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人手不足解消手段

Side・真子


 大和君達とブライン山脈の調査を行った結果、やっぱりトンネルは無理という結論になり、逆に街道とオルデン島までの間の山脈は一番細いというか、幅が狭いことが分かった。

 街道はエモシオンから真っ直ぐ北に伸びてエスメラルダ天爵領に繋がっているから、この街道を使うのは既定路線。

 だけど切り崩したとしても、山脈の狭いところを使う場合は街道が入り組むかもしれず、逆に最短距離を繋ぐ場合は切り崩す範囲が広くなる可能性があったから、今回の結果は都合がいい。

 その結果を報告したところ、ラインハルト陛下からも許可が下りたから、私達は今日、天樹製多機能獣車に飛空艇を接続させ、ブライン山脈を分断するためにブライン山脈にやってきた。


「それじゃあ真子さん」

「ええ」


 早速大和君と二心融合術を行い、聖剣クラウ・ソラスと聖翼アガート・ラムを生成する。

 今回はコバルディア程の範囲じゃないけど、それでも結構な範囲を覆うことになるし、しかも全てを完全に吹き飛ばすワケにもいかないから、制御に関してはあの時以上に大変だわ。

 文字通り切り立った山肌なんかにしちゃったら、問題が起きるでしょうから、制御はしっかりとしないといけないわ。

 魔物や盗賊は襲ってきにくくなるかもしれないけど、空を飛ぶ魔物や地面に潜れる魔物相手には意味がないし、その場合は逆に逃げ道が無くなるかもしれないしね。


「クラウ・ソラス、アガート・ラム。打ち合わせ通りに頼むぞ」

「心得ている」

「初の試みではある故、主達も制御を頼むぞ」

「もちろん」


 クラウ・ソラスとアガート・ラムにとっても、神話級術式を使っての整地は初めてか。

 まあ普通は考えないだろうし、分からない話でもないわね。

 地球でも、そんな話は聞いたことないもの。

 飛鳥君の聖剣カラドボルグが山頂を三つ同時に斬ったっていう逸話はあるけど、あれは整地とか工事とかじゃないしね。

 それに今回使う神話級術式トゥアハー・デ・ダナンは戦略級術式に分類されていて、確かTNT換算で少なく見積もっても1ギガトンはありそうだっていう話だから、威力や範囲は私達もしっかりと制御しておかないと必要以上に環境破壊をしてしまうし、下手したら新しい湖が出来たどころかナダル海と繋がったなんてことにもなりかねないわ。

 神話級とはいえ刻印術だから、範囲外には被害を及ぼさないのが救いかしらね。


「では陛下、申し訳ありませんがお願いします」

「分かった」


 クラウ・ソラスとアガート・ラム最大の神話級戦略型広域干渉対象系術式トゥアハー・デ・ダナンは、不用意に使わないように封印を掛けている。

 使えばフィリアス大陸最大の都市であるフロートでさえ、多分天樹ごと消滅させることが可能だと思われるトゥアハー・デ・ダナンをいつでも使える状態にしていたら、人々の不安や疑心はとんでもないことになるでしょうし、下手したら私と大和君を排除するために動いてしまう可能性も否定できない。

 それを心配して、クラウ・ソラスとアガート・ラムがラインハルト陛下に進言し、天帝家の魔力を鍵にすることで普段は使用できないよう、自らの手で普段は使えないよう封印までしてくれたわ。


 その封印を解くために、ラインハルト陛下も同行してくださっている。

 どうやって天帝家の魔力を判断するのかは分からないけど、クラウ・ソラスとアガート・ラムが大丈夫だって言ってるんだから、それは大丈夫なんでしょう。


「これでいいのか?」

「封印は解けた」

「感謝する、天帝よ」


 無事に封印は解けたか。

 特に何かが変わったワケじゃないけど、本人達も解けたって言ってるんだから、これでトゥアハー・デ・ダナンが使えるようになったわね。

 それじゃあ改めて地形を確認してから、トゥアハー・デ・ダナンを使いましょうか。


「アガート・ラム、実際の地形を見るのは初めてだと思うけど、どう?」

「問題ない。既に補足は完了している」

「クラウ・ソラスはどうだ?」

「こちらも問題は無い。だが我では、細かな調整は出来ぬ。そこはアガート・ラムに任せることになろう」

「前から言ってたな。アガート・ラムは複数属性特化型のスピリチュア・ヘキサ・ディッパーが元だから、マルチコアを継承してる。それもあって処理能力は、アガート・ラムの方が上だって」

「然り」


 クラウ・ソラスもアガート・ラムも刻印神器だから、どちらが上とかそういったことはないんだけど、こと処理能力に関しては大和君の言った通り、アガート・ラムの方が上になる。

 これは刻印神器の性能じゃなく、元になった刻印法具の特性が影響しているの。

 アガート・ラムと同じくマルチコアを持つ刻印神器に聖杯カリスがあるけど、これも生成者である先輩が私と同じ複数属性特化型の生成者だからになるわ。

 だけどアガート・ラムもカリスも、どちらも戦闘用、いわゆる武器じゃないから、純粋な攻撃力は対になっているクラウ・ソラスや聖剣エクスカリバーより劣っている。

 だからクラウ・ソラスとアガート・ラム、エクスカリバーとカリスは、攻撃力と処理能力で差別化できてるってことになるかしらね。


「それじゃあ最後の打ち合わせだ。っと地図地図」

「はい、どうぞ」

「サンキュー、マナ」


 マナ様から地図を受け取った大和君が、最後の確認に入る。

 地図に書き込まれた印は、これから私達が切り崩す箇所。

 距離にして、東西に3キロ弱ってところかしらね。

 その地点は広めの渓谷っていう感じで整地する予定だから、南北間も500メートルぐらい空けておく。

 だけどそれだけじゃ切り立った崖になるだけだし、崖崩れとかも起きやすくなるから、山肌は緩やかな斜面にしておいてから、天樹魔法でブライン山脈の木の植樹をハンターズギルドやトレーダーズギルドに依頼する予定よ。

 何年かすれば森になり、崖崩れなんかも起きにくくなるでしょうから、街道の安全にもつながるわ。

 同時に魔物の棲み処にもなるでしょうから、完全に安全になるワケじゃないけど。


「なかなかに難儀な話よな」

「うむ」

「大変なのはわかるけど、私達の修練にもなるし、慣れればあなた達も使いやすくなるからね」

「マハ・ジャルグやディアン・ケヒトでも、気軽には使えないからな。素材的な意味もあるが、環境破壊的な意味でも」

「今の主達では、普通に戦うだけでも地形を変えてしまう」

「それに加えて我らまで使えば、更なる問題を起こしかねんか」


 全くもってその通りよ。

 特にコバルディア跡地なんて、力加減を誤ったことでオルカ湾とサベル湖が繋がっちゃったしね。

 そのせいでサベル湖という湖は消滅し、大きくなったオルカ湾もバリエナ湾と名を変えたぐらいよ。

 幸いというかコバルディアは完全に消滅させる必要があったし、多くの魔族が暮らしていた跡地を開発っていうのは心情的にやり辛いから、結果オーライになったんだけど。

 更に狩りに刻印神器を使うとしても、高すぎる攻撃力のせいで素材の価値が下がってしまう事も多々あった。

 だから私達としては、なるべく早く刻印神器の力を制御できるようになりたいんだけど、そのためには刻印神器を使うしかない。

 そのためには高ランクの魔物を相手にする必要があるんだけど、地上だと終焉種でも相手にしない限りは刻印神器の生成はしないから、手っ取り早い方法となると迷宮ダンジョンの深層に赴くことになる。

 不必要に生成するつもりはないけど、刻印神器には意思があるんだから、できれば生成する頻度は上げてあげたいし、武器なんだから狩りにも使ってあげたい。

 まあクラウ・ソラスは酒飲みでもあるから、数日おきに生成してはいるんだけどさ。


「多少であれば、やり過ぎてしまってもリカバリーは可能だろう。場合によっては、新しい村なり町なりを作ってもいいのだからな」

「それもありですけど、ユーリが卒業したらエスメラルダ天爵領に新しい村を作る予定もありますから、人手が足りなくなりませんか?」


 確かに大和君の言う通り、その予定はあるわね。

 場所はフィール、プラダ、エモシオンへ通じている街道の交差点で、宿場町にする計画が上がっているわ。

 騎獣を使えばいずれの町まででも1日で行けるけど、徒歩だと場合によっては道中で野営することもあるし、エモシオンーフィール間はプラダで1泊っていうのが定番になる。

 だけど今のプラダは港町として栄えていて、常にハンターやトレーダーで賑わうようになった。

 それもあって宿が足りず、ハンターは港や郊外に設けられている野営地で野営している人も多い。

 宿屋は依頼を受けたクラフターズギルドが建設してはいるけど、必要な施設は他にもあるから、解消されるのはかなり先になるでしょう。

 だから街道の交差点に宿場町を作り、プラダへ向かう人を減らそうってことになったんだけど、人手不足に加えて領主のユーリ様は総合学園の学生だから、なかなか思うように進んでいないのよね。

 まあエモシオン―フィール間を移動するハンターやトレーダーが対象だし、そこまで該当人数は多くないから、農場や牧場なんかも併設する計画になってるけど。


「その話は聞いている。確かに人手は足りなくなるだろうが、その問題は放棄された橋上都市の解体を行った後、住民を移住させることで補おうと考えているんだ」


 ああ、放棄された橋上都市の解体も、確かに始まってたわね。

 ソレムネの蒸気戦列艦の艦砲射撃を受け、再建不可能になった橋上都市は多い。

 だから放棄され、解体されることも決まっているんだけど、故郷から離れたくないという住民が都市ごとに100人単位でいて、今もそこで生活をしていたりする。

 解体するにも時間と費用が掛かるし、住民感情も考えて黙認することにしていたんだけど、その橋上都市が盗賊や旧ソレムネ兵の隠れ家になってしまい、リベルター地方の治安悪化の一因になってしまった。

 都市の住民を武力で脅して慰み者にしたり、行商に訪れていたトレーダーを殺して物資を奪ったりっていうのはよく聞く話で、ひどいところだと落ち延びた旧ソレムネ兵が住民全員を不法奴隷に落とし、自分達の思うままにしていたこともあったわ。

 さすがにここまでの事態になってしまったら黙認を続けることも出来ず、橋公国以外の橋上都市は全て解体が決まり、住民も立ち退きを命じられることになったの。

 もちろん財産は持ち出せるし、立ち退き料も支払われるんだけど、それでもゴネてる住民は多い。

 だけど問題が問題だから、ソレムネに最も近い橋上都市から強制立ち退きと解体が進められているわ。

 住民の受け入れは近隣の橋上都市にお願いしてるけど、開発中の町や村もあるから、希望すればそこに行ってもらうことも可能。

 ラインハルト陛下は、その橋上都市の元住民達を使ってみたらどうかってお考えか。


「それはアリだと思いますけど、感情的な面で問題になりませんか?」

「そうでもない。ゴネているのは年寄りだけで、人数は若者の方が圧倒的に多い。そもそも若者が残っていたのは、ゴネた身内を放っておく訳にはいかなかったからで、本音ではさっさと別の橋上都市なり開拓地なりに行きたかったと聞いている」


 ああ、ゴネてた一部の住民って、お年寄りだったのね。

 地球でもその手の話は多いけど、一概に住民が悪いワケじゃなかったはずだわ。

 ダム建設のせいで故郷の村を放棄しなきゃいけなかったとか、そんな理由もあったし。

 だけど今回の場合は、治安の悪化に加えて本人達も多大な被害を被っているんだから、私としてはなんでそこまで強固に反対しているのかが分からない。


「そのゴネていた理由も、立ち退き料の釣り上げに移住先での住居を含む生活の世話といった要求を通そうとしていただけだったようだ。無論全て突っぱね、立ち退き料も規定額のままで、後は財産を纏めた上で放り出したが」


 どんな理由があるのかと思ったけど、あまりにも俗物過ぎる理由で溜息しか出ない。

 家族はとっとと橋上都市を出たかったっていうのに、そんな理由で留め置いて、心身ともに大きな被害を与えてたなんて、人として終わってる話じゃないの。

 家族からも見捨てられるんじゃないかしら?

 知ったことじゃないけどさ。

 ゴネてた人全員が全員、そんな強欲な人達じゃないそうだけど、そんな年寄りが多かったのも間違いないらしい。

 老害っていう言葉がピッタリね。


 まあそんな人が多かったからこそ、担当者も大きな罪悪感を抱くことなく作業を進められてるそうだし、数年後には橋公国の首都となっている橋上都市以外は全て解体されるでしょう。

 元住民をどうするかっていう問題はあるけど、それこそ陛下が仰ったように開拓地に送るっていう手もあるから、人手不足解消に一役買ってくれるはず。

 うん、フレイドランシア天爵領の開発は、このブライン山脈の分断から始まると言えるから、早速人を回してもらえるかもしれない。

 大和君が正式に拝領するのはもう少し先になると思うけど、それまでにある程度形にはできそうだわ。

 オルデン島に連なっている2つの小島のうち大きい方は総合学園を建設する予定だし、小さいながらも町にする予定でもあるからね。

 人手を確保できるんなら、開発も予想より早く進みそうだから、私達も動きやすくなる。

 大変になるけど、頑張るとしましょうか。

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