表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
445/626

新しい年に

Side・エドワード


 今年もあと数時間で終わり、新しい年を迎える。

 今年は去年程大変だった覚えはねえが、それでもフィリアス大陸は大変動だった。

 なにせレティセンシアを除く全ての国が統一され、アミスター・フィリアス連邦天帝国が建国されちまったんだからな。

 しかも武力なんかは一切使われず、話し合いで平和的に決まっちまった。


 普通はこんな簡単には決まらねえんだが、ソレムネが他国に戦争を吹っ掛けまくり、そのせいでリベルターは多くの橋上都市が再建不可能な損害を受け、バリエンテも内乱でボロボロになっちまってたから、どこも復興で手一杯だったっていう理由も大きい。

 そんなリベルターとバリエンテは、結局いくつかの小国に分割独立し、そのままアミスターの傘下に入り、連邦天帝国を形成する事を選んだ。

 ソレムネは敗戦国って事で、国土はアミスターとトラレンシアが共同で治めてたんだが、そのトラレンシアも嬉々として参加を表明してきたもんだから、アレグリアとバレンティアにも話を通すことになっちまった。

 だけどアレグリアは国土がさほど大きくなく、バレンティアもアバリシアに通じていた裏切り者のせいで国内が荒れてたから、喜んで連邦天帝国に参加する事を表明し、そこからトントン拍子に話が進み、あっという間に建国されちまったよ。


 残るレティセンシアは、アバリシアが開発した魔化結晶で従魔や召喚獣を進化させたり、人間に使う事で魔族へと変貌したりしてたんだが、魔族への変貌の代償に天与魔法オラクルマジックが一切使えなくなったため、従魔・召喚契約が無効となり、進化させた異常種や災害種に国土を蹂躙され、皇都コバルディア以外は完全に滅んだって話だ。

 そのコバルディアにも頻繁に魔物の襲撃があるようだから、このまま放っておいてもレティセンシアの自滅は確定している。

 魔物がアミスターや新しく独立したリベルター地方の小国ヴァーゲンバッハを襲う可能性は低くないから、そっちはオーダーズギルドやソルジャーズギルドが厳重な警戒をしているし、戦力も集めているな。


「こうして見ると大和が来たことだよな、フィリアス大陸が大きく変わるきっかけってのは」

「そうだよねぇ」

「待て、何でそうなる?」


 本殿2階のリビングで今年の出来事を思い返していると、どうしても親友にしてユニオン・リーダーを務めている客人まれびとの顔がデカデカと浮かび上がってくる。

 嫁さんのマリーナも同意見だし、他のみんなも同意するかのように頷いてくれた。

 だが当の大和は、すげえ不満そうな顔してやがるな。


「実際そうじゃないですか。大和さんがフィールに来られてからですよ、事態が大きく動き始めたのは」

「レティセンシアの自滅なんて、間違いなくそうだよねぇ」

「それを言ったらソレムネの滅亡だって、大和さんが多くの方をエンシェントクラスに進化させた事も一因ですよ?」

「聞いた話だと、バレンティアの貴族達の粛清も、大和さんが最初にやったって話だよね」


 フィーナ、マリーナ、フィアナ、カメリアと、俺の嫁&婚約者達が、遠慮なく大和の所業を口にしている。

 実際全部その通りだし、一部は知られてる話でもある。

 いくらか尾ひれ背びれがついてるようだが、事実を知ってる身としては控えめな表現だった気がするが。


「いや、それは……」

「実際その通りなんだし、仕方ないでしょ」

「いや、全部俺のせいみたいになってるけど、プリムだって俺と同じだろうに」

「あたしだって大和のおかげで進化出来たし、羽纏魔法の強化だって出来たのよ?だからきっかけって言ったら、やっぱり大和で間違いないわ」


 確かにプリムの進化に羽纏魔法は、大和のアドバイスが大きかったって聞くな。

 特に羽纏魔法は固有魔法スキルマジックとして翼族の間で広まってるって噂があるが、同時に使いこなしてるのもプリムだけって噂もあるが。


「別に悪い話でもないんだし、あんまり謙遜してると嫌味に聞こえるわよ?」

「前にも言われた事あるが、別に謙遜してるつもりはないんだけどな」

「面倒くさいだけだもんね」

「バラすなよ」


 マナ様とルディアの言う通り、大和は別に今までの功績を謙遜してる訳じゃない。

 ただ単に、面倒事に巻き込まれるのがイヤなだけだ。

 まあ天爵になった上に天帝位継承権まで付けられてるから、既に巻き込まれてるんだけどな。

 さすがに天帝位継承権を持つ貴族に絡むなんて、よっぽどのアホでもやらねえよ。

 っと、それで思い出した。


「そういや前にヒルデ様とイストリアスに行って、例のバカ息子と会ったんだったよな?」

「ああ。本気でアホだと思ったし、矯正なんて天樹が折れても無理だと思ったな」

「確かにあれは、矯正以前のお話しでしたね」


 なんか大和とヒルデ様から表情が消えたぞ。

 確か大和とヒルデ様相手に見下した態度や発言かまして、父親のクエルボ伯爵が真っ青になったってのは聞いた覚えがあるが、それだけじゃなかったのか?


「俺もヒルデも、その後でちゃんと身分を示したんだが、それでも成り上がりや雪に追われた田舎者とかって罵倒してきやがったんだよ」

「うわぁ……」

「それ、その場で斬り捨てられても文句言えないじゃないですか」


 全員まさかの所業にドン引きだ。

 天帝位継承権を持つ天爵と三王の1人になる妖王と分かった後でそんな罵声を浴びせるなんて、ラウスの言う通りその場で斬り捨てられても文句言えねえぞ。

 いや、エネロ・イストリアス伯国の独立の話すら白紙に戻って、イストリアス伯爵家は連座で処刑になってもおかしくねえな。


「その案もあったのですが、その後でお会いした次男のアギラ・イストリアスは、聡明で礼儀正しい少年でした」

「まだ8歳だから少し拙かったが、愚兄の不作法を必死で謝罪してきたし、その際に自分の首まで掛けてきたからな」


 8歳でそんなことが出来るとは、かなりすげえ話だな。

 しかも自分の首を掛けたって、兄貴を許してもらうために自分が犠牲になるって事じゃねえか。

 どう考えても8歳の考えじゃねえぞ。


「それは凄いわね」

「ええ。無知蒙昧な愚兄を助けるために首を掛けたという事ですが、とてもではありませんが釣り合いません。いえ、比べる必要すらありませんね」

「俺達もそう思った。だからエネロ・イストリアス伯国は独立させて、弟のアギラを次の伯王にする事で話は付いてるんだ」

「あれ?無事に学園を卒業出来たら、バカ兄貴が立太子するんじゃありませんでしたか?」


 俺もそう聞いてるな。

 ユーリ様の言うように、賢弟と愚兄じゃ比べることすらおごがましいと、俺でも思う。

 だけどカメリアの言うように、無事に学園を卒業出来たら、そのバカ兄貴が立太子するって話は、ラインハルト陛下が正式に決定されてたはずだぞ。


「言ったろ、あいつを矯正するなんて、天樹が折れても無理だって。早ければ入学して数日もせずに、退学処分が下るようなバカをやってくれるだろうよ」


 天樹が折れてもありえないっていう言い回しは、ヘリオスオーブの諺だ。

 天樹はヘリオスオーブを支える柱だから、折れちまったらそれはヘリオスオーブの滅亡を意味する。

 だから絶対にありえないって意味で、けっこう使われてるんだよ。


「確かに話を聞くと、即座にやらかしそうな雰囲気があるね」

「むしろそうなって頂くよう、クエルボ伯爵にも伝えています。ですから伯爵は、既に彼の再教育は行っておりません」

「さすがにあれだけの失態だからな。いくら息子が可愛くても、連邦天帝国があいつの即位を認めないし許さない。だから伯爵も腹を括ったよ」


 つまり、そのバカ兄貴の廃嫡が前提で話が付いてるってことかよ。

 出来レースな気もするが、それだけそのバカ兄貴がどうしようもないクズで、まかり間違って伯王を継いだりしたら連邦天帝国にも悪影響を与えかねず、最悪の場合分裂っていう事態も引き起こしかねない。

 クエルボ伯爵もそう理解せざるを得ず、息子と産んだ母親、その母親の侍女を処罰する決意は固めてるそうだ。

 父親として、夫としては忸怩たる思いだろうが、元々その母親と侍女はイストリアス伯爵家を乗っ取るために送り込まれたっていう面もあるから、もしかしたら喜んでるのかもしれねえが。


「という事はそのバカ息子と母親達は、しばらくしたら病死って事もあり得るのか」

「え?いくら何でもそれは都合良すぎない?」


 真子のセリフにアテナが疑問を挟む。

 バカ兄貴は廃嫡された上で生涯幽閉、産みの母親と侍女となってる母親も離縁した上でこちらも生涯幽閉って事だが、いくら何でも3人とも揃って病死なんて、都合良すぎるどころか陰謀の臭いしかしねえぞ。


「対外的にはそう発表するってだけで、実際はその通りよ。生かしておいてもデメリットしかないし、幽閉するのもタダじゃないんだから」

「その方が後腐れ無いしな。もちろんそれが虚偽だったりしたら問題だから、多分裏で各国も手を回すんじゃないか?」


 真子と大和が恐ろしい事をぬかしやがったが、マナ様やユーリ様もその意見に同意しやがったのがさらに恐ろしく感じる。


「稀にだけど、後継者争いに負けた方が突然病死、もしくは事故死したっていうお話は、聞いた事ぐらいないかしら?あれってほとんど、勝利した側が暗殺してるのよ」


 アプリコット様にそう告げられて、背筋が凍るかと思った。

 確かにそんな話は、俺も聞いた事がある。

 最近だとバリエンテのタイラス王子だが、これは本当に事故だって確認が取れてるからまだいい。

 その前はドラゴニアンの隷属を企んでたっていう、バレンティアの愚竜王の話が有名か。

 確か息子がドラゴニアンと契約してる竜騎士の協力を得て竜王位を簒奪し、愚竜王は死ぬまで幽閉されてたはずだ。


「だけどその王は、病死されたって発表されてるでしょう?」

「つまりそれって、実は病死じゃなくて暗殺してたって事なんですか?」

「そうよ。幽閉してすぐだと、市井でも暗殺が疑われてしまう。彼の王は本当の愚王だったから、それでも大きな問題にはならなかったと思うけど、それでも王位を簒奪した王子に悪い印象を持たれてしまうかもしれない。だから数年間は生きて幽閉した事にしていたと思うわ」


 つまり愚竜王は、捕らえられると同時に殺されていたけど、即位した新竜王に悪評が登らないように数年間はその事実を伏せていたってのか?

 それか本当に数年間幽閉して、その後で暗殺したかって事だが、どっちにしても王家の闇ってレベルの話じゃねえだろ。


「暗愚が即位してしまえば、一番被害と迷惑を被るのは市井の民だからね。それにこんな話は王家だけじゃなく、貴族でもままあるわよ」

「言ってしまえばお家騒動だし、すぐに相手を殺したなんて外聞も悪いからね。特に王とか領主なんて、その外聞が大切な人達なんだから、それぐらいの情報操作はするわよ」


 そんな話、聞きたくなかったぜ。

 というか、マナ様やユーリ様、プリムにリカ様にキャロル、それからセラスとアプリコット様は王侯貴族だから、その話を知ってるのはまだ分かる。

 だけど客人まれびととはいえ、元々は俺達と同じ一般人の大和と真子が、何でそんな話を知ってんだよ?


「そりゃ地球でもあったし、それを題材にした物語とかも星の数ほどあったからな」

「地球の方がもっと悪質だったしね」


 それはそれで、ヤバすぎる話だろ。

 今の話も十分悪質だったが、それより酷いって、マジでお前らの世界はどうなってんだよ。


「マジでおどろおどろしい話だし、聞いても不快になるだけだぞ?」

「……フィーナの胎教に悪いに決まってるから、この話はここまでにしてくれ」


 マジで胎教に悪いどころじゃねえから、心からそう思わずにはいられねえよ。


「確かにね。臨月のマナ様と違って、私はやっと安定期に入ったところだから、出来れば避けたかったお話だわ」

「臨月だから良いってワケでも……痛っ!」


 なんか急にマナ様が腹を抑えて痛みを訴えてきたが、これってマズいんじゃねえのか?

 確かにマナ様は臨月で、あと1週間程で出産の予定だったが、それでも予想より早えぞ。


「マ、マナ!大丈夫か!?」

「だ、大丈夫……ちょっとこの子が元気過ぎるみたいで……いたたた……」

「アプリコット様!」

「ええ。真子さん、マナ様をお願い。私は念のために用意してくるから。シリィさん、レラさん、ルミナさん。手伝ってもらえる?」

「「「畏まりました」」」


 言うが早いか、アプリコット様はホムンクルスのシリィとレラ、サブチーフ・バトラーのルミナを連れて、リビングを出ていった。

 だけど残された俺達は、何をどうしたらいいのかさっぱりだ。

 夫の大和なんて、おもっくそ狼狽してやがるしな。


「やっぱり!ユーリ様、キャロル!2人はどう!?」

「間違いありません!」

「急いでお連れしましょう!」


 ヒーラーはヒーラーで、切羽詰まった感じでエグザミニングを使ってる。

 いや、間違いない、急いで連れて行こうって事は、マジで出産なのか?


「ミーナ!念動魔法でマナ様のお部屋に連れて行って!」

「わ、分かりました!」

「そ、それなら俺が!」

「あなたはここで、黙って待ってなさい!」

「はいぃぃぃっ!」


 真子がマジでおっかねえ……。

 大和じゃなくミーナに搬送を頼むってのはよく分からんが、今の大和は見ていて危なっかしいし、大和が連れて行った場合部屋から出て行きやしねえだろうから、ここに釘付けにしようって事か。

 出産はそれぞれの私室で行う予定でいるが、妊婦が出産する時はすげえ力が出るそうだから、俺達もそのためにそなえて機材を用意していた。


 サユリ様が地球の医者ってやつだったから、ヘリオスオーブにもそれなりの設備は整ってるんだが、常備してるのはヒーラーズギルドや王家、貴族ぐらいで、一般人はもちろんアルカにもそんな物は無かった。

 だから真子の指示とサユリ様監修の下、俺達クラフターはマナ様の出産が近付くにつれて優先度を上げ、無事にベッドに接続できる分娩台とやらを完成させている。

 いずれ自分達が使う事になるかもしれないからって事で、女性陣はすげえ気合入れてたな。

 瑠璃色銀ルリイロカネや王絹布、ドラグーンの革まで使ってる超高級品だが、マナ様はエンシェントクラスだから下手な素材じゃすぐにボロボロになるし、ハイクラスやエンシェントクラスでも、出産直後は体力も魔力も激しく消耗してるだろうから、感染症に罹るリスク可能性がゼロじゃないって言われて、素材の妥協は一切しなかった。

 金属材は疑問だったが、ノーマルクラスでも骨にヒビを入れられるぐらい力強く握り込むらしいから、これでも不安があるって言われたな。

 出産中は真子が魔力強化するから、多分大丈夫だろうって話だが。


 ともかく、俺達クラフターに出来る事はもうないから、あとはヒーラーに任せるしかない。

 大丈夫だとは思うが、初めての出産は何時間もかかる事が珍しくないって話だし、目の前で不安そうにウロウロしてる大和を見てると、俺まで不安になってくる。

 だけど大和こそできる事は何も無いんだから、デンと構えて待つのは無理としても、これぐらいは仕方ねえと思っておこう。

 俺だって半年もせずに親父になるんだから、こうならないとは言えないからな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ