双子竜人の武器
Side・プリム
フィールに戻ってきた翌日、私達は全員で、アルベルト工房に足を運んだ。
「また新しい女連れてきたのかよ。で、その2人の分も瑠璃色銀で作れってことか?」
リディアとルディアを見たエドが、開口一番そんなことを言ってくる。
マリーナも似たような顔してるけど、当たらずとも遠からずなのよね。
「ああ。足りそうか?」
「2人の、そっちのリディアは双剣で、ルディアが闘器か。今までならできなかったが、お前が奏上したイークイッピングのおかげで、自分で着ける手間は最初だけになってるからな。何とかなる」
大和が奏上した新魔法イークイッピングは、瞬時に装備を身に着けることができる魔法よ。
最初だけは自分で装着しなきゃいけない手間があるけど、一度装着してしまえば、それ以降は魔法で、しかも瞬時に装着できるから、そんな手間とはおさらばになっている。
フルプレートアーマーだって一瞬で着脱できるようになったんだから、かなり便利な魔法だわ。
「イークイッピングとステータリングのことは知ってるし、あたし達も使ってるけど、大和が奏上した魔法だったんだね……」
「さすがというか、無茶苦茶というか……。客人って凄いんですね……」
リディアとルディアにも、大和が客人だということは話してある。
レイドを組むわけだし既にフィールじゃ隠してないから、教えないという選択肢はあり得ないのよ。
「というか、瑠璃色銀って何なんですか?」
リディアが首を傾げるけど、まだ説明してないんだから、知らなくても無理もない。
「大和の発案で、エドが作った金属だよ。合金っていう大和の世界の知識なんだけど、神金に匹敵するって言ってもいい性能になってるから、ハンターなら誰でも使いたいと思う」
マリーナがあっさりと暴露すると、リディアとルディアの顔色が真っ青になった。
「オ、神金!?何よ、それ!!」
「それを作ったって……そんな凄い金属を、私達が使ってもいいんですか!?」
予想はしてたけど、ミーナ達と同じ反応ね。
いいも何も、製作者特権ってやつよ。
「だから朝食の時、武器も防具も、私達の好きなデザインを選ばせたんですね……」
リディアが疲れた顔をし、ルディアが同意する。
ミーナ、フラム、ラウス、レベッカは同情の眼差しを向けてるけど、そこまですることないでしょうに。
「元々は、俺とプリムが困ってたってところからだな。だからエドに試してもらったんだが、そうしたらそんな合金ができたってわけだ」
「軽く言ってるけどさ、そんな金属が簡単に、ってワケじゃないんだろうけど、作ることができるって知られたら、大変なことにならない?」
ルディアの疑問ももっともで、知られたりなんかしたら確実にソレムネが動くでしょうね。
レティセンシアも動くだろうけど、レティセンシアのクラフターズギルドは、近々撤退することが決まってるし、仮に知られたとしても工芸魔法そのものが使えなくなるから、精製できる人自体がいなくなる。
もちろん他国のクラフターを不法奴隷にして、強制的に働かせることは考えられるし、エドが直接狙われる危険性もあるから、そこはしっかりと考えないといけないけど。
「だから、瑠璃色銀は公表しない。するとしても、かなり先になる。公表するのは瑠璃色銀と同時に作った翡翠色銀と青鈍色鉄の2つだけだ」
「ル、瑠璃色銀だけでも凄いのに、他にも作ってたんですか!?」
「うん。だけどこっちは、魔銀や金剛鉄の上位版って感じだから、アミスターやバレンティアで一気に広めちゃえば、ソレムネやレティセンシアも、どうしようもないと思うよ」
瑠璃色銀は魔銀、晶銀、金剛鉄の合金だから、メルティングを使ってもけっこうな魔力を使うらしいわ。
だけど翡翠色銀や青鈍色鉄は、瑠璃色銀の半分ぐらいで済むそうだから、メルティングを使えば精製できるクラフターは多くなりそうだって、エドやマリーナだけじゃなく、リチャードさんやタロスさんも言っている。
それに魔銀と晶銀はアミスター、金剛鉄はバレンティアが産地だし、さらにバレンティアは島国で、レティセンシアから最も遠い国でもある。
ソレムネは近いけど晶銀の問題があるから、狙うとしたらアミスターの方でしょうね。
あとはエドの身を守る方法だけど、一応、手がないワケじゃない。
「それと、エドの身の安全だけど、ユニオンを組むことで牽制してみようかと思ってる」
「ああ、その手があったね」
レイドはハンターだけで組む集団のことだけど、ユニオンは異なるギルドの登録者が組む集団のことよ。
特にハンターとヒーラーが組めば、旅先でも安心して傷の治療とかができるようになるから、ユニオンに参加しているヒーラーはそれなりにいたりする。
だけどクラフターは微妙で、高ランククラフターになるほど数が少ない。
理由は簡単で、高ランククラフターの稼ぎは、同ランクのハンターに匹敵することも珍しくないからよ。
特に新技術を開発して、それをクラフターズギルドに登録すると、10年ぐらいはその技術の使用料が、毎月クラフターズギルドから支払われることになってるから、それだけでもかなりの稼ぎになる。
その技術が使われないと、そこまでの金額にはならないそうだけど。
エドには近い内に、翡翠色銀と青鈍色鉄の製法を公表、登録してもらうけど、それがアミスターやバレンティアで広まるのは間違いないから、毎月かなりの額が支払われることになると思う。
だからエドがユニオンに参加する理由はないんだけど、他国から狙われるって考えると、一時的にでもいいから参加しておいてもらった方が、身の安全に繋がるんじゃないかって思う。
「俺としてはありがたいし、相手がお前らなら歓迎するが、本当にいいのか?」
「当然だろ。そもそもお前じゃなかったら、合金なんて提案してないだろうからな」
大和は出会って数日で、エドに合金の提案をしている。
本来なら自分でクラフターズギルドに登録して試すようなことだと思うのに、それを丸投げに等しい条件で依頼してるんだから、大和がエドを信用してるのは間違いない。
他の人だったら、たとえクラフターズマスターでも、大和は提案してなかったんじゃないかって思うわ。
「あとは当然だが、マリーナもだな」
「あたしもいいの?」
「エドと結婚するんだし、当然だろ。フィーナも結婚するんなら、参加してもらいたいところだ」
エドと結婚するマリーナも当然護衛対象だし、フィーナのことを考えるのも当然ね。
「ありがと。あたしも、喜んで参加させてもらうよ」
満面の笑みで、マリーナが答えてくれた。
しばらくはあたし達の専属クラフターってことになるけど、武器とか防具の製作は、ちゃんと依頼を出して、適正価格を支払うつもりよ。
そうじゃないと飼い殺しになっちゃうからね。
「それじゃあ依頼を出し終えたら、ハンターズギルドに行くか」
「だな。こういうことは早い方がいい」
あたし達はハンター、エドとマリーナはクラフターだけど、ユニオン登録はどこのギルドでも受け付けてくれる。
だけどユニオンリーダーになる人が登録してるギルドでっていうのが一般的だから、今回の場合はハンターズギルドってことになるわね。
実際、ウイング・クレストのリーダーは大和だし、ユニオンにする理由もエドやマリーナの身の安全の確保が目的だから、大和がリーダーっていうのは最初から決定事項。
それに大和はエンシェントヒューマンに進化しているから、ハンターズギルドが討伐隊や調査隊を組織した場合、そっちも大和がリーダーを務めることになる。
ハンターになってまだ2週間ぐらいだから経験不足なのは間違いないし、しばらくはその理由で逃げられるだろうけど、何年かしたらその言い訳は通じなくなくなるから、それまではリーダーとしてのお勉強でしょうけどね。
「それじゃあ、先に依頼を片付けるか。まずは2人の武器からだな。マリーナ、頼む」
「はいは~い。大和、刻印具見せて」
「ああ。リディアの双剣は、まずはこれだ」
大和が刻印具を出して、マリーナがドローイングで紙に描いていく。
この光景も見慣れてきたわね。
リディアは双剣士だから、選ぶ剣は2本。
双剣士は同じ剣を2本選ぶのが普通なんだけど、リディアは左右で別のデザインを選んでいる。
リディアもルディアも、最初はお父様から剣を教えてもらっていたそうだけど、ルディアは剣が性に合わなかったらしく、すぐに闘器を使うようになった。
リディアはちゃんと剣を教えてもらっていたんだけど、バレンティア最強竜騎士のお父様と比べられる日が続いて、剣を握れなくなったことがあったそうなの。
だけど剣から離れることはできなかったから、半ばやけっぱちで、左手にも剣を持ち始めたって聞いている。
それでも体に染みついた動きは簡単に変えられないから、攻撃は右、防御は左っていう、双剣士としてはアンバランスなバトルスタイルになってしまっているわ。
右で防御、左で攻撃ができないワケじゃないけど、リディアは普通の双剣士とは違って、剣士や騎士に近い。
「双剣士だって聞いたが、左用は防御に特化してる感じだな」
「はい。だけど防御だけじゃなく攻撃にも使いますから、中央の刀身は少し長めでお願いします」
「長めっていうと……こんな感じかな?」
「はい。これぐらいなら受け流しもしやすいと思いますし、幅も広いので簡単に折られたりもしないと思います」
朝食の時も思ったけど、刀身が三つ又になってるなんて、珍しいわよね。
槍ならそうでもないんだけど、三つ又の穂先とはまた違うみたいだし。
大和は、攻撃を受け止めやすい形状で、盾代わりに使われてたって言ってたけど、確かにそんな気がする。
それに真ん中の刀身が長いから、普通に攻撃にも使えそうだわ。
「折れる心配ないと思うけどな。で、こっちがもう一本の剣か。槍の穂先や鏃みたいにも見えるが、突き刺したりなんかしたら抜けにくそうじゃないか?」
それはあたしも思った。
鏃には簡単に抜けないよう、返しっていうのがついている。
この返しがあるおかげで刺さった矢は簡単には抜けないし、魔物が暴れて矢が途中で折れても刺さった鏃はそのままだから、そのまま魔物にダメージを与え続けることができる。
弓術士の宿命みたいなもので矢が尽きることもけっこうあるんだけど、その場合に弓術士が作る矢は、急場しのぎでもあるし、生産性を優先させてるから、返しはないことが多いって話ね。
その鏃とよく似た刀身をしてるんだから、根元まで突き刺しちゃったりしたら抜くのが大変だと思う。
矢だって安くないだし、使える矢は回収するのが弓術士の常識だけど、回収不可能な場合だって珍しくない。
そんな感じの剣なんて、使いにくいんじゃない?
「確かにそうだが、いくらなんでもこんな根元まで突き刺すことはないぞ」
大和にそう言われて、確かにそうだと気が付いた。
鏃は全部刺さるのが普通だから、同じ感覚で考えちゃダメってことね。
「それもそうか。なら、リディアの双剣はこれでやってみるか」
「あ、こちらの刀身は、ショートソードぐらいでお願いします」
「了解だ」
細かなデザインはこれからだけど、大まかには決まったし、次はルディアね。
「ルディアの闘器は……こりゃまた変わってるな。まあ、まんま手甲だと、すぐに痛んで使い物にならなくなるから、こっちの方が使いやすいと思うが」
ルディアの選んだ手甲は、手の甲辺りから3本の爪が伸びている。
だけどその爪は、魔力で伸縮できるようにしたいっていうのがルディアの希望よ。
そうすれば爪が邪魔になることもないから、動きやすくなるだろうし。
握った拳の前面には厚手の装甲があるし、その装甲にも突起があるから、それだけでも十分な攻撃力があるのがわかるわ。
ちなみに闘器っていうのは、武闘士用の手甲と足甲を合わせた呼び方よ。
どっちも普通の手甲や足甲より一回り大きく、武闘士が直接攻撃するからってことで、いつの間にかそう呼ばれるようになったそうなの。
「なるほど、だから伸縮自在に、ってことか。確かにそうしないと、爪と突起が干渉して、使い物にならないだろうからな」
「あたしとしても、けっこう好みなんだ。だから難しいかもしれないけど、頼めるかな?」
今までのルディアは、拳の装甲を厚くした武闘士用の手甲を使っていた。
武闘士の手甲は衝撃を吸収するために、鳥型の魔物の羽なんかを使って衝撃を和らげているんだけど、簡単に着脱できるように普通の手甲の上に重ねて着けることが前提になってるから、一回り以上も大きくなってる。
だからどうしても、動きが大雑把になりやすい。
だけど今回使う素材には、ウインガー・ドレイクの羽毛もある。
フェザー・ドレイクの羽毛でさえ武闘士にとっては最高級の素材で垂涎の品なのに、その上のウインガー・ドレイクの羽毛を使うんだから、衝撃吸収力も高くなり、同時に大きくする必要もなくなる。
手甲自体も瑠璃色銀を使うから、軽くもなると思う。
さらに手甲自体もイークイッピングで着用することになるから、着脱の手間を考える必要もなくなる。
今後武闘士の闘器は、イークイッピングの使用が前提になるでしょうね。
「難しいが、工芸魔法を使えば何とかなるだろうな」
工芸魔法って、ホントに頼りになるわね。
「となると足甲も、今までとは違う形になるね」
「ああ。しかもこいつは、大和の世界のやつだろ?使いこなすのは難しいだろうが、使いこなせれば凶悪極まりないぞ」
それはあたしも思う。
なにせルディアが選んだ足甲は、脛の外側に、竜の翼みたいな刃が付いてるんだから。
「打撃だけじゃなく斬撃も繰り出せた方が、戦いの幅は広がるからな。それにイークイッピングがあればすぐに脱げるから、街中で履いたままにもならないし」
「あたしもそう思ったんだ。使いこなすのは大変だけど、それでもすっごく面白そうだって思ったからこの足甲を選んだんだよ」
確かに足でも斬撃が繰り出せれば、かなりの威力になると思う。
だけど、こんな足甲を使ってる武闘士はいないから、いざ使うとなっても誰もアドバイスできないのは問題だとも思うけど。
でもあたしが頼んでる槍もヘリオスオーブで使ってる人はいないから、そういう意味じゃお互い様ね。
気に入ったデザインの武器は、使えるってだけでも嬉しいんだから。
だけどこれで、リディアの双剣もルディアの闘器も決まった。
後はコートだけど、これも基本デザインは決まってるから、後は装甲のデザインを詰めていくだけね。
それが終わったら、あたしの槍と大和の剣を買わないと。




