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双子島の迷宮

Side・真子


 小島の迷宮ダンジョン第1階層は、この迷宮ダンジョンのある小島より少し狭いぐらいしかなかったみたいで、1時間ぐらいで踏破することが出来た。

 見晴らしも良かったからマッピングも7割ぐらいは埋まってるし、生息している魔物も(ティン)ランクモンスターのみだったから、第1階層はこれで十分でしょう。

 そして第2階層だけど、ここも第1階層と同じような平原階層だった。

 違いがあるとすれば、山が少し低くなってるように感じられて、森も見えることかしらね。


「第1階層と似たような感じだし、これは深いかもしれないわね」

「だなぁ。早めに攻略したいが、時間が掛かりそうだ」

「浅い階層はモンスターズランクも低いでしょうから、少数でも調査はできます。暇を見て進めてみますね」

「あ、ボクも手伝うよ」


 プリムと大和君のセリフに、リディアとアテナが調査に立候補してくれた。

 見ればルディアも頷いてるわね。

 プリムやマナ様、フラムは子供の世話だけじゃなく領地関係の仕事もあるから、時間は取りにくい。

 この場にいないミーナは、妊娠中だから論外。

 私はマタニティヒーラーとしての勉強や出産依頼を受けることがあるし、メモリア総合学園の非常勤講師でもあるから、頻繁に調査に来るのは無理。

 大和君に至ってはヒルデ様やユーリ様の補佐だけじゃなく、フレイドランシア天爵領開発の陣頭指揮まで執らないといけないんだから、動けるワケがない。

 だから比較的時間が取りやすいリディアとアテナ、そしてルディアが名乗りを上げてくれたんだけど、3人ともエンシェントクラスってことに加えてまだ妊娠してるような兆候も見られないし、何よりリディアとルディアはレベル99になってるから、低階層どころか深層でも早々遅れをとるようなことは無いでしょう。


「うん、悪いけど、しばらく調査は3人に任せることになりそうね」

「そうね。まあ今までの傾向から考えると、3人なら第20階層どころか第30階層近くでも問題無いかもしれない。でもこの迷宮ダンジョン、多分だけど生まれたのは最近でしょうから、クラテル迷宮みたいな構成っていう可能性もあり得るわ」

「だな。多分3人に頼むことになると思うけど、油断だけはしないでくれよ?」

「分かってるって」


 時間を取りやすい3人が調査をしてくれるのはありがたいけど、私も時間が出来るような同行するようにしておこう。

 浅い階層ならエンシェントクラスの3人が後れを取ることはあり得ないけど、それでも何が起こるかわからないのが迷宮ダンジョンだからね。

 実際イスタント迷宮には、外だか他の迷宮ダンジョンだかから魔物を呼び寄せるモンスターズ・トラップがあるんだから。

 問題のイスタント迷宮第3階層は、(ブロンズ)ランクから(シルバー)ランクの魔物が生息しているばかりか、数は少ないけど(ゴールド)ランクモンスターと遭遇することもある。

 ところがそのモンスターズ・トラップに引っ掛かってしまうと、(ゴールド)ランクどころか(プラチナ)ランク、それも異常種や災害種までもが多数出てきてしまうの。

 (プラチナ)(イレギュラー)ランクや(プラチナ)(カタストロフ)ランクでも、ハイクラス数人掛かりなら倒せはするんだけど、その魔物が複数ってことになると厳しいし、レイドやユニオン単位で行動してるならノーマルクラスだって同行してるでしょうから、選択肢としては逃げる一択だわ。

 更に厄介なことにそのモンスターズ・トラップで呼び出された魔物達は、その後も場に残るの。

 だからイスタント迷宮第3階層は、モンスターズ・トラップが作動しているかどうかで難易度が大きく変わるわね。

 イスタント迷宮には生息していないドレイク種やサウルス種を狩れるから、狩り尽くせる自信があるならわざと作動させる人達もいるし、私達もやったことあるんだけどさ。


 モンスターズ・トラップは、規模や呼び出す魔物のランクに差があるけど、基本どこの迷宮にも存在している。

 だからこの迷宮ダンジョンにも存在しているのは、ほとんど確実。

 設置してる階層に生息している魔物より強力な魔物が呼び出されることは確定しているから、階層によってはエンシェントクラスでも油断できない魔物が出てくる可能性も十分あり得る凶悪な罠よ。


 そのまま先に進んでいると魔物が視界に入ってくるけど、ブリンク種やスライムといった(ティン)ランクモンスターばかりだった。


「ここも(ティン)ランクモンスターオンリーか」

「全部見たワケじゃないけど、そうっぽいわねぇ」

「この分だと、第3階層も確認しといた方がいいのかしら?」

「微妙なとこだなぁ。踏破するだけなら1時間もかからないだろうけど、そもそもここに迷宮ダンジョンがあって、しかも中に入ることは予定外だからな」


 それよね。

 だけど今日この島に来た目的は調査だから、少し時間をとっても第3階層までは確認しといた方がよくないかしら?

 普通なら第2階層まででも良かったんだけど、第1階層と第2階層の構成が、魔物も含めてほとんど同一となると、この迷宮ダンジョンは同階層が続くこと、第1階層に生息しているのは(ティン)ランクモンスターのみということから、かなり深いと予想される。

 だから少しでも情報を得るためには、第3階層まで足を運んだ方がいいかもしれない。

 もちろん第2階層も来たばかりだから、調査はしないといけないけど。

 同じような階層でも、魔物がガラッと変わることは珍しくないんだから。


「あ、いや。やっぱり今日やめておこう。真っ直ぐ迷宮ダンジョンに来たから島の調査そのものができてないし、何より双子島のもう1つの方は上陸すらしてないんだからな」


 だけど大和君は、迷宮ダンジョンより島の調査の方を優先することを決めた。

 迷宮ダンジョンの傾向を加味した上で判断してるみたいだし、さりげなく名付けられた双子島の調査をするために私達は来たんだから、今日は予定通り島の調査を優先したいってことみたいね。


「いいの?」

「ああ。気にはなるけど、島の様子も見ておかないとだからな。こいつがいつ生まれたのかは分からないけど、もし生まれがかなり昔で、実は迷宮氾濫(スタンピード)迷宮放逐(イクスペルド)を起こしてましたなんてことになってたら、開発そのものができないだろ?」

「ああ、確かに」


 それは確かに、大和君の言う通りね。

 オルデン島は全くと言っていいほど手付かずの無人島だったから、この迷宮ダンジョンがいつ生まれたのか誰も知らない。

 だけどこの迷宮ダンジョンに入ったのは私達が初めてなのは間違いないから、もし生まれたのが何十年も昔だった場合、既に迷宮放逐(イクスペルド)迷宮氾濫(スタンピード)を起こしてたとしても不思議じゃない。

 だから迷宮ダンジョン内の様子より、島の状況がどうなっているのかを調べる方が優先度が高いわね。


 その後1時間程探索した私達は、大和君のエスケーピングを使って外に出ることにした。

 運良く階動陣も見つかったから、第3階層も確認できたしね。


「渓谷階層か。こりゃ魔物には期待できないか」

「まあ、第1第2階層と大差ないでしょうからね」

(アイアン)ランクモンスターが出てくるかどうかってとこだよね」


 大和君やリディア、ルディアが口にしたように、渓谷階層に生息している魔物は草原階層や山岳階層の魔物と大差なかったりする。

 迷宮ダンジョンによっては第5階層ぐらいまでは(ティン)ランクモンスターしか出てこないとこもあるらしいから、生息している魔物によってはルーキー・ハンターすらいないことも珍しくないわ。

 ブリンク種や小魚系のベイト、それからダックっていうアヒルみたいな魔物は食べられるから、見敵必殺って感じで狩られてるけど。


「この階層も気になるけど、今日はここまでだな」

「ここだけ調査っていうワケにはいかないしね。まあ、この迷宮ダンジョンの調査は、時間がある時にでもやっておくわ」

「ですね」

「調査は俺もしたいんだけどなぁ」

「無理でしょ」


 まあねぇ。

 開発が始まったら、大和君は今まで以上に時間が取りにくくなる。

 そればかりか陣頭指揮だって執る必要もあるだろうから、気軽に狩りに行くこともできなくなるでしょう。

 だからこそプリムやリディアが調査に名乗りを上げてくれてるんだけど、大和君としては自分も行きたい。

 状況が許せば行けるだろうけど、それは本当に状況次第ね。

 だけどここの迷宮ダンジョンだけじゃなく、ガグン迷宮も攻略しておいた方がいいから、今年は下準備だけ済ませて、開発は来年の春頃から始めてもいいかもしれない。

 あ、春か夏にはアバリシアへの進攻が予定されてるから、それも厳しいか。

 どうしたもんかしらね。


「開発って、別にすぐ始めなくてもいいんだよね?」

「ああ。そもそもの話、調査を終わらせないと開発もなにもないからな。狭いとはいえ島が3つだし、生息してる魔物のランクも高いから、調査はしっかりとしないといけない」


 開発に関しては、領主予定の大和君次第ってことで、ある程度の融通は利く。

 だけどフレイドランシア天爵領開発の話は既に広まっているし、大和君は秋ぐらいから開発を始めたいと考えて、既にグランド・クラフターズマスターやグランド・トレーダーズマスターに話を持って行っている。

 だからクラフターズギルドやトレーダーズギルドも、それを見越して資材の発注や職人の派遣予定を立てているぐらいよ。

 だから開発は、遅くても10月ぐらいから始めないと、生活に困るクラフターやトレーダーが出てくることになるわ。


「その前にこことガグン迷宮を攻略しときたいんだが、さすがに両方は無理だしなぁ」

「まあ、攻略するとしても、どっちかよね」


 もう8月も半分近く過ぎてるし、どっちの迷宮ダンジョンも深いだろうから、下手したら攻略に1ヶ月近くかかる可能性がある。

 ただガグン迷宮は、確か18か19階層ぐらいまでは攻略済みだから、攻略するだけならガグン迷宮の方が早いでしょう。

 だけどこの迷宮ダンジョンはフレイドランシア天爵領内にあるから、大和君としてはこっちを優先したいはず。

 ただこの迷宮ダンジョンは発見されたばかりだから、階層構成はもちろん危険度も分からない。

 だから優先するとしたら、数年前に迷宮氾濫(スタンピード)を起こしているガグン迷宮の方になる。

 ガグン迷宮があるのはヴァルト獣公国っていうのも、大和君には理由になるわね。


「予定はなんとかするとして、攻略するならガグン迷宮が優先かな」

迷宮氾濫(スタンピード)の内容が内容だからそれは分かるけど、本当にそっちを優先していいの?」

「ああ。あと数年は大丈夫だろうけど、場所が場所だからな。本当はもっと早く攻略する予定だったけど、なかなか時間が取れず今の今まで手付かずだったんだ。だから優先すべきは、ガグン迷宮の方だと思う」

「ありがと、大和」


 少し頬を染めてお礼の言葉を口にするプリム。

 プリムは立太子こそしてないけどヴァルト獣公継承権第一位という肩書があり、現獣公のネージュ陛下とは従姉妹関係になる。

 そのネージュ陛下も大和君の子を妊娠中だから、大和君にとってガグン迷宮は早めに攻略したい迷宮ダンジョンね。

 この迷宮ダンジョンも早く攻略したいでしょうけど、大和君はプリムとネージュ陛下のことを考えて、ガグン迷宮の攻略を優先することに決めた。

 気持ちも理由も理解できるから、私達も賛成だわ。


「あっ!大和、あれ見て!」

「あれ?お、ホーン・ラビットか」


 ルディアが指した方向に視線を送ると、角の生えた兎が見えた。

 確かにあれは(アイアン)(ノーマル)ランクモンスター ホーン・ラビットね。

 フィール周辺にも生息してるから、見慣れてる魔物だわ。


「第3階層から(アイアン)ランクが出てくるってことか」

「だね」

「当然(ティン)ランクもいるだろうけど、(アイアン)ランクも生息しているとなると、難易度は思ったより高くないかもしれないわね」

「まだ浅い階層だから何とも言えないけど、あり得るな」


 難易度については、確かにまだ何とも言えないところね。

 だけど第3階層で(アイアン)ランクモンスターが出てくるってことは、もしかしたらこの迷宮ダンジョンは30階層もないかもしれないっていう推測は成り立つ。

 もちろん絶対じゃないけど、他の迷宮ダンジョンと比較すると、おそらく20~25階層ぐらいじゃないかしら?

 この迷宮ダンジョンが生まれた時期が分からないから、クラテル迷宮みたいな例外っていう可能性も否定できないけど。

 何にしても、調査をしてみないことには始まらない。

 私も時間が取れるようなら、プリム達と一緒に調査に来るようにしておこう。

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