天珠と海珠
父なる神の話を聞いた俺だが、即断はできなかった。
神を倒せる人間は滅多にいないから、父なる神としては、是非とも俺に神として天珠と海珠の管理を手伝ってもらいたいんだそうだ。
それはそれで面白そうではあるんだが、神になるということは不老不死になるということでもある。
グランドクラスに進化した今も似たような状況ではあるし、既に見送った友人知人も多い。
だけど今より明確に、そういった人が増えるっていうことでもある。
だからどうするかは悩み、時間が欲しいってことで一度話を区切らせてもらい、みんなにも相談をすることにした。
「悪い、俺だけじゃ決められない。だからみんなの意見も聞かせてもらいたいんだ」
「あたしは面白そうだと思うし、大和がやりたいならなってもいいんじゃないかと思う。でも……」
「私もそう思います。ただ……」
プリムとミーナの歯切れが悪いが、言いたいことは俺もわかっている。
なにせ言われたのは俺だけなんだから、他のみんなはどうなるっていう話でもあるんだよ。
みんなも一緒にってことならここまで悩むことはなく、場合によって即決もできただろう。
だけど俺だけが神になるなんて、さすがにそれはどうかと思う。
「なるほどね。補則させてもらうけど、試練を突破したのは君だけじゃなく、この場にいる全員だ。つまり彼女達も、資格を有していることになるよ」
そんな俺達の考えを見据えたように、父なる神からの言葉が響いた。
そういうことは先に言えよ!
「いや、言ってはいたよ。だから説明したつもりになっていたから、君がそこで悩んでいるとは思わなくてね。だけどその理由がわかってしまった以上、話に入って悪いけど、この場で説明をさせてもらうべきだと思ったんだ」
聞いてねえよ!
「ごめん、大和君。実は最初の段階で、そう仰っていたわ。天樹迷宮を突破した私『達』に、選択肢を贈るって」
「「「あっ!」」」
真子さんのセリフに、思い出したかのように何人かが声を上げた。
もちろん俺もその1人だ。
「言われてみれば、確かに仰っていたわ」
「達ってことは、この場の全員が対象ですよね。その後のお話が刺激的でしたから、完全に抜けてしまっていました」
俺もだよ。
むしろ真子さん、よく気付いたな。
「そりゃお話はきちんと聞かないといけないからね。まあ私は、大和君に付き合うって決めてたから、どっちを選んでも構わないって思ってるけど」
さよですか。
いや、真子さんが付き合ってくれるっていうのは、確かに嬉しいけど。
「それならあたしだって同じだよ」
「ボクも!」
「私もです」
「当然私もね」
「私も、大和さんとご一緒します」
「私も、お付き合いします」
「わたくしも、どこまでもお供いたします」
「この身が神になるとは皮肉を感じますが、大和様が望まれるのでしたら否はありません」
「相変わらず捻くれていますねアリア。ですが私も同じ気持ちです」
ルディア、アテナ、リディア、リカさん、ミーナ、フラム、ヒルデ、アリア、ユーリは、俺の意思を尊重し、俺と共に歩んでくれるってことか。
「愛されてるわね、大和。もちろん私もだけど」
「当然よね。愛しの旦那様が決めたことなんだから、あたし達は反対なんてしないわよ」
そしてマナとプリムも同じ意見で、それどころか俺を後押ししてくれてるようにも感じる。
実際どうなるかはなってみないとわからないけど、それでも俺は、面白そうだしやってみたいと思っている。
そんな俺を肯定し、受け入れてくれるんなら、俺の気持ちは固まった。
「父なる神、聞こえますか?」
「聞こえているよ。答えが出たかい?」
「ええ、出ました」
みんなに背中を押されてると感じながら、俺は答えを口にした。
「正直俺に何ができるかわかりませんけど、面白そうだと思ったのも事実です。だから、よろしくお願いします。あ、もちろん全員で」
「うん、それはもちろんだ。ありがとう大和君」
こうして俺は、天珠と海珠を守護する神となった。
今はまだ天珠だけだけど、海珠でも文明が発達すれば、父なる神達だけでは手に負えなくなる。
その時には俺達が海珠の守護を担い、父なる神達は管理に集中することになるだろう。
宇宙に進出なんてことになったら、また別の手続きなり手段なり方法なりが必要になるそうだけど、まだ何千年も先の話になるだろうし、今は考えなくてもいいだろう。
「ああ、それと海珠に合わせて、天珠のシステムも更新するから。具体的には魔物のランクや人間の進化についてだね」
「はい?」
「天珠は雛型だって言っただろう?だからシステムの変更や更新なんかも、よくやってたんだよ。君達の身近なところだと、ギルドランクが最たるものだろうね」
ギルドランクが?
確かに今は15段階になってるけど、昔は10段階だったな。
10段階のままのギルドもあるけど、それは別に……。
ああ、ライブラリーの表記に加わってるから、変更ってことになるのか。
「海珠に合わせるから、申し訳ないけどギルドランクは10段階に戻すよ。君達はどこのギルドでも最高ランクのようだけど、Oランクが最上位に戻るから、帰ったら手続きをした方がいい」
確かにそれはそうか。
「それと魔物のランクだけど、今までは魔物の進化状態によってメインの他にサブランクなんてものもあったね。だけどそれは慣れないと分かり辛いから、廃止とさせてもらう。大雑把に分類することになるけど、細かいランクで区切るより分かりやすいだろうし、判断もしやすいんじゃないかな」
ああ、それは確かに思ったことがあるな。
今でこそ慣れたから何とも思わないけど、昔は本当に面倒に思ったもんだ。
サブランクによって1つとか2つ上のランク相当って、まんま該当ランクでいいじゃないかと思ったことも一度や二度じゃない。
だけどそれも含めて試用ってことなら、確かにわからないでもない話だな。
「その代わりじゃないけど、魔物のランクも10段階にするよ。今は7段階だから、3つ増えるね」
そうなるのか。
どうやら、通常種、中位種、上位種、希少種、異常種、災害種、天災種、伝説種、幻想種、そして終焉種となるらしい。
しかもこれ、天樹迷宮には既に対応した魔物が配置されてたらしいよ。
だから同じ異常種や災害種でも、強さにバラつきがあった訳だ。
さらに恐ろしいことに、現在天珠上にいる終焉種はほぼ全てが天災種に該当し、数体が伝説種でその上はいないってことになってしまったから、変更が行われたら大混乱が起こるんじゃないだろうか?
さらに人間の進化に関しても、10段階になるんだそうだ。
最初がノーマルクラスで次がミドルクラス、次いでハイクラスになり、エルダークラス、エンシェントクラス、エレメントクラス、グランドクラス、オリジンクラス、デミクラスを経て、最後にアーククラスになるんだとか。
レベルアップ条件はレベル100固定で、進化するとレベル1に戻るけど、あくまでもそのクラスでのレベルになる。
既に進化している者は該当クラスへと変わるそうで、俺達は海珠に出た時点で既に変更済みらしい。
慌てて調べてみると、俺はデミヒューマンになっていた。
「デミフォクシーになってるわ」
「私はデミライトエルフね」
「オリジンヒューマンになっています」
「私はオリジンウンディーネです」
「オリジンスネグラチカ、ですか?」
「オリジンダークエルフね。どうりで肌の色が、昔に戻ってると思ったわ」
「デミアイスドラゴニュート?ああ、属性が種族名に追加されてました」
「ってことは、あたしはデミファイアドラゴニュートか。やっぱりだ」
「ボクはデミアレキサンドライトドラゴニアンだって」
「わたくしはデミヴァンパイアでした」
「オリジンラビトリーのようです」
「デミヒューマンか。デミってことは半神?まあ神になるって言ったんだし、おかしくはないけど」
デミクラスとオリジンクラスか。
半神と始祖、だったと思うが、どちらも神に準ずるっていう意味じゃ間違っていない気がする。
オリジンクラスの5人もレベルは80とかになってるから、天樹迷宮に入ればすぐにデミクラスに進化できそうな気がするな。
あと気になったのは、リディアとルディアは属性が種族名に追加されてるいて、アテナの場合は竜名と種族名が統合された感じになっている。
実際そうらしいけど、まあこっちの方がわかりやすいか。
種族名が長ったらしいことを除けば。
そして最大の問題が、種族そのものが変わったエルフの3人だ。
いや、マナはいいんだよ。
ライトエルフになろうが、元からそうだったからな。
ハーフのユーリはアテナに負けないぐらい種族名が長くなったが、まあこれは良しとしよう。
だけどリカさんは元ダークエルフで、ハイエルフに進化した際に肌の色が白く変わっていたんだが、今回の変更で、俺も100年振りぐらいに見る褐色肌のリカさんに戻っていたから驚いた。
確かに海珠に出た瞬間、リカさんの肌の色が褐色に変わったから驚いたんだが、それ以上に多数のドラゴニアンに迎えられたこと、海珠という惑星に出たことに驚いてたから、落ち着いたら聞いてみようと思ってたんだ。
まさかそんな理由で種族そのものが変わるとは、さすがに思いもしなかったぞ。
実際ユーリなんて、種族としてはライトエルフのはずなのに、聞いたこともない種族に変化してるしな。
「ユーリさんの種族が変わった理由は、新しい種族も追加したからだよ。全部で13種増えて合計30種。キリも良いしね」
そっちもかよ!
エルフがライトエルフとダークエルフに分かれたように、フェアリーもシルフィードっていう種族に変化させられたようだ。
シルフィードって風の妖精じゃなかったかと思うが、とりあえずはいい。
だけど新しい種族って、どうやって生まれるのかが全くわからん。
「ああ、新しい種族?ハーフの子の種族が変わったり、これから生まれてくる子が該当種族になったりだね。最初は珍しいと思うけど、その辺はこっちで調整する予定だから、しばらくしたら溶け込むと思うよ」
だからハーフだったユーリは、種族が変わったのか。
聞けばスネグラチカっていうのは新しく追加された妖族の1つになり、氷属性を宿す、いわゆる雪女になるんだそうだ。
思ったよりも派手な変化が加えられたから戸惑ったが、既に海珠では使われているシステムであり種族だから、天珠もそれに合わせるってことらしい。
天珠は箱庭世界で海珠の雛型だが、その役目は海珠が誕生した時点で終わりを迎えている。
だけど滅ぼすなんてことはせず、新しい世界の核として、その後も続いていく。
地球で例えると、シャンバラとかアガルタとか呼ばれている地下世界がその核であり、同時に箱庭世界でもあるそうだ。
つまり天珠と海珠は、惑星として生まれた時点で一心同体と言っても過言じゃない。
だからこそ天樹迷宮で繋がっており、相互に行き来することも可能らしい。
まあとんでもなさすぎる魔物が徘徊してるから、踏破するのは容易じゃないんだが。
この変更は、俺達の帰還と同時に行われるそうだ。
幸いにもトラベリングで行き来することはできるから、帰りは楽ができる上にまた来る際も同様だ。
ただ天樹迷宮を突破していない者は、トラベリングを使っても来ることはできないらしい。
残念だが、こればっかりは仕方がない。
システム更新、というか変更の通知は、俺達が海珠に出たと同時に周知されているから、今から1ヶ月後にシステムアップデートを行うんだそうだ。
システムとかアップデートとか、100年以上振りに聞いた言葉だな。
いくら神とはいえ、世界を管理するのは大変だから、地球のコンピューターみたいなものを使って管理の補助をしているんだとさ。
で、箱庭世界である天珠と惑星である海珠のシステムが異なるっていうのは、管理していく上での負担も大きいしエラーなんかも発生しやすいそうだから、こういった場合は惑星側に合わせるようにシステムの変更を行う。
他の世界でもやってるし、何だったら俺のいた地球でも過去にあったらしいよ。
さすがにそんなシステマチックな方法で管理してたとは思わなかったけど、よくよく考えたら世界の管理なんて領地運営より大変に決まってるんだから、そういったシステムがあってもおかしくはないのか。
いずれは俺も、そのシステムに携わることになるそうだから、その日を楽しみにしておこう。




