未来の行き先
無事にスルトを倒してソルプレッサに戻った俺達だが、当然のようにソルプレッサではスルトの引き取りは拒否された。
なのでグランド・ドラグナーズマスターと共に、一度ドラグニアに戻り、ハンターズギルド バレンティア本部で、テスカトリポカやタナトスも含めて出すことにした。
ところが話を聞いて駆け付けたフォリアス陛下から、4匹もいるタナトスを全部引き取るのは無理なので買い取るのは1匹だけで、1匹は俺達が丸々自由にしてよし、残り2匹はラインハルト陛下へ献上すると言われてしまった。
今回倒した終焉種は、既に死んでいた3匹を除くとスルト、タナトス、テスカトリポカの計3匹だが、バレンティアとしてはその3匹で十分らしい。
複数あるタナトスは、アミスターや同じ三王国のトラレンシア、アレグリアにもお裾分けというか、復興支援の対価として提供することになるから、本音では全て確保しておきたいんだが、さすがに終焉種6匹ともなると国家予算を圧迫してしまい、復興予算を組むこともままならなくなるんだそうだ。
なので、所有権を持つ俺達に1匹、残り2匹はアミスターへ献上することで、少しでも予算を浮かせたいと考えているらしい。
直接言われた訳じゃないが、マナやプリム、真子さんがそうだろうと予想して教えてくれた。
俺もその通りだと思ったが。
実際終焉種6匹を買い取るとなると、神金貨がどれぐらい必要になるか分かったもんじゃないからな。
その後、俺達に様子を気にかけてほしいと告げてから、グランド・ドラグナーズマスターはソルプレッサに戻り、俺達はフォリアス陛下と共に天樹城へ向かい、タナトス2匹の献上を行った。
「体のいい厄介払いだが、そうするのが最善なのがまた、な」
これが後のラインハルト陛下の口から漏れた呟きだが、そう言いたくなる気持ちもわからんでもない。
そして数日後、ユーリのお供でアルカに帰ってきたアリアから、神託が下ったと告げられた。
「先日バレンティアに現れた終焉種達ですが、スルトもタナトスも、元はマルドッソ迷宮に生息していたファイア・ドラグーンとスピノサウルスだったそうです。ですが迷宮放逐によって外に出てしまい、残留していた神帝の魔力によって、短時間で終焉種にまで進化してしまったのだと」
「予想はしてたが、やっぱりそうだったか」
「そうね。意外だったのは、スルトがただのファイア・ドラグーンだったことだけど、神帝は火属性のレッド・ドラゴン、バーニング・ドラゴン、ブラッドルビー・ドラゴンを従えてたから、火属性の魔物だと進化しやすいってことなのかも」
「同じ竜種でもあるし、そう考えるとファイア・ドラグーンが進化したっていうのは、偶然ではあるけど、ある意味じゃ必然だったかもしれないわね」
ああ、確かにそう考えると、上位種でしかないファイア・ドラグーンが、短時間で終焉種にまで進化できた理由も、一応は納得できるか。
「そこまでは仰られていませんでしたが、迷宮放逐された時期はこの半年から1年以内だろうと仰られていました。ですからかつて神託で告げられた、終焉種に進化しそうな魔物とは別口になるそうです」
「それもそれで、厄介な話よね」
「ああ。迷宮放逐や迷宮氾濫で溢れた魔物が、いきなり進化する可能性があるってことだからな」
あまり人の入っていない未攻略の迷宮の危険度が、大幅に増したようにも感じられる。
かといって、すぐに未攻略迷宮を攻略できる訳でもないから、この事実は早めに広めて、1人でも多くのハンターに入ってもらう必要がある。
もちろん攻略できるならそれに越したことはないが、来年はアバリシアへの親征が行われるから、参加予定のリッターやハンター達、特にエンシェントクラスは、迷宮攻略を躊躇するかもしれない。
それに、以前の神託で伝えられていた進化しそうな終焉種も、もう進化を終えている可能性が高いから、そっちの捜索もする必要がでてきた。
「進化する可能性があるって聞いてはいたけど、もうちょい時間かかると思ってたんだけどなぁ」
「分かるわ。だけど迷宮放逐された魔物が、1年弱で終焉種にまで進化したことを考えると、とてもじゃないけど放置はできないわよ」
「アロサウルスも火属性ですから、それもあって進化が早かったんでしょうけど、それでも一気に4匹というのは、予想すらしていませんでしたからね」
ああ、そういやアロサウルス種も、火属性に分類される魔物だったっけか。
サウルス種っていう竜種だから、ファイア・ドラグーンと同じく進化するのも早かったって事なんだろう。
「ただ何をするにしても、まずはお兄様に話を通してからね。国防に大きく関係する話だし、下手をしたらアバリシア親征の予定を見直す必要もでてくるから」
「確かに終焉種に国内を荒らされたら、親征どころじゃないよな」
既にバレンティアで多大な被害が出てるから、無視なんてしたら亡国まっしぐらになってもおかしくない。
ならすぐにでもラインハルト陛下に報告して、対策を話し合わないといけないな。
「なら、これから天樹城に向かうか。アリア、神託は他にもあるか?」
「あります。神帝はグラーディア大陸に戻っていますが、そのグラーディア大陸に不穏な気配が漂っているそうです」
「また穏やかじゃない話が出てきたなぁ」
「神々がそう神託を下してくる以上、放置しておくのは悪手でしかないけど、タイミングが最悪ね」
フィリアス大陸の問題だけでも手一杯になりかねないのに、グラーディア大陸にも不穏な気配が漂ってるって、マジで手が回らなくなるぞ。
「グラーディア大陸ではトラベリングが使えないけど、近くでなら使えるから、最悪私達は行軍には同行せず、ギリギリで迎えに来てもらうようにするべきかもね」
「ああ、その手があったか」
真子さんの言うように、グラーディア大陸では何故かトラベリングが使えない。
だけどグラーディア大陸からある程度離れれば使えるようになるから、迎えに来てもらうっていう手段は、確かに使える。
実際調査隊は、その方法でグラーディア大陸の調査を行ってたからな。
「というより、それしかないわよ。問題はグラーディア大陸に上陸してからだけど、それに関しても他は一切無視して、神帝の首を狙うしかないわ」
「それしかないかしらね。ともかく、天樹城に向かいましょう」
元々神帝を倒さないと、ヘリオスオーブが滅びるっていう神託が下されていたんだから、神帝を倒すことに異存はない。
だけど今は、少しタイミングが悪いようにも感じられるから、グラーディア大陸への親征は少し遅らせてもいいんじゃないかって気もする。
だけどまずは報告、それから会議ってことになるから、とりあえずは天樹城に行くか。
Side・真子
天樹城に赴きラインハルト陛下に報告すると、さすがの陛下も眉間に大きな皺を寄せられた。
無理もない話なんだけどさ。
「頭の痛い話だな。神帝と終焉種、どちらも捨ておく訳にはいかないが、どちらを優先するべきか……」
「終焉種は進化しそうな個体も含めて、だいたいの居場所は判明しています。2ヶ所ほど早急に対処すべき場所がありますが、それ以外は急ぐ必要はないでしょう。迷宮放逐、あるいは迷宮氾濫によって溢れた魔物についてまでは、把握できていませんが」
「それが問題なんだがな。とはいえ焦ってどうにかなる問題ではないし、迷宮放逐や迷宮氾濫に関しては、怪しいと思われる迷宮を急ぎ攻略することで、今後の危険の芽を摘むしかないか」
迷宮については、確かにそれしか対処法はないと思う。
攻略して王城で迷宮核を管理するようになれば、迷宮氾濫の危険性は無くなるからね。
攻略についてはエンシェントハンターのいるレイドに頼むしかないけど、安全を考えるとやむを得ない判断でしょう。
「迷宮の攻略に関しては、手の空いているエンシェントハンターに依頼を出す。急がせることはしないが、なるべく早く未攻略の迷宮を攻略してもらいたいからな」
「エンシェントリッターも動かしますか?」
「場合によってはそれも考えるが、リッターはグラーディア大陸への進軍を優先させる。神託が下った以上、そちらも放置することはできないからな」
神託によれば、グラーディア大陸には不穏な空気が漂っているという。
ただでさえ神帝っていう、世界を不安定にする存在がいるのに、それに加えて不穏な空気っていうのは、放置するには問題が大き過ぎるから、陛下はハンターを迷宮、リッターをグラーディア大陸に専念させるつもりね。
確かにどちらも放置するには怖すぎる問題だから、それが無難な対応かしら。
「ではグラーディア大陸への進軍は、予定通り行うと?」
「ああ。ただハンターの参加は、予定より数を減らすことになる。彼らには申し訳ないが、グラーディア大陸への遠征中はリッターズギルドと協力し、迷宮や終焉種に備えてもらいたい。レックス、明後日の騎士会談では、全てのリッターズギルドにその旨を伝えてくれ」
「はっ!」
「それから大和君、余裕があったらで構わないんだが、できれば遠征が始まるまでの間は終焉種の討伐と迷宮の攻略を、平行して行ってもらいたい。無理をさせることは承知の上だが、君達以上の実力者はいないんだ」
終焉種討伐と迷宮攻略を平行して行えなんて、さすがに無茶を仰るわね。
だけどエレメントクラスがいるユニオンは私達ウイング・クレストだけだし、そのエレメントクラスも6人になってるから、終焉種の相手もしやすくなったのは間違いない。
元々倒してたけどより安定するようになったし、最終手段として私と大和君の刻印神器もあるから、終焉種が相手でも一方的に倒せるしね。
迷宮攻略も同じで、最深層にさえ辿り着ければ、こっちも刻印神器を使うことですぐに守護者を倒せるから、道中にさえ気を付ければ攻略は難しくはないわね。
「分かりました。元々は俺達の世界出身者が迷惑を掛けてる訳ですから、出来ることはしたいと思ってます」
それについては、私も大和君と同じ意見ね。
神帝の正体は日本人で、しかも私や大和君の両親と同世代になる。
私が転移した後みたいだけど、大和君のお父さん 飛鳥君は直接対峙して、倒したとも思われていたから。
だけどどんな奇跡が起こったのか、神帝は飛鳥君に命を奪われる直前にグラーディア大陸へ転移してしまった。
当時のグラーディア大陸の情勢は分からないけど、いくつかもの国が鎬を削る、いわゆる群雄割拠の状態だったのは判明している。
神帝はそんなグラーディア大陸を力で統一し、200年以上も頂点として君臨し続けているわ。
それだけでは満足せず、ヘリオスオーブそのものを統一し支配するために、フィリアス大陸へも軍を派遣した。
それが30年程前の話になるけど、その時は当時存命だった客人達によって退けられ、刻印具も破壊されている。
2年前に捲土重来を期して再侵攻してきたけど、その時は本当に危なかったわ。
飛鳥君と真桜が来てくれなかったら、大和君の命も失われていたでしょうし。
その時は自分で借りを返したいと思ったから見逃したけど、今思うと完全に失敗だったわね。
責任を取るという意味でも、フィリアス大陸の迷宮攻略と終焉種討伐は、私達がやるべき仕事だわ。
直接話したワケじゃないけど、多分大和君もそう思ってるでしょうね。
「すまない。だが大和君、君が責任を感じる必要は無い。神帝はフィリアス大陸、いや、ヘリオスオーブに生きる全ての者にとっての大敵だ。可能であれば、私達自らの手で倒すべきだと思う」
「ありがとうございます。ですけど、あいつとは因縁があったみたいですし、以前の借りも返さなきゃなりませんからね。もう一度あいつと戦うためにも、後顧の憂いは断っておきたいんです」
「そうか。いつもすまないな」
ほらね。
ラインハルト陛下も、大和君に頼ってる現状が歪だと分かってるようだけど、その現状こそが歪なんだから、落ち着くまでは力のある者を頼るのは仕方がないと思う。
もちろん私も大和君と同じだから、終焉種討伐も迷宮攻略も異存はないわ。
しいて言えば、メモリア総合学園の講師は続けたいから、そこは考慮してもらいたいけど。
ヒーラー講師として、優秀なヒーラーは1人でも生まれてほしいもの。
未来を紡ぐ人材育成も大切だけど、そのためには現状打破が必要となる。
そのために私も、最善を尽くしたいわ。




