召喚獣の進化
Side・真子
報告を受けた時、私はメモリア総合学園で、丁度2年生のヒーラー授業の最中だった。
ルーカス君の3人目の奥さんになったミカルナが、いきなりメモリア総合学園に駆け込んできたから何事かと思ったけど聞けば納得だし、本当に緊急事態だったから私は授業を中断して、すぐに天樹城に向かうことにした。
事前に、今回はエンシェントクラスが少なく、終焉種も複数確認されてるって聞いてたから、レベッカにはフラムを呼びに行ってもらって、ラウス君とキャロルは私に同行してもらう。
特にキャロルはエンシェントヒーラーでもあるから、是非とも来てほしい人材だわ。
天樹城でラインハルト陛下にお会いすると、既に大和君達はソルプレッサに向かっていて、私達にも簡単に状況を伝えてから、すぐに合流するよう指示された。
そして天樹城のトラベリング使用可能区画に移動すると、丁度フラム、レベッカとも合流できたから、事情を説明してから私達はソルプレッサに転移する。
「うわぁ……」
「聞いていた以上ですね……」
「ええ。だけど大和君達が既に戦ってるから、被害が広がることは無いでしょう。私達も行くわよ」
「はいっ!」
私はクレスト・ユニコーンの楓とオーロライト・タイガーの白雪を召喚し、イークイッピングを付与させた鞍を楓に装着させる。
騎獣に鞍を装着させるのは、さりげなく手間がかかる。
だけど鞍にイークイッピングを付与させることで、騎獣も一瞬で鞍を装着できるようになっているわ。
フラムも、最近G-Rランクモンスター キャナル・リノセロスに進化したフロウに、同じように鞍を装着させてから乗り込んでいるわね。
フロウは元々大きいから進化したことを機に、フラムは新しい鞍の製作依頼をクラフターズギルドに出していた。
鞍というより櫓に近いんだけど、フラムは弓術士だから、そっちの方が使い勝手が良いのよ。
それに櫓はそれなりに広いから、4人までなら問題なく乗れるのもいいわね。
「ラウス君達は西側をお願い。無理はしないようにね」
「はい!」
「気を付けますぅ」
「これ以上被害は広げさせません」
ラウス君とレベッカは、キャロルの護衛をしながら怪我人の救助を優先してもらうことにしている。
もちろん3人ともエンシェントクラスだから戦力としても大きいんだけど、ざっと見ただけでもケガを負ったハンターやドラグナーの姿が見えるし、倒れて動かない人もいる。
だからそういった人達を襲っている魔物を優先的に討伐してもらいながら、キャロルに治療をお願いしているの。
私も救助を優先したいんだけど、私は魔導士でフラムは弓術士だから、近接戦には不安が残る。
もちろんその辺の魔物に後れをとるつもりは無いけど、迷宮氾濫に加えて終焉種の襲撃まであるとなると、さすがに遠距離戦闘に特化している私とフラムじゃ厳しい。
だから大和君達の誰かと合流してから、救助作業を行う予定よ。
まあエレメントクラスの大和君、プリム、マナ様は最大かつ主戦力だし、リディアとルディアも進化目前どころか既にエレメントドラゴニュートに進化してる可能性もあるから、私の護衛より魔物の相手をしてもらった方がいい。
だから理想はアテナかルーカス君なんだけど、白雪はオーロライト・タイガーっていう特殊進化した召喚獣でM-Iランクモンスターでもあるから、合流できなくても私とフラムの護衛を任せることは出来る。
「真子さん、私達も!」
「ええ!」
楓とフロウに乗り、白雪を従えた私達は、ラクス君達とは反対になるソルプレッサ連山側に向かった。
迷宮氾濫を起こしたマルドッソ迷宮は、ソルプレッサからは獣車で3日程の距離だけど、魔物なら平均で2日、最速だと1日で到達できる距離だと聞いている。
その上天樹城で聞いた話だと、マルドッソ迷宮から溢れた魔物は、最高でもP-Cランクモンスターだったらしいから、それだけならドラグナーとソルプレッサのハンターだけでも対処は可能だったと思う。
だけどソルプレッサ連山からも魔物が、それも複数の終焉種が下りてきたとなれば、ソルプレッサどころかバレンティア滅亡の危機っていうことになる。
しかも異常種や災害種もけっこうな数がいるみたいだから、ソルプレッサの住人達は逃げることもできない。
むしろ街壁が一部しか壊されておらず、侵入されていないっていう現状が奇跡みたいなものだわ。
とはいっても、ハイクラスを中心としたハンターやドラグナーが必死に魔物達を抑えていたからだし、グランド・ドラグナーズマスター ハルート卿がいたからバレンティアだけじゃなくアミスターへの救援要請も早かったことも大きい。
だから被害は大きいけど、致命的とまではいっていないわ。
「いた!せいっ!」
ソルプレッサ連山側へ向かっていくと、早速巨大な魔物が視界に入った。
って、ドレッドノートじゃないの。
いきなりA-Cランクモンスターと遭遇するとは思わなかったけど、戦っている人達はかなり劣勢を強いられていて、倒れている人も多い。
そのドレッドノートに向かって、フラムは腰のミラー・クイバーからフレアライト・アローを抜き、固有魔法タイダル・ブラスターを纏わせて射た。
日緋色銀の矢に纏わせたタイダル・ブラスターは、魔力のみで作られた矢より威力が増しているため、ドレッドノートの身体も容易に貫くことができる。
その上で体内から雷属性魔法を浴びせられるから、ドレッドノートの身体が大きくとも与えられるダメージは大きい。
「白雪、行って!」
「ガオオオオオオオンッ!!」
そのドレッドノートに、白雪が氷属性魔法と雷属性魔法を纏い、さらに私も風属性魔法も重ねて突っ込ませる。
砲弾みたいな速度でドレッドノートに激突した白雪は、氷属性魔法、雷属性魔法、風属性魔法牙と爪にも纏わせ、ドレッドノートの長い首に噛み付くと、前足を上手く使いながら骨を折った。
うん、白雪との固有魔法オーロライト・ディスチャージ、上手くいったわね。
私が召喚獣と契約した最大の理由は、私が魔法なり刻印術なりを使っている間の護衛としてだから、召喚獣の魔法を組み込んだ固有魔法は作ってなかったし、それ以前にそのことを忘れてたのよ。
だけど召喚獣の魔法を組み込んだ固有魔法は、召喚魔法士個人で使うより精度も強度も格段に増すから、使いこなすことができればかなり強い。
だからまずは、固有魔法フィールド・コスモスに白雪と楓の魔法を組み込んで結界を強固にすることから始めて、それから白雪のオーロライト・ディスチャージと楓のヘブンリー・フェザーを開発したの。
あ、楓のヘブンリー・フェザーっていう固有魔法は、楓の火属性魔法に私の風属性魔法を加えて、炎と風の翼を作り出す魔法のことよ。
プリムの極炎の翼に似ているけど強化魔法じゃないから、楓の身体能力を強化する効果は無い。
だけどこのヘブンリー・フェザーのおかげで、楓は自在に空を飛べるようになったから、私と一緒に行動できる範囲も大きく広がったし、炎を纏って攻撃することもできるようになっているから、楓は大喜びしているわ。
そのせいか分からないけど、楓はG-Iランクモンスター クレスト・ユニコーンに進化したから。
マナ様のスピカも、ヘブンリー・フェザーを使えるようになってから同じく進化したから、無関係とは言い辛いのよね。
ミーナのブリーズはまだだけど、固有魔法ヘブンリー・フェザーに加えて私もマナ様もエレメントクラスだから、それが理由だと思うけど。
ちなみにクレスト・ユニコーンは、三日月状の角を持つ白馬っていう見た目なんだけど、その三日月状の角に魔法を纏わせて巨大な刃にすることも出来るし、前足の蹄の間から3本の爪を生やしてからの攻撃も強いわよ。
なんでクレスト・ユニコーンの話をしたのかと言うと、目の前にそのクレスト・ユニコーンに跨ったマナ様がいたから。
同じく進化した召喚獣達、P-Iランクモンスターのレインボーライト ルナと、同じくP-Iランクモンスターのアイスバーグ・スワン シリウス、そしてクレスト・ユニコーン スピカの魔法を使った固有魔法スターリング・ディバイダーで、丁度M-Iランクモンスター ティタノケラトプスを両断していたところね。
グランド・ドラグナーズマスターもいるし、これは都合が良いわ。
「マナ様!」
「え?あ、真子。フラムも。来てくれたのね」
「はい、ミカルナが学園まで来てくれたので。ラウス君達もいます。それより今って、どういう状況なんですか?」
「来援、感謝する。現状は……」
マナ様とグランド・ドラグナーズマスターの説明によれば、テスカトリポカは既に大和君が倒してるらしい。
だけどもう1匹の終焉種タナトスは、群れないはずのアロサウルス種を率いているため、近付くことすら容易じゃないんだとか。
その群れにはティラノサウルスやアルパガスどころか、他のサウルスの異常種災害種までいるらしいから、エンシェントクラスでも少数で相手をするのは躊躇われるわね。
ところがグランド・ドラグナーズマスターが言うには、さらに厄介な話になっているようだった。
「え?2匹いるんですか?」
「最低でも、という注釈が付くが、それは間違いないらしい」
「ついさっきの報告だと、3匹いる可能性も捨てがたいらしいわ」
「そんな……。タナトスが3匹もなんて……」
フラムの表情に怯えが浮かんだけど、それも無理もないわ。
終焉種の複数襲撃はコバルディア事変でもあったけど、その終焉種はウロボロス、フェニックス、スレイプニルと全て別種だった。
だけど今回は、タナトスという同一種。
しかもアロサウルスはSランクモンスターだけど、1つ上のGランクに匹敵どころか凌駕する個体が非常に多い種でもあるから、モンスターズランクで判断すると痛い目を見る魔物の筆頭でもある。
同じ終焉種でも、通常種のモンスターズランクが比較対象になるんだけど、それだけで判断したら私達エレメントクラスでも、命がいくつあっても足りないでしょう。
しかもタナトスは、恐ろしいことに全高約50メートル、全長は100メートル近くあるらしいから、本当に昔見た特撮映画の怪獣そのものでしかない。
そんな巨体なのに、なんで数が特定できていないのか、それは非常に簡単な理由で、タナトスは立っている個体と横たわっている個体が確認されているから。
アルパガスの全高は約30メートル、全長は50メートルから60メートルぐらいだから、遠目でもハイクラスなら判別は難しくないんだけど、さすがにそんなのが群れてたりしたら、確認するのも命懸けになる。
だから特定できてないってことらしいわ。
「変に断定されるより、よっぽどいいわよ。だけどそんなにいるんなら、刻印神器で一気に殲滅した方が楽そうね。もっともタナトスだけでそんなにいるなら、他にもいないって断言できないけど」
「ええ、大和もそう考えて、今はプリムやアテナ、リディア、ルディアと一緒に、ソルプレッサ連山近くの魔物の掃討を優先しているわ」
「タナトスやテスカトリポカ以外の終焉種がいたとしても、プリムローズ夫人やアテナ夫人と共に行動していれば、対処は可能だと判断していた」
リディアとルディアもエレメントドラゴニュートに進化できたそうだから、Sランク基準の終焉種なら、不意を突かれない限りは対処可能でしょうね。
問題なのはGランクやPランク基準の終焉種だけど、そのランク基準だと巨体と言っても過言じゃない個体ばかりだから、姿を視認するのは難しくない。
もちろん、テスカトリポカみたいに姿を消せる魔物もいるから、油断は禁物ね。
「それじゃあマナ様、私とフラムも、大和君達と合流しますか?」
「いえ、私も行くわ。ラウス達も来てくれたんならルーカスに合流してもらって、ソルプレッサの外周を任せることができるから」
「私は全体の指揮を執らねばならんため、テミス共々この場を動けない。すまないが頼む」
「お任せください」
グランド・ドラグナーズマスターの奥方の1人であるテミス夫人は、物静かな方だから一言も喋らなかったけど、ずっとこの場にいたわよ。
去年ドラゴニアンの女の子を出産してから、ハイドラゴニアンに進化されているわ。
だから完全竜化されれば、エンシェントクラスに匹敵する戦力になるのは間違いないんだけど、全体指揮を執られるグランド・ドラグナーズマスターの護衛も兼ねているから、動くことは出来ない。
ラウス君達を連れて、本当に正解だったわね。
懸念事項もあるけど、今はソルプレッサの防衛に全力を注ぎましょう。
そのためにも大和君と合流して、刻印神器の生成を急がないと。




