ダンジョンランク
守護者アース・シェイカーは100メートル近い高さまでジャンプできる脚力を有し、着地時に周囲の地面を揺らしてくる厄介な魔物だが、フライングやスカファルディングを使った戦闘が一般的になっている今では、P-Cランクモンスターといえどさほど難敵という訳じゃない。
実際レックスさんがあっさり倒して、バリエ迷宮の攻略は完了したからな。
バリエ迷宮は30階層近くある高階層高難易度迷宮だと思ってたんだが、蓋を開けてみればまさかの全18階層かつ守護者もP-Cランクと、難易度は予想より数段下の迷宮だった。
だけど同じく予想外だったのは、最深層になる第18階層は坑道階層だったために多くのパペット種が生息していて、しかもオリハルコン系や宝石系もいたことだ。
これはフォールハイト伯爵領の資金源としては十分だし、もしかしたらバリエ山脈のどこかに宝石の鉱脈があるかもしれないから、調査も必須だ。
まあ実際に調査するとしても、正式にフォールハイト伯爵家に下賜されてから、フォールハイト伯爵家が主導で行うことになるんだが。
あとバリエ迷宮のあるバリエ山脈一帯はフォールハイト伯爵領になる予定だから、迷宮核はレックスさんに献上してもらうことにしている。
迷宮攻略の報告だが、バリエ山脈一帯どころか旧レティセンシア地方には人里すらないから、フロートのハンターズギルド総本部で行うことになっている。
思ったより浅く、それでいて最深層がある意味宝の山だってことはグランド・ハンターズマスターにとっても予想外だったが、ハンターズギルドにとっても資金源になり得るってこともあって、バリエ迷宮が正式に開放された場合は、最優先でハンターズギルドの支部を建設すると言っていた。
そしてその時に、ダンジョンランクなる迷宮の格付けが今月末に公表され、施行されることも教えてもらった。
「ダンジョンランクは迷宮の危険度や生息している魔物の分布、採れる素材や環境などを総合的に判断し、10段階で下された評価の事じゃ」
ということらしい。
俺達は今、バリエ迷宮の買取査定を行っている間、ランクアップ手続きを行うためにマスターズルームにやってきている。
だがダンジョンの位階付けをしてみたらどうかっていう話を振ってみたら、既に実用化一歩手前だったことに驚いた。
ダンジョンランクはギルドランクと同じで、T→I→C→B→S→G→P→M→A→Oとなり、未攻略の場合はサブランクとしてNが付く。
ハンターズギルドが把握している情報を全て集めて精査した結果、現存している全ての迷宮の格付けも終わったそうで、後は施行を待つばかりなんだそうだ。
ちなみに俺達が攻略したソルプレッサ迷宮とイスタント迷宮はMランク、クラテル迷宮はOランクになったらしい。
判断基準としては、ソルプレッサ迷宮とイスタント迷宮は守護者がAランクではあるが階層が少ないこと、迷宮内の環境変化が乏しいこと、エンシェントクラスなら深層到達も短時間で済み、さらに高ランクモンスター素材の入手も難しくないことから、Aランクには届かないと判断されたと教えてもらった。
ソルプレッサ迷宮とイスタント迷宮はAランクダンジョンになるかと思ってたが、フェルサ迷宮みたいに高階層高難易度迷宮もあるし、そっちの方が難易度が高いのも間違いないから、言われてみれば納得だ。
逆にクラテル迷宮は、階層ごとの環境に生息している魔物、極めつけは守護者と、全てにおいて他の迷宮とは一線を画してることから、満場一致でOランクになったんだと。
「未攻略迷宮は情報が不足しておることもあるからの、新しい情報が手に入り次第ランクも更新されていくじゃろう」
「それはそうですね」
「私達も、余裕があれば調査はしてみようと思っています」
未攻略の迷宮は、守護者どころか階層数すら判明していないことが多い。
だから現在のランクは、現時点で判明してる情報から判断して付けられた仮のランクでもある。
だからこそ未攻略を示すサブランクが付けられている訳だ。
例を挙げるとガグン迷宮がG-Nランク、エニグマ迷宮がP-Nランクだな。
「資料を拝見させて頂きましたが、これだけの数の迷宮をランク付けするとなると、ハンターズギルドにとっても相当なお時間が掛かったのではありませんか?」
「仰る通り、ここまで纏めるのに、1年程掛かりましたな。未攻略迷宮は無論の事、攻略済みであっても新情報が出ることもあります。その確認や検証が大変でしたぞ」
呵々大笑するグランド・ハンターズマスターだが、確かにそれは大変だよな。
特に深層の確認や検証なんて、エンシェントハンターがいないとどうにもならないことだって少なくない。
そうなると当然依頼ってことになるんだが、報酬だけで数十万から数百万エルが飛んでいくことになるから、レベル的にも金銭的にも時間的にも、むしろよく1年で纏められたと思う。
ちなみに10段階評価のダンジョンランクだが、今のところ一番下のTランクダンジョンは存在していない。
確かフロート迷宮がCランクダンジョンっていう認定が下されてるが、これは全18階層で生息してる魔物のランクも低く、素材もそこそこでハンターの死亡率も低いことからそう判断されたそうだ。
他にもフロートの北東のイデアライト伯爵領にあるアコルダール迷宮が、確かBランクダンジョンに認定されてたはずだ。
Iランクダンジョンに認定されたのは、確かGランクが守護者をやってる迷宮だったはずだが、俺達が入ることはほぼ無いから、思いっきり聞き流しちまった。
逆に30階層以上あるフェルサ迷宮やアミスター南部のボールマン伯爵領にあるガリア迷宮は、Aランクダンジョン認定されているな。
ガリア迷宮は未攻略だから、A-Nと暫定的なランクでもあるが。
なお俺達が攻略したばかりのバリエ迷宮は、階層の環境が少々厄介で広さもあること、最深層がパペット天国ってこと、守護者がP-Cランクモンスターだってことで、Gランクダンジョン認定されることになったらしい。
ダンジョンランクは守護者のランクも加味されているから、ハイクラスがいるレイドやユニオンならGランク、エンシェントクラスがいるならMランクダンジョンが限界と定義され、攻略に成功すると一流とみなされることになるらしい。
とは言ってもダンジョンランクは新しい制度でもあるから、今後ランキングが変動することはあり得るし、それに伴って定義も変わっていくこともあると説明された。
「おお、思わずダンジョンランクの話で盛り上がってしまったな。申し訳ない」
「いえ、俺達にとっても興味深いお話しでしたから」
「そう言ってもらえるとありがたいが、ワシ等としては君達に頼り切りになってしまう現状も、とても申し訳なく思っておるんじゃよ。今回のバリエ迷宮もじゃが、先日の……」
グランド・ハンターズマスターが何か言いかけたところで、マスターズルームのドアがノックされた。
「失礼します、グランド・ハンターズマスター。査定が終わりました」
入ってきたのは次期グランド・ハンターズマスターで、Mランクハンターのエンシェントヒューマン ヒトミ・カナルフォートさん。
グランド・ハンターズマスターの直弟子で、レベルも70だ。
なんでも先日、サユリ様やトラレンシアのセルティナさんと一緒に、パルセノス橋公国にある未攻略迷宮を攻略してきたらしい。
俺も詳しくはないんだが、確か名称はジェマ迷宮で、アウラ島を除くとフィリアス大陸最北端にある迷宮だったはずだ。
ジェマ山脈っていう宝石の原石を産出する鉱山の麓にあるから、最寄り町のジェマは鉱山の町としても賑わっていた気がする。
そんなジェマ迷宮にサユリ様、セルティナさん、ヒトミさんの3人は、リリー・ウィッシュをお供に乗り込んだって話だ。
「おお、終わったか」
「今回は数が少なかったとはいえ、珍しい魔物ばかりだったのはいつも通りです。特にジュエル系統やコランダム系統があれほどの数というのは、私も初めて見ました」
「ワシもじゃよ。先日お主達が攻略したジェマ迷宮もなかなかじゃったが、手頃さではバリエ迷宮の方が上じゃろう。エンシェントクラスにとっては、ジェマ迷宮の方がありがたいがの」
ジェマ迷宮は全8階層で、最深層にはP-Rランクモンスター ジュエル・ゴーレムやP-Uランクモンスター コランダム・ドール、そしてP-Rランクモンスター カーボン・ゴーレムも、少数だがいたらしい。
守護者はM-Iランクモンスター ジュエル・ガーゴイルらしく、Mランクダンジョンに認定されている。
他の鉱石系パペット種はいなかったそうだが、特に驚いたのはカーボン系パペット種がいることだ。
カーボン系パペット種は石炭の体を持つ黒色のパペット種だが、体を加工するとダイヤモンドになる。
だからこそ出来上がったダイヤモンドも黒いため、ヘリオスオーブのダイヤモンドは黒っていうのが一般的だ。
もちろん不純物を取り除いたり添加したりして色を変えることも出来るが、その場合は少し脆くなり、素材として扱う場合は1ランク下相当の扱いとなる。
それでもダイヤモンドだから非常に高価なんだが、そんな事情もあって色付きダイヤモンドは実用的とは言えず、ファッションの一環になっているらしい。
ファッション用とはいえ全く実用性が無い訳じゃなく、しかも色付きダイヤモンドを作るのはかなり手間だから、普通に神金貨が飛ぶけどな。
そのジェマ迷宮攻略の最中に、ヒトミさんはエンシェントヒューマンに進化したんだそうだ。
ちなみにサユリ様もレベル65になって、エンシェントヒューマンに進化してたりする。
トラベリングを教えろって迫られたから、圧力に負けて教えたのもつい最近の話だな。
セルティナさんも習得済みだから、3人でレイドでも組もうかっていう話も出たってリリー・ウィッシュが嘆いてたのも、同じく最近の話だが。
なにせ3人とも同年代なのに、サユリ様はアミスター、セルティナさんはトラレンシア、ヒトミさんはアレグリア在住、さらに少し前まではソレムネやレティセンシアっていうロクでもない国との問題もあったから、会えるのは年に一度あるかないかっていう状況だったらしい。
ところがソレムネもレティセンシアも滅びたし、3人が3人ともエンシェントクラスに進化し、さらに長距離転移魔法トラベリングまで習得したとなれば、距離の問題は無いも同然になった。
まあヒトミさんは次期グランド・ハンターズマスターが内定してるし、サユリ様はハンター登録はしてないから、さすがにレイドを組むことは無いと思うが。
おっと、本当にお三方がレイドを組むかどうかも気になるが、今は買取査定の確認だな。
今回はパペット種以外はそんなに珍しい魔物は狩ってないから、額は控えめのはずだ。
そのパペットも、俺達が使う分はキープしておきたい。
新しく仕立てるクレスト・プロテクターコートには、宝石も使いたいからな。
宝石の方が魔石よりコンパクトになるし、魔石も併設すればさらに高性能になるって話だから、Oランクの魔物素材や日緋色銀と併せることで、最高性能の防具になるはずだ。
そのOランクの素材もクラテル迷宮で狩った分で足りるだろうから、帰ったらマリーナやフィーナにも手伝ってもらって製作開始といきますかね。




