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ヘリオスオーブ・クロニクル(旧題:刻印術師の異世界生活・真伝)  作者: 氷山 玲士
第三章・フィールの夜明け
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翼の紋章

Side・プリム


「今日はこんなとこかしらね。どう?少しは感じが掴めた?」

「なんとなく、としか言えませんよ……」


 フラムが大和に告白してると思われる最中、あたしはラウスの受け流しの練習に付き合って、何度も突きを繰り出していた。

 もちろん手加減はしてるし安全のために木槍を使ってるから、ラウスには怪我1つ……訂正、けっこうな数のアザを作ってるわね。

 これは何とかしないと、さすがに怒られるわ。


「『ハイ・ヒーリング』、『ブラッド・ヒーリング』。どう?少しは楽になった?」


 回復魔法をかけてアザも綺麗に消したし、血流も正常になったはずだから、これで大丈夫でしょう。


「ありがとうございます。プリムさん、回復魔法も使えたんですね」

「そんなに得意じゃないんだけどね」

「得意じゃない人は、ブラッド・ヒーリングなんて使えないと思いますよぉ?」


 レベッカに呆れたような視線を向けられたけど、そんなことないでしょ。

 回復魔法は天賜魔法グラントマジックだからヒーリングを使える人はそれなりに多いし、ハイ・ヒーリングだって10人いれば1人ぐらいは使えるはずよ。

ブ ラッド・ヒーリングはけっこう難しいから、(ゴールド)ランクハンターと同じぐらいだったと思うけど。


 ……あれ?

 そう考えると、ブラッド・ヒーリングが使えるあたしって、実は回復魔法って得意だったの?

 いや、でもノーブル・ヒーリングは使えないし、ブラッド・ヒーリングだってけっこう魔力使うわよ?

 さすがに極炎の翼(フレア・ウイング)ほどじゃないけどさ。


「ノーブル・ヒーリングを使える人はハイハンターより多いかどうかってとこなんですから、基準にはなりませんよぉ。それにブラッド・ヒーリングは、血の流れを良くしたり血を造り出したりする魔法なんですから、元々消費魔力は多いですよぉ。あんまり使ってないから、慣れてないだけなんじゃないですかぁ?」


 言われて思い返してみたけど、確かにあたしは、あんまり回復魔法は使わない。

 使う機会がなかった、と言い換えてもいいわ。

 あたしの天賜魔法グラントマジックは、戦闘時によく使ってる羽纏魔法、ハイフォクシーに進化した際に授かった回復魔法になるんだけど、回復魔法は片手の指で数えられるぐらいしか使ったことがない。

 母様の天賜魔法グラントマジックが回復魔法だから、自分の怪我ぐらいは治せるようにってことで教えてもらったんだけど、何を相手にしても怪我らしい怪我はしたことがないから、使いようがなかった。

 訓練時の軽い怪我を治したぐらいかしら?


「やっぱり。客人まれびとの大和さんが知らないのは仕方ないと思いますけど、プリムさんだって人のことは言えませんよぉ?もう少し、ハンターの標準を知っておいた方がいいと思いますぅ」


 反論できないのが痛いわ……。

 こんなことなら、バリエンテにいた頃にハンター登録しておけばよかった。

 バリエンテにいた頃は、ハンターが手に負えなかった魔物や盗賊の相手に出張ることが多かったから、登録しててもおかしくなかったのに。


 でも、そのおかげで大和と出会えたようなものなんだから、やっぱり登録しなくて良かったのかしら?


「ところでラウス、受け流しっていうのの訓練は村じゃできなかったけど、どんな感じなの?」

「プリムさんの攻撃ってスパイラル・ラビットの比じゃないから、受けるだけでも精一杯だ。攻撃を予測して、避けながら盾と体を動かしたり反らしたりして隙を作るなんて、とてもじゃないけど無理だよ」


 いつの間にか、ラウスに受け流しの感触を訊ねてるレベッカだけど、そう簡単にコツはつかめないわよ。

 だけどあたしの攻撃に慣れれば、ホーン・ラビットはもちろんスパイラル・ラビットの攻撃だって、簡単に受け流せるようになると思うわよ。

 なにせ、魔物の攻撃は単調だからね。


「まだ初日だし、そんなもんだと思うわよ。それよりそろそろ大和とフラムが戻ってくると思うから、上に行きましょう」

「そうですねぇ。お姉ちゃん、ちゃんとやったのかなぁ?」

「大丈夫だと思うよ。俺としてはそっちより、ちゃんと魔銀ミスリルの盾を買ってきてくれるのかが不安だなぁ」


 ラウスもレベッカも、あたしが大和とフラムを2人きりにした理由を、ちゃんとわかってるのが恐ろしいわ。


 あたしも立ち寄ったからわかるけど、プラダ村にはフラムと同じ年頃の男はいない。

 強いて言うならラウスだけど、フラムにとっては弟みたいな存在だから、恋愛感情を抱くのは難しいでしょう。

 だからといって他の男となると、上は30歳を超えていて下はラウスよりも年下になるんだから、恋愛対象にはしにくい。


 だから本来ならフラムは、プラダ村に立ち寄った同年代の男に、シングル・マザーになることを頼むことになっていたはずなの。


 シングル・マザーは結婚せずに子供を生み、女手一つで育てる女性を指してるんだけど、男が少ないヘリオスオーブじゃ、さほど珍しくはないわ。

 小さな村や貴族の場合は男を束縛することにもなっちゃうから、結婚はしにくいのよ。


 だから頼み込んで子供だけ作らせてもらって、後は女手一つで子育てをすることになるの。

 結婚してるワケじゃないから男も立ち寄るたびに抱くワケにはいかないけど、それでも貴族は跡取りを生むことができるし小さな村も働き手を確保することができるから、昔から普通に行われていることよ。

 当然プラダ村も例外じゃなく、フラムの他にも対象となる女の人はいるわ。


 だけどフラムは色々な偶然が重なった結果、大和という最高の男に巡り合うことができた。

 もちろんあたしやミーナもそうなんだけど、その偶然のおかげで大和と結婚できるんだから、あたしは毎晩神様に、感謝の祈りを捧げているわ。


 っと、そろそろ上に戻らないと、大和とフラムが帰ってきちゃうわ。

 ミーナも迎えに行くって約束してるんだから、いつまでもハンターズギルドにいるワケにはいかない。

 だけどその前に、3人のウイング・クレストへの加入手続きをしないとね。

 フラムが大和に迎え入れられてるのは確実だし、そうなったら妹のレベッカ、その彼氏のラウスと同じレイドになるのも、当然のことなんだから。


Side・ラウス


 今日の狩りじゃ不覚を取ったけど、なんとかスパイラル・ラビットの討伐に成功した俺達は、ヒーラーズギルドで俺の怪我を治してから、ハンターズギルドに向かうことになった。

 だけどハンターズギルドに着くと、俺達の師匠ともいうべき(ゴールド)ランクハンターの2人に遭遇してしまった。

 師匠相手に遭遇っていうのはどうかと思うけど、俺の心境はまさに遭遇だ。

 なにしろスパイラル・ラビット討伐の話をしたら、ハイフォクシーのプリムさんが、俺の稽古を買って出てくれたんだから。

 どう考えても、スパイラル・ラビットを狩る方が楽だよ……。


 案の定、俺はズタボロにされた。

 レベッカの回復魔法じゃ治せないんじゃないかっていうぐらい、俺の体には無数のアザができてたよ。

 だけどプリムさんはハイ・ヒーリングとブラッド・ヒーリングを同時に使って、俺の体をあっという間に治してしまった。

 またヒーラーズギルドに行くことも考えてたけど、もしかしてプリムさん、普通のヒーラーより回復魔法の腕は上なんじゃないかな?

 本人は苦手って言ってたけど、とてもじゃないけど信じられないよ。


「さて、フラムはどんな顔して帰ってくるかしらねぇ?」


 俺の傷を治してからロビーに戻ったら、プリムさんがそんなことを言い出した。


 プリムさんが俺に稽古をつけてくれた理由は、俺のためだけって訳じゃない。

 プリムさんのパートナーで旦那さんの大和さんに、フラム姉さんが告白するためでもある。

 というかこちらの比重の方が、間違いなく大きい。

 何しろ大和さんは(プラチナ)ランクに昇格したし、驚いたことにエンシェントヒューマンに進化していたんだから。


「満面の笑みで帰ってくると思いますよぉ。そうなると大和さん、私のお義兄(にい)ちゃんになるんですねぇ」


 レベッカも、結果がどうなるのかは分かり切ってると言わんばかりだけど、俺もそう思う。

 事前にプリムさん、ミーナさん、フラム姉さん、レベッカの4人で意思を確認し合って、さらには大和さんの気持ちまで確認済みなんだから、これで断られるなんて、どう考えてもありえない。

 フラム姉さんはシングル・マザーになるとばかり思ってたから、俺としても結婚してくれるのは嬉しいよ。


 だけど俺としてはそっちは確定してるんだから、しっかりと魔銀ミスリルの盾を買ってきてくれるかっていう方が問題だよ。

 俺のアイアン・ラウンドシールドはもう使い物にならないんだから、ないと明日の狩りにはいけないんだ。

 受け流しどうこう以前に、絶対に必要なんだよ。


「お、もう終わってたのか」


 そう思ってたところに、大和さんとフラム姉さんが帰ってきた。

 あ、フラム姉さんが大和さんと腕を組んでるぞ。


「お姉ちゃん、やったんだね?」

「う、うん……」

「おめでとう、お姉ちゃん!」


 照れるフラム姉さんだけど、すごく嬉しそうだ。

 俺も姉さんには幸せになってもらいたかったから、素直に嬉しいな。


「おめでとう、フラム姉さん」


 だから自然と、祝福の言葉が出てきた。


「ありがとう、レベッカ、ラウス」

「お姉ちゃんをよろしくお願いします、大和さん!」

「ああ。レベッカも、これからよろしくな」

「はい!」


 そうだよ、これで大和さんは、レベッカの義理のお兄さんってことになるんだ。

 俺も成人したらレベッカと結婚するつもりだから、そうなったら俺の義兄さんってことにもなる。

 うわ、すげえ!

 エンシェントヒューマンが義理の兄さんになるんだ!


「そういうわけだから、2人もウイング・クレストに加入してもらうぞ。それとラウス、今度は俺も訓練に付き合うからな?」


 しまった、そうなるのか!


 大和さんとフラム姉さんが結婚する以上、姉さんが大和さんのレイド ウイング・クレストに加入することになるのは自然な流れだ。

 そうなると俺達はって話になるんだけど、レベッカはフラム姉さんの実の妹なんだからわかる。

 ということは俺は1人ってことになるから、レイドは解散になってしまう。


 それはそれでマズいし、俺もフラム姉さんやレベッカの関係者だから、それならレイドを合併させようって話なんだろう。

 それはわかるし俺としても嬉しいんだけど、大和さんまで俺の訓練に付き合ってくれるなんて、死ねって言われてるのと同じだよ!

 手加減はしてくれるだろうけど、災害種すら単独討伐できる人が相手なんて、訓練になるかも怪しいよ!


「それはそれだろ。逆に俺達に慣れれば大抵の魔物は対処できるようになるだろうし、ラウスの腕も上がるんだから悪い話じゃない。違うか?」


 違わないけど、その前に俺が死んじゃうよ!


 だけど何を言おうと、もう俺達ウインド・オブ・プラダがウイング・クレストに加入することは決定事項なんだから、俺にはどうすることもできない。


 レイド同士が合併することは珍しくなく、その場合はランクの高いレイドに統合されることになっている。

 これには登録したばかりのハンターを守るという意味合いもあるし、ランクが下のレイド名を名乗るメリットがないことも理由になっているんだ。

 所属しているハンターはレイドの名前に守られていることにもなるから、余程のことがあっても変な輩に狙われることがなくなるのもありがたいよ。

 俺達もフィールに来たその日に、変なレイドに絡まれて大変だったからね。


 俺もウイング・クレストの一員になれることは嬉しいけど、それ以上にどんな訓練が待ってるのかわからなくて怖い。

 だけどレベッカを守れるようになりたいのも間違いないから、頑張るしかない。


 よろしくお願いします、大和さん、プリムさん!

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