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竜の戦い

Side・真子


 コンテナを抱えたドラゴンが下りていく中、1匹だけ残ったドラゴンを倒すために、私はエオスの背を借りて空に上がった。

 エオスと竜響契約を結んでいるのはマナ様だから、本来ならこの役目は私じゃないんだけど、マナ様はサキちゃんを産んだばかりだから、今回の戦争には参加していない。

 だから私がエオスに乗せてもらうことになったんだけど、竜響契約を結んでいるワケじゃないから竜響魔法レゾナンスマジックは使えないため、エオスの戦力はダウンしてしまう。

 それでも私がエオスに乗せてもらう理由は、大和君の援護を的確に行えるのが、私しかいないからよ。

 正式に開戦したワケじゃないし、早々に手札を晒すのは避けたいから、フライングやスカファルディング、フライ・ウインドを使った空中戦をするつもりはない。

 だから弓術士か魔導士による援護が最適になるの。

 さらにメインで戦うのは大和君を背に乗せたアテナだから、そっちの面から見ても私が適役ね。


「真子さん、打ち合わせ通りに」

「分かってる。刻印術はなるべく使わず、それでいてアテナメインね」


 神帝が来ているかもしれないから、いずれ私達の存在は気取られてしまうけど、だからといって早い段階で出てこられるのは避けたい。

 だから刻印術も使わないつもりだけど、相手は(オリハルコン)ランクのバーニング・ドラゴンと背に乗っている数人の魔族だから、倒せないとは言わないけど時間がかかるのも間違いないわね。

 理由が理由だし、面倒だけど仕方ないって理解しているんだけどさ。


「げっ!いきなりブレス吐いてきやがった!」

「礼儀も何もないわね!」


 ところが空に上がっている最中、突然バーニング・ドラゴンがブレスを吐いてきた。


「まったく、魔法と刻印術が似てなかったら、防げなかったじゃないの」

「俺達にとってほとんど日常的なもんだし、癖にもなってますからね」


 バーニング・ドラゴンのバーニング・ブレスとでも呼ぶべきブレスは、大和君のアイス・ウォールと私のウインド・ウォールで何とか防いだ。

 魔法と刻印術が似ているとはいえ、私達は刻印術師だから魔法より刻印術の方が使い慣れている。

 魔法も慣れてきてるけど、精度や強度は一段劣るから、防げて一安心だわ。

 あのままだったらポラルの一角を掠めるか、下手したら直撃していたからね。


「まだ開戦すらしてないのに、町1つが壊滅しかねないブレスを吐いてきたんだから、これは話し合いの余地はないな」

「もともとそんな余地はなかったけど、これで遠慮する必要もなくなったわね」


 魔族相手に遠慮するつもりなんて、微塵もないけどね。


「そらよっ!」


 バーニング・ブレスのお返しとばかりに、大和君がアイスエッジ・ジャベリンを放った。

 大和君が好んで使う固有魔法スキルマジックだけど、マルチ・エッジを生成した上でミスト・ソリューションも使っている。

 刻印術の使用制限に思いっきり引っ掛かってる気もするけど、マルチ・エッジは氷属性魔法アイスマジックで完全に覆われてるし、ミスト・ソリューションも命中しない限り発動しない。

 刻印術と似た魔法も多いし、神帝がグラーディア大陸に転移してきたのは200年近く前になるから、即断はできないでしょう。

 私も生成済みのエアー・スピリットに魔扇・瑠璃桜を接続させ、風属性魔法ウインド・マジック火属性魔法ファイアマジックを纏わせ、そこからウインド・アローとファイア・アローを放って牽制しておく。

 アテナとエオスも、一緒に開発していた固有魔法スキルマジックブレイズライト・ブレードを爪に纏わせているし、隙が出来たらブレスの方も使うでしょうね。


『せえのっ!』

『続きます!』


 アテナが高速で接近し、バーニング・ドラゴンに爪を振るう。

 エオスも続いて爪の一撃を加え、離れ際追撃を加えられないよう、私と大和君が魔法で援護する。

 背中の魔族も魔法を使ってアテナとエオスを接近させないようにしてるけど、ハイデーモンっぽいのに魔法の精度が今一つな気がするから、弾くのはさほど難しくない。


『それそれっ!』


 ヒット&アウェイを繰り返し、アテナはバーニング・ドラゴンに傷を増やしていく。

 バーニング・ドラゴンもやられてるだけじゃなく、アテナに向かって牙や爪を振るってきてるんだけど、背中の大和君がしっかりと防いでいるし、私やエオスの援護もあるから、いまだに傷一つ負っていない。


『ブレスがきます!』


 業を煮やしたのか、バーニング・ドラゴンが再びブレスを吐くために口を大きく開けた。

 アテナは旋回中だし、位置的にポラルが巻き込まれかねないわね。


「エオス、こっちもブレスを!」

『畏まりました!』


 相殺できるかは分からないけど、エオスのバーストストーム・ブレスなら威力を削ぐことは出来るだろうし、私も援護するつもりでいる。

 一瞬遅れてアテナのマグマライト・ブレスも放たれ、3つのブレスが空中でぶつかり合う。


「アテナ、真子さん、エオス!このまま一気に押し返すぞ!」

『分かった!』


 大和君の指示に従い、アテナとエオスはブレスの威力を強める。

 私もウインド・スフィアを周囲に浮かべ、そこから新しく考えた、風と光の渦を光線のように放つ固有魔法スキルマジックストームライト・ブレイザーを、アテナとエオスのブレスに合わせて並べて放つ。

 そして大和君はバーニング・ドラゴンの下方に固有魔法スキルマジックグレイシャス・バンカーを作り出し、そのまま地対空ミサイルのように打ち上げた。

 死角となっていたようで、無防備に直撃を受けたバーニング・ドラゴンの背中からグレイシャス・バンカーの先端が現れ、そのまま爆発を起こす。

 魔族もその爆発に巻き込まれ、さらにマグマライト・ブレス、バーストストーム・ブレス、ストームライト・ブレイザーも直撃したことで背中から落ちていき、バーニング・ドラゴンも力なく崩れて落下していく。


「アテナ、トドメだ!」

『うん!』


 そして落ちていく魔族とバーニング・ドラゴンに対して、大和君とアテナの竜響魔法レゾナンスマジックグランバイト・イラプションが、文字通り牙を剥く。

 本来グランバイト・イラプションにはA級術式でもあるニブルヘイムとヨツンヘイムも使われているんだけど、今回はそちらは使っておらず、変わりにエレメントヒューマンの余りある魔力で土属性魔法アースマジック氷属性魔法アイスマジックを使って、無理やり代用させている。

 魔力は多く使うけど、エレメントヒューマンからすれば誤差らしいから、今後も場合によって使い分けることになるんでしょうね。


 大地の牙に晒された魔族とバーニング・ドラゴンは、そのまま地中で息絶え、二度と地上に姿を見せることはなかった。


「開戦の狼煙にはなったか」

『地面に埋まっちゃってるし、微妙じゃないかな?』

「魔族はそうだが、バーニング・ドラゴンはインベントリに回収してあるぞ」

「そういう問題じゃないわよ……」


 どうやら大和君は、グランバイト・イラプションが完全に閉じる前に、念動魔法を使ってバーニング・ドラゴンの死体を回収していたみたい。

 (オリハルコン)ランクドラゴンだから素材としても使えるし、フィリアス大陸には生息していない魔物だから希少性も高い。

 だから気持ちはわからなくもないんだけど、それでもよくそんな余裕あったわね。

 あと狼煙がどうとか言ってるけど、完全に地面に埋まっちゃってるんだから、アテナの言う通り微妙としか言えないわよ?


『どうやら狼煙となっているようです。ご覧ください』

「え?あ、ホントだわ」


 エオスに言われて戦場を見下ろすと、両軍が鬨の声を上げながら進んでいた。

 しかも見る限りじゃどちらも戸惑いが見られないから、総大将の名乗りの際に取り決めでもしてたっぽいわね。


「こちら側の士気が高いのはもちろんだが、魔族側も高いな。仲間がやられたってのに」

『そうだよね』


 大和君とアテナが訝しんでるけど、私も同じ気持ちだわ。

 私達が相手をしていた3人も魔族だし、バーニング・ドラゴンは(オリハルコン)ランクだから最大戦力の一角のはず。

 なのに魔族側に士気の低下は見られないし、それどころか何事もなかったかのような雰囲気さえ漂っている。

 チラッと見てた限りじゃグラーディア大陸も戦場の慣習は似てるようだから、レックスさんなら何か知ってるかもしれないわ。


「ともかく、一度下りよう。アテナとエオスは竜化したまま待機してもらうことになるけど、あっちのドラゴンが動くまでは休んでてくれ」

「そうしましょうか。余裕があるなら、話は聞いておきたいわ」

『分かった』

『畏まりました』


 いつまでも空にいても仕方ないし、大和君の言う通り下りるべきね。

 (アダマン)ランクのレッド・ドラゴンがまだ10匹以上いるから、アテナとエオスは竜化状態を維持しておいてもらわないといけないし、ケガしてないとはいえ(オリハルコン)ランクのバーニング・ドラゴンの相手をしてもらったんだから、短時間であっても休息は必要だわ。


「レックスさんは……本陣にいるな」

「意外……でもないか。指揮官なんだし、後方待機が基本よね」


 指揮官が負傷したら士気に関わるし、万が一死亡なんてしたら壊走につながりかねないわ。

 だから指揮官は後方待機が基本なんだけど、レックスさんはエンシェントヒューマンだから、前線に出たとしても早々傷を負うことはないし、命を落とすことなんて考えられない。

 だけど相手が魔族だと、その可能性は決して低くないから、指揮官が前線に出るのは避けてもらいたい。

 いずれは打って出るだろうけど、開戦直後っていうタイミングは無謀でしかないわ。


『ミーナ様達も待機されておられますね』

「私達が空の上だし、ドラゴンも多いからね。地形的に回り込んでの奇襲はできないから、そっちを警戒しなくてもいい分、前線に回してる感じかしら?」


 戦場となっているリネア渓谷は、両側が山というより崖になっている。

 だから山道を利用しての奇襲なんかは、地形的に行えない。

 空を飛べれば可能だけど、魔族は人間が変化した存在だから飛べないし、アバリシアはヒューマンのみの国でもあるから、そっちの警戒度はかなり低い。

 もちろんこっちみたいに奥の手を隠してる可能性はあるから、無警戒っていうワケじゃないけどね。


「だろうな。こっちもだけど、魔族側も全戦力を動かしてる訳じゃない。まずは様子見もかねて、ひと当てしてみようってとこだと思う」

『それじゃあドラゴンが動くのは、まだ先になるの?』

「多分な。どのタイミングで動かすかは、さすがに分からないが」

『じゃあ神帝も?』

「そっちはさらに分からないな」


 そうよね。

 ドラゴンは戦況が不利になるか、もしくは一気呵成に攻め落とせると判断すれば動かすと思うけど、神帝は動くかどうかすら分からない。

 私と大和君は、神帝の正体が刻印術師優位論者っていう、刻印術師や生成者が国や世界を支配するべきだって考えているテロリストだと予想している。

 はっきり言って頭がおかしいとしか思えない主張だし、時代錯誤も甚だしい思想でしかない。

 大和君の時代じゃかなり少なくなってるみたいだけど、私の学生時代にはかなり活発に活動してたし、私も何人かを粛正した経験があるわ。


 聞いた話からの推測でしかないけど、神帝は以前の親征の際、カズシさん達を見下すような態度をとっており、そのせいで刻印具を失ったとも聞いている。

 本当に神帝が刻印術師優位論者だった場合、刻印術師のいない世界じゃ主義主張は無意味なものでしかないんだけど、武装型刻印法具の生成者でもあるそうだから、おそらくその力を見せつけることでアバリシアで地位を確立し、そしてグラーディア大陸の統一を成したんだと思う。

 その手腕はすごいと思うけど、私は神帝は力を示すことしかしておらず、実際の統治や行軍は全て配下に任せてるんじゃないかとも思っているわ。


 だから出てくるとしたら、終盤になるんじゃないかしら?

 大物ぶっているけど、実際には力に頼った小物っていうのが、私の総評でもあるしね。

 多分実物も、総評とそんな大差ない気がするわ。

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