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魔物の進化

 あれから特に問題もなく、無事にエモシオンに着いた俺達だが、問題はそこから先だった。

 エモシオンを出発してから3時間程は、特に問題もなく進めていた。

 だけど森が見えてきた辺りから、こっちにはグラントプスがいるってのに、魔物の襲撃頻度が激増しているんだよな。


「またグラス・ウルフか。この辺りに多く生息してるとはいえ、こうも頻度が多いとうんざりするわね」

「気持ちはわかるな。確かグラス・ウルフって、皮は鎧の素材になるけど、他は使えないんだったよな?」

「無理ね。肉も硬くて不味いし、牙だって脆いから使い道は皆無。その皮だって、何枚も重ねてやっと鎧として使えるようになるんだから、ハンター用っていうよりクラフターズギルドの入門用って意味合いの方が強いわね」


 魔物にもランクがある。

 ランクはギルドと同じ鉱物名で表すメインランクと進化を表すサブランクになっていて、グラス・ウルフは下から2番目の(アイアン)(ノーマル)ランクだ。

 魔物のランクとハンターズランクはイコールじゃないが、同じランクならばレイド、ヘリオスオーブじゃパーティーのことをレイドっていうんだが、それを組めば倒すことは難しくはない。

 だが魔物にも個体差があるし、何より群れを組む魔物の場合だと多数を相手取らなければならない可能性が高いため、少数レイドでの討伐は推奨されていない。

 数の暴力も怖いが、稀に上位種っていう1ランク上の魔物、希少種や異常種っていう2ランクや3ランク以上も危険度が跳ね上がるのが出てくることもあるそうだ。


「ということは、別に皮はいらんな。かといって、このまま捨て置くわけにもいかないんだろうが」

「ええ。面倒だけど回収して、フィールのハンターズギルドで売っぱらうしかないわね」


 既にグラス・ウルフは、俺の水性B級広域対象系術式コールド・プリズンで倒し終わっている。

 皮が素材になるって聞いてたから頭だけ氷らせたらそれだけで終わっちまったんだが、プリムの話を聞いてると回収するのも面倒になる。


 だが魔物の死体は回収するか、体内の魔石を取り出さないと、アンデットとして再生することがあるらしい。

 そうなったらそうなったで面倒なことになるから、基本的に魔物の死体は放置しないか、しても魔石だけは取り出すことを義務付けられている。

 アンデッドを倒すにはバラバラにするか、高レベルの火属性魔法ファイアマジック光属性魔法ライトマジックで焼き尽くす、オーダーズギルドやプリスターズギルドに登録することで使える協会魔法ギルドマジックが必要らしいから、はっきり言って面倒くさいな。


 その魔石だが、(アイアン)ランクの魔石は小さすぎて、(ティン)ランクの魔石ともども魔導具の触媒にもなりにくい。

 一応電池みたいな感じで使うことができるから対応してる魔導具には使えるんだが、当然使い捨てなわけだから単価は安く設定されてて、買い取り価格も安い。

 そのくせグラス・ウルフは雑食で畑とかを荒らす害獣でもあるから、討伐依頼は常に出ている。

 報酬も安いくせに新人ハンターには荷が重いから、毎年犠牲になるハンターは後を絶たないっていうのも頭が痛い問題だ。

 しかも(アイアン)ランクじゃ最上位になる魔物だから、好き好んで討伐するハンターは少ない。

 そもそも(アイアン)(ティン)ランクの魔石を狙うなら、グラス・ボアっていうイノシシみたいな魔獣の方が弱いし、肉もそこそこ美味いから人気がある。

 あと人気があるのは、同じく肉目的でホーン・ラビットか。

 角もグラス・ウルフの皮より高値で売れるんだったかな。

 まあ、グラス・ボアもホーン・ラビットもグラス・ウルフの餌でもあるから、かち合う可能性も低くはないんだが。


「回収終わり。行くか」


 魔物を回収する際、どちらかは必ず、アプリコットさんと一緒に獣車に乗ったままでいることにしている。

 グラントプスのオネストが獣車を引いているとはいえ、もともと草食で大人しい魔物だから、怒らせなければ危険は少ないってことは魔物も知っていることだ。

 基本的に獣車の牽引や騎乗の調教しか受けてないから、あまり無茶はさせたくないしな。


 ちなみにグラントプスは(カッパー)ランクだそうだが、1つ上の(ブロンズ)ランクに匹敵する個体も珍しくないから、盗賊達は迂闊に手を出しては来ない。

 盗賊にもピンからキリまでいるが、グラントプスを単独討伐できるような盗賊は数えるほどしかいないらしいし、ドラゴンの亜種だけあってブレスを吐くこともできるから、たとえ(シルバー)ランクハンターであっても進化してなければ危険だと言われているそうだ。


 グラントプスはドラゴンの亜種だが、ほとんどが人間に飼われているらしい。

 もちろん野生種もいるが、生息地が限られているし、あんまり人間に警戒心を持ってない上、餌を与えれば簡単に捕まえたり従魔契約ができたりするし、中には子育てのためにあえて人間の村や町に出向く個体もいるって話だから、小さな村でもグラントプスを飼ってる所は少なくないそうだ。


「それにしても、やけに魔物が多いわね。まだ半分も進んでないっていうのに、4回も襲われるとは思わなかったわ」

「同感だが、確かエモシオンでグラス・ウルフが大量発生、まではいかないが、そこそこ増えてるって噂は聞いた覚えがあるな」

「その噂なら私も聞いたわ。なんでも、上位種のグリーン・ファングを見た人がいるとか」

「グリーン・ファングって、普通に異常種じゃない。そんなのがいるんなら、確かにグラス・ウルフが増えててもおかしくはないわね」


 異常種ってのは体がデカく、力も魔力も桁違いに強い魔物のことで、突然変異みたいなもんだ。

 生まれてくる理由としては、魔力溜まりみたいなとこから受けた魔力によって進化しただとか、該当の魔物の数が増えすぎたせいで生態系が乱れないようにまとめ役として進化しただとかけっこう色々と言われているが、進化していること以外はっきりとしたことはわかっていない。


 話に出たグリーン・ファングってのは、ウルフ種の異常種で、風属性ウルフの異常種ってことになるそうだ。

 グラス・ウルフは(アイアン)(ノーマル)ランク、グリーン・ウルフは(カッパー)(アッパー)ランクの魔物で、その異常種になるグリーン・ファングは(シルバー)(イレギュラー)ランクに該当し、群れのことを考えるとハイクラスに進化している(シルバー)ランクハンターどころか、(ゴールド)ランクハンターでも少数では危険度が高いんだったか。

 そんな魔物がいたら、おちおち町の外に出ることもできないよな。


「となると道中は、盗賊よりそっちの方を警戒しとかないとマズいか」

「そうね。ハイハンターでも単独討伐は無理って言われてるし、そんな魔物がいたんじゃ、盗賊だって逃げ出してるでしょうからね」


 異常種は好戦的だって話だから、見つかったら確実に襲われる。

 そして盗賊は、町に入ることはできないから、森や洞窟なんかにアジトを作っている。

 そのアジトは常に魔物に襲われる可能性があるから、危険な魔物が出没したら盗賊だって逃げるのが普通だ。


 町や村も危険なことに変わりはないが、そちらには魔物除けの結界が円状に張られている。

 どんな原理かはわからないが、その結界には一部の例外を除いて魔物は中に入れないため、結界内の町や村は外に比べれば安全に過ごせる。

 一部の例外っていうのは、稀に起こるっていう魔物の氾濫や従魔、召喚獣、そしてグラントプスみたいに大人しい魔物だな。

 どうやって見分けてるのかはわからんが、敵意でも見分けてるんじゃなかろうか。


「そういや気になってたんだが、人間はレベルが上がれば進化するが、魔物は進化しないのか?」

「するわよ。話に出たグリーン・ファングだって、グリーン・ウルフから進化した魔物だって言われてるわ」


 やっぱりかよ。

 人間が進化するんだから魔物だって進化するだろうと予想はしてたが、そうなると異常種ってのは人間でいうハイクラスか、ひょっとしたらエンシェントクラスに該当するのかもしれないな。


「その考えで間違ってないと思うわ。実際、そんな説があったはずだから」

「ん?それってつまり、例えばそのグリーン・ファングやグリーン・ウルフは元々はグラス・ウルフとして生まれてきて、狩りとかしてる間に進化してそれらになったってことか?」


 ウルフ種はグラス・ウルフ、グリーン・ウルフの他にもシルバー・ウルフ、ブラック・ウルフなんてのもいるし、砂漠に生息するデザート・ウルフや雪原に生息しているスノー・ウルフ、ホワイト・ウルフなんてのもいる。

 グラス・ウルフは草原に、ウッド・ウルフは森に、そしてグリーン・ウルフはその両方に生息しているからその2種の上位種ってことになっているが、普通に考えれば上位種は生まれた時から上位種のはずだ。


「希少種や異常種はそうみたいね。ただ元の種族がわかるような名前を付けられることが多いから、今回のグリーン・ファングも、元はグリーン・ウルフ系だってことは間違いないはずよ」


 またややこしいな。

 つまり上位種は生まれた時から上位種だが、希少種や異常種は進化してその姿になったってことだから、全ての個体が希少種や異常種に進化する可能性があるってことか。

 ますますもって希少種=ハイクラス、異常種=エンシェントクラスって説が正しいような気がしてくる。

 いや、異常種の上にもいくつかあったはずだし、魔物によってランクが違うから、一概にそうとは言い切れないか。


 あれ?

 ってことはもしかして、従魔なんかも進化する可能性があるってことか?


「なあ、ってことは従魔だって進化する可能性があるってことだよな?」

「ええ。数は少ないけど、そんな話は聞いたことがあるわ。だけどそれが……あっ!」

「どうかしたの?」

「ええ。オネストが進化すれば、戦力に不安があるって言われたオネストだって十二分に戦力になるんじゃないかなと思って」


 従魔だって魔物に分類されるんだから、進化しないわけがない。

 そう思ってたら、やっぱり前例があった。

 とは言ってもさすがに従魔を進化させるのは大変だし、何より条件がわかっていないから、今までは偶発的に進化したものだったらしい。

 やっぱ簡単じゃないか。

 ちなみに進化して希少種になったグラントプスは、グラントプス・ロードっていう種族になるそうだ。

 ま、急いでるわけじゃないし、フィールに到着するまでに進化できるわけもないから、オネストを進化させるにしてもゆっくり気長にやっていくとしますかね。

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