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ヘリオスオーブ・クロニクル(旧題:刻印術師の異世界生活・真伝)  作者: 氷山 玲士
第三章・フィールの夜明け
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騎士の夢

 森に入って、3時間ぐらい経っただろうか。

 そろそろ戻らないといけないな。


「そろそろ時間ね。サイレント・ビーはもちろんフォレスト・ビーの巣も3つ採れたから、クラフターズギルドも喜んでくれるわね」

「だな。他の魔物が狩れなかったことが、若干の心残りってとこか。場所が場所だから仕方ないんだが」

「まあね。代わりにフォレスト・ファンガスにアイアン・ビートルを狩ってあるし、トレントも1匹だけど狩れたんだから、これはこれで良しとしないと」


 森に入った俺達を迎えたのは、大量の魔物だった。

 ハンターが魔物を狩っていなかったとはいえ、正直この増え方は気になる。

 この森に来たのは初めてだが、魔物でも食物連鎖や生態系があるんだから、必要以上に増えることはないはずだと思うんだがな。


 なのに俺達が狩った魔物は、目当てだったサイレント・ビー12匹、フォレスト・ビー139匹、フォレスト・ファンガス16匹、アイアン・ビートル4匹、トレント1匹、さらにはオークとゴブリンも十数匹ずつ狩っている。

 特に驚いたのは、サイレント・ビーが12匹もいたことだ。

 希少種はそれなりの数がいると言われているが、同時に遭遇することは滅多にない。

 なのに俺達が見つけたフォレスト・ビーの巣には、漏れなくいたんだからビックリだ。

 この分だと他の巣にもいるだろうし、もしかしたら異常種のマーダー・ビーだって生まれているかもしれない。


 幸いなのは、マーダー・ビーは(シルバー)(イレギュラー)ランクと、エビル・ドレイクより下のランクになることか。

 いや、普通なら異常種ってだけで、蜂を突いたような大騒ぎになるんだが。

 蜂だけに、ってか?

 ……自分で言っててなんだが、つまんねえよ。


 一応、ハンターズギルドには報告しておくけどな。


 近くにレティセンシアの前線基地があると予想されているが、サーシェスのエビル・ドレイクも討伐済みだから、もしまだ連中がいても、そこに缶詰状態になっている可能性は高いだろう。

 正直、レティセンシアの連中がどうなろうと知ったことじゃないんだが、情報は得ておきたいし、このまま放置しておけば採掘場も危険になり、下手をすればまた封鎖されてしまう可能性もある。

 再開されたばかりの採掘場が、また封鎖されるのは俺達としても困るので、できる限り迅速に狩るようにしようと思う。


「ミーナ、魔法はどんな感じだった?」

「イメージをしっかりして、それを言葉に出すだけで、あんなにも使いやすくなるとは思いませんでした。まだ一撃必殺の威力はありませんけど、それはこれからの私の努力次第ですから、帰ったら早速、練習をしてみたいです」

「ああ、オーダーズギルドの訓練場って、けっこう広いもんな。だけど無茶はするなよ?ミーナは土属性魔法アースマジックに適正があるっぽいから、もし制御にミスったりしたら、それなりの被害が出るからな」


 ミーナにも魔法の手ほどきはしているんだが、まだまだしっかりとイメージできていないみたいだ。

 まあ、ミーナはこれが初の実戦なんだから、まずは戦闘に慣れてもらわないといけなかったんだが。

 当然、いつでもフォローできるようにスタンバっていたから、ミーナには傷一つ負わせてないぞ。


「でも、レベルは上がったんでしょ?」

「はい。おかげさまで、レベル22になりました。まさか1日で、4つもレベルが上がるとは思いませんでしたけど」


 そう、ミーナのレベルは、申告があったように22にまで上がっている。

 3時間前まではレベル18だったから、こんなに早くレベルアップすることは、普通ならばありえない。


 だが俺達も身に覚えがあるし、何よりレベル30ぐらいまでは、それなりに上がりやすいみたいだから、やろうと思えば、もう少しレベルを上げることもできたかもしれない。

 一瞬、パワーレベリングっていう言葉が頭に浮かんだが、間違いなくそれだな。


「さて、それじゃ帰るとするか」

「そうね。どうかしたの?」

「いや、何でもない。行こう」

「はい」


 森を出るまでは、どこから何が襲ってくるかわからないから、ミーナが跨ったブリーズを中央にして、俺が乗ったジェイドが前、プリムが乗ったフロライトが後ろにつくことで、ミーナが狙われるのを防ぐ。

 もちろんソナー・ウェーブとモール・アイも使ってるから、不意打ちに対する備えもバッチリだ。

 まあ、森の様子がおかしいとはいっても来た道を戻るだけだし、道中のフォレスト・ビーは巣ごと狩りつくしてあるから、少なくともフォレスト・ビーに遭遇することはないだろう。


 狩人魔法ハンターズマジックの1つにマーキングっていう魔法があって、同じレイドに所属しているハンターにだけ見えるマークを木とか石とかにつけることができるため、森の中でも道に迷うことは少ない。

 はぐれてもマークを見つけることができれば合流もしやすくなるから、かなり重宝されている魔法だ。

 その代わり街とか村では使えない、というか結界の魔力には弱いから、結界内では一切使用することができない。

 人工物や迷宮内でも使えないそうだから、完全にフィールド用の魔法だ。

 ミーナとはレイドを組んでないから、俺とプリムにしか見えないんだけどな。


 そのマークを逆行することで俺達は無事に森を抜け、そのままフィールに帰り着くことができた。


「おかえり、ミーナ。狩りに行ったと聞いていたが、初めての実戦はどうだった?」


 フィールの門で待っていたのは、驚いたことにレックスさんだった。

 なんでオーダーズマスターが、門番なんかしてるんだよ?


「ただいま、兄さん。思ってたより大変だったけど、すごく勉強になりました。あ、ライセンスです」

「ああ、わかった。って、ちょっと待て!なんでこんなにレベルが上がってるんだ!?」


 フィールに入るためには身分証の確認が必要で、これは領主や領代であっても例外ではない。

 当然オーダーもなので、ミーナがレックスさんにライセンスを見せるのは当然の事だ。


 だが、ミーナのライセンスを確認したお兄様としては、完全に予想外だったんだろう。

 1つぐらいなら上がっても不思議じゃないが、ミーナは4つもレベルが上がったんだから、驚くなって言う方が無理なんだが。


「なんでと言われましても、大和さん達が使ってる魔法を試したぐらいですね。ああ、けっこう魔物を倒しましたから、そのせいもあるかもしれません」


 けっこう倒したといっても、フォレスト・ビーやゴブリンを20匹弱といったところだな。

 格上の魔物とは戦わせていないが、それでも経験を積んでもらうために一発ぐらいは魔法を使ってもらってるから、もし経験値っていう概念があったら、もっとレベルは上がってたんじゃないだろうか?


「な、なるほど、彼のおかげというわけか……」


 いや、そこで納得しないでくれますかね。

 しかも、表情が疲れ切ってますよ?


「心配しなくても、ミーナにはケガ一つ負わせてませんよ」

「そこは心配していないよ。だけどレベル22になったということは、これでミーナも、正式にオーダーを名乗ることができるようになったということだ。これが良いことなのかどうか、その判断ができなくてね」


 ああ、そっちか。

 確かに、一気にレベルが上がったことによる弊害は、少なからずあるだろうな。


 レベルが上がると魔力量が増え、フィジカリングやマナリングによる強化の幅が広がる。

 細かく言えばまだあるが、大まかに言えば、この3つはかなり重要度が高い。

 身体強化にしろ魔力強化にしろ、どれぐらい強化できるようになったのかをしっかり把握しておかないと、逆に命を落とすことにつながるからな。

 かく言う俺は一度も試したことないから、今度しっかりと確認しておこうと思ったね。


「この後時間があれば強化の幅は確認するつもりですし、できなくても明日やりますから、そこまで心配しなくても大丈夫ですよ?」

「それならいいんだが……」

「レックス、せっかくミーナもオーダーを名乗れるようになったいうのに、あなたがそんなに過保護でどうするの?」


 おっと、ここでミーナにとっては義姉になるローズマリーさんのご登場ですか。


「マリーか。俺にとってミーナは可愛い妹なんだから、心配するのは当然だろう?」

「あなたのそれは行き過ぎです。それに、せっかく可愛い妹が念願のオーダーになったんだから、最初にお祝いの言葉を述べるべきじゃなくて?」


 おお、そう言われればまだ、おめでとう、の一言も聞いてないな。

 いや、一気にレベルが上がったことに驚いてたから、わからない話でもないんだが、オーダーになるのがミーナの夢だったんなら、確かにまずはお祝いの言葉をかけるべきか。


「そ、そうだった。すまない、ミーナ。そしておめでとう。明日からは正式なオーダーとして任務に励んでもらうことになる。今まで以上に心してくれよ?」

「ありがとうございます、兄さん」


 嬉しそうだな、ミーナ。

 オーダーになるのが夢だってのは初めて知ったけど、夢が叶って良かったな。


Side・ミーナ


 牧場にブリーズとジェイド、フロライトを預けた私達は、報告のためにハンターズギルドに向かっています。


 この度私は、正式に(カッパー)ランクオーダーとなり、ライセンスの更新も済ませてあります。

 少し頬が緩んでるような気もしますが、それでもニヤニヤしているわけではありません。


 オーダーになるには、正確にはオーダーを名乗れる(カッパー)ランクになるにはレベル21以上になる必要があり、その上でオーダーズマスターから認可していただくことで、(カッパー)ランクオーダーにランクアップすることができます。


 私は今日レベル22になり、所属しているフィールのオーダーズマスターでもある、兄のレックスから認可もいただきました。

 これで私は、幼い頃から憧れていた父さんと同じオーダーになれました。


 ですが嬉しいことは嬉しいのですが、思っていたより感動はしていません。


 理由はわかっています。

 私には新しい夢ができましたから、幼い頃からの夢であるオーダーになることも、幼い頃ほど、心に響かなくなってしまっていたのでしょう。


 だからなのか、私はごく自然に大和さんの前に立つと、笑みを浮かべながら口を開くことができました。


「ありがとうございます、大和さん」

「ん?急にどうかしたのか?」

「はい。大和さんのおかげで、私はオーダーになるための条件を満たすことができ、兄さんからも認可を頂けました。オーダーは(カッパー)ランクにならなければ、オーダーを名乗れませんから」

「へえ、そうだったのか」


 忘れがちですが、大和さんは客人まれびとです。

 ですから、ヘリオスオーブの一般常識にはかなり疎いんです。

 仕方のないことではありますが。


「はい。これで私の夢は叶いました。ありがとうございます」

「いや、別に俺のおかげってわけでもないだろ?もう少し時間はかかったかもしれないけど、ミーナなら間違いなく、オーダーになれただろうからな」


 そう仰ってくれますが、私は同期の中で、ただ1人残った(アイアン)ランクなんです。

 つまりそれは、私は戦いには向いてないのではないか、ということになるでしょう。

 事実、父さんにも兄さんにも、そう言われました。


 だけど私は、どうしても父さんのようなオーダーになりたかったんです。

 ですからたった1人の(アイアン)ランクであろうと、一生懸命任務に従事してきたつもりです。

 幸いフィールの皆さんは良い方ばかりでしたから、私のような者にもよくしていただきました。


 だから私は、自分でも気が付かないうちに焦っていたのだと思います。

 大和さんと初めてお会いした時も、一目惚れしつつも自分と同年の方が、自分よりも遥かに高みを歩いていることに憧れ、同時に焦りに拍車をかけていたのではないかと思います。


 ですがその日の夜、私は大和さんのお部屋に泊まることになってしまいました。

 正確には、プリムさんとお2人で借りているハウスルームの一室にですが、私が泊まることは急遽決まったわけですから、私は誰にも伝えられていませんでした。

 そもそもオーダーは、外泊する際は必ず届け出をする規則がありますから、少なくともどこかの詰め所に届け出る必要があったんです。

 ですので大和さんが付き添ってくださったのですが、そこで私達は、ノーブル・ディアーズというレイドに声をかけられることになりました。


 ノーブル・ディアーズはアーキライト子爵の奥様が従魔契約をしていたワイバーンを殺害し、フィールを孤立させることに一役買っていた集団でしたが、私が1人でオーダーズギルドに届けを出しに行っていれば私は捕まり、女としての辱めを受け、不法奴隷として売り払われていたかもしれません。

 領代の所有するワイバーン、しかも従魔契約をした個体を殺害したのですから、(アイアン)ランクとはいえオーダーを攫うことなど、ノーブル・ディアーズにとっては何でもないことだったでしょう。


 ですが、大和さんが一緒についてきてくださったおかげで私は無事でしたし、ノーブル・ディアーズを捕らえることまでできました。


 多分その時に、私には新しい夢ができたんだと思います。


「大和さん、愛しています。私も、大和さんと結婚させてください」


 大和さんと結婚し、幸せな家庭を築くこと。


 これが、私の新しい夢です。

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