城塞都市白虎
Side・真子
日が沈む薄紅の空の中を、ウイング・オブ・オーダー号が東へ進む。
城塞都市白虎、その先にある神都アロガンシアを守る四神・白虎軍の駐留地がある都市は、思っていたより小さかった。
あれ、もしかして白虎軍関係者しか住んでないんじゃない?
いえ、在日米軍基地なんかもそうだから、特におかしいとは思わないけどさ。
でもあれだと、町まではいかない、ちょっと大きな村ぐらいじゃないかしら?
それでいて不自然に高い塔が1つ、一番西側に聳え立っているし。
「あれが城塞都市白虎か。とてもではないが都市といった規模ではないな」
「駐留地に家族を呼び寄せ、普通に生活ができるように整えたって感じね」
「在日米軍基地っぽい感じもするし、多分神帝が考えたんでしょうね」
陛下方も、名ばかりの都市に疑問を感じてるようね。
まあ在日米軍基地に家族が住んでいる理由は、軍人の単身赴任を防ぐ意味合いもあるみたいだから、多分この城塞都市も、それを踏襲してるんでしょう。
他国に赴任してる地球と違って、アバリシアで意味があるのかはわからないけど。
それよりも問題なのは、ぱっと見だと完全に村でしかないから、どこが軍施設なのかの判別が難しいことだわ。
「もう少し近づけば迎撃に出てくるだろうから、そいつらを倒せばいいんじゃないか?」
「下手に攻撃したら、民間人を巻き込むかもしれないしね。魔族になってるかもしれないけど、そこまでは確認しきれないわ」
「それが無難か。では大和君、すまないが任せるよ」
「了解です」
まあ、確かに城塞都市白虎を落とすって言っても、別に都市そのものを攻撃する必要はないわよね。
そもそも城塞都市白虎を攻める理由は、アロガンシア攻略中に挟撃されないようにっていう理由が大きいんだから、兵の数を減らすだけで十分だわ。
懸念もあるけど最優先は神帝の討伐だから、どうするかは後回しにしてもいいでしょう。
「それではレックス、ウイング・オブ・オーダー号は白虎からの迎撃態勢が確認され次第停止。周囲への警戒を怠るな」
「はっ!」
だからといって無警戒はあり得ないから、ラインハルト陛下もレックスさんへの指示を忘れない。
それを確認してから、私も大和君について行くことにした。
私は戦うつもりはないけど、クラウ・ソラスとアガート・ラムを生成しておかないとだからね。
刻印神器を生成する必要はないけど、神帝と戦う前にクラウ・ソラスとアガート・ラムにもグラーディア大陸に慣れてもらうべきだと思うから。
大和君達と一緒にメインブリッジを出て、私達に割り当てられている貴賓室に戻り、階段を上ってルーフバルコニーに出る。
遠目に見える城塞都市白虎の全景を視界に収めながら、私は大和君と二心融合術を発動させ、刻印神器 聖剣クラウ・ソラスと聖翼アガート・ラムを生成した。
「あっちからも見えてるだろうし、そろそろかしらね」
「精鋭って話だし、でしょうね」
暗くなってきてることもあって、白虎の様子はわかりにくい。
だからイーグル・アイを飛ばして確認をしてるんだけど、プリムとマナ様の言うように、兵士達が慌ただしく動いているのがわかる。
ああ、あの不自然に高い建物、見張り塔も兼ねた軍本部なのか。
キメラ達もいるけど、こちらは今までに見た種ばかりだから、特に調べる必要はなさそうね。
「そろそろ行くか」
「ええ」
「上手くいくといいんですけど」
「フィリアス大陸では問題ありませんでしたけど、積層魔法は繊細ですからね」
「しかも今回使うのは、私とミーナさん、大和さんの3人ですから、無理だと判断したら、すぐにキャンセルしないと危ないですしね」
今回試す積層魔法は、大和君とミーナ、フラムが3人で使うことになっていて、クリスタル・ディザスト・ラインと名付けられているわ。
ミーナのワイドミラー・シールドを球状の結界として展開し、大和君の氷属性魔法で内部をコーティングして強度を増し、フラムのタイダル・ディザスターを放つ魔法なんだけど、氷属性魔法が鏡のようにタイダル・ディザスターを反射するようにもなっていたりする。
しかもワイドミラー・シールドの始点から、追加のタイダル・ディザスターを撃ち込むことができるから、回避どころか防御も無意味じゃないかしら。
私のスターライト・サークルを参考にしたそうだけど、最初はミーナとフラムの新しい積層魔法として開発していたわ。
残念ながら2人だけじゃどうしても無理だったから、大和君も加わって3人でってことになったんだけど、それでもやっとだって言ってたっけ。
でもだからこそ、3人以上でも積層魔法を使えることが判明したから、クリスタル・ディザスト・ラインの他にもう1つ、最終決戦用と銘打った積層魔法も完成させてるわよ。
さすがにこっちは、クリスタル・ディザスト・ラインの比じゃない程繊細な調整が必要だし、私に大和君、プリム、アテナの4人で使う積層魔法だから、おそらく使わないと思うけどね。
Side・大和
城塞都市白虎の兵士達は、俺とミーナ、フラムの積層魔法クリスタル・ディザスト・ラインによって、多くが命を落とした。
今回ミーナには結界の維持に専念してもらったが、本来クリスタル・ディザスト・ラインは直径100メートル前後での使用を前提にしているから、今回の直径500メートルっていうのは、さすがのミーナも大変そうだった。
フラムのタイダル・ディザスターも、同時斉射するタイダル・ブラスターの数は最大20までが限界ってことで使う羽目になっちまってたから、氷属性魔法をコーティングしてただけの俺が、一番楽をしてた感じになったのがとても申し訳なかったよ。
「予想通りだけど、精鋭っていうだけあって全員が魔族だったわね」
「ええ。だから躊躇せずに倒せたわ。それより意外だったのは、キメラの数が少なかったことよ」
「だね。それなりに数はいたけど、種族としては今まで戦ったキメラと同じだから、ちょっと拍子抜けしたよ」
クリスタル・ディザスト・ラインから漏れた魔族は、プリム、マナ、ルディアが1人も残さずに殲滅している。
真子さんが戦場にフィールド・コスモスを展開してくれてたから、逃がすことを考えなくて済むのは本当にありがたい。
「それにしても、やっぱり積層魔法っていいよねぇ。あたしも使いたかったなぁ」
「そうは言っても、リディアが妊娠離脱しちゃったんだから仕方ないでしょう?」
「そうなんだけどさぁ。せっかく完成させたのに1年近くお預けになっちゃったから、ちょっとね。あ、姉さんの妊娠は、もちろん喜ばしいことだよ」
なんていうルディアだが、実はリディア、ルディアとの積層魔法も完成させてはいるんだよ。
だけどグラーディア大陸上陸前にリディアの妊娠が判明してしまったため、リディアはフィリアス大陸に送り返すことになってしまった。
妊娠が判明した人はエリス妃殿下やシエル妃殿下、グリシナ獣王陛下もいるけど、グラーディア大陸上陸前に判明した人は全員戻ってもらっているぞ。
「ならさ、あたしとの積層魔法でも考えてみる?あたしとルディアは火属性魔法が得意だから、あたしが使ってる羽纏魔法と似た感じのができるかもしれないし」
「あ、それ面白そう!」
プリムとルディアの積層魔法か。
確かにプリムの言うように、プリムが使ってる羽纏魔法を参考にすれば作りやすいかもしれない。
エレメントクラスに進化したからなのか、積層魔法が使いやすくなった感はあるし、それはドラゴニアンと使う竜響魔法も同じだ。
だからプリムとルディアの積層魔法も、面白いものができそうだな。
魔族を倒してからそんな話をしていた俺達だが、突然石ころが俺達の前に転がった。
どうやら投げられたようだが、どこからだ?
それにいったい誰が……!?
「返せよ!父ちゃんを返せよ!」
「兄ちゃんもだ!俺達が何をしたってんだよ!」
視線の先にいたのは子供達だった。
セリフから判断するに、俺達が倒した魔族の家族か。
確かに俺達からすれば相容れない敵であっても、あの子達にとっては家族だから、俺達に怒りと憎しみを込めた視線を投げつけてくるのも無理もない話だろう。
さすがに心が痛むが、それでもここは、心を鬼にして対応しなきゃいけない場面だ。
「何をした、か。先に手を出してきたのはアバリシアだ。俺達はその報復……仕返しのために来たんだ」
「……え?」
「し、仕返し?」
「だ、だから何だよ!だからってなんで、兄ちゃんが死ななきゃいけないんだ!」
確かに子供達からしたら、俺達は理不尽な侵略者に見えるだろう。
だけど俺達からしたら、アバリシアこそが理不尽な侵略者でしかない。
白虎軍は従軍してなかったかもしれないが、魔族と化している時点で、俺達にとっては排除すべき敵となる。
それは魔族に家族がいようと、決して変わらない。
「魔族に、魔化結晶を取り込んだからだ。そのせいで世界のバランスが崩れて、世界が滅ぶかもしれないところまで来てしまっている。だから俺達は、神帝を倒すためにフィリアス大陸からやってきたんだ。別に理解しなくてもいいよ」
10代前半の子もいれば、まだ年齢一桁の子もいる。
全員が理解できるとは思っていないけど、それでも世界を滅ぼさせる訳にはいかないから、こちらの言い分を伝えておく必要はあると思う。
子供相手に何をって思わなくもないけど、さすがに動揺してるから、少し判断が鈍ってるな、これは。
亜人相手に同じことをやったことも何度もあるけど、魔族とはいえ元人間相手だと、さすがに堪える。
だけどここは通過点でしかないし、何もしなければヘリオスオーブが滅びることになる。
だから不幸になる子供達が出ることは承知の上で、ここまで来たんだ。
それでも子供達には手を出すのは違うから、俺達は何もせずに、ウイング・オブ・オーダー号へ戻ることにした。




