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ヘリオスオーブ・クロニクル(旧題:刻印術師の異世界生活・真伝)  作者: 氷山 玲士
第三章・フィールの夜明け
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レティセンシア皇国第一王女

Side・プリム


 まさかこんな大物が、直接出張ってきてたなんてね。

 さすがにこれは予想外だったわ。


 その大物となる第一王女、しかも王位継承権第一位っていうレティセンシアの次期皇王だったんだから、アミスターとしても扱いが面倒よね。

 レティセンシアとしても見捨てるわけにはいかないから、本気で近いうちに戦争になるかもしれないわ。

 仮に戦争になっても、アミスターの勝利とレティセンシアの滅亡は決まってるんだけど。


 だけど、懸念事項ができてしまった。

 普通に考えれば、アミスターがレティセンシアごときに負ける要素はない。

 それどころかオーダーズギルドの半数、いえ、3分の1でも動かせば、それだけでレティセンシアの皇都を占領できると思う。

 それぐらい、アミスターとレティセンシアの国力の差は歴然としているの。


 だけどアバリシアから献上されたっていう、異常種を生み出すことができる魔化結晶。

 これは本当にヤバいわ。

 マーダー・ビーの挙動を見る限りじゃ操ることはできないみたいだけど、サーシェスの従魔になっていたエビル・ドレイクの例もあるから、もしレティセンシアが異常種を制御できるとしたら、物資や兵の質を覆される可能性がある。


 試作品だって話だし、どうやらアバリシアで製造された物みたいだから簡単にレティセンシアが使えるとは思えないけど、それだってどこまで本当かわからないし、そのアバリシアが参戦してくれば、色んな意味で厄介なことになる。


 というか、最悪だわ。

 アバリシアが参戦してくれば間違いなくソレムネが動くし、バリエンテやリベルターだって黙っているとは思えない。

 そうなればフィリアス大陸は戦火に包まれることになって、いくつかの地域がアバリシアに占領されてしまうかもしれない。


「アバリシアって、確か何度かフィリアス大陸に攻めてきたが、その都度跳ね返してるって話だったよな?」

「ええ。フィリアス大陸に上陸させたこともないわよ」


 アバリシアは幾度もフィリアス大陸を制圧するために進軍しているんだけど、フィリアス大陸側は全てそれを防いでいる。

 当初は国々が各個に迎撃してたそうだけど、アミスターはともかく、レティセンシアは上陸される寸前だったそうよ。

 だから他の国も協力してくれて、最終的には立地と戦力の関係でアミスターが中心になってアバリシアを追い返したんだけど、そのことを最後まで反対していたのがソレムネね。

 最後にアバリシアが進軍してきたのは、確か70年ぐらい前だったかしら?


「なるほど。ってことは、アバリシアの戦力も回復してるだろうから、またフィリアス大陸への侵攻を再開した、ってとこか?」

「多分ね。だけど過去の戦から、アミスターが手強いってことは理解してるだろうから、まずはレティセンシアから、ってことなんでしょうね」

「それも直接戦闘じゃなく、スパイを使った工作活動でだろうな」

「でしょうね。その結果レティセンシアは占領されたけど、アバリシアはそれを周辺各国には知らせていない。もしかしたら各国の上層部ですら、気が付いてないかもしれないわ。レティセンシアだって、徹底的に隠蔽してるだろうから。自分達だけじゃ何もできない愚者の集まりなのに、プライドだけは人一倍高いからね」


 アバリシアがレティセンシアに侵攻し、既に占拠していたとしても、レティセンシアは絶対に、それを認めない。

 認めるぐらいなら、その事実を徹底的に隠蔽するわね。

 おそらくレティセンシアは、アバリシアに占領されたに等しい状況でしょう。

 さっきの連中が”献上”っていう言葉を使ってたし。


 だけどアバリシアは、ほとんど政治には介入していない可能性があるわ。

 本当にレティセンシアが占領されていたら、いくら隠そうとしてもすぐに噂になる。

 なのに、そんな噂は聞いたこともない。

 いったいどういうことなのかしら?


「考えられることはあるけど、それはこのお姫さんが教えてくれるだろ。ここまでされてるんだから、よっぽどの弱腰でもない限りは相応の報復を行うだろうし、全て聞き出したら、このお姫さんだって処刑されるんじゃないか?」


 判断が難しいところだけど、その可能性は高いわね。


 このお姫様がフィール襲撃の陣頭指揮を執ってたことは、ほとんど疑いの余地がない。

 陣中見舞いとかっていう可能性もないわけじゃないけど、異常種を使った作戦の最中だったんだから、万が一の事態を考えるのは当然だし、普通ならそんなとこに行こうなんて考えない。


 このお姫様は、レベルも高いしハイヒューマンに進化している。

 それにバトルドレスも着慣れてる感じがするから、戦闘力もかなり高いと思う。

 そこまでは誰でも簡単に推測できるし、外す方が難しい気がするわ。

 多分だけど、皇王として即位する前にマイライトを手に入れ、権力と影響力を増そうっていう考えだったんじゃないかしら?


「そう考えるのが普通だよな。まあ俺達が考えることでもないし、このお姫さんを引き渡せば終わりだろう。もちろん戦争になったりしたら、手伝うつもりでいるが」


 それはあたしもよ。

 フィールに来てまだ数日だけど、それでも並々ならぬ迷惑を被ったし、アミスターの人達には本当に助けられたから感謝している。


 何よりフィールにはミーナとフラムが、王都にはあの子がいるんだから、彼女達を泣かせるような真似をしたレティセンシアを、許すつもりなんてないわ。


Side・大和


 森を抜けた俺達は、ジェイドとフロライトに乗り、マリアンヌという名のレティセンシアのお姫さんを、ロープでグルグル巻きにして荷車の上に乗せてフィールに向かっている。


 荷車はマイライトに向かう際に、テントを乗せれば簡易的な獣車になるんじゃないかと考えて買ったんだが、残念ながらそんなに上手くはいかなかった。

 テントとは言っても2メートル四方の立方体だから、しっかりと荷車に固定しなきゃいけなかったし、何より見た目が美しくなかったな。

 御者台もないから、さすがにこれは獣車代わりにはならないってことで金の無駄遣いで終わってしまったんだが、その荷車を使うことになるとは思ってなかったぞ。


 その荷車はジェイドに引いてもらってるが、ジェイドには大したことでもないようで、普通に歩いてる。

 獣車はフロライトと2頭立てで引いてもらうことを考えてたんだが、大きさによってはジェイドだけでもいけるかもしれないな。


「ここは……はっ!貴様ら、この縄を解け!私を誰だと思っている!?」


 森を出てから20分ぐらい歩いてると、問題のお姫さんが目を覚ましたようだ。

 高圧的に出てくることは予想してたが、はっきりいってうざったい。

 もう一度気絶させてやろうか?


「誰だも何も、レティセンシアの次期皇王陛下でしょ?まさかそんな大物が出てくるとは思わなかったけど、あの場にいたんだから、死ぬことだって覚悟はしてたんじゃないの?」

「わかっていながら無礼な口を利く。いい度胸だが私は無礼を許さん。貴様は即刻処刑だ」


 やっぱり傲慢だな、こいつ。

 というか、状況がわかってんのか?


「立場がわかってんのか?今のあんたはただの捕虜だ。いや、フィールに異常種を放った実行犯なんだから、ただの犯罪者だな。それが王族の、しかも次期皇王だってことは、レティセンシアがアミスターに、不意打ちで戦争を仕掛けたも同然だろ?それが発覚して、他の奴らは死んで、あんたはこうして捕まってるってのに、自分は助かるとでも思ってんのか?」

「立場がわかっていないのは貴様の方だ。私を処刑すれば、アバリシアが黙ってはいない。我々レティセンシア王家がアバリシアを抑えているからこそ、フィリアス大陸は平穏でいられるのだ。その王家の、しかも次期皇王の私がアミスターに命を奪われたとなれば、アバリシアは絶対にアミスターを許さん。必ずや全軍を率い、愚鈍なアミスター王家を滅ぼすだろう」


 面白いまでに自己中心的、他力本願、希望的な意見だな。

 レティセンシアがアバリシアの支配下にあるのは確定したようなもんだが、それでもこのお姫さんを取り戻すために、全軍を派遣するなんてことはありえんぞ。


 というか、本当に立場がわかってないな、こいつ。

 確かに王家とかの人間を殺せば、それは即開戦を意味するだろうが、少なくとも領代の話を聞く限りじゃアミスターは戦争を恐れていないし、ハンターズギルドだってかなりの被害を受けたんだから黙ってないだろう。

 レティセンシア国内のハンターはわからないが、他国のハンターはハンターズギルドからの依頼を受けて、アミスター側について参戦してくるかもしれない。


 レティセンシアは王家や貴族の立場が強いため、庶民は見下されている。

 そのくせ子供の頃から歪んだ愛国心を、どんな小さな村でも徹底して教育していやがるそうだ。

 それはハンター相手でも変わらず、他国の(ゴールド)ランクハンターどころか(プラチナ)ランクハンター、グランド・ハンターズマスターですら格下扱いだとか。


 だからなのかはわからないがレティセンシアはハンターの質も低く、レベル50の壁を超えたハンターはいないらしい。

 他国のハンターも見下されていることはよく知っているから、用もないのにレティセンシアに行くハンターはおらず、アミスターからリベルターに抜ける場合に、やむなく使うことがある程度だ。

 これはハンターに限らずトレーダーやプリスターも同様だそうだが、レティセンシア国内は治安も悪く盗賊も多いため、襲われて命を落とす者も少なくないんだとか。


 アミスターがナダル海に、しっかりとした港を整備すればそんなことはなくなると思うし、それを望む声も非常に大きいんだが、ナダル海に面しているのはプラダ村しかない。

 そのプラダ村も、ベール湖とナダル海に挟まれた狭い土地にあるため、港を整備することも難しい。


 港を整備すれば交易が始まるし、レティセンシアを経由しなくても済むことになるため、物価も下がるだろう。

 なにせレティセンシア経由の護衛依頼は誰も行きたがらないってこともあって、報酬が倍近くに跳ね上がるんだからな。

 当然トレーダーズギルドはすぐに支部設立に動くだろうし、他にもトレーダーが集まるだろう。

 そうなればプラダ村の規模ではどうすることもできないから、確実に大きくなる。


 だが、そのための土地がなく、水深も浅い。

 これがナダル海に、港を整備できない大きな理由になっている。


 それは別の話になるから、今はいいか。


「アバリシアって、そんなに甘い国かしらねぇ?」

「……何が言いたい?」

「アバリシアからアミスターまで、どれだけの距離があると思ってるの?兵を集めて武器や食料を調達して、さらに何日も船に乗ってアミスターを攻める。すぐに思いつくだけでも、これだけのことが必要なのよ?しかもそれが属国のお姫様を助けるため、あるいは仇を討つためじゃ、アバリシアだって士気は上がらないでしょ」


 同感だ。

 アバリシアがレティセンシアを属国にしたのは、フィリアス大陸で活動するための足掛かりだろう。

 アミスターと同じく海に面しているレティセンシアだが、国力には比較にならないほど開きがある。

 もしソレムネがリベルターが落としたら、レティセンシアは瞬く間に占領されるだろうとも言われているほどだ。

 それはつまり、ソレムネと同等の軍事力を持つアミスターが本気になれば、すぐにでもレティセンシアを滅ぼせるということにもなる。


「属国だと!?貴様、我が祖国を馬鹿にするつもりかっ!?」

「属国だろ。魔化結晶とやらを献上してもらったらしいが、どう見てもあんたらに実験しろって持ち込んだだけじゃないか。しかも試作品ってことは、何が起こるかわからないってことだ。事実マーダー・ビーは、あんたらを攻撃してたしな」

「そんなわけがなかろう!レティセンシアとアバリシアは、深い絆で結ばれている!だからこそ開発したばかりの魔化結晶を、即座に王家に献上してきたのだ!」


 なわけないだろ、って言いたいが、話しても無駄だな。

 ハンターどももこんな感じだったから、レティセンシア人とは話が通じないって思った方がよさそうだ。


「はいはい、勝手に吠えてろ。とは言っても、フィールに入るためには身分証が必要になる。あんたが持ってるとは思えないし素直にライブラリーを出すとも思えないから、もう一度寝てな」


 話が通じない相手との会話ほど、時間の無駄はない。

 だから俺はマリアンヌ王女に、スタンガンと同じ感覚で使用できる火性C級攻撃系術式ショック・フロウを当てて気絶させた。

 興味があったから話を聞いてみただけだが、ただ不快になるだけだったな。

 次からは、起きたらすぐに気絶させてやろう。

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