天樹城の新年会
マナがサキを産んだ日の昼過ぎ、ひと眠りした俺達は天樹城に報告に向かった。
ラインハルト陛下はもちろんアイヴァー様も大喜びして、すぐにアルカにやってきたぐらいだ。
サユリ様やカイト様も新年って事で王連街にいたから伝えたら、こちらも大喜びだった。
もちろんアルカに招待して、マナやサキとも会ってもらっている。
サキが生まれたのは1月1日で、この日は王家も新年を祝うから執務は最低限、というか基本お休みだ。
だからラインハルト陛下も執務は特に無く、エリス妃殿下にマルカ妃殿下、シエル妃殿下、レスハイト殿下、生まれたばかりのレジーナ殿下と一緒に来てくれたな。
もちろん嬉しかったし、しっかりと歓待もしたぞ。
それから2日後、天樹城で新年を祝う祝賀会が催された。
連邦天帝国が建国されたのは4月だから、連邦天帝国としての新年祝賀会は初になるが、俺も参加するのは初になる。
今まではアミスター貴族のみしか招待されてなかったんだが、今年は各国の王に主要貴族も招待され、いつも以上に賑わっているそうだ。
本来なら移動の関係もあって、新年祝賀会は1月の真ん中ぐらいらしいんだが、トラベリングを使える人が増えた事もあって、今年は例年より2週間程予定を早めている。
俺達も駆り出されたが、マナの出産祝いも兼ねるって話になったから、張り切って迎えに行ってきた。
「アミスター・フィリアス連邦天帝国が建国され、初の新年を迎えた。先年は大きな争いもなく、各国ともに復興や開発に従事していたと思う。また天帝家としても、皇女となるレジーナの生誕、そして新年と同時にラピスラズライト天爵家長女サキが生誕した。新しい命の誕生はもちろん喜ばしいが、これも全ては諸君らの尽力あっての事だ」
レジーナ殿下はマルカ妃殿下が抱いているが、サキは2日前に生まれたばかりだから、日ノ本屋敷でアプリコットさんやルミナさんといった出産経験者に世話を頼んだ。
マナも残るつもりだったんだが、出産報告でもあるから顔見せだけでもしようって事で、今は俺の隣にいる。
幸いというか、お乳は母乳以外にもサユリ様が開発した粉ミルクみたいなのがあるから、母乳の出が悪かったり母親が用事で不在だったりしても代用できるのはありがたい。
「故にこれからの益々の活躍に期待する。そしてその手始めとして、ソレムネ地方の北方に領地を有するイストリアス伯爵家を伯王家とし、エネロ・イストリアス伯国の建国をここに宣言する」
今年の新年祝賀会が早まった理由は、エネロ・イストリアス伯国の建国と独立を宣言するためだ。
書類上は1月1日から独立してる事になってるんだが、天帝の宣言が無ければ正式には認められない。
だから少しでも早く宣言するために、新年祝賀会の予定を前倒しにしていた。
まあマナの出産も重なるとは思わなかったから、俺達どころかラインハルト陛下もビックリだったんだが。
「エネロ・イストリアス伯国伯王クエルボ・イストリアス、これより其方の戴冠式を執り行う。前へ」
「はっ!」
天帝陛下が取り仕切る戴冠式を経る事で、エネロ・イストリアス伯国の建国は正式に認められる。
ラインハルト陛下から瑠璃色銀の宝冠を頭に乗せられ、王権となる瑠璃色銀の剣を手渡され、伯王妃となった初妻に手渡された光絹布製のマントを羽織り、クエルボ伯王の戴冠が無事に終わった。
ただ王太子の指名は、諸般の事情によって行われていない。
何人かの貴族は訝しんだし、王太子に指名されると思って疑っていなかったであろうラルヴァ王子も眉を顰めている。
だがこの場で口を開くのは無礼でしかなく、処罰されても文句も言えない事は誰でも知ってるから、疑念を抱いていてもどうにもできない。
もし不満の1つでも口にしようものなら、その時点で王位継承は不可能になるからな。
「ではこれより、新年祝賀会を開催する。乾杯が終われば無礼講だ。各人、大いに飲み食いし、楽しんでくれ」
この日だけは、謁見の間が大宴会場と化す。
年に一度の事だし、新年の活躍と発展を願っての大宴会でもあるから、この日ばかりは少々の無礼にも目を瞑られる。
とはいえ限度はあるから、場合によっては強制退場どころか投獄なんて事も過去にはあったらしい。
こんなところでそんな馬鹿をしてしまったら、当たり前だが白い目で見られるし、今まで協力してた者からも見捨てられるなんてこともあるだろうからな。
「では今年1年の活躍と発展を願って、乾杯!」
「「「乾杯!」」」
ラインハルト陛下の音頭で乾杯が行われ、祝宴が始まる。
乾杯が終わるとそこかしこで楽し気な声が響き、歓談が始まっているんだが、一部では剣呑な雰囲気が漂っている。
どこかというと、ラルヴァ・イストリアスと実母のマグノリア・イストリアスの所だ。
ラルヴァはクエルボ伯王の長子だから、順当に行けば伯王位を継ぐんだが、残念ながら連邦天帝国の王達は誰も王位継承を認めていないし、以前俺やヒルデの身分を知った上での侮辱という暴挙を行ったため、クエルボ伯王からも見捨てられている。
だからこそ王太子の指名が無かったんだが、ラルヴァはそんな裏事情は一切知らないから、父である伯王に疑念を抱いているみたいだ。
3番目であり最も身分の高い妻だったマグノリアは、実家がソレムネでも有数の貴族家という事もあり、伯王として即位した夫にマントを着せる役目は自分だと思っていた。
だが実際に行ったのは初妻であり、マグノリアは即位に関しては一切関与する事が出来なかった。
下らないプライドが高いマグノリアにとって、身分の低い端女が自分を差し置いて即位に関わるなど、とてもじゃないが許せる事じゃない。
だが初妻を指名したのはラインハルト陛下だから、マグノリアが何を言っても覆ることは無いし、その証拠に嘆願は一顧だにされず、即座に却下された。
既に実家はヒルデに処断されているため後ろ盾は無いんだが、それでも自分の出自が高い事はマグノリアのアイデンティティであるらしく、未だに自分を初妻にしない夫に対し、何か仕出かすんじゃないかっていう疑いもある。
まあ何を企んでいようと、ラルヴァの廃嫡と同時にマグノリアも離縁された上で幽閉されるから、戴冠に関わらせる訳にはいかなかったんだが。
ラルヴァは何か言い出しそうだったが、マグノリアは高い身分出身というアイデンティティがあるから、こんな場での暴挙は慎んでいる。
だからラルヴァも嗜めているが、それでも新年祝賀会を楽しむような余裕はなさそうだ。
伯王妃となってはいるが初妻ではないため王族からの挨拶は無く、貴族からの挨拶も少ない事も、余裕の無さの一因だろう。
排除が決定してる奴に挨拶なんて、するだけ無駄だからな。
あんな連中の事より、今はこの場を楽しむとしようか。
Side・プリム
あたしは大和の初妻として、天樹城で催されている新年祝賀会に、ドレスを着て参加している。
マナもいたんだけどサキをアルカに残してきてるし、出産直後でもあるから、大事を取って宴の前に帰ってるわ。
他のみんなは、ヒルデ姉様はトラレンシア妖王として、ユーリはエスメラルダ天爵として参加してるけど、リカさんは妊娠中という理由で、他のみんなは面倒くさがって欠席よ。
あたしも出来れば欠席したかったけど、初妻としての参加を打診されちゃったらどうにもならないわ。
「プリムローズ夫人、本日はお日柄も良く」
「同妻マナリース殿下のご出産、誠におめでとうございます」
「先年中はお世話になりました。本年も変わらぬお付き合いをよろしくお願い致します」
みんなが面倒くさがった理由がこれよ。
あたしはフレイドランシア天爵夫人として参加してるから、挨拶という名目で声を掛けてくる貴族が多いの。
もちろん大和にもなんだけど、フレイドランシア天爵夫人っていう肩書で参加してるのはあたしだけだから、夫人や令嬢なんかは全部こっちに来る。
大和には当主や令息が多いし、女性でも当主なら大和が対応しなきゃいけないんだけど、女性比が高い事もあってどこの貴族家も当主や令息より夫人や令嬢の方が多い。
特に令嬢を、あわよくば大和の嫁にっていう考えが透けて見えてるから、大和よりあたしの方が捌かなきゃならない数が多くなるのよ。
アミスターの貴族が多いから無茶は言ってこないし、本当にあわよくばっていう考えだから、断っても大きな問題にならなかったり、変なトラブルになりにくかったりするのが救いだわ。
ヒルデ姉様はトラレンシア妖王、ユーリは皇妹天爵だから2人は王族席にいるし、挨拶も最低限で構わないんだから、はっきり言ってズルいわよ。
「お初にお目にかかります、シュタルシュタイン侯爵家当主エルディスと申します」
こんな風に名前だけは知ってるけど、今まで会った事が無かった人も多いから、気は抜けないのがまた辛いわ。
「初めまして、フレイドランシア天爵家当主 大和と申します」
「天爵には我が領の代官の件で、ご迷惑をお掛けしました」
「いえ、侯爵が迅速に対応して下さったおかげで、何事も無く解決したんです」
シュタルシュタイン侯爵領はベルンシュタイン伯爵領の南にあって、治めている町の代官にトライハイト男爵家がある。
トライハイト男爵家はグランド・オーダーズマスター レックスさんの初妻ローズマリーさんの実家になるから、あたし達も名前だけは何度か聞いていた。
さらにフィールのヒーラーズマスターはエルディス侯爵の姉にあたる人で、その人は父様と母様の結婚披露宴に出席したっていう縁もある。
だから挨拶ぐらいには行っておくべきだったのかもしれないけど、それをやってしまうと際限が無くなっちゃうから、あえて行かなかったのよね。
「これはこれはフレイドランシア天爵。この度は奥様がご出産なさったようで、おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「ですが出産は母体にも大きな負担となります。しばらくは天爵のお相手は難しいでしょう」
「……何が言いたいんです?」
「私には腹違いの妹が2人いるのですが、母親の身分が低いのです。ですから結婚などと高望みは致しませんが、天爵の夜のお相手にいかがかと思いましてな。何、見返りはMARS、でしたか?それを頂ければ十分……な、何をっ!?」
かと思えばこんなバカもいて、即座に退場処分を受けてたわ。
妹を差し出すからMARSを寄越せって、厚かましいにも程がある。
しかも間接的にマナやあたし達を侮辱しかけてたから、大和がそのバカを許す理由は無いし、それどころか連れてきたフォリアス竜王陛下の顔にも泥を塗った事になるから、そのバカは蟄居引退、家督は身分が低いって罵られた妹の1人が継ぐことになったって後で聞いたわ。
「ふう……やっとひと段落付いたわ」
「お疲れさん。俺んとこに人が来るのは分かってたけど、まさかプリムの方に多くいくとは思わなかったよ」
「女性比が高いからねぇ。当主だったら問題無いんだけど、こういった席だと当主が相手するとキリが無くなるから、妻が代理として相手をするのよ。だけどマナとリカさんは物理的に無理だし、ヒルデ姉様とユーリは王族として参加してる。他のみんなは慣れてないから、面倒を嫌って逃げたワケ。あたしも来たくなかったけど、初妻が参加しないのは非礼に当たるから止む無くだわ」
初妻でも体調を崩したりしたら、別の妻に代理として参加してもらう事もあるのよね。
実際妊娠中なんて、参加出来るワケがないんだから。
だからこそ出産直後のマナと妊娠中のリカさんが欠席でも、非礼にはならないワケだし。
「俺も出来れば参加したくなかったけど、そういう訳にもいかないからなぁ。ヒルデは仕方ないとしてもユーリがいるから大丈夫だと思ってたんだが、まさかユーリが王族としての参加になるとは思わなかった」
ああ、だから大和は、他のみんなに参加を強要しなかったのか。
確かにあたしも、ユーリがいるからそこまで負担にはならないって思ってたから、話を聞いた時は絶望したわ。
それなら同じ天爵の大和も、王族扱いしてよって思ったわね。
「ともかく落ち着いたんだし、少しは楽しもう。大変な思いをしたんだから、それぐらいはいいだろ」
「それには同感ね。それに食材はあたし達が提供してるんだから、食べないと勿体ないわ」
食材はあたし達が持ってる高ランクモンスターを献上してるから、例年にない程豪華な食事が並んでいる。
あたし達もまだ使った事のない食材もあるから、大変な思いをした分、しっかりと堪能させてもらうわよ。




