迷宮攻略の詳細
6月も1週間が過ぎた。
プリムとフラムのお腹もだいぶ大きくなってきて、今ではほとんどアルカから動かなくなった。
特にフラムは、プラダでの代官研修も出産までは免除されたぐらいだから、今は工芸殿に籠ることが多いな。
それもあってプラダの代官となる男爵への叙爵は、フラムが出産してからってことにもなっている。
プリムはクラフター登録してないから、工芸殿2階の書庫にいることが多いが、長い事魔物を狩ってないから、けっこうストレス溜まってきてるのが問題だ。
いくらストレスが溜まってても狩りなんてさせられないし、かといって好きなものを大量に食わせるのも体に良くないだろうから、たまにアルカの森の中を歩いたり、湖でクルージングをしたりするぐらいしか思いつかないぞ。
ああ、あとは魔力の制御か。
体を動かしてる訳じゃないし、胎児の魔力も循環させることになるから、やれるようならやった方がいいらしい。
だからといって極炎の翼や熾炎の翼の習熟度を高めるのもだが、新しい羽纏魔法を試すのは止めてほしいと思う。
まあ一応ストレス解消にはなってるようだし、ヒーラーからのストップもかかってないから、多分大丈夫なんだろうが。
「そういえば大和さん、レティセンシアの迷宮攻略はどうなってるんですか?」
「ああ、あたしも気になってた。既に攻略されたとこもあるんじゃないの?」
今日は仕事が午前中で終わったから、プリムとフラムを連れて、アルカの湖でのんびりクルージング中だ。
何かあったときのためにアプリコットさんも来てくれている。
「ああ、あるぞ。一番早く攻略されたのは、ブルガル迷宮だったな。全21階層だったらしく、4日で攻略されてたぞ」
「21階層を4日って、えらく早いわね」
「守護者はM-Iランクのシザーシェル・グリズリーだったそうだし、道中もGランクが最高だったらしいからな。攻略したブラック・アーミーとスノー・ブロッサムも、拍子抜けしたって言ってたよ」
「そうでしょうね」
エンシェントクラスなら、M-Iランクモンスターは油断さえしなきゃ単独討伐も余裕だからな。
階層は、草原、山、迷路、森、湖畔、砂漠、沼地、荒地、高原、市街地、巨大屋敷、洞窟、雨の島、夜の砂漠、氷河、嵐の海岸、雪原と多岐にわたってたから、そっちの方が面倒だったそうだ。
「雨の島とか嵐の海岸とかも厄介だけど、夜の砂漠ってなかなか凶悪じゃない」
「そうなんだけど、多機能獣車があるから、あんまり影響なかったそうだぞ」
「ああ、そういえばそうですね。従魔にも恩恵がありますし」
迷宮には天候が変化しない階層が存在することもある。
俺達は遭遇したことはなかったんだが、ブルガル迷宮の深層には3つあったそうで、その中でも夜の砂漠っていうのは、プリムの言う通り凶悪でしかない。
夜の砂漠は氷点下まで冷え込むことが理由なんだが、多機能獣車には外気を遮断する結界があるし、それは獣車を引く従魔も効果内に入ってるから、本当に影響なく進めたって言ってたからな。
むしろ、自分の足で進まないといけない沼地や巨大屋敷、洞窟の方が面倒だったらしい。
「ああ、だけど最深層になる雪原階層じゃ、ヘイル・ディアスやホワイト・ティアーもいたらしいぞ」
「へえ。この時期スノー・ドロップ種は雪山から下りてこないから、けっこうな稼ぎになるんじゃない?」
「だろうけど、ブラック・アーミーもスノー・ブロッサムも金には困ってないから、自分達で食うんじゃないか?」
ヘイル・ディアスはS-Uランク、ホワイト・ティアーはG-Rランクだが、肉は高ランクモンスターにも引けを取らない美味さだし、冬場の雪が積もった時期しか狩れない魔物ってこともあって、ハンターズギルドでも毎年高値で取引されている。
何匹狩ったかまでは聞いてないが、この時期は市場に出回ることはほぼないから、金に困ってなければ自分達で食うことにしてもおかしくはない。
「ブルガル迷宮に行くとしたら、ヘイル・ディアスやホワイト・ティアーを狩るぐらいかしら?」
「そうなりますね。常雪山に行くという手もありますけど、あまり狩り過ぎると冬に狩りに来るハンターや楽しみにしている貴族の方達の迷惑になりますから、常に狩れるところがあるのは助かりますよ」
それは俺も同意見なんだが、問題は行くのに時間が掛かることと、道中他にめぼしい魔物はいないってことだな。
「だけど全21階層っていうのは大変でしょう?」
「ブラック・アーミーとスノー・ブロッサムでも4日かかるんだから、確かに気軽に行けるとは言えないわね」
アプリコットさんとプリムの言う通り、それが最大の難点だな。
しかも道中には獣車の使えない階層もあるってことだから、非戦闘員は連れていけないぞ。
守護者以外は最高でもGランクってことだから、迷宮の難易度としては下の方だってのが救いか。
「それだと、私達は行く機会は無さそうですね」
「そうなるわよね。それで、他の2つはどうなってるの?」
モンスターズランク的にも俺達が行く意味も理由も見付けられないから、フラムの言う通り俺達が行くことは無いと思う。
で、他の2つの迷宮だな。
「どっちも帰ってきてるよ。ロウクーラ迷宮は6月に入ってすぐ、フェルサ迷宮は昨日だったけど」
「え?昨日ってことは、攻略に2週間以上もかかったってこと?」
「ああ。どっちも相当面倒だったそうだぞ」
「でしょうね」
むしろフェルサ迷宮は、よく2週間で攻略できたと思ったからな。
「確かロウクーラ迷宮って、ソルプレッサ迷宮やイスタント迷宮と同じタイプの迷宮でしたよね?」
「ああ。全8階層だったそうだけど、かなり面倒だったらしい」
ロウクーラ迷宮攻略を担当したホーリー・グレイブ、ファルコンズ・ビーク、リリー・ウィッシュが言うには、階層もソルプレッサ迷宮並に広く、出てくる魔物も高ランクどころか災害種までいたそうだから、攻略に時間がかかったと言っていた。
階層の構成は、高原、雪原、中洲、山、砂漠、湿地帯、迷路、荒地と、迷宮の基本構成だったが、魔物は第1階層からBランクが、第4階層からはPランクがでてきて、最深層になる第8階層はMランクモンスターの巣だったそうだ。
ソルプレッサ迷宮と似たような構成だし、モンスターズランクもさほど変わらないんだが、最深層はとんでもなく広かったそうで、危うく用意していた食料が尽きるところだったって言ってたな。
「そんなに広かったの?」
「ああ。レティセンシアの国土と大差ないんじゃないかって言ってた」
「そんな迷宮もあるんですね……」
俺も驚いたが、迷宮は地下に広がってる訳じゃないから、そんな階層があってもおかしくはないってことなんだと思う。
似たような階層は他の迷宮にもあるそうだが、さすがに国1つ分もある程の広さは無いとも聞いてるが。
「守護者は何だったんですか?」
「アイランド・ホエールだったそうだ。A-Cランクの」
「はい?って、ちょっと待ってよ!A-Cランクっていうのは分かるけど、なんでアイランド・ホエールなんかが守護者なの!?」
プリムが驚くのも無理もないし、実際俺も驚いたんだが、アイランド・ホエールは水棲種だから、守護者として出てくるとはアライアンスも思ってなかったそうだ。
「その辺は迷宮核に聞いてくれとしか言えないが、普通に飛んでた、というか空を泳いでたらしいぞ。かといってWランクって訳でもなかったから、守護者の間特有の結界か何かが作用してたんじゃないかな?」
自分で言っててなんだが、他に説明できないからな。
「さすがというかなんというか……。本当に迷宮ってデタラメね」
「それが迷宮ですからね。ああ、道中の魔物には、ドラグーンもそこそこいたらしいぞ」
「そこそこなのか。だけどアイランド・ホエールの素材が定期的に手に入れられるかもだから、そこに行く頻度は多くなりそうね」
「相当大きいですから、1匹でも十分ですけど」
手探りでの攻略だから1週間以上も時間が掛かったが、既に守護者の間までのルートは判明してるから、俺達なら数日で行ってこれるだろう。
高ランクモンスターも多いから、俺達としても行く機会は多そうだ。
今度ハンターズギルドに行って、地図を買ってこないとな。
ああ、迷宮内の地図は狩人魔法マッピングが使われてるが、俺が奏上した奏上魔法ステータリングと連動させることも出来るし、地図を重ねれば更新することも出来るから、ちょっと前からハンターズギルドがそれを販売してるんだよ。
それなりのお値段はするが安全には変えられないから、迷宮に入るハンターの多くが購入してると聞く。
中には金をケチって地図を買わずに入って重傷を負って、治療代で大赤字になったっていうハンターもいるし、命を落とした奴もいるらしいが、自業自得だな。
「それとフェルサ迷宮なんだが、聞く限りじゃここが一番ヤバいな」
「そんなにひどいところだったの?」
「ええ。全36階層ってのも、2階層続けて同じ構成っていうのもそうですけど、30階層を超えるとMランクの巣で、最深層に至ってはAランクの巣だったそうなんです」
不安そうな顔をするアプリコットさんだが、グレイシャス・リンクス、ワイズ・レインボー、セイクリッド・バードがちゃんと攻略してくれてるから、そこは安心ですよ。
フェルサ迷宮は草原、迷路、山、湖畔、湿地帯、市街地、屋敷、洞窟、迷路、平原、森、海岸、群島、火山帯、砂漠、渓谷、廃城、氷河といった階層で、2層同じ階層が続くんだが、環境は階層ごとに異なるらしい。
昼、夜、雨、嵐、吹雪、突風、地震などはもちろん、深層に行けば行くほど複数絡むこともあったから、厄介過ぎて進むのに時間がかかった階層も多いんだそうだ。
最深層はかなり広い氷河で、トラレンシアで見かけるような魔物の災害種が群れてたそうだし、A-Cランクのアバランシュ・ハウルの群れまでいたって言ってたぐらいだ。
「また凶悪ね。あれ?じゃあディザスト・ドラグーンって、どこの階層にいたの?」
「第32階層の渓谷地帯だ。1匹だけだが狩ってきたって言ってたから」
「妥当なとこではあるんですね」
ディザスト・ドラグーンは異常種だし、他はPランクとMランクだったって聞いてるから、たまたま進化した個体だったってことでいいと思う。
その次の第33階層と第34階層は廃城ってことで、亜人の災害種だけじゃなくAランクのアンデッドもいたそうだし、第35階層からはMランクとAランクモンスターしかいなかったそうだからな。
「第33階層と第34階層が廃城階層で、しかも亜人だけじゃなくアンデッドまでもか。面倒でしかないじゃないの」
「亜人は全種いたらしいが、それに加えてアンデッドもだからな。嫌がらせでしかない」
「本当ですね」
亜人は魔石しか採れないから、迷宮じゃ襲ってこない限りは敬遠する魔物の筆頭だ。
まあ、見つかったら絶対に襲われるから、討伐履歴も多いんだが。
「あと守護者だけど、まさに嫌がらせの極致だったぞ」
「そうなんですか?」
「ああ。なにせキング・スライムだったそうだからな」
「うわあ……」
「まさに、ですね……」
プリムもフラムも引いてるが、俺も聞いた時はドン引きしたからな。
なにせスライムも魔石しか採れない魔物な上に、亜人より遥かに倒しにくい魔物なんだ。
Tランクのスライムは子供でも倒せるが、希少種辺りからはハンターも敬遠しだす。
氷属性魔法に弱いっていう弱点はあるが、異常種になるとその弱点は消え去るし、何よりキング・スライムはA-Cランクの災害種だから、全てのスライムの能力を持ってるとも言われている。
その中には属性スライムはもちろん、金属の体を持つメタルスライム系も含まれていて、そのせいかキング・スライムは神金並の硬度になってるそうだから、倒すのも簡単じゃない。
実際アライアンスも、迷宮核を叩き割ろうかと思ったって言ってたぐらいだ。
「ともあれ、3つの未攻略迷宮は、全て無事に攻略されたってことね」
「ええ。あとは未確認の迷宮ですけど、そっちは連日の調査も虚しく、まだ見つかったっていう報告は無いですね」
「あるかどうかも分からないしね。それでも状況が状況だから、調査は必須。ホントにあの国、最後の最後まで面倒かけてくれるわ」
俺もそう思う。
だけど調査しないと、次の迷宮氾濫が起きてしまうかもしれないし、多くの人が犠牲になってしまうことも考えられる。
だから面倒ではあるが、調査に手は抜けない。
今のところ俺には声がかかってないが、余裕が出てきたら俺も調査に参加することになってるから、それまではしっかりとエスメラルダ天爵領とアマティスタ侯爵領、ソレムネ地方の統治補佐に精を出すとしよう。




