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ヘリオスオーブ・クロニクル(旧題:刻印術師の異世界生活・真伝)  作者: 氷山 玲士
第一五章・総合学園開校準備
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アルカへの招待

Side・フラム


 本日はラウス達の同級生となる王家の方々を、アルカに招待しました。

 入学前に親睦を深めて頂く事が目的ですが、殿下方はいずれ国を継がれますから、国同士の友好を深めて頂くという目的もあります。


 あ、エネロ・イストリアス伯国のラルヴァ王子は招待していませんよ。

 大和さんとヒルデ様はエネロ・イストリアス伯国を訪れた事があり、その際に顔を合わせているのですが、年が明けたら王子になるという事に図に乗っているのか、天爵である大和さんはおろかトラレンシア妖王であらせられるヒルデ様へも、慇懃無礼な態度を取ったそうなんです。

 トラレンシア妖王は天帝に次ぐ三王の地位ですし、天爵も伯王より上の立場ですから、この時点でエネロ・イストリアス伯国の独立が取り消され、ラルヴァ王子は処刑されても文句は言えないのですが、今回は初回であり、ラルヴァ王子がそのような者である事は知られていましたから、大きな釘を刺す事で処罰を保留されたと聞きました。

 それもあって大和さんもヒルデ様だけではなくラインハルト陛下までも、ラルヴァ王子の矯正が成功する事は無いと判断され、各国の次期王となる可能性が高い方々の親睦会には招待されなかったんです。


「うわあ……ここがアルカなんですね!」

「お姉様達からお話は聞いていましたけど、来ることが出来て嬉しいです!」


 真っ先に到着されたトラレンシアの第二王女ルシア殿下と第三王女ディアナ殿下が、感動の声を挙げられました。

 ヒルデ様の従妹でいずれは妖王位を継ぐ事になりますが、現妖太子はヒルデ様の妹君であらせられるブリュンヒルド殿下ですから、両殿下はアルカに来られた事はありません。

 ですから今回招待した時は、もの凄く喜ばれたんです。


「こんな大きな島が空に浮かんでるなんて……」

「どんな原理なんだろう……」


 デネブライトのイルミナ殿下とライオ殿下は、来ることが出来た事を喜ばれているのではなく、これ程の島が空に浮かぶ原理を考えられています。

 ドワーフは手先が器用な種族ですし、現橋公のウルス陛下もクラフター登録をされていますから、こういった技術に興味を持たれているのでしょう。


「先に言っておきますが、俺達もアルカが浮いてる理由は分かりませんからね」

「下手に調べると、万が一の場合とんでもない事になりますから、殿下方もご遠慮下さい」

「分かってます」

「せっかく招待して頂いたんですから、そんな無茶はしませんよ」


 空に浮かべるだけなら、おそらくフライングかスカファルディングを付与させれば出来るかもしれないんですが、フライングは翼かそれに準ずるものが必要でしょうから、スカファルディングの方が現実的かもしれません。

 さすがにこの場では口にしませんけど、いずれは試してみるのもアリですね。


「ただいま。ローラを連れてきたわよ」

「お帰りなさい、プリムさん。ようこそいらっしゃいました、アウローラ殿下」

「はい。お久しぶりです、フラムお姉様」


 フリューゲルにアウローラ殿下を迎えに行かれていたプリムさんが、アウローラ殿下とご一緒に戻ってこられました。

 それはいいんですがアウローラ殿下、プリムさんは分かりますが、何故私までお姉様なのでしょうか?


「え?だってフラム様って、ラウス様のお姉様なんですよね?でしたら私にとってもお姉様ですし、セラス殿下やキャロル様からもそう呼ばれているではありませんか」


 ところがアウローラ殿下は、私の予想に反してそんなお答えを返されてきました。

 確かにキャロルさんもセラスさんも、私の事をお姉様と呼んでいます。

 ですがお2人がそう呼ぶ理由は、レベッカが私の実の妹であり、そのレベッカがラウスの婚約者だからです。

 お姉様と呼ばれるのは今でも慣れませんから、レイナちゃんのようにお姉ちゃんって呼んでもらった方が助かるのですが、片や伯爵令嬢、片や大公女殿下ですから、育ちの良さもあってそうなってしまったのだと、最近では諦めています。

 ですがそれとアウローラ殿下にそう呼ばれる事は、全くイコールではありませんが?


「そこは深く考えない方が良いかと思います。私達ももしかしたらと思っていますが、それこそどうなるかは分かりませんから」


 キャロルさんにそんな事を言われてしまいましたが、なんでそんな諦めたような顔をしているんですか?


「レベッカお姉ちゃん、よくフリューゲルに行ってたからね。アウローラ殿下とは気が合うみたいで、一緒に狩りに行った事も何度かあるって言ってたよ」


 レイナちゃんにそう言われて、ようやく私も察しがつきました。

 まさかレベッカ、アウローラ殿下までラウスの婚約者にって考えてるんじゃないでしょうね?


 ラウスの婚約者はレベッカ、キャロルさん、レイナ、セラスさんの4人ですが、あと1人か2人増える事が分かっています。

 どうやらレベッカは早くラウスの婚約者を揃えて、有象無象がすり寄ってくるのを避けようと考えているようです。

 大和さんもそうでしたから私も気持ちは分かるんですけど、だからといってフリューゲル公太子でもあらせられるアウローラ殿下をなんて、さすがに想定外が過ぎますよ。

 しかもレベッカは初妻の役割を面倒に感じていますし、さらにラウスの立場もあるため、その役目をキャロルさんに丸投げしようとまで考えているのですから。


「アウローラ殿下、まだ正式に決まったワケではないのですから、出来ればお控えください。周囲も誤解しますから、いらぬ騒動まで呼び込む事になります」


 頭痛を感じながらも、私はアウローラ殿下にそう答える事しか出来ません。

 聞き届けては頂けないでしょうが私が関与する問題でもありませんから、決まったら決まったで受け入れる覚悟だけはしておきましょう。


「あ、そうでした。先走ってしまい、申し訳ありません」

「どうなるかは分からないけど、在学中は結婚が出来ないみたいだし、焦らなくても大丈夫よ」

「はい」


 プリムさんもフォローしてくださいましたから、私としても一安心です。

 あくまでもこの場では、という注釈が付きますが。


「そういえばプリムローズ様、本日のご招待は、春にメモリア総合学園に入学する王家と伺っていますが、まだ揃ってはいないのですよね?」

「ユーリはお仕事、セラスは入学の手続きにリヒトシュテルンに行っていますが、デイヴィッド殿下とネブリナ殿下はもうそろそろお見えになるはずですよ」


 入学される王家の方は9名ですが、うち2名はウイング・クレスト所属ですから、とりあえず除外します。

 ですから7名となりますが、この場には5名のお姿がありますから、まだ来られていないのはアレグリアのデイヴィッド殿下とアクアーリオのネブリナ殿下となります。

 デイヴィッド殿下はリディアさんが、ネブリナ殿下はミーナさんがお迎えに行かれているんです。

 ちなみにルシア殿下とディアナ殿下は真子さんとヒルデ様が、ライオ殿下とイルミナ殿下はルディアさんがお出迎えに行かれました。

 私は弟や妹達の同級生という事で、アルカでお出迎えが担当です。


「ただいま戻りました」

「皆様、ようこそいらっしゃいました」


 ここでリヒトシュテルンに行かれていたセラスさんが、ラウス達と一緒に帰ってきました。

 セラスさんはリヒトシュテルン第三公女として入学されますから、リヒトシュテルン側からも入学するための書類を提出してもらう必要があるんだそうです。

 その書類は入学生本人の署名も必要ですから、セラスさんも一度リヒトシュテルンに戻らなければならず、今日はそのために里帰りされていました。


「お帰り。って、ネブリナ殿下も一緒だったの?」

「はい。丁度同じタイミングでアルカに来たので、ご一緒させていただいたんです」


 アクアーリオのネブリナ殿下とご一緒だったとは思いませんでした。

 私もお会いした事がありますが、人見知りの激しい方ですから、最初は今日のご招待も辞退される寸前だったんです。

 ですがこれから学園生活を送る学友との親睦会でもあるのですから、辞退するのは失礼だとイザベラ橋公陛下から窘められ、渋々参加を承諾されていましたね。

 今回の招待は学友同士、国同士の親睦を深めるためでもありますが、在学中殿下方はアマティスタ侯爵家に厄介になりますから、そのための顔合わせという意味もあります。

 当主のリカ様も夜には帰って来られるので、ご挨拶も兼ねていますね。


「そうなのね。ようこそ、アルカへ。歓迎致します、ネブリナ殿下」

「あ、ありがとう、ございます……」


 恥ずかしそうにミーナさんの後ろに隠れるネブリナ殿下ですが、ここにはイザベラ陛下も臣下の方もおられませんから、案内してくれたミーナさんを頼ってしまっているみたいです。

 人見知りの激しい方ですが、さすがにここまでとは思いませんでした。


「殿下、陛下も仰っておられましたが、殿下が橋公位を継がれましたら、恥ずかしがられてばかりでは周囲の方々に失礼ですし、政務にも支障を来たします。この場の方々は同級生となり、アマティスタ侯爵家にお世話になられるのですから、積極的にとは申しませんが、ご自分からも歩み寄らなければなりません」

「わ、分かってるんですけど……その……」


 人付き合いが怖い、といった感じでしょうか。

 ミーナさんが厳しい事を仰っていますが、人見知りのする王では国が混乱するのも間違いありませんから、在学中に少しでも直していただかないと、アクアーリオの将来は暗い事になりかねません。

 この様子を見る限りでは、なかなか難しそうなお話です。


「話には聞いてたけど、ホントにオドオドしてんだな」

「ちょっとライオ、失礼でしょ。ネブリナ殿下は公太子で、身分で言えばあたし達より上なんだよ?」

「ならイルミナがデネブライトの公太子になりゃいいだろ。そうすれば身分は同じだぞ?」

「それは長男のあんたがなるべきだって、前から言ってるよね?」

「男だから継がなきゃいけねえ、なんて法はねえだろ。お前の方が向いてるんだから、お前が継げよ。そしたら誰かが、嫁に貰ってくれるかもしれねえぞ?」

「……あんた、ケンカ売ってるの?売ってるよね?いいよ!言い値で買ってあげるよ!」


 そのネブリナ殿下の様子を見ていたライオ殿下とイルミナ殿下が、何故か継承権の事で兄妹ゲンカを初めてしまわれました。

 どちらも橋公位を継ぐのはイヤだと言って憚らず、ウルス陛下を悩ませているそうで、継承権を巡っての兄妹ゲンカは日常茶飯事なんだとか。

 橋公位を継いでしまえば、登録予定のクラフター活動の時間が大幅に減ってしまいますから、それを避けたいとどちらも思っておられるそうなんです。


「ライオ殿下もイルミナ殿下も、せっかくの親交を深める場なのですから、兄妹ゲンカはご遠慮ください」


 呆れた顔をしたラウスが、念動魔法を使ってライオ殿下とイルミナ殿下を止め、そのまま引き離しました。

 ラウスはエンシェントウルフィーですから、両殿下がどれだけ頑張っても逃れる事は出来ませんし、言い分ももっともですから、少し頭を冷やしてもらった方がいいかもしれませんね。


「遅れたと思ったんですけど、なんだか楽しそうですね」

「それはどうでしょうか。あ、ただいま戻りました」


 ライオ殿下とイルミナ殿下が摘まみ上げられたところで、デイヴィッド殿下もご到着なさいました。

 デイヴィッド殿下はこの場の方々とは初対面ですから分からないのも無理もありませんが、迎えに行かれたリディアさんは察したようで、苦笑されています。


「お待ちしておりました、デイヴィッド殿下」

「本日はご招待、ありがとうございます。この日を楽しみにしていました」


 笑顔でお礼を述べられるデイヴィッド殿下ですが、やっぱり礼儀正しく、教育も行き届いておられますね。


「皆様お揃いになられましたね。それではまずは、宿泊される小峰殿にご案内致します。その後は夕食まで、ご自由にお過ごしください。エオス、ルミナ、お願いね」

「「畏まりました」」


 後はユーリ様がお帰りになられれば、本当の意味で揃う事になるのですが、ユーリ様はフィールで領主としての執務をこなしておられますから、夕食までお帰りにはなられません。

 大和さんはもっと大変で、今日は午前中はフィール、午後からはデセオ、夕方前にはメモリアと、予定が詰まりに詰まっていたりします。

 私も時々プラダでお仕事がありますが、代官のベラノ・エストアリオ男爵がおられるのですから、お仕事はそちらに回して頂きたいと常々思っています。

 いえ、ベラノ男爵は本来でしたら別の町の代官になられる予定でして、数年後にはプラダを離れる事も決まっています。

 次期代官が誰かはまだ決まっていませんが、私が大和さんの子を産む事は分かっていますから、ラインハルト陛下としては私を男爵に叙爵し、代々代官職を世襲してもらいたいと考えておられるんです。

 直接陛下から伺いましたから、間違いありません。


 ベラノ男爵が赴任される予定の町は元バシオン教国領で、現在開発中の町になります。

 元々はプラダと同じように村だったのですが、フリューゲルやブルーメという2つの獣公国と国境を接していますから、国境の町として開発が進んでいるんです。

 開発の優先度が低いため、まだ町とは呼べず、代官となる男爵が赴任する規模ではないのですが、重要性は高い町になりますから、トラレンシア派遣部隊第3分隊所属だったベラノ男爵が着任される予定だったんです。


 そういった事情もあって、私は時折ベラノ男爵の下に行き、仕事のお手伝いばかりか統治のお勉強もしているんです。

 ベラノ男爵が移動される事は決定事項ですし、その後任が私というのも同じく決定事項ですから、私に逃げ道は存在していません。

 村娘でしかない私には、はっきり言って荷が重いですけど、プラダは私の故郷ですから、何とか頑張っていこうと思います。


 殿下方の懇親会ですから、こんなことを考えるのは場違いですよね。

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