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ヘリオスオーブ・クロニクル(旧題:刻印術師の異世界生活・真伝)  作者: 氷山 玲士
第三章・フィールの夜明け
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試作翡翠合金武具

 リディアとルディアの武器、それからコートのデザインも決め終わった。

 普通ならこれからハンターズギルドに行くことになるんだが、俺とプリムにはもう1つ、聞かなきゃならないことがある。


「エド、俺の剣とプリムの槍って、今どんな感じなんだ?」

「もうちょいって感じだな。だけど確かタロスさんが従来の方法でできるか試してたから、形になったのはあったはずだ」


 まだできてなかったか。

 だけど従来の方法って、ヘリオスオーブの一般的な方法ってことだよな?

 何でそんなことを?


「俺やじいちゃん、タロスさんは、お前から教えてもらった日本刀とやらの打ち方を取り入れてるが、他のクラフターは、基本的に今までの製法で作るだろ?」

「なるほどな。だから今までのやり方で、どれぐらい魔力を使うかってのを調べてたのか」

「正解だ。っつっても、さすがに瑠璃色銀ルリイロカネを使う訳にはいかねえから、翡翠色銀ヒスイロカネでだけどな」


 つまり翡翠色銀ヒスイロカネの剣と槍が、しかも俺達が希望したデザインのがあるってことだな。


「それ、売ってもらうワケにはいかない?」

「聞いてみないとわからねえが、そんなことを聞くってことは、さては壊れたか?」

「ああ。昨日、連中を捕まえた後でな」

「普通ならこんなに早く壊しやがってって文句の1つも言うとこだが、使い手がお前らなんだから、逆によく持ったってとこだな」

「だね。何体も異常種や災害種を倒してるんだから、今まで使えてたことが驚きだよ」


 俺のミスリルブレードもプリムのミスリルハルバードも、けっこうな数の異常種や災害種を倒してるからな。


 鉄はもちろん魔銀ミスリル金剛鉄アダマンタイトの武器でさえ、異常種や災害種を相手にすれば、その場で壊れることが珍しくない。

 なのに俺達は、ゴブリン・クイーン、エビル・ドレイク、カース・トレント、マーダー・ビー、デビル・メガロドン×2、マッド・ボアと、けっこうな数の異常種、災害種を倒すのに使ってるから、エドやマリーナの言うように、よく持ったって言っても過言じゃない。

 もっとも実際にトドメを刺したのはプリムの方が多いから、ミスリルブレードの方は、エンシェントヒューマンに進化した俺の魔力に耐えられなかったのかもしれないが。


「そういうことなら、直接タロスさんに聞いてくれ」


 そう言うと、エドは工房に引っ込み、しばらくするとタロスさんを連れてきてくれた。


「エドから話は聞いた。武器が壊れたんだって?」

「ええ。これです」


 俺もプリムも、ストレージから壊れてしまった武器を取り出した。

 俺のミスリルブレードは刃毀れしまくってる上に折れていて、プリムのミスリルハルバードなんて穂先が崩れ落ちちまってるから、さすがにどうしようもない。


「確かに、これはどうしようもないな。僅か2週間で、と言いたいところだが、君達の戦果からすればこうなっても当然か」


 タロスさんの目に、驚きとも呆れともつかない色が浮かんでいる。

 改めてこいつらを使って倒した異常種や災害種を説明すると、さらに呆れられちまったが。


「それだけの数の異常種を倒していたとは、さすが師の作と言うべきか。そうなると、今君達が持ってる剣や槍じゃ、一度使っただけで壊れてしまいそうな気がするな」


 実際問題として、既に何本も使い潰してるんだよな。

 だから瑠璃色銀ルリイロカネの武器ができてないか、聞いてみたんだからな。


「わかった。俺が打った武器は、君達に渡そう。だが試作でもあるから、いくら翡翠色銀ヒスイロカネ製だとしても、あまり過信はしないでくれよ?」

「ありがとうございます」

「助かるわ」

「値段は……そうだな、発案は大和君だし試作でもあるから、1万エルでどうだ?」


 タロスさんが快く承諾してくれて助かったが、その値段は安すぎませんかね?


「いや、それは安すぎるでしょう。まだ公表してないから値段が付けにくいとはいっても、その倍は確実なんだから」

「そうよ。それに無理を言ってるのはこっちなんだから、そのお値段じゃ、逆にこっちの気が引けちゃうわ」

「そう言ってくれるのはありがたいが、テストにもなるわけだしな。本来、新しい技術で作った武具は、クラフターズギルドがハンターやオーダーに品評依頼を出し、それを報酬にしてるんだぞ?」


 品評依頼ってのは初めて聞いたが、俺達は発案者なんだから、そもそもその依頼を出す側じゃなかろうか?


「大和が提案したんだから、あたし達だって依頼者側でしょ?」

「それは……確かにそう言えなくもないが……」

「というわけで、お値段は2万エルで決定ということで」

「わかったよ。今持ってくるから、少し待っててくれ」


 プリムの決定に、タロスさんが苦笑しながら工房に下がった。

 俺としても一安心だ。


「お前らも変わってるよな。普通、買う側が値段を釣り上げるなんてしないぞ?」


 エドも呆れているが、こいつと初めて会った時はもっと熾烈な戦いを繰り広げたんだから、それと比べれば穏便だろ。


「お待たせ。これが大和君の刀とプリムさんの槍だ。希望通りのデザインになっていると思うが、形を見るだけのつもりだったから、色は翡翠色銀ヒスイロカネそのものだけどね」

瑠璃色銀ルリイロカネで作っているやつは、ちゃんとお前さん達の希望通りの色にするから、そこは心配せんでもええぞ」


 リチャードさんも来たのか。

 後で進捗状況を聞いてみよう。


 っと、これが俺の刀、そしてプリムの槍か。

 翡翠色銀ヒスイロカネの色そのままだけど、それでも綺麗だな。


「す、すごい綺麗ね……」

「ですね……」


 ルディアとミーナが、その美しさに息を飲んでいる。


「聞いてはいたけど、すごいデザインですね」

「だよねぇ。特にプリムさんの槍なんて、ハルバードなんかより、よっぽど使いにくそうだよぉ」


 ラウスとレベッカは、見た目の奇抜さに、若干呆れてる気がする。


「別にいいでしょ。それじゃ失礼して……。うわぁ……すっごく手に馴染むわ。これが試作なんて、とてもじゃないけど信じられない……」


 俺も刀を受け取り、鞘から抜く。

 すると、翡翠色をした美しい刀身が姿を現した。


「こっちも馴染むな。それに軽いから、取り回しも楽そうだ」


 翡翠色銀ヒスイロカネの重さは、魔銀ミスリルと大差ないから、使い勝手も変わらない。


「マナリングを使ってみてくれ」

「わかりました」


 俺もプリムも、今までと同じ感じでマナリングを使い、武器の強化を始める。

 おお、魔銀ミスリルの武器よりスムーズだ。


「ふむ、これはすごいのぅ。初めての武器じゃと、どうしても魔力の流れが不均等になりがちじゃ。じゃが2人はしっかりと均一に流しておるし、翡翠色銀ヒスイロカネの武器達もそれをしっかりと受け止めておる。この分じゃと、今まで以上に魔力を流しても問題なさそうじゃ」


 俺が合金を提案したのもそれが最大の目的だったから、実際に分かるとすごくありがたく感じる。


「問題があるとすれば、大和君はエンシェントヒューマン、翼族のプリム嬢ちゃんも近い魔力を持っておるようじゃから、テストには向かんということじゃな。まあ、そこはハイクラスのハンターなりオーダーなりに、品評依頼を出せばええじゃろう」


 エンシェントクラスが使えるんなら、ハイクラスでも問題なく使えるのは間違いない。

 だけどエンシェントクラスは、俺以外はグランド・ハンターズマスターしかいないし、プリムは翼族だから、普通のハイクラスより魔力量は多いし質も高い。

 だから新武器の品評に向かないってのは、ある意味じゃ仕方ないことだ。


「さっきも言ったが、これはあくまでも形を見るために打った物だ。もちろん精魂込めて打っているが、過信だけはしないでくれ」

「わかってます」

「勿論よ」


 試作の試作みたいなもんだから、銘もないんだよな。

 だけど名前がないとイークイッピングが使えないから、取り合えず試作翡翠合金刀、試作翡翠合金斧槍と呼ぶことにしよう。


「それでいい。試作にちゃんとした銘を付けられても困るからね」


 それを伝えると、タロスさんも笑って承諾してくれた。


「それにしても、これが試作って凄いわね」

「だよね。瑠璃色銀ルリイロカネって、これより凄いんですよね?」

神金オリハルコンに匹敵する、って話ですね」

「私達の武器って、この翡翠色銀ヒスイロカネでいいような気がしてくるよねぇ」

「それは俺も同感」

「というかハイクラスでもないんだから、魔銀ミスリルで十分よ」


 ルディア、リディア、ミーナ、レベッカ、ラウス、フラムがそんなことを言ってるが、せっかくなんだから使ってくれ。


「ところでリチャードさん、瑠璃色銀ルリイロカネはどんな感じですか?」

「さすがに大変じゃな。じゃが大和君から聞いた日本刀の製法も多少じゃが理解できたから、今日から本格的に製作に入るつもりじゃ。まだ納期は未定としか言えんが、それでも1ヶ月もかからんじゃろう」


 それは朗報だ。

 この試作翡翠合金刀や試作翡翠合金斧槍なら、1ヶ月どころか1年でも大丈夫だろうが、その名の通り試作品だし、何より俺もプリムも楽しみにしてるから、早くできるんならそれに越したことはない。


「それとコートの方だけどな、あと3日くれ。そうすればリディアとルディアのも、まとめて渡せるからな」

「わかった、3日後だな。それで頼む」


 コートの方は、俺とプリム、ミーナの分は後は微調整だけらしいんだが、全員のをまとめて貰えるんなら、そっちの方がいい。

 残ってたウインガー・ドレイクを、プラダ村に行く前にクラフターズギルドで解体してもらっておいたたんだが、正解だったな。

 おかげでウインガー・ドレイクの在庫が無くなっちまったが。

 近い内に、また狩りに行くか。


 その後、翡翠色銀ヒスイロカネ青鈍色鉄ニビイロカネをどうするかを話し合い、コートの引き渡しが終わり次第、エドがクラフターズギルドに公表するってことで話もまとまったから、エドとマリーナを連れてハンターズギルドに向かい、ユニオン登録も終わらせた。

 エドとマリーナはコートを仕立てなきゃってことですぐに工房に戻り、俺達は試し斬りも兼ねて依頼を受けたんだが、そこでゴブリン・プリンスに出くわすことになるとは思わなかった。

 試作品の試し斬りとしては最適な相手だったんだけどな。

 魔力を今まで以上に流しても問題なかったし、つっかかりや魔力疲労も感じられなかったから、瑠璃色銀ルリイロカネで武器ができるのが、ますます楽しみになったよ。


 そして3日後、アルベルト工房でコートを受け取った俺達は、その足でフレデリカ侯爵の屋敷へ向かった。

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ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
[一言] これだけの武器を割安にしているとはいえ、二万。超高級とは言え宿泊料金が一泊三千。どちらかを上げるか下げないと、値段がとてもちぐはくな感じがします。
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