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ヘリオスオーブ・クロニクル(旧題:刻印術師の異世界生活・真伝)  作者: 氷山 玲士
第一八章・フィリアス大陸統一
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刻印神器の力

Side・真子


 聖翼アガート・ラムを生成し、ウイング・バーストも纏った私は、自由に空を飛びまわっている終焉種フェニックスに向けて、スターライト・サークルを発動させた。

 フェニックスは真っ赤な炎に包まれた、まさに火の鳥で、翼は本来のものに加えて終焉種に進化した際に得たため、2対4枚となっている。

 速いし、すぐに領域外に出られてしまうから、10メートル以上ある巨体であっても簡単に捉えられない。


 だけどそんなことは想定内。

 いくら速いと言っても、鳥型の魔物である以上は動きは予測しやすい。

 4枚の翼があるから、もしかしたら鋭角ターンとかもできるのかもしれないけど、スターライト・サークルを避ける動きを見る限りじゃ、まだ進化して間もないんじゃないかって思えるわ。

 実際神帝が上陸してからだから、本当に間もないんでしょうけど。

 だからこそ終焉種であっても、スリュム・ロードやハヌマーン程の脅威は感じられない。


「真桜、使うわよ」


 すぐさま私は、真桜から譲り受けたシルバリオ・ディザスターを、フェニックスの周囲に球状展開させた。

 真桜と同じく広域系に適性を持つ私だけど、強度は真桜と比べると落ちるから、念のためフィールド・コスモスも外側に展開させておく。

 さすがにこれを破るのはフェニックスでも無理だったらしく、すぐさま私に狙いを変更してきた。


 でもシルバリオ・ディザスターは銀の雨を降らせる術式でもあるから、いくらフェニックスでも全てを避けるなんてできていないし、銀を蒸発させることもできていない。

 全身に降り注いでいる銀の雨は、そのままフェニックスの体を覆い、銀の像へと変化させていく。

 真桜ならこれだけでも倒せたんだろうけど、私はまだそこまでの力はないから、アガート・ラムを広げ、光性神話級戦術型広域干渉対象系術式ディアン・ケヒトも発動させた。

 銀の雨と同様に降り注ぐ光の雨が、銀の像になりつつあるフェニックスの体を貫いていく。

 衝撃に押されて地面に叩き付けられたフェニックスは、小刻みに動いていたけどやがて動きを止め、銀が剥がれると同時に永久に動かなくなった。


「やっぱり神話級はすごいけど、シルバリオ・ディザスターもそれに匹敵する強度よねぇ」


 無事にフェニックスを倒せたとはいえ、ディアン・ケヒトを使う必要は無かったんじゃないかと思わずにはいられない。

 なにせシルバリオ・ディザスターによって銀像になりかけてた時点で、既にフェニックスは虫の息に近かったんだから。

 だけどまだシルバリオ・ディザスターを使いこなしてるとは言えないし、何より終焉種の相手をしてたんだから、たとえオーバーキルであっても確実に倒しておかないと、何が起こるかわからない。

 だからこそディアン・ケヒトを使ったんだけど、結果から見たらオーバーキルどころの話じゃなかったわね。


「羽根はボロボロだけど、全滅ってワケじゃないのが救いかしらね」


 あとディアン・ケヒトもシルバリオ・ディザスターも、まだ加減できるほど習熟してないから、素材として使えるほど綺麗に倒せるかもわからなかった。

 全体の半分ぐらいは使い物にならなさそうで、さらに3分の1ぐらいはボロボロだけど、使えそうな部位があるのは幸いだったわ。


「収納完了っと。大和君の方は……あっちも終わってるわね」


 フェニックスをインベントリに収納してから大和君の方へ視線を向けると、そっちも既に戦いが終わっていた。

 ウロボロスが細切れなってるけど、素材としてみるとあれもやっちゃってるわね。

 あの様を見る限りじゃ、多分クラウ・ソラスの神話級術式マハ・ジャルグを使ったんでしょうけど、あそこまで細切れになってると、革素材として使うのは難しいなんて話じゃないわ。


「レックスさん達は……あっちも終わりそうだわ。さすが息ピッタリね」


 続いてレックスさん達の方に視線を向けると、倒れたスレイプニルに対して3人のオーダーが剣を振るい、サヤが魔法を放つところだった。

 飛鳥君と真桜に鍛えられたからか、4人とも新しい固有魔法スキルマジックも作ってるし、それがしっかりと活かされてるようだから、2人の苦労も報われてるわね。


「アガート・ラム、残ってる魔物がどれぐらいかわかる?」

「大凡ではあるが、あと3,000といったところであろうな」


 アガート・ラムに残存数を聞いてみると、そんな答えが返ってきた。

 確かコバルディアを包囲してた魔物は10,000近い数がいるようで、そのほぼ全ての魔物が私達に向かってきてたはずだから、半分以上は倒せてる計算になるわね。

 異常種や災害種も多いけど、全部が全部っていうワケじゃないし、一番多いのは上位種っぽかった。

 モンスターズランクにもよるけど、元は従魔や召喚獣っていう魔物も多いし、それぐらいならハイクラスであっても簡単に倒せる魔物の方が多いから、短時間でここまで減ったってことなんでしょうね。

 とはいえ、コバルディアを覆っていたはずの結界は既に消えていたから、こっちも結界を頼りにした戦い方は出来ないし、負傷者も多いみたいだから、私も治療に回った方が良さそうだわ。


「アガート・ラム、確かリア・ファルって、広域の回復術式だったわよね?」

「正確には領域内の自己治癒力を上げる術式だ。主の魔法を重ねることで、さらなる回復力を得られよう」


 光性神話級広域支援防御系術式リア・ファルは、アガート・ラムとクラウ・ソラスのどちらでも使うことができる術式となっている。

 ただ大和君より私の方が支援系や防御系の適性は高いから、私が使った方が効果は高い。

 その上で治癒魔法ヒーラーズマジックも重ねられるとなると、多分大和君が使うことは無いんじゃないかしら?

 どれぐらい魔力を使うかは分からないけど、エクストラ・ヒーリングを範囲化できるかもしれないっていうのは大きいわ。


「それってエクストラ・ヒーリングもいけるってこと?」

「可能だ。実際に行使しておらぬ故に確かなことは言えぬが、主の魔力が枯渇することはないであろう」


 なら、後で試してみるとしましょうか。

 部位欠損すら再生するエクストラ・ヒーリングだけど、一度に回復できるのは1人だけ。

 それが複数同時に可能になれば、魔力的にも手間的にも意味は大きい。

 もちろん一度患部を見た方が精度は高いんだけど、そこはアガート・ラムに補ってもらえるでしょう。

 なにせ私の法具スピリチュア・ヘキサ・ディッパーは複数属性特化生活型だから、アガート・ラムだって相当の処理能力を持ってるはずだし。


 そう考えた私は、一度ラインハルト陛下のところに戻ることにした。


Side・大和


 刀身を短く分離させたクラウ・ソラスを1本左手に持ち、残りは背後に浮かせておく。

 そして右手で日緋色刀・天照を抜いた俺は、ウイング・バーストも纏ってウロボロスに対峙した。


 ウロボロスの見た目は、一言で言えば翼を持つ巨大なニシキヘビだ。

 だが鱗は白く、毒の霧なんてものも纏ってないから、とてもじゃないが災害種デス・クリムゾンから進化した魔物だとは思えない。

 元々ヴァイパー種は毒を持ってるから、ウロボロスも間違いなく持ってるんだろうが、それでも災害種と違って毒の霧は出してない。

 その内出してくるかもしれないし、他にも方法があるのかもしれないから、早めに討伐しておくべきだな。


「父さん、使わせてもらうぞ!」


 そう呟いてから俺は、父さんから受け継いだミスト・リベリオンを発動させた。

 結界内を霧で覆い、その霧を体内に取り込んだ相手の血管を内側から膨張させて破壊する。

 しかも対象系でもあるから、対象外に設定されてる生物は、どれだけ霧を吸い込んでも影響がないという、とんでもない術式だ。

 今回結界内にいるのはウロボロスだけだが、誰かが誤って入り込んでしまう可能性はあるから、ちゃんとウロボロスだけを指定している。


 ミスト・リベリオンの結界に包まれたウロボロスは、突然の霧に一瞬動きを止めたが、すぐに俺に向かって動き出した。

 だが同時に、体内から大量の血を噴き出し、もがき苦しんでいる。

 まだ精度がいまいちだから仕方ないが、ここで時間をかける意味もないから、一気に終わらせてやる!


 次に発動させたのは、クラウ・ソラスの光性神話級戦術型広域攻撃対象系術式マハ・ジャルグ。

 クラウ・ソラスを本来の剣輪状に戻してから再び手にし、光を纏わせて光輪と成し、さらにそれを無数に生成する。

 そしてその無数に生成した、クラウ・ソラスの分体とでも言うべき光輪を打ち出し、全方位から攻撃する。

 これがマハ・ジャルグという術式の全貌だ。


 ミスト・リベリオンで体内の血管を破壊されていたウロボロスは、なす術もなくマハ・ジャルグによって細切れとなり、その命を散らした。


「主よ、素材という観点から見れば、あの倒し方はマズいのではないか?」

「……言うなよ。俺もやっちまったって思ったんだから」


 クラウ・ソラスにも突っ込まれたが、細切れはやり過ぎだったと思う。

 あれじゃあ革細工を仕立てるとしても、マントですらできるか怪しいぞ。


「マハ・ジャルグって、思ってたよりエグいよなぁ」

「否定はせぬが、ミスト・リベリオンという術式も相当であろう?さすが、主の父君が開発しただけのことはある」

「まあなぁ」


 実際父さんは、ミスト・リベリオンでニーズヘッグを倒してるからな。

 ウロボロスもいけたかもしれないが、時間をかけると無駄な犠牲が出る可能性があったし、何よりウロボロスはまだ動ける余力があったから、詰めを誤る訳にはいかなかった。

 だからこそマハ・ジャルグを使ったんだが、それで素材をダメにしちまったんだから、ある意味じゃ本末転倒だ。

 素材狩りに来たんじゃないし、そもそも終焉種がいるとは思わなかったから、それが救いではあるか。


「それにしても、終焉種相手に使ったのは2度目だが、本当にすごいよな」

「何がだ?」

「刻印神器だよ。使わなくても勝てたかもしれないけど時間かかったのは間違いないし、こっちも手傷を負わされてた可能性は低くないんだからな」


 刻印神器がすごいのは父さんと母さんを見てたからよくわかるんだが、正直ここまでだとは思わなかった。

 まあ父さんに貰ったミスト・リベリオンも相当だったから、感慨も半減って感じではあるが。


「父君も言っていたであろう。刻印法具は生成者の能力を一段も二段も引き上げるが、刻印神器はさらにその上を行くと」

「言ってたな」


 刻印法具を生成すると生来の刻印も活性化するらしく、法具を生成していない状態でも普通の術師より術式の精度も強度も高くなる。

 その上で法具を生成するから、生成者は生成者にしか相手ができないって言われていたんだが、刻印神器はさらにその上の存在だから、規模も精度も強度も段違いどころか桁違いになってる可能性はあるだろう。

 まあそれがなくても、父さんや母さんに勝てるとは微塵も思えないんだが。


「主よ、指定されていた魔物は、3種とも討伐されている。残るは配下の魔物達だが、未だ多数襲ってきているようだ」

「お、レックスさん達も無事に討伐できたのか」


 真子さんの方とレックスさんの方にも視線を向けると、確かにどっちも戦闘は終わっていた。

 真子さんは既にラインハルト陛下のとこに戻ってるようだが、レックスさん達はスレイプニルを収納してるところだな。


 今更の話なんだが、実は終焉種スレイプニルは、北欧神話で謳われてるような八脚馬じゃなく、普通の馬と同じ四脚馬だったりする。

 その代わり角と翼があるから、名前が北欧神話の神馬と同じっていうだけなんだろうな。


「それじゃあ残った魔物、と言ってもまだすごい数だが、そっちも早く討伐するとするか!」

「うむ。我もこれ程の数の魔物と戦えるのだ、なかなか滾ってきている」

「剣、っていうにはどうかと思う形状だけど、武器だから戦ってこそってことか?」

「然り。おそらくアガート・ラムも、そう思っているであろうな」


 刻印神器や刻印法具は、形状こそ武器とは程遠いものも多いが、基本は武器という扱いになる。

 しかもクラウ・ソラスは聖剣だし、そもそも剣は戦うために作り出されたんだから、クラウ・ソラスがそう感じるのも当然か。

 剣の気持ちなんて、俺には理解できないけどな。


 だけど急いで殲滅する必要があるし、俺も一度ラインハルト陛下のとこに戻って、それから魔物を狩っていくとしますかね。

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