表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヘリオスオーブ・クロニクル(旧題:刻印術師の異世界生活・真伝)  作者: 氷山 玲士
第一五章・総合学園開校準備
442/626

メモリア観光案内

 本殿2階のリビングでは、各国の王子様王女様方があつまり、入学前の懇親会を開いている。

 俺達は夕食時に改めて挨拶をする予定だが、どうやら話に花が咲いてるようで、夕食の時間を少し回ってから慌てて下りてきたのが面白かった。

 丁度ヒルデも帰ってきたところだったし遅れたといっても数分程度だったから、俺達としては全く問題無かったんだが、学園生活を始めたら問題になる事もあるだろうから、一言二言注意してから俺達は席に付いて食事をしながらの歓談となった。

 ヒルデも従妹のルシア殿下、ディアナ殿下と会うのは久しぶりだったそうで、嬉しそうにしていたな。

 逆にアウローラ殿下の口調が、まんまプリムだったのは驚きだった。

 話には聞いてたが見た目も似てるから、幼い頃のプリムはあんな感じだったんじゃないかと思えたし、それを口にしたらその通りだとアプリコットさんが教えてくれて、それでプリムが真っ赤になったぐらいだ。

 可愛かったけどな。

 他にも選ぶギルド学科についての話を聞いたり、俺達の狩りや戦争の話なんかも聞かれたから、答えられる範囲で答えたりしたりと、夕食は和やかに終わったな。


 あ、懇親会って事で、夕食は(アダマン)(レア)ランクのゴールド・ドラグーンやホワイト・ドラグーンを筆頭に、(ミスリル)(カタストロフ)ランクのダイヤモンド・フェザーに(ミスリル)(イレギュラー)ランクのフォートレス・ホエールなんかも使った豪勢なものに仕上げてもらったぞ。

 初めて食べるものばかりだって事で、殿下達の評判は上々だったな。


 夜は小峰殿に泊まってもらったんだが、初めての事で興奮してたせいか、遅くまで話に花を咲かせてしまい、翌朝寝坊してしまったのはご愛敬か。


 朝食後はフレイドランシア天爵家用獣車に乗り、メモリアに転移する。

 入学するメモリア総合学園の視察、というか見学をするためだが、春から生活するアマティスタ侯爵家にも挨拶に行く予定だ。

 当主のリカさんには日ノ本屋敷で挨拶を済ませてるんだが、お母さんのエリザベートさんには会ってないしな。


 今回はゲート・クリスタルと転移石版を使い、メモリアの外に転移した。

 ゲート・ストーンはリカさんの寝室だから、さすがに殿下達を連れての転移は厳しいし、入学後も余程の緊急事態でもない限り使わせるつもりはない。

 メモリアの観光っていう側面もあるし、何より今回の懇親会は公式行事でもあるから、メモリアに入るんなら正式な手続きを取っておかないと、トラブルの元になりかねないっていう理由もある。

 王子様王女様が、ユーリとセラスも含めると9人もいるんだから、そこんとこはしっかりとしとかないといけないし、俺達も護衛に付いて安全には気を配っているぐらいだ。


「ここがメモリア……」

「桜樹の植林地が有名ですけど、町中にもあるんですね」

「ご覧の通り美しい花を咲かせますから、景観に一役買ってくれています」


 フレイドランシア天爵家用獣車の展望席に陣取ってるアウローラ殿下とネブリナ殿下に、ユーリが観光案内役を買って出ている。

 入学する王族の中では年長になるからか、仲が良くなったみたいだな。

 プリムそっくりのアウローラ殿下と凄まじい人見知りのネブリナ殿下っていう組み合わせは意外だったが。

 ネブリナ殿下はアウローラ殿下の背中に隠れる素振りを見せていたから、アウローラ殿下には心を許し始めてるって事なんだと思うが、もうちょっと人見知りは何とかしないとマズいと思うぞ。


「デネブライトで見た事あったけど、乗ったのは初めてだな」

「あの時は、あんなにたくさんのリッターが乗ってるとは思わなかったわね。これは貴族用って事だから、そこまでは乗れないみたいだけど」

「クラフターズギルドには概要も含めて公開済みですけど、普段使いするには大きいですし、不要な機能もありますから」


 ライオ殿下とイルミナ殿下は多機能獣車に興味津々で、こちらは真子さんが説明していた。

 それはいいんだが、せっかくメモリアを案内してるんだから、多機能獣車の中をウロチョロしないで、もっと観光してほしいんだけどな。

 真子さんもどこに行かれるか分からないから、油断できない感じでハラハラしてるし。


 逆に後部デッキのデイヴィッド殿下、ルシア殿下、ディアナ殿下は、セラスと一緒に優雅にお茶をしながら、観光を楽しんでくれている。

 キャロルも補佐に入ってるから、こっちは任せておこう。


「え?マジで?」

「マジですぅ」

「す、凄い、です……」


 なんか展望席から、アウローラ殿下とネブリナ殿下の驚く声が聞こえたが、何故そこにレベッカがいる?

 どうやらMARS(マーズ)についての話をしていたようだが、意識してなかったからよく聞き取れなかったな。

 一抹の不安はあるが、レベッカも案内役として同行してるんだから、変な知識は植え付けてないだろうと思いたい。

 アウローラ殿下もいるから、万が一そんな事したらプリムの怒りを買うだけだし、してないだろう。

 してない、よな?


「すいません、レベッカが……」

「仲良くなって悪い事は無いし、殿下達も煩わしいとは思ってないみたいだから、節度さえ持ってくれてれば大丈夫だって」


 俺の隣に座ってるフラムが、妹の凶行に頭を下げる。

 別に凶行って訳じゃないんだが、レベッカには前科も少なくないから、こんな時は信用が不足気味なんだよな。

 まあ、俺も警戒してはいるが、別に致命的な粗相を働いてる訳じゃないし、同級生になるから友人付き合いするって話は纏まってるみたいだから、外野がとやかく口を出すのもどうかと思うし、仲良くやってるようだから、それでいいだろう。


「皆様、あちらが春からご入学される、メモリア総合学園です」


 まだ距離があるが、メモリア総合学園の敷地が見えてきた。


 総合学園はメモリアの北側に建造されていて、その規模から完全な新区画となっている。

 防犯のために高い壁で囲われているが、高いといっても3メートル程度だから、ハイクラスどころかレベル40前後なら飛び越えるのは難しくない。

 これは貴族邸や王城にも言えることだが、だからこそその壁には、よじ登る、もしくは飛び越えるような者が現れた場合、即座に警報を鳴らす魔導具が設置されている。

 その奥には、本校舎を中心にギルド校舎が立ち並んでいるのが見えるから、遠目でも広大な敷地だって事は分かるだろう。


「あそこがメモリア総合学園ですか」

「アマティスタ侯爵家からは少し距離がありますから、通学には不便かもしれません。通学時間も考えると、学生寮で暮らす生徒より早起きする必要もありますね」

「あ、そっか。寮は園内にあるから、その分ゆっくり眠れるんだ」


 アウローラ殿下の言い分はどうかと思うが、あながち間違ってる訳でもない。

 実際アマティスタ侯爵家からだと、獣車でも30分は掛かるからな。

 それでも10分か20分ぐらいしか違わないから、そこまでゆっくりできる時間はないぞ。


「それも含めて、経験ですね。学園は勉学のみならず礼儀作法や一般常識も学べる場ですが、同時に子供達のみの世界でもあります。基本的に身分は通用しませんが、だからといって身分そのものが無くなる訳ではありません。いずれは学生達のまとめ役も出てくるでしょうが、それまでは殿下方がその役を担う事になるでしょう」


 しばらくは無理だが、いずれは生徒会や学生会のような組織は必要になるし、勝手に立ち上がるんじゃないかとも思う。

 入学者の身分を問わない学園は社会の縮図でもあるから、学園内では許されても、卒業して社会に出た後では許されない事も多い。

 身分だって通用しないっていうだけで無くなる訳じゃないから、そっちの問題だって出てくるだろう。

 それを含めて学ぶのが総合学園だから、学生達のまとめ役は必要だ。

 殿下達が在学中は任せる事になるが、いつまでもそういう訳にもいかないから、2年か3年後を目途に考えておいた方がいいかもしれないな。


 獣車はゆっくりと、総合学園の校門に向かっていく。


 総合学園の校門は、1ヶ所しか用意されていない。

 防犯対策という理由もあるが、学生達の脱走も警戒しているからだ。

 学生達は週に5日から6日は勉学に励み、1日から2日が休校日になるんだが、基本的には学園外に出る事は禁止されている。

 だから学園内には小規模な商店や食堂をいくつか用意する事にもなっているし、学生という事で価格も抑える予定だ。

 ギルド出張所も併設されるから、休校日には依頼を受ける事も出来る。

 だが卒業するまでは、いかなる理由があろうと昇格する事は無いから、多くの学生達は(ティン)ランクのままとなり、収入も小遣い程度にしかならない。

 既にギルドに登録し、ある程度ランクを上げている者は該当ランクの報酬になるが、こちらはいずれは成人クラスのみになる予定だし、成人クラスは外出が許可される予定でもあるから、数年後には問題にはならなくなると思う。


 ところがここで問題になってくるのは、街の外に出なければ仕事が出来ないハンターだ。

 ハンターは魔物を狩るのが仕事だから、収入が無くなってしまう。

 だからハンターは、授業の一環としてメモリアの外に出て、魔物を狩る実習が行われる事になっている。

 狩った魔物は随伴の教員が管理し、報酬はクエスティングの履歴から支払われる事になるんだが、教員の目が届かない所で誰かが追い詰めた魔物を横取りする事はあり得てしまう。

 だから争いになってしまった場合、騎士魔法オーダーズマジックヒアリングを使って調べられる事も決まった。

 ヒアリングは尋問魔法とも呼ばれていて、使うにはオーダーズマスターかサブ・オーダーズマスターの許可が必要になるが、嘘を見抜ける魔法でもある。

 普通は取り調べぐらいでしか使われないんだが、学生同士の争いだって時には大事に繋がる事もあるし、事態は速やかに治める必要があるから、学園を警備するオーダーの一部にはヒアリングを使う権限が与えられるんだそうだ。

 なおヒアリングによる取り調べを受けて問題有りと判断されてしまったら、最悪の場合は退学処分となる。


 既に公表されている話でもあるが、校門に着くまでの間改めて説明をすると、全員が神妙な顔で頷いた。

 多くの殿下方が、いずれは王位を継ぐ事になっている。

 だがまかり間違って退学処分になってしまった場合、王位継承権剥奪の上で生涯幽閉、もしくはひっそりと命を奪われる事も考えられる。

 実際そのような者に王位を継がせる事は出来ないって事で、王位継承権剥奪は決定しているしな。

 ここにいる殿下方は教育がしっかりとされているから、そんな馬鹿な事はしないと思うが、唯一招待しなかったバカ息子だけはその可能性が高く、俺も早々に退学になると予想している。

 ラインハルト陛下や王達も同意見で、初年度から退学という不祥事よりも、退学した事を理由に継承権を剥奪する前例として活用したいと考えているぐらいだ。


「処罰は重いけど、普通に活動してれば問題ないんですよね?」

「無いですね。むしろハンターは荒っぽい者も多いですから、少々の問題には目を瞑っていますよ」

「トレーダーズギルドにも、お金のために何をしてもいいと考えている者もいますから、余程行きすぎなければ処罰される事はありませんね。まあ発覚すれば、降格処分ぐらいは受けますが」


 ハンターとトレーダー、そしてスカラーは、そういった問題が起きやすいからな。

 本当に多少の問題なら、降格処分すら起きない事も珍しくない。

 だから普通にギルド活動をしていれば何の問題もないし、退学になるような事も起こり得ない。


「最初の1年はギルド登録は出来ませんけど、ギルド出張所はあるんですよね?」

「あります。入学生の幾人かは登録済みですし、登録してなくても利用する事は可能ですから」


 ハンターの問題もだが、初年度は基本ギルド登録が出来ないから、収入を得る事が出来ない。

 だけどそれだと学園内の商店を利用する事も出来ないから、報酬は本当にお小遣いレベルの簡単な仕事を受注できるよう、各ギルドが調整してくれている。

 とはいえ学園内で出来る事は限られてるから、掃除とか教員の手伝いとかがメインになるか。

 もちろん登録するギルドの仕事を学べる機会でもあるから、出来ればお試しでやってみて欲しいところだな。


「なるほど、お手伝い程度の簡単な依頼なら、ギルドに登録しなくても受けられるんですね」

「はい。2年目からは登録したギルドでしか受注出来なくなりますが、1年目はどうしても必要になります。バトラー系の仕事が多いかもしれませんし、殿下方は受けられなくても問題ないかと思いますが」


 とはいえ、殿下達が受ける必要があるとは思えないんだよな。

 金銭に関しても多めに持たせてもらう事になるだろうし、トレーダーズギルドはプリスターズギルドから委託を受けて銀行業務も行っていて、入金やら送金やらも出来るようになってるから、不自由するような事もないだろう。

 いっそのこと電子マネーみたいなシステムを開発してみようかと考えた事もあるんだが、貨幣を発行してるのは神々でプリスターズギルドが代行してる形だから、さすがに断念している。


「いえ、経験になるというお話しですから、一度ぐらいは受けてみようと思います」

「自分でお金を稼ぐ事にもなりますから、お母様達も安心されると思いますし」


 ところが殿下達は、依頼を受ける気満々だ。

 本人達がやる気なんだから別に止めるつもりはないが、それでも半端な事はしないで欲しいと思う。

 まあその場合、達成扱いにはならないだろうけどな。


 おっと、もう校門か。

 それじゃあ今日は、ちょっと体調を崩して同行出来なくなったリカさんに代わって、しっかりと案内するとしますかね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ