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ヘリオスオーブ・クロニクル(旧題:刻印術師の異世界生活・真伝)  作者: 氷山 玲士
第一九章・発展に向けて
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特別授業

Side・セラス


 メモリア総合学園に入学して、早3ヶ月。

 小さな問題は度々起こっているが、それは学生同士のケンカや些細なすれ違いが原因なので、大した問題ではないと言える。

 それ以外は平和で、先生方から話をお聞きしなければ、先月のコバルディア事変の事を知ることは無かったかもしれない。

 私達は当事者と親しいどころか身内だから詳細を聞かせて頂いているが、学園はある種の閉鎖空間でもあるため、そうでなければ知る機会は非常に少ないからな。


 学園生活だが、私達はそれなりに楽しんでいる。

 年齢にバラつきがあるとはいえ、授業内容は共通しているため座学はすさまじく退屈なのだが、だからといって手を抜くワケにはいかない。

 ただ戦技の授業では、私やレイナはともかく、ラウスやレベッカ、キャロルは全力どころか学ぶ意味が見受けられないし、加減していても所々で突出した動きが出てしまうから、かなり苦労しているようだ。

 そのせいで、私達を除いた入学生の中で最もレベルが高いタイガリーの少女ハンターが、ラウスを敵視してしまっていると聞く。

 レベル32でキャロルと同い年のようだが、ラウスのレベルが非公開であることが気に入らないらしく、何度か突っかかってきたこともあったな。

 その都度ラウスは逃げているのだが、その内何かトラブルになりそうな予感もヒシヒシと感じるぞ。


 そちらは我々にも無関係の話ではないので、彼女の動向には注意を払っているが、さすがにこの授業中は安全であろう。


「今日は特別講師をお招きしています」


 そう言って先生が紹介してくださったのは、大和様と真子様、そしてイスラという(プラチナ)ランクハンターだ。

 今日の授業は従魔や召喚獣についての座学なのだが、人気の高い魔物であるバトル・ホースやグラントプス、ワイバーンは牧場で飼育されているため、相性の問題はあるが契約そのものは容易い。

 だが中には、特殊な条件で契約をしたというハンターも少数ながら存在しているため、今日の授業はその特殊契約についてとなっている。

 そのために呼ばれた講師が、大和様、真子様、イスラということだ。

 プリム様やフラムお義姉様もそうなのだが、さすがに臨月近い身重のお体で講師などさせられん。

 あとはアリアもなのだが、彼女は学生として受講しているし、何より従魔のウインド・ロック フェルクは進化しているワケではないので、今回の授業内容とは合致しない。


「では授業を始める前に、おさらいを始めます。従魔や召喚獣は、(プラチナ)ランク以上の魔物と契約することは出来ませんが、契約後に進化してしまった場合は別です。理由は不明ですが、ヘリオスオーブが創造されたばかりの頃は、迷宮ダンジョンのみにしか(プラチナ)ランク以上の魔物が生息していなかったからだと考えられています」


 今回の授業は、実際に講師が従魔・召喚獣を連れてきているため、第1グラウンドで行われている。


 私達は何度も聞いた話だし、授業でも習った話だが、今回の授業の肝でもあるため、皆真剣に聞いているな。


「ですが実際に(ゴールド)ランクモンスターと契約を行うのは至難の業ですし、それ以上に命の危険も大きい。ですからほとんどの方は、近隣の町にある牧場で、相性の良い手頃な(カッパー)ランクモンスターと契約する訳です。クラフターの中には(ティン)ランクや(アイアン)ランクモンスターと契約する方もいますが、これは自分の仕事の関係もありますね。従魔契約では1匹の魔物としか契約できませんが、召喚契約ではその制限はありません。だからこそ、モンスターズランクを問わず契約をしているのです」


 有名どころでは、(ティン)ランクのキャタピラー数匹と召喚契約を結んでいる裁縫師だな。

 従魔契約と召喚契約の違いは、契約できる魔物の数や召喚獣の魔力を自分の魔力として使えることになるが、それを気にするのはハンターやリッターぐらいであろう。

 特にクラフターにとっては、召喚獣の数が多ければ多い程、自分の仕事の助けになるのだから。

 餌代の問題はあるが、キャタピラーの餌は安価で購入できる上に量もさほど必要ではないから、飼育のためのハードルが低いという利点もあるか。


「それを踏まえて、お三方が契約している魔物を紹介して頂きます。ではお願いします」


 先生に話を振られたことで、大和様達が自己紹介と従魔紹介を始めた。


「紹介にあったヤマト・ミカミ・フレイドランシアだ。一応天爵で、ここの領主フレデリカ・ミカミ・アマティスタの夫でもある。こっちが従魔で、ヒポグリフ・フィリウスのジェイドだ」

「マコ・カタギリ・フレイドランシアよ。こっちの大和天爵の妻の1人になるわ。私が連れてきたのは召喚獣で、ウォー・ホースの楓とスノーミラージュ・タイガーの白雪よ。よろしくね」

「イスラ・マナティアルよ。普段はオケアノスの町でハンターをしています。私が契約している召喚獣はレイスパーク・ドルフィンのマールだけになるけど、今はこのプールに入ってるわ」


 大和様が天爵でありリカ様の夫であることは、入学式で挨拶をされたこともあり、学生なら誰でも知っている。

 真子様もご夫人の1人ということで同様、イスラもオケアノス最強ハンターの1人として名が知られているため、特にハンターや騎士・狩人学科志望者からの視線が熱い。


「まずは俺からだな。俺は召喚魔法は使えないから、従魔魔法を使って契約している」


 そう前置きしてから、大和様はジェイドとの出会いから話してくださった。

 私達は知っているが、他の学生達にとっては初めて聞く話であり、場所がマイライト山脈、しかもエビル・ドレイクに襲われているところを助けた上に、群れの長に懇願されたという状況も相まって、皆聞き入っている。


「それもあって、ジェイドはヒポグリフ・フィリウスっていう希少種に進化している。本来の希少種はヒポグリフ・ロードになるが、それと比べても1ランク上相当だって言われている。これはジェイドに限った話じゃなく、そこの白雪やマール、ジェイドの番いでヒポグリフ・フィリアのフロライトも同じだ」


 プリム様が妊娠されていることもあって、フロライトはアルカから出ることはほとんどなくなってしまっているが、餌は豊富にあるし、時折プリム様と一緒に散歩をしているそうなので、特に不満はないようだ。

 なので大和様も、最近はあまりジェイドを呼び出さず、フロライトと一緒にいられるようにしておられる。

 ただジェイドからすれば、もう少し呼び出してほしいようだが。


「私も大和天爵と同じく、生まれて間もないマールを助けたことが、契約できた縁になるわ。ジェイドもそうだけど、そういった場合は契約者に対して大きな信頼を寄せてくれるようだから、契約と同時に進化することが多いようね」


 イスラの話も、皆にとっては非常に興味深く、レベル30を超えているハンター達は自分達もと考えているであろう顔をしているが、それはかなりの運も必要だと思う。

 ジェイド、フロライト、マールが特殊進化している理由は、襲われていたところを助けただけではなく、その際に親や群れの仲間を失っていることが挙げられる。

 だから従魔達にとっては、新しい仲間という認識以外にも、おそらく親代わりという感情もあるのではないだろうか?


「私の場合はさらに特殊ね。楓は普通に牧場で契約したから進化先もウォー・ホースだけど、白雪は生まれからして違うの。許可が下りてるから話すけど、白雪の母親は、私や大和天爵が倒したスリュム・ロードだから」


 最後に召喚獣との出会いを口にされた真子様に至っては、自分達が倒した相手の仔と契約しているという。

 しかもその親が終焉種ともなれば、運が良かったとかそういう次元の話ではない。

 更に白雪は、スリュム・ロードが倒された時にはまだ生まれてすらいなかったそうだから、普通に考えればそのまま死んでいてもおかしくはない話だった。

 その話は、トラレンシアへの配慮として公表は控えられていたのだが、いつまでも隠し通せるとは限らないし、何よりまだ生まれてもいなかった白雪は無関係なのだから、討伐した者への報酬として、半年ほど前に公表されている。


「じゃ、じゃあ襲われてる魔物を助けて契約したら、特殊進化するんですね!」

「いや、そんな簡単な話じゃないな」

「というよりその程度で進化できるんなら、特殊進化した個体はかなりの数がいるはずでしょう?だけど実際は?」

「あ……」


 大和様達の話を聞いて自分もと考えていたであろうハンター、例のタイガリー ウィステリアだったが、あっさりと大和様とイスラに論破されてしまった。


「襲われてるところを助けられて契約した魔物は私達も知ってるけど、特殊進化したっていう話は聞かないわ」


 ですな。

 事実マナ様のフロスト・バード シリウス、フラムお義姉様のリドセロス フロウ、そしてアリアのウインド・ロック フェルクは、助けられた際に従魔・召喚契約を結んでいるが、特殊進化はしていない。

 他にもそのような話を聞いたことがあるが、特殊進化した魔物は本当に少なく、この場にいるジェイド、白雪、マール、そしてアルカにいるフロライト以外では、数匹ぐらいしかいなかったはずだ。


「運も絡むけど、襲っている魔物を倒せるだけの実力がないと、自分も命を落とすだけよ。いえ、それどころか仲間がいれば巻き込むし、近くに町や村があったりしたら、そちらにも迷惑を掛ける。特殊進化従魔っていう響きは魅力的だろうけど、自分の実力を過信してしまうと、そういった最悪の事態もあり得てしまうの。あなたの事は実力も含めて知ってるけど、それでもノーマルクラスに出来ることは限られている。これは現実的な問題よ」

「は、はい……」


 真子様にそう言われてしまい、ウィステリアは肩を落とした。

 レベル32の(ブロンズ)ランクハンターであり、未成年ハンターでは最上位に近い実力を有しているからこそ、自分の力を過信してしまう。

 だが魔物には個体差があり、格下だと思っていた魔物がたまたま格上すら屠れる個体だったという話も、それなりに聞く話だ。

 私が言えたことではないが、ウィステリアはハンター登録をして2年程らしいから、経験という意味ではルーキーを抜けた程度でしかなく、それでいて若手の上位ハンターと期待されていたのだから、自分も出来ると思っていたのであろうな。


「それから……マール、出ておいで」


 イスラが声を掛けると、マールがプールの淵から顔を覗かせた。

 マールの体でプールのほとんどが埋まってしまっているが、後部の密閉空間にはミラーリング付与が成されているため、見た目より遥かに広く、今まではそこを泳いでいたワケか。


「見ての通りだけど、マールはレイスパーク・ドルフィンということもあって、陸上での活動は出来ないわ。進化してるから空中戦はこなせるけど、それでも長時間は無理ね。私はオケアノスを拠点にしているし、普段は海の魔物を狩ってるから問題はないけど、実際に契約をするなら、自分達が普段は何を狩るのか、何のために従魔や召喚獣を欲しているのか、それをしっかりと考えないといけないわ」

「従魔魔法は、従魔が死ねば新しい魔物と契約できるが、それが故意だと判断されてしまった場合は二度と使えなくなる。そもそもそんな自分勝手な奴が、周囲からの信用を得られる訳がない」

「召喚魔法は契約できる魔物の数に制限はないけど、その代わり餌代が必要になるわ。これは従魔魔法にも言えることだけど、魔物によってはとんでもない食費がかかることもある。だから従魔魔法や召喚魔法を使う場合は、そのこともしっかりと考えておく必要があるわよ」


 仰る通りです。

 ウイング・クレストでは餌代は活動費に組み込まれているが、レイドによっては個人で稼がないといけないこともあるし、リッターやソロで活動しているハンターは、自分達で稼がなければならない。

 だが無理をしてしまえば、それはケガの元にしかならないし、その結果泣く泣く従魔を手放すことになったという者も少なくない。

 それは特殊進化を果たした従魔であっても、例外ではないのだ。

 だからこそ従魔・召喚契約を結ぶ場合は、契約する魔物の選定のみならず、諸経費も考えなければならない。

 既に授業で習っているし、私達は散々言い聞かされているが、他の学生達にとっては現実感のない話だったようで、何人かはばつの悪そうな顔をしている。

 それを理解してくれただけでも、この授業には価値があるな。


 おっと、授業はまだ終わっていないのだった。

 牧場で購入できる魔物以外でも契約できる魔物は多いし、実際に契約している者も少なくないのだから、こちらも非常に参考になるお話だ。

 いつでも聞くことができるとはいえ、せっかく学園に通っているのだから、私も真面目にお話を聞かなければ。

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