ソルプレッサ連山の異常事態
Side・ルディア
ソルプレッサ連山から下りてきたサウルス達を倒しながら、あたし達は終焉種タナトスに向かっていく。
全高約50メートル、全長約100メートルっていう巨体で、しかも複数いるってことだから、探すのはすごく簡単だった。
だけど寝転んでる個体もいたから、すぐに見つけられたのは1匹だけ。
タナトスは最低でも2匹、もしかしたら3匹かそれ以上いるっていう報告があるから、油断なんてできっこない。
だけど……。
「大和、これっておかしいわよ!」
「ああ。これだけ接近してるっていうのに、動き出したのは1匹だけだ。他……多分3匹横たわってると思うけど、あれは……」
プリムと大和の言う通り、取り巻きのサウルス達を倒され接近されてるっていうのに、タナトスに大きな動きが見られない。
あたし達は、タナトスまで約200メートルっていう距離まで近付けているんだけど、そこでようやく、タナトスが4匹もいることが確認できた。
なのにあたし達と戦う素振りを見せているのは1匹だけで、3匹は横たわったまま動こうとしていない。
いや、1匹は小さく動いてるようにも見えるか。
だけどそれより驚いたのは、あたし達に向かってこようとしているタナトスも横たわっているタナトスも、大きな傷を負っているってこと。
特に動いていないだろう2匹の傷は、致命傷なんじゃないかっていうぐらい深い。
これっていったい、何がどうなってるんだろう……。
「疑問は多々あるが、後回しだ!少なくとも1匹は向かってきてるんだから、まずはあいつを倒すぞ!」
「了解よ!」
「うん!」
「はい!」
「わかった!」
確かにそうだ。
ケガしてるとはいえ相手は終焉種、考え事なんかしてたりしたら、簡単にやられるに決まってる。
他の魔物もいるんだから、大和の言う通り考えるのは終わってからだよ!
「出し惜しみ無しで行くわよ!」
言うが早いか、プリムがセラフィム・ペネトレイターを纏って、目の前のティラノサウルスとディプロドクスを貫いていく。
どっちもM-Iランクモンスターだけど、本気を出したプリムの前じゃ、既に相手じゃない。
「ボクも行くよー!」
両腕を部分竜化させたアテナがクリスタライト・スピア構え、固有魔法ブレイズライト・ブレードを纏わせながら、フライングを使って空を飛ぶ。
そしてP-Rランクモンスター アエロティタンを斬り捨てながら、M-Iランクモンスター ティタノプテリクスの翼を落とす。
「たあああああっ!」
そのティタノプテリクスは、姉さんの氷のブレーディングで首を落とされる。
さらに、その直後に使われた姉さんの固有魔法ドラグバイト・ブリザードで模られた氷竜の顎が、A-Cランクモンスター ドレッドノートを一息で飲み込んだ。
ドレッドノートってタナトスを凌駕するような巨体なのに、それを丸呑みできるってすごいな。
エレメントドラゴニュートに進化したことで魔力が増大したからこそ、できるようになったんだと思うけど。
って、あたしも負けてられないよ。
固有魔法ファイアリング・インパクトを両腕両足のフレア・グラップルに纏わせ、もう1匹いたドレッドノートに連撃を叩き込み、胴体の下に潜り込んでからファイアリング・インパクトの最終段階で真上に蹴り上げる。
さすがにドレッドノートの巨体を上空まで蹴り上げるのは無理だけど、それでも20メートルぐらいは上がったから急いでそれを追い抜いて、固有魔法アサルト・ブレイザーを纏って首を叩き折る!
着地と同時にストレージングを使って、ドレッドノートを収納することも忘れない。
全長100メートル近い魔物が落ちてくるなんて、みんなの邪魔どころか大きな被害がでかねないからね。
うん、一連の流れもスムーズになってきたし、ストレージングも上手く組み込めるかもしれないから、終わったら新しい固有魔法として改めて纏めてみよう。
「アテナ!」
『うん!』
さらに完全竜化したアテナが、背に乗った大和と共に竜響魔法ブレスエッジ・ブラスターを使い、PランクやMランクの魔物達を薙ぎ払っていく。
あ、タナトスにも直撃した。
一撃で大きなダメージを受けてたし、間髪入れずに大和の固有魔法グレイシャス・バンカーが命中して、そのまま倒しちゃったから驚いたよ。
だけどケガを負ってたって大和は言ってたし、そのケガはあたしが思ってたより大きかったんだろうな。
そうじゃなかったら終焉種をこんな簡単に倒すなんて、いくら大和でも無理だからね。
刻印神器を使えば、話は別だけど。
「これで終わりね。驚いたけど、タナトス達の傷は思ってたよりヒドいわ。元がSランクとはいえ終焉種、それも4匹を、ここまで一方的に倒せる魔物がいるのは確実ね」
「ああ。本気でヤバいぞ、これは」
最後のティラノサウルスが、プリムのセラフィム・トルネードで体を焼かれながら宙を舞い、姉さんのドラグバイト・ブリザードで倒された。
倒した魔物達を、ブレスエッジ・ブラスターで倒されたタナトスも含めて回収した後、横たわっている3匹のタナトスに近付いて傷を調べてみたんだけど、既に死んでいた1匹は右腕が無く尻尾も食い千切られていたし、もう1匹は腹部に複数の大穴が空けられていた。
わずかに息のあった個体も、どうやらあたし達が戦ってる最中に死んだみたいで、左肩口から胴体に向かって大きな傷が付けられていて、両断されていないのが不思議っていうぐらいだった。
タナトスがいつ進化したのかは分からないけど、それでも4匹もいたっていうのは異常事態だし、そのタナトス達を倒せる魔物がいるなんて、世界の終わりが迫ってきてるんじゃないかっていう気もしてくるよ。
「終焉種を倒せるとしたら同じ終焉種だけだと思いますけど、それにしても酷いですね」
「ええ。ヴォルテクス・ドラグーンもいたし、可能性として高いのはドラグーンの終焉種なんでしょうけど、それでもここまで一方的に倒せるとは思えない。そもそもの話として、ソルプレッサ連山にドラグーンはいなかったはずよ」
「ああ。それとソルプレッサ迷宮に入るハンターは多いから、迷宮氾濫どころか迷宮放逐すら起きていない」
「だよね」
それはあたしも知ってるけど、それならそれで、余計にどうなってるか分からないんだけど?
「それは後で調べることになるけど、可能性が高いのはマルドッソ迷宮から迷宮放逐されたドラグーンが、人知れずソルプレッサ連山に辿り着いて、終焉種にまで進化してしまったってことだと思うわよ」
あたしの疑問に推測で答えてくれたプリムだけど、言われてみれば確かにその可能性が高いように思える。
「そっちも問題だけど、まだ魔物は残ってるんだ。真子さんとフラムも来てくれたみたいだし、考えるのは後にしよう」
「あ、そうだね」
確かにまだ魔物はいるんだから、ソルプレッサを守ることが最優先だ。
大和に言われてソルプレッサの町の方を見ると、マナ様と真子、フラムの3人がこっちに向かってきてるところだった。
3人と合流したあたし達は、そのまま1時間ほど時間をかけて、ソルプレッサを襲撃してきた魔物達を殲滅することに成功した。
Side・フラム
私達が合流した時には、既に終焉種タナトスとテスカトリポカの討伐は終わっていました。
ですがタナトスが4匹もいて、しかも内3匹は既に死んでいたという事実は、驚くことしかできません。
「馬鹿な……」
「オーク・エンペラーとオーク・エンプレスが同時に出たことはありますから、状況としてはあれと似たようなものかなと思いますが」
3年程前、マイライト山脈で進化したオーク・エンペラーとオーク・エンプレス。
どちらもオークの終焉種ですが、違いとしてはオスかメスかでしかありませんから、確かに今回の状況と似ていると言えますね。
「いや、確かにそうだし、それでも大きな問題なのは間違いないのだが、それよりもタナトス4匹を、一方的に倒せる魔物がまだいるという事実の方が大問題だ」
「おそらくはドラグーンの終焉種でしょうが、それでも同じ終焉種相手に一方的にというのは、さすがに驚きでしかありませんからね」
グランド・ドラグナーズマスターが言葉を絞り出され、マナ様も同意されていますが、全く仰る通りです。
「同感だ。だが調査に向かうには、最低でもエンシェントクラスが複数人必要だ。複数のタナトスを屠れる魔物がいる以上、ハイクラスであっても足手まといになりかねん」
グランド・ドラグナーズマスターが頭を悩ませていますが、無理もありません。
タナトスはSランクモンスター アロサウルスの終焉種ですから、Sランク基準の終焉種ということになります。
実際は通常種であっても1つ上のランクモンスターを倒せる個体が存在するので、この表現が正しいかどうかは疑問なのですが、今は置いておきます。
その終焉種が討伐されたことは、全てここ3年以内のお話です。
オーク・エンペラー、オーク・エンプレスを始めとして、スリュム・ロード、アントリオン・エンプレス、ハヌマーン、コボルト・エンペラー、ニーズヘッグ、ケートス、ズラトロク、ウロボロス、フェニックス、スレイプニル、そしてリヴァイアサンの13匹ですが、内半数は大和さんが討伐に関与しています。
オーク・エンプレスはプリムさんが、フェニックスは真子さんがそれぞれ単独で討伐されていますし、コボルト・エンペラー、ニーズヘッグ、ケートスは大和さんのご両親でもあられる飛鳥お義父様、真桜お義母様が討伐されているので、スレイプニル以外はウイング・クレストかその関係者が討伐していると言っていいでしょう。
スレイプニルのみ、グランド・オーダーズマスターが奥様方と共に討伐されていますが、それ以外で討伐報告はありません。
また、終焉種と直接相対したのは、最低でもエンシェントクラスに進化した方々なのですが、ハイクラスが接敵したことが無いワケではありません。
事実コボルト・エンペラーと接敵した、バレンティア最強と謳われているドラゴネス・メナージュの方々が、瀕死の重傷を負わされましたから。
コボルトはCランクモンスターですから、アロサウルスと比べてしまうと2ランクも格下の魔物となります。
そのコボルトの終焉種相手で、バレンティア最強ハンターが撤退を優先したとはいえ一方的にやられてしまったのですから、グランド・ドラグナーズマスターの仰る通り、ハイクラスの方々を調査に派遣するのは厳しいと言わざるを得ません。
かといってエンシェントクラスは、増えたとはいえまだ数十人ほど、しかもほとんどがアミスター所属であり、バレンティアにはグランド・ドラグナーズマスターしかおられませんから、ソルプレッサ連山の調査を行うとしたらオーダーズギルドかハンターズギルド・アミスター本部に依頼を出すしかなく、準備も必要ですからそれなりに日数が必要でしょう。
「さすがに放置できない問題ですから、この後で俺達が調査に行きますよ」
「それは助かるが、報酬は既定額になってしまうぞ?」
「さすがにタナトスを4匹まとめて倒せるようなのがいるなんて、放置できないですよ。それにウイング・クレストにはエレメントクラスが6人いますから、俺達が適任でしょう?」
「……すまない」
顔を顰めるグランド・ドラグナーズマスターですが、大和さんの仰る通り、私達が適任なのは間違いありません。
「いえ、それじゃあ準備出来次第、ソルプレッサ連山に向かいます」
さすがにタナトスはもういないでしょうが、そのタナトスを複数纏めて倒せる魔物がいる以上、準備はしっかりとしなければいけません。
テスカトリポカも下りてきていましたから、おそらくその魔物がいるとしたら宝樹でしょう。
ですから近くまでは空から行き、途中で陸路に切り替えることになるかと思います。
アテナさんは完全竜化済みですから、いるであろう魔物のことを考えるともう一度竜化して頂くワケにはいきません。
エオスさんを呼ぶか、飛空艇で近付くかのどちらかになるでしょう。
どちらにしても、命がけの調査になりそうですね。




