母の想い
Side・真桜
私と夫の飛鳥がヘリオスオーブにやってきて、今日で3日経った。
末の息子の大和が突然行方不明になって、色々と調べたらどうやら白い大きな蛇に飲み込まれたことがわかって、そこからは怒涛の日々だったよ。
その蛇の死体は見つかったけど、お腹の中に大和はいなかったし、消化されたような形跡もなかった。
それ以前にその蛇には内臓がなかったから、どういうことなのか最初は意味がわからなかったぐらい。
だけどフェイルノートやカラドボルグが変な魔力を感じたっていうから、オーストラリアの七師皇と結婚した先輩にも協力してもらって調べに調べたよ。
その結果、大和は異世界に転移したんじゃないかって結論付けられたからさあ大変。
この情報は七師皇の間だけで秘匿されてるけど、多分漏れてるんだろうなぁ。
それを承知の上で、私と飛鳥は大和を助けるべく、神社のことは長男と長女に任せて、さらに先輩達にも協力してもらって、その蛇の死体を通じてカラドボルグ、フェイルノート、エクスカリバー、カリスっていう4つの刻印神器を使って、ヘリオスオーブって呼ばれてる世界にやってくることができたんだ。
大和の印子、あ、魔力っていうんだっけ。
それを辿ったから大和の近くには出られたんだけど、まさか戦争中で、しかも大和が危ないところだったからさらに大変だったよ。
すごい大怪我してたけど、同じくヘリオスオーブに転移してた親友の真子の治癒魔法っていう魔法ですぐに治っちゃったから、驚いたけど安心したなぁ。
真子が生きてたことも驚いたけど、大和と結婚してたことはもっと驚いた。
さらにお嫁さんが、真子を含めて12人もいるって聞いて、思わず詰め寄っちゃったぐらい驚いたよ。
娘のサキちゃんも生まれてたから、私もおばあちゃんになっちゃったのかと思って、感慨深いと同時に複雑な気持ちだったけどね。
でもだからこそ、大和が私達と一緒に帰るつもりはないってわかっちゃったから、お母さんとしては寂しいよ。
いずれ大和は家を出ることになってたし、奥さん達や子供と引き離すワケにはいかないから、思ってたのとは全然違うけど、私も大和の将来をお祝いしないといけないんだと思う。
でも二度と会えなくなるのは寂しいから、私達が日本に帰るまでは、しっかりと大和とコミュニケーションをとるつもり。
あ、ハンターズギルドってとこでテンプレに遭遇して、面白がってたらいろんな人達に迷惑かけちゃったから、それ以降はちゃんと自粛しているよ。
そして今日、天樹城っていうすごく大きな樹の中に作られたお城にご招待されて、大和達が住んでるフィリアス大陸っていう大陸を治めてる天帝陛下に謁見するんだ。
天帝陛下も私達と会うのを楽しみにしてくれてるそうだけど、王様に会うのは初めてだから、礼儀とか作法とかどうしたらいいのか分からない。
だから大和に教えてもらったんだけど、天帝陛下の妹のマナちゃんとユーリちゃんはそこまで気にしなくてもいいって言ってくれたから、すごく気が楽になったよ。
それでも礼儀は必要だから、最低限の礼儀は教えてもらったけどさ。
その私達の前に、アミスター・フィリアス連邦天帝国天帝ラインハルト・レイ・アミスター陛下が、座して待たれていた。
親しい者ばかりってことで、謁見の間じゃなくて天帝家のプライベート空間にある応接室に案内されたけど、ここが樹の中だって信じられないなぁ。
「遠いところ、よくお越し下さった」
「ご招待、ありがとうございます。息子がお世話になっているようで、この場を借りて御礼申し上げます」
「こちらこそ、ご子息にはいつも助けられています。さあ、どうぞお掛けください」
「はい、失礼します」
陛下に促されて、私と飛鳥も用意されている椅子に腰掛ける。
「紹介します。こちらが妃達で、エリス、マルカ、シエルです」
立ち上がってスカートを軽く摘み、優雅な一礼をしてくださる天妃様方。
物語の王妃様そのものだから、なんか感激だなぁ。
それでも事前に聞いてる話じゃ、天帝陛下も天妃様達もハンターらしいし、ハンター活動をしてる際は護衛もいないらしいから、私達からしたら危ないんじゃないかなとも思う。
下手な護衛よりも強いし、エンシェントクラスっていうのに進化してるそうだから、少々の荒事とかは問題ないらしいけど。
「そして曾祖母のサユリです。お二方と同じ世界出身ですが、年代的には数十年前になると聞いています」
「初めまして。サユリ・レイナ・アミスターと申します。ようこそいらっしゃいました、心から歓迎致します」
ショートの黒髪の和ドレスの若い女性だけど、サユリ様って108歳なんだよね。
親友の1人と同じ名前だから驚いたけど、彼女は日本で学校の先生をしてるから、名前が同じっていうだけなんだけどさ。
それにしても、とても108歳には見えないなぁ。
なんか羨ましいよ。
「ありがとうございます。皆様には息子がお世話になっており、私どもとしても感謝しております」
「とんでもありません。彼がいなければ、今頃この国はおろか大陸は戦火に包まれていたでしょうし、先日の魔族の襲来を防ぐ術もありませんでした」
「話は伺っていますが、息子がそこまでのことをしていたとは、今でも信じられない気持ちでいっぱいです」
飛鳥って息子には厳しいんだよね。
普段はそうでもないんだけど、刻印術や戦いに関しては妥協を許さないし、だからこそ大和も、幼い頃からしっかりと剣術を学んでいるんだよ。
それでも末っ子だし、幼馴染も年上ばかりだから、けっこう可愛がってもらってたけどね。
教師をしてる親友なんて子宝に恵まれなかったこともあって、殊の外大和を可愛がってたから、行方が分かったら絶対についていくって言ってきかなかったもん。
4つの刻印神器を使っても、私と飛鳥を転移させるのが精一杯だったから、何とか諦めてもらったけど。
「お父上からすればそうかもしれませんが、だからこそなのですよ。彼はヘリオスオーブに転移した直後から目覚ましい活躍をしていましたが、お父上に鍛えられた結果だと口にしていましたからね」
「恐縮です。ですが息子はまだ未熟ですから、私達が帰るまでの間になりますが、稽古をつけるつもりでいます」
「それは素晴らしい。できれば私も、一度稽古をつけていただきたいぐらいですよ」
もしかしたらって言われてたけど、この天帝様、本当にそんなこと言っちゃったよ。
それぐらいは飛鳥なら引き受けてくれるけど、容赦はしてくれないよ?
加減なんかしても力をつけることはできないっていつも口にしてるし、実際私達はそうだったから。
「私で良ければ。ですが私は、加減をするつもりはありませんよ?」
「むしろその方がありがたい」
やっぱりこうなっちゃったかぁ。
同行してくれてるマナちゃんが諦めたような顔してるけど、天妃様達も同じような顔してるから、こうなるってわかってたんだろうね。
「口を挟んで申し訳ありません。お兄様、考え直すおつもりはありませんか?」
「何故だ?」
「大和達もお義父様に稽古をつけていただいていますが、大和、ミーナ、アテナ、リディア、ルディアの5人がかりでも、お義父様には掠り傷どころか指一本触れられなかったんです」
「……そうなのですか?」
「見どころはありますが、まだ若いですから、攻撃は読みやすかったですね。他の方達も参加したそうでしたが、妊娠中ですからさすがに遠慮していただきました」
確かに攻撃は読みやすかったよね。
他にもファルコンズ・ビークだったかな?
その人達も希望してきたから相手してたけど、こっちも軽くいなされて終わってたよ。
飛鳥のレベルは知ってるから落ち込むようなことはなかったけど、逆に力の差がありすぎて困ってたかな。
「エンシェントクラスをそんな簡単に……。いや、であるならばこそ、是非ともお願いしたい」
うわ、逆にすっごくやる気になってるよ!
ちゃんと加減してくれると思うけど、ケガさせちゃうかもしれないから、真子にも来てもらった方がいい気がするなぁ。
お城だから治癒魔法を使える人はいると思うけど、真子もエレメントヒューマンっていうのに進化してるから、効果も高いだろうし。
「わかりました。それと、この場を借りてお願いがあります」
「お願いですか?」
「はい。私どもはいずれ、元の世界に帰るつもりでいます。ですが息子は、この世界に残ると決めています。ですからそのために、私はエニグマ島という島を解放したいと思っています」
「エニグマ島をということは、まさかニーズヘッグを討伐されるおつもりか?」
「はい。この世界に残す息子のためにできることは、そう多くはありません。それにその島には、神金鉱山があるかもしれないのでしょう?剣が折られたこともありますから、私としてはその島を解放し、あるとされている神金を使った剣を作ってもらいたいと思っているのです」
たとえ反対されても、飛鳥はニーズヘッグっていう竜を倒すと思う。
神金鉱山があるとは限らないけど、それは解放してみないと分からないんだから、もし無くてもそれはそれで仕方がない。
だけどニーズヘッグがいる限りは調査もできないし、いなくなれば近海も今より安全になるから、それだけでも価値はあると思う。
私も何かしたいと思ってるから、何かないかしっかりと考えるつもりだよ。
「それは……いえ、あなたなら可能なのですね?」
「実際に見てみないと正確なことは言えませんが、おそらくは。息子やファルコンズ・ビークの方々からは、私ならば容易だろうと言われていますが」
ニーズヘッグはこないだ飛鳥が倒したレッド・ドラゴンやバーニング・ドラゴンに似てるそうだし、大きさもほとんど違わないって話だから、私も絶対に勝てると思ってる。
終焉種っていう国を簡単に滅ぼせる竜だから、そこがちょっと心配ではあるけど、飛鳥が負けるなんて考えられないもん。
「なるほど。それは私からもお願いしたいところです。では私も時間を作りますので、見学させていただけますか?」
「陛下がそう仰るだろうとも言われていますが、本当にお越しになられるのですか?」
「もちろんです。大和君の師でもあるあなたの戦いを見る機会など、そうそうあるものではありませんからね」
「ファルコンズ・ビークの方々も、そう言っていましたね。陛下がよろしければ、私としては断る理由はありません」
やっぱりこうなったか。
だけど大和達も言ってたけど、飛鳥の戦い方って、ヘリオスオーブの人達には参考にならないと思うんだ。
私も人のことは言えないけど、余計な被害が出ないように速攻で終わらせるんじゃないかなって思う。
「感謝します。では大和君とも話をして、早急に都合付けましょう」
「お兄様、アレグリアのグリシナ陛下へも、話を通す必要がありますよ?」
「分かってるさ。だが確実に討伐できるようだし、アレグリアにとっても益は大きい。首を縦に振ってくれるだろう」
それはそうだよね。
勝手に討伐しても問題ないと思うけど、そのアレグリアっていう国を軽視してるって受け取られちゃったら、せっかくまとまったフィリアス大陸の情勢が不安定になっちゃうかもしれない。
それは避けないといけないから、その国の王様にもしっかりと話を通しておかないと、余計な問題を背負っちゃうことになるよ。
トラベリングっていう瞬間移動の魔法もあるから、それを使えばすぐに行けるっていうのも大きいよね。
地球じゃ瞬間移動なんてできないし、他にもできない魔法は多いから、ヘリオスオーブでの生活って便利だなって思う。
私も移住したいって思うぐらいだよ。
だけど飛鳥は七師皇だし、お家のこともあるから、さすがにそれは諦めるしかない。
残念だけど、私達にとってヘリオスオーブっていう世界はある意味じゃ夢の国だから、帰るまでの間、楽しい夢を見させてもらおうと思う。
だから大和、それまではお父さんとお母さんに、最後の息子孝行をさせてよね?
今年もご覧いただき、ありがとうございます。
明日も投稿します。




