまでなのかよ。

 それに、あいつらも巻き込むのな。

 だけど確かに、あいつらが護衛してくれるってんなら、よっぽどのことがあっても問題ないのは間違いないか。

 というか、ユニオン組んだんだから、依頼を出すまでもないと思うんだがな。


「何を言ってるんだい。ユニオン内でも、依頼しあうことは普通じゃないか。それにこの件に関してはクラフターズギルドとしても無視はできないんだから、信頼できるハンターに依頼を出すぐらいはするさ」


 そういや確かに、あいつらから武具製作依頼は受けてるな。

 それに俺は諸々の報告っていう目的があるが、あいつらはその俺を護衛してくれる訳だから、確かに護衛を依頼する必要はあるか。

 その依頼をクラフターズギルドがしてくれるってことは、俺が報酬を出す必要はなくなるから、助かりはするが。

 エンシェントヒューマンへの報酬なんて、馬鹿みてえな額が飛んでいくに決まってるからな。


「大和のことだから、王都に行ったら、また女を増やしそうだけどね」


 あり得るな。

 なにせあいつ、気が付いたらプリムと結婚して、さらにミーナやフラムと婚約して、今もまた3人の女に言い寄られてるからな。

 内1人は、ユーリアナ殿下だが。

 しかもエンシェントヒューマンに進化しやがったんだから、放っといても女の方から近づいてくるぞ。


「了解。いつ王都に行くかは、あいつらの予定も聞く必要があるから、それがわかり次第報告しますよ」

「そうしてくれ。それまでは翡翠色銀ヒスイロカネ青鈍色鉄ニビイロカネも、用意だけはしておくが、加工はもちろん、製品として売ることはしない。瑠璃色銀ルリイロカネに至っては言わずもがなだ。ガラバさんもいいよね?」

「当然でしょう。すぐにプリスターズギルドに行って、プレッジングを用意してもらわねえと」


 プレッジングってのは神殿魔法プリスターズマジックの1つで、誓約書にかける魔法だ。

 無地の用紙に使用し、その用紙に記入することで、プレッジングの魔法が誓約者に刻まれることになる。

 無地の用紙に使うからプリスターが誓約書の内容を知ることはできないんだが、悪用するのは簡単だからプレッジングを使えるプリスターは少なく、フィールでも数人だけだって話だな。

 なにせ誓約を破ると、最悪の場合命を失うこともあるって話なんだからな。

 俺は絶対に誓いたくねえよ。


 そのプレッジングを用意するってことはクラフターズギルドも本気ってことになるから、万が一ソレムネやレティセンシアに捕まっても、絶対に製法は漏らさないだろうな。

 その前に、拷問で死ぬかもしれねえが。


「じゃあクラフターズマスター、俺は行きますぜ。早く他の奴らにも、こいつを見せてやりたいんでね」

「頼むよ」

「任しといて下さい。じゃあな、エド。これからも精進しろよ?」


 そう言ってガラバさんは、翡翠色銀ヒスイロカネ青鈍色鉄ニビイロカネのインゴットと剣を、自前のミラーバッグに突っ込んで出て行った。


「ガラバさんも行っちゃったし、あとは君への報酬だね」


 お待ちかね、ってやつだな。

 俺が貰っても良いのかって思うんだが、実際に作ったのは俺だからって、あいつは受け取りやがらねえ。

 それどころか、結婚の足しになるだろうって言ってきてるから、俺としても断りにくいんだよな。


「まずはランクだけど、先日は新魔法メルティングの奏上、そして今日は合金っていう新しい概念と開発。これは、クラフターズギルド始まって以来の快挙と言ってもいいだろう。その功績を考えれば(プラチナ)ランク、あるいは(ミスリル)ランクが相応しいんだが、君にはまだ経験が足りない。なので申し訳ないが、(プラチナ)(ゴールド)ランクとさせてもらうよ。だけど経験を積んでしっかりと技術を身に着ければ、昇格試験無しで(プラチナ)ランクに昇格が可能だよ」


 (プラチナ)(ゴールド)ランクか。

 予想はしてたが、本当に昇格できるとこみ上げるもんがあるな。

 経験を積めば、昇格試験無しで昇格できるってのもありがたい。


「おめでとう、エド」

「おめでとうございます、エドワードさん」

「ありがとよ、2人とも」


 マリーナとフィーナが笑顔で祝福してくれたが、こういうのも良いもんだな。


「報酬だけど、今回は50万エルとさせてもらう。メルティングがこのために奏上された魔法だったのは予想外だったから、その分も加算させてもらっているよ。もちろんこの先10年は、技術料として月の売上の1割が支払われる」


 手取りで50万エル、さらに10年も技術料として売上の1割が俺にって、とんでもない額にならないか?

 王都に行ったら、派手に散財しちまいそうだぜ。

 いや、それよりも……。


「それと、これは個人的に聞いておきたいんだけどね。エド、君はフィーナを娶るつもりはあるのかい?」


 ここで来たか……。

 いや、あるかないかで聞かれればもちろんあるんだが、このタイミングである必要は……ああ、もしかしたら、報酬で相殺できる可能性があるのか?


「俺としてはいつかはそうしたいと思ってるけど、フィーナがどう思ってるかはわからないから、断られたらそれまでだとも思ってる」


 俺としては、そう答えるしかない。

 なにせ、フィーナが俺のことをどう思ってるかなんて、確認したこともないんだからな。


「わかった。おめでとう、フィーナ。私は、君達の前途を祝福するよ」


 ……へ?

 いや、ラベルナさんはなんて言ったんだ?

 思わずマリーナとフィーナの顔を見比べてしまったが、マリーナはしてやったりの表情だし、フィーナは真っ赤になっている。


 あれ?

 これってもしかしなくても、フィーナは俺と結婚しても良いって思ってるのか?


「契約だからフィーナの身請額を教えることは出来ないけど、君がそのつもりなら領代に報告して、主人変更の手続きをしようと思う。どうだい?」

「……お願いします」


 マリーナの思い通りに進んでる気がするが、ここで断るって選択肢は俺にはない。

 俺としてもフィーナと結婚したいと思ってたし、今回の報酬を聞いた瞬間、フィーナを買い取ることを考えたのは事実だからな。


「わかったよ。じゃあ領代には報告しておくから、明日にでも手続きを行おう」

「ありがとうございます」


 奴隷の譲渡手続きは領代の立ち合いの下で、トレーダーズギルドで行う。

 その手続きが終われば俺はフィーナの主人になるが、同時に身請額も清算するつもりだから、フィーナは奴隷から解放されることになる。

 思ってたよりずっと早かったが、ここまできたら俺も腹を括るしかない。


 だけど、嬉しさの方が勝ってる。

 フィーナは家族のために、自分の身を売った健気な子だ。

 そのフィーナの、新しい家族になる訳だからな。


 翌日、何故か大和達もついてきたが、フレデリカ侯爵立ち合いの下でトレーダーズギルドで手続きを行い、俺はフィーナの新しい主人になった。


 そこで初めて、フィーナの身請額が、残り25万エルだということを知った。

 フィーナは30万エルで自分を売ったそうだから、ラベルナさんに買われてからの2年で5万エルを稼いでいたことになる。


 大和達の獣車の製作報酬で半分近くは稼げるみたいだが、そんなものを待つまでもなく、俺は全額支払った。

 フィーナには涙を流して感謝されたし、俺としても何の憂いもなくなったから、安心してプロポーズすることができたな。

 勿論、ニヤニヤしながら見物してたウイング・クレストの連中を、フィールの外に追っ払った後にだ。


 あいつらの計画通りってのが気に入らないから、文句の1つでも言ってやるつもりだけどな。

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