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ヘリオスオーブ・クロニクル(旧題:刻印術師の異世界生活・真伝)  作者: 氷山 玲士
第一八章・フィリアス大陸統一
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野心の末路

 俺達が謁見の間に戻ってきてすぐに、リディアと同行していたソルジャー、アテナと同行していたドラグナーも戻ってきた。

 アテナ達の担当は調理場に食堂、食糧庫、リディア達の担当は2階に設けられている客室やロビーだから、捜索に時間は掛かりにくいし、当たりとは考えにくい場所だからな。

 俺より先に真子さんが戻ってきてはいたけど、真子さん達の担当はテラスに中庭だから、更に探す場所がない。

 本命はやっぱり、ミーナとフェイサーが担当している王家の居住区画だろうな。

 ルディアとファーターが捜索してる衛兵駐屯区画も、護衛戦力がいる分可能性はあるか。


 だけど当たりだったのは、皇王城の裏手を担当していたクレアさんとファーターだった。

 皇王城の裏側には、地下に広大な隠し部屋が用意されていて、魔導具も多く配置されていたそうだ。

 食料もストレージ・バッグに大量に保管されているし、皇王家の居住区として用意されている区画は、貴族の屋敷並の設備が整えられていたとも言っていた。

 近衛も多くがその隠し部屋にいたから、クレアさん達だけでは手に余ると判断し、近くにいたルディアとファーター、サヤさんとビースターにも救援を出してその隠し部屋に入った結果、近衛は全て打倒し、皇王家も全員を捕らえることに成功したようだ。


「まさかそのような場所に、広大な隠し部屋があったとはな。臆病な皇王家らしいとも言えるが」

「敵も多いでしょうから、自身の安全には過剰なまでに気を配っていたということなんでしょう。無意味な結果に終わっていますが」


 グルグルにふん縛られた皇王家を見た直後の、ラインハルト陛下とレックスさんの感想がこれだ。

 俺も同じ事思ったが。


「皇王に王妃3名、王子2名、王女1名か。よくぞ無事に捕らえてくれた」

「いえ、サヤ夫人やルディア夫人の力添えあってこそです。我々だけでは、返り討ちにあっていたでしょう」


 エンシェントラミアに進化してるとはいえ、クレアさんのレベルは64と本当に進化したばかりだから、歴戦のエンシェントクラス達と比べてしまうと、どうしても実力は一段落ちてしまう。

 それでもハイクラス相手なら問題無かったんだが、魔族が相手となると分が悪い。

 クレアさんもそれを理解しているからこそルディアとサヤさんに救援を求めたんだから、自分の実力をしっかりと把握してるってことなんだろう。

 どっかのロイヤル・ビースターズマスターも見習えと思う。

 そのロイヤル・ビースターズマスターは、見事皇王家を捕らえることに一役買った同僚のビースターに、苦々し気な視線を隠すことなく送ってるが。


「だが皇王のみ連れてくればよいと伝えていたはずだが、全員を捕らえてきた理由はなんだ?」

「皇王の首は陛下御自ら挙げられるべきですが、それだけではリッターを派遣してくださった各国に益がございません。捕らえることに成功した皇王家は7名ですから、ファースト・リッターの方々が首を挙げられれば、それはリッターズギルドにとっても誉となり、派遣してくださった各国の功となります」


 俺も、なんで皇王家全員を捕まえてきたのかと思ったんだが、クレアさんはラインハルト陛下だけじゃなく、リッターズギルドもそれぞれ皇王家の首を取ることで功績にするべきだって考えたのか。

 リッターズギルドは国から独立した組織ではあるが、国に仕える騎士協会でもある。

 だからリッターが手柄を挙げれば、それは派遣してくれた国の手柄にもなる。

 そこまでは全く考えが及んでなかったな。


「そうか。いや、私も浅慮だった。そこまで考えてくれたこと、感謝する」

「勿体ないお言葉にございます」


 ラインハルト陛下もフィリアス大陸統一を優先してたし、各国の王達もそれでいいと国際会議サミットでは口にしてたから、手柄のことまでは考えてなかった。

 これは本当にクレアさん様々だな。


「ではファースト・リッターよ、前に出てくれ」


 ラインハルト陛下の命に従って、ファースト・ファーター、ファースト・ビースター、ファースト・ドラグナー、ファースト・フェイサー、そしてファースト・ソルジャーが前に出た。


「すまないがファーターとビースターは、皇王家捕縛の功が既にある。よって王妃の首は、ドラグナー、フェイサー、ソルジャーに挙げてもらう。異議はあるか?」


 ラインハルト陛下の決定ではあるが、誰も異議を唱えない。

 既に捕縛の功があるし、ある意味じゃ首を挙げるより大きな功績だからファーターやビースターからしたら問題にはならないし、ドラグナーやフェイサー、ソルジャーからしたら功を譲ってもらった形になるから、文句を言うのは筋違いだもんな。


「異議はないようだな。ではファーターとビースターは、それぞれ王子を任せる。残った王女はクレア、其方が首を挙げよ」

「グランド・オーダーズマスターではなく、私でよろしいのですか?」

「グランド・オーダーズマスターは既に大功を挙げているし、捕らえたのは其方だ。故に其方が相応しい」

「ありがとうございます」


 王子はファーターとビースターが、王女はクレアさんに決まったか。

 レックスさんじゃない理由は、既にスレイプニルという終焉種討伐の功績があるし、これ以上手柄を立てたら余計な波風が立つかもしれないから、それを避けたってことなんだろう。

 釣り合う褒賞があるかっていう問題もあるんだろうけどな。


 おっと、相手は魔族でもあるんだから、動けないように俺も念動魔法で拘束しとかないとな。


 ところがここで、問題が起きてしまった。

 何かと言うと、ファースト・ビースターが王子の首を落とすために近付いた瞬間、ロイヤル・ビースターズマスターが割り込んできてファースト・ビースターを突き飛ばし、その隙をついて自分が剣を振り下ろしやがった。

 本人は大手柄だと思って笑みを浮かべているが完全な越権行為だし、陛下の言に逆らう行為でしかないから、ビースターズギルド除名も確定したんじゃないだろうか?


「なっ!」


 ところがロイヤル・ビースターズマスターの剣は、真子さんのニブルヘイムによって止められた。


「き、貴様!まさか裏切るつもりか!?」

「それはあなたでしょう?何かやるとは思ってたけど、完全な反逆罪よ、これは?」


 呆れる真子さんだが、俺ばかりかラインハルト陛下、レックスさんも呆れ顔だ。


「真子夫人の言う通りだ。勝手に同行したばかりか私の命を無視するなど、ロイヤル・ビースターの長とは思えぬ短絡的な行動だ。其方には王を守護するロイヤル・ビースターの資格どころか、民を守るビースターの資格すらない。だが仮にもロイヤル・ビースターズマスターを務めた其方を、私の独断で罰することは出来ない。グリシナ獣王にも伝えた上で、処罰することになるだろう」


 ビースターズギルドはアレグリアに本部があるが、アレグリアはアミスター・フィリアス連邦天帝国を構成する国でもある。

 連邦天帝国のトップは天帝だからラインハルト陛下の独断でも十分処罰は出来るんだが、後々のしこりになるのは間違いないから、グリシナ陛下にも意見を聞く必要があるし、他の王達にも話を通しておかないといけない。

 だけどこれだけのことをしたんだから処罰無しっていうのはあり得ないし、ハイビースターってことも考えると死罪っていう事になるだろう。

 放逐だと恨みつらみを国に向ける可能性もあるし、実力行使に出ることも考えられる。

 犯罪奴隷にするにしてもハイクラスは隷属魔法が効きにくいから、脱走されてしまうリスクも大きい。

 だからこそハイクラスの犯罪者は、重罪の場合は死罪一択になっている。

 今回の場合、グリシナ陛下の王配の座を狙っていたことも加味して考えると、反逆罪に問われるってのが無難か。

 まあ、どんな罪状で裁かれるかは俺が関与する問題でもないから、これ以上邪魔されないように拘束しておくか。


「な、何をする!?」

「何をって、罪人を捕まえてるだけだ。ああ、喚かれても迷惑だから、意識も奪うからな」

「ガッ!」


 アレスティングで縛り上げ、ショック・フロウを少し強めに当てて意識を奪う。

 これで静かになったし、邪魔もできないな。


「すまないな、大和君」

「いえ、これぐらいは」


 ロイヤル・ビースターズマスターは父さんや母さんの稽古に参加してないが、それでも翡翠色銀ヒスイロカネの剣は持ってるからなのか、レベルは53になっている。

 それでも俺からしたら、捕らえるのも意識を奪うのも、大した手間じゃない。


「先に伝えておくが、この者の不始末があるからといって、ビースターの功を減じることはない。この者はビースターにとって恥であるが、私達も放置していた責がある。むしろビースターには迷惑を掛けた。この場を借りて謝罪する」


 ビースターに謝罪するラインハルト陛下だが、ビースターもこんな事になるとは思ってなかったから、目を白黒させている。

 放置していたとはいえ、特に罪を犯してたわけでもなかったし、グリシナ陛下も言い寄られていたロイヤル・ビースターズマスターを邪険に扱っていた訳ではなく、応えられないことを申し訳なく思っていたから、地位を剥奪する決断を下せずにいた。

 ただグリシナ陛下も、ロイヤル・ビースターズマスターの野心を知ったことで、地位を剥奪する決意を固めていたから、この結果はある意味じゃ速いか遅いかだと思う。


「興が削がれた感もあるが、だからといって皇王家は放置できない。ファースト・リッター達よ、剣を取るのだ」


 ラインハルト陛下の命に従って、ファースト・リッターが剣を振り上げる。

 同時にラインハルト陛下も剣を振り上げてた。


「皇王よ、魔族へと堕ちたお前と話すことはない。ヘリオスオーブの平和のために、その命を無為に散らすがいい」


 そう言ってラインハルト陛下は、皇王に向けて剣を振り下ろす。

 それを合図にファースト・リッター達も剣を振り下ろすと、次の瞬間7つの首が謁見の間に転がった。

 魔族となったことで弁明も許されず、涙や鼻水で顔がベトベトになっている様を見てしまうと、ああはなりたくないと心から思うな。


「これでフィリアス大陸は、真に統一が成された。これも皆の尽力あってのものだ。これからも皆の働きに期待する」


 ラインハルト陛下がそう告げると、リッターは一糸乱れぬ動きで敬礼を返した。

 相変わらずすげえな。


 だけどこれで、皇王家もレティセンシアも滅んだ。

 迷宮氾濫(スタンピード)の疑いはあるし、魔化結晶や神帝の魔力で進化した魔物も少なくないから、どうなるかは注意深く監視する必要があるが、それでもアミスター・フィリアス連邦天帝国のフィリアス大陸統一が成された瞬間でもある。

 魔物に滅ぼされた街の跡地をどうするかっていう問題もあるが、それをどうするかはこの後の結果を見て考えてもいいだろう。

 この後は俺と真子さんが、クラウ・ソラスとアガート・ラムの神話級術式トゥアハー・デ・ダナンを使って、コバルディアを消滅させることになっているからな。

 コバルディアはフロートどころか三王国の首都程の規模はないが、それでも大都市であることに違いはない。

 その大都市を消滅させようっていうんだから大変なんて話じゃないんだが、トゥアハー・デ・ダナンを使うのが一番手っ取り早いから、大変でもやるしかない。

 魔族が消え去れば、宝樹を守っている神々も動けるようになるし、ヘリオスオーブの滅亡回避の第一歩につながる。

 最終的には神帝を倒さないとだが、魔族も存在してはならない存在だから、それを排除できるだけでも大きい。

 トゥアハー・デ・ダナンは空の上から使う予定だから、アテナに竜化してもらわないとな。

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