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ヘリオスオーブ・クロニクル(旧題:刻印術師の異世界生活・真伝)  作者: 氷山 玲士
第三章・フィールの夜明け
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従騎士の初陣

 フレデリカ侯爵の屋敷で思わぬ時間を食ってしまったが、俺としても興味深い話だったな。

 とくに騎士魔法オーダーズマジックは、できることなら俺も使ってみたい魔法が多かった。

 それにフレデリカ侯爵の悩みは俺達にも理解できるものだったから、つい聞き入っちまったっていう理由もある。


 なのでクラフターズギルドには立ち寄りこそしたものの、ラベルナさんには簡単に獣具の進捗状況を聞いて、フィーナとは少し雑談したぐらいだった。

 明日こそ、獣車の設計図を完成させたいもんだ。


「それで、今日はどんな依頼を受けるんですか?」


 駆け足でハンターズギルドに来た俺達だが、なんとそこでミーナが待っていた。

 今日は非番らしいので、俺達がどんな狩りをしているのか見てみたいそうだ。

 ついさっきハンター登録も済ませたそうだから、準備もバッチリだ。

 非番なんだから、ゆっくり休んだらいいと思うんだけどな。


 ちなみにミーナは、オーダーズギルドの装備での参戦だ。

 今は非常時ということもあって、ハンター登録をしているオーダーが優先的に依頼を受けてくれている。

 だが装備を整えるためには金がかかるから、緊急の場合はオーダーズギルドの装備をそのまま使ってもいい規則があるそうだ。

 ただしその場合は、ハンターズギルドの報酬が3割も減るそうだが。


「そういえば、クラフターズギルドから依頼されてるグラス・ボアは、まだ狩れてないのよね。こっちにもグラス・ボアの討伐、あるいは素材収集依頼があるといいんだけど」

「おお、忘れてたな。グラス・ボア、グラス・ボア……あったぞ。依頼者はクラフターズギルドだから、俺達が受けた依頼と同じだと思う」


 日付を見る限りじゃ、1ヶ月前の依頼なんだけどな。

 他にもクラフターズギルドからの依頼は多く、ホーン・ラビットにレイク・ラビット、フォレスト・ビーの巣の収集依頼なんてのもあって、いずれも先月の日付が踊っている。


「フォレスト・ビーで思い出したけど、確かサイレント・ビーの討伐依頼もなかったっけ?」


 おお、そうだった。

 確か採掘場の近くだったな。サイレント・ビー、サイレント・ビーっと。


「あったぞ。やっぱり第三坑道近くの森だ。もう鉱山は再開されてるし、これはマズいな」


「そうね。今日はそっちに行きましょう。採掘場にいる犯罪奴隷はあいつらだから別にどうなってもいいけど、監督官とかに何かあったら大変よ」


 さりげなく本音が漏れたが、俺も同意見だ。

 幸い俺達にはジェイドとフロライトがいるし、ミーナもバトル・ホースを従魔にしてるから、移動に関しては問題ない。


 先日から再開された採掘場だが、使われてる犯罪奴隷は全員がフィールで悪行を働いていた元ハンターどもだ。

 男だけのレイドもあったし、全体的に見ても男の割合の方が多かったから、俺が両足を粉々に砕いたマッド・ヴァイパー以外の男どもは、ハイクラス以外は鉱山労働に従事している。

 女も何人かはそこにいて、多くは鉱山とかで働く監督官とか採掘師の世話をしたりしているが、中には娼婦になった奴もいるそうだ。


「大和」

「なんだ?」

「坑道にいる女奴隷は慰安婦にもなってるし、盗賊とかが出たら真っ先に差し出される存在だけど、だからって大和が抱いてもいい理由にはならないからね?」


 まさかの浮気を疑われた!?

 俺だってあんな女どもに興味はねえし、願い下げに決まってるだろ!

 しかも新婚2日目でそんな疑惑を持ち上げられるなんて、これからの夫婦生活に大きな不安が!


「冗談よ。そもそも今回は第三坑道じゃなく第一坑道での作業を優先させてるし、封鎖されてる第二坑道の復旧も考えてるって話だったはずよ」


 ビックリしたなぁ、もう。

 というかミーナさん、クスクス笑うのは止めていただけませんか?


「相変わらず仲が良いですね。うらやましくなります」


 仲が良いのは当然ですよ。

 何せ、昨日結婚したばかりの新婚さんですから。

 っと、惚気てる場合じゃないな。

 ターゲットも決まったし、第三坑道東の森に行くとするか。


Side・ミーナ


 私は今、ブリーズの上で戸惑っています。

 先日、レベッカちゃんに唆されたとはいえ、一念発起して、兄さんに無理やり今日を非番にさせてもらってハンター登録までしたんですが、まさか初陣で、希少種のサイレント・ビーを狩りに行くことになるとは思ってもいませんでした。

 あ、こちらが私のライセンスになります。


 ミーナ・フォールハイト

 17歳

 Lv.18

 人族・ヒューマン

 オーダーズギルド:アミスター王国 フィール支部所属

 オーダーズランク:(アイアン)

 ハンターズギルド:アミスター王国 フィール

 ハンターズランク:(アイアン)(ティン)


 これが私の初依頼になりますからまだ一番下の(ティン)ランクですし、この依頼を達成すれば(アイアン)ランクになることができますが、レベルもランクもまだまだなんです。

 オーダーズランクも従騎士扱いの(アイアン)ランクですから、オーダーとしてもハンターとしても、未熟どころか駆け出しですね。

 オーダーズギルドに登録したのは2年前なのですが、そこから上がったレベルも3つだけですし……。


 あ、ブリーズというのは、私が従魔契約をしているバトル・ホースの名前です。

 女の子です。

 ソフィア伯爵のご厚意で、オーダーズギルドの馬は順次バトル・ホースに変わっていっているんですが、その際に私も契約をすることができました。


 普通なら(アイアン)ランクオーダーの私が契約するなんておごがましいことなんですが、私の父は王都にあるオーダーズギルド総本部のアソシエイト・オーダーズマスターをしていて、しかも(ゴールド)ランクハンターでもあるんです。

 ですからうちはオーダーの家系ではありますが、それなりに裕福でもあります。

 その父さんが私のためにバトル・ホースを購入し、従魔契約をさせてくれたんですよ。


 ですが妹で、しかも(アイアン)ランクオーダーの私が従魔契約をしてしまったものですから、契約をするつもりのなかったオーダーズマスターの兄さんも、相性のいいバトル・ホースを、しかも自費で購入することになってしまったんです。

 あれからしばらくは、兄さんの私生活がすごく質素になっていましたね。


 その一部始終をご覧になられていたソフィア伯爵が、娘には甘いのに息子には厳しい、と仰っていましたが、私もその通りだと思います。


 そのブリーズに乗って、私はフィールの南にあるマイライト採掘場に来ているんです。

 隣にはヒポグリフに、いえ、2匹とも希少種に進化していたんでした。

 ヒポグリフ・フィリウスのジェイドに乗った大和さん、ヒポグリフ・フィリアに乗ったプリムさんがいらっしゃいます。


 ジェイドとフロライトの獣具はまだ製作中ですが、幸いにも体格が馬やバトル・ホースに近いこともあって、今回はバトル・ホース用の獣具を使用しているそうです。

 バトル・ホースは空を飛べませんし、そもそも翼がありませんから、獣具も空を飛ぶのに適した作りをしていません。

 ですから空を飛ぶのは、緊急時のみと決められているそうです。

 ジェイドとフロライトは不満そうですが、こればかりは仕方ありません。


「やっぱり、こっちには誰もいないわね。第一坑道はけっこう広かったからあれだけの人数がいても問題ないんでしょうけど、少しぐらいはこっちに回してもいい気もするわ」

「同感だが、監督官の問題もあるだろうからな。それにあの人数なら一気に掘り進めることもできるだろうから、魔銀ミスリル晶銀クリスタイトも大量に採れるんじゃないか?」

「確かにね。あたし達の武器ができるまでどれぐらいかかるかはわからないけど、今使ってる武器もかなり痛んできてるから、魔銀ミスリルが増えるのはありがたいか」


 大和さんとプリムさんの武器は、エビル・ドレイク討伐の際に、アルベルト工房で手に入れたミスリルブレードとミスリルハルバードなのですが、ゴブリン・クイーンやエビル・ドレイクを討伐した影響で、魔力の流れが悪くなってきているそうです。

 異常種と戦えばその場で武器が壊れてもおかしくありませんから、お2人の武器が痛んできているのも当然と言えます。

 まだ使えているそうですが、お2人ともハイクラスですからいつ壊れるかわからず、お2人としてもかなり加減してマナリングを使っているみたいなんです。


 予備の武器もいくつか所有しているのですが、ミスリルブレードやミスリルハルバードほどではないため、既にかなりの数の武器を使い潰しているので、使用頻度はあまり多くないと聞いています。

 ですからお2人としても、予備の武器を用意しておくためにも、魔銀ミスリルは必要なんです。


 ちなみにマイライト鉱山の埋蔵量は信じられない程あるらしく、数百年前に開発が始まったそうなのですが、未だに枯渇する気配が見えないそうです。


「坑道や採掘場のことはひとまず置いておいて、まずはサイレント・ビーの討伐に集中しましょう。その後のことは、その時に考えればいいでしょ?」

「そうするか。警戒はしておくが、さすがに浅いとこに結界があるわけでもないだろうからな」


 本来ならここは私のような(アイアン)ランクオーダー、(ティン)ランクハンターが来るような場所ではありません。

 ですから大和さんは反対されていたんですが、お2人がいれば危険は少ないということは間違いありませんし、今日するつもりですから、焦っている自分もいます。

 ですからプリムさんの後押しもあって、無茶を承知でこの場についてこさせていただいたんです。


「大丈夫よ、ミーナ。あたしがちゃんとフォローするから」

「ありがとうございます。そういえば、大和さんはご存知なんですか?」

「一応はね。今朝、ご飯を食べてる時に教えたから私の母様も知ってるけど、母様はあんた達を応援してたわよ」


 それはすごくありがたいです。

 ところで、肝心の大和さんはどうなんでしょうか?


「さすがに渋ってるわね。ヘリオスオーブが一夫多妻だってことは理解してるから、いずれはそうなることを覚悟してるみたいなんだけど、まさかあたしと結婚した翌日に、なんてのは想定外だったみたい。だけど大和は、ヘリオスオーブに来て日が浅いこともあるから、知り合った同年代の女っていえばあたしにあんた、フラム、それからフレデリカ侯爵ぐらいなのよ」


 そこでフレデリカ侯爵の名前が出てきたことが驚きですが、言われてみればフレデリカ侯爵は19歳ですから、同年代というのも間違いではありません。


 ああ、なるほど。

 既に侯爵家を継がれているフレデリカ侯爵と結婚ということになれば、大和さんがお婿さんとして侯爵家に入ることになってしまいますから、今回大和さんに告白する人にフレデリカ侯爵は含まれなかったんですね。

 というか、マリーナさんとフィーナさんが入ってませんけど、それはエドワードさんのお嫁さん候補だからなんでしょうか?


「他にも理由はあるんだけど、それは大和と結婚できてたら話すわ」


 すごく気になりますけど、今聞いてはいけないことなんですね。

 わかりました、教えてもらえるように、大和さんを射止めてみせます。


「それとね、大和はあんたとフラムなら、いずれ結婚してもいいって思ってるみたいよ。もちろん先のことはわからないけど、今回の功績を踏まえてみれば、あたしとしてはなるべく早く脇を固めておきたいのよ」


 なるほど……。

 確かに今回のフィールを救った功績は、大和さんもプリムさんも、とてつもなく大きいです。

 そんなハンターの機嫌を損ねることは、国としても大きな損失にしかなりませんから、大和さんと同年代の貴族の娘をあてがうことで、縁を深めることは間違いありません。

 いえ、貴族どころか、王族があてがわれる可能性すらありますね。

 さすがに話が大きくなりすぎている気もしますが、大和さんの年齢とレベルを考えれば、不思議なことは何もありません。

 これは逆に、私やフラムさんの方が委縮してしまいそうです。


「アミスターの貴族なら、大丈夫だと思うけどね。というかミーナのお父さんって騎爵で、アソシエイト・オーダーズマスターじゃなかったっけ?」

「そうですね。ですが騎爵は当代限りですから、厳密な意味では貴族ではないと思っています。一応代々の当主は騎爵位を賜っていますが、どちらかと言うとオーダーの家系といったほうがしっくりくると思います」


 私の生家のフォールハイト家は代々高ランクオーダーを輩出していることで、それなりに有名です。

 ですが爵位はありませんので、貴族ではありません。

 父や代々の当主は騎爵という爵位を頂戴していますが、騎爵は(ゴールド)ランクオーダーに贈られる称号に近い爵位で、しかも当代限りしか名乗ることを許されていませんから、とても貴族とは言えません。

 幸い父さんは陛下から騎爵位を賜っていますし、(ミスリル)ランクオーダーであり(ゴールド)ランクハンターでもありますから、生活には困っていないどころか裕福な方だと思いますが。

 跡取りの兄さんも、フィール支部のオーダーズマスターに任命された際に騎爵位を賜り(ミスリル)ランクオーダーになっていますから、私が嫁いでも何も問題ありません。


 オーダーズランクは他のギルドとは少し違って、一足飛びにランクアップすることも珍しくありません。

 兄さんを例に出しますが、兄さんは3年前にハイヒューマンに進化し、その時に(シルバー)ランクオーダーにランクアップしました。

 そして2年前にフィール支部のオーダーズマスターに任命されたために、騎士団長位に相当する(ミスリル)ランクまで、一気にランクアップしたんです。

 兄さんが騎爵位を賜ったのも、その時になります。

 ちなみにその下の(プラチナ)ランクは近衛騎士となるロイヤルオーダーですが、もし兄さんがロイヤルオーダーになったとしてもランクダウンすることはありません。


 それと、アソシエイト・オーダーズマスターというのは総本部のサブマスターのことですから、父さんはオーダーズギルドのナンバー2ということになります。


「おーい、いつまでも話してないで、そろそろ行くぞ」

「ああ、ごめん。すぐに行くわ。行きましょう、ミーナ。あたしから離れないように、ブリーズにもしっかりと伝えておいてね」

「はい。申し訳ありませんがよろしくお願いします」


 狩りに来たのに、いつまでもお話しをしているワケにはいきませんね。

 大和さんに呼ばれて私とプリムさんは、ブリーズ、フロライトと一緒に、森の中に入っていきました。

 ブリーズにはフロライトから離れないようにしっかりと伝えましたから、よっぽどのことがあっても大丈夫でしょう。


 オーダー、ハンター通じて初めての実戦ですが、精一杯頑張りますよ!

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