合金完成
Side・マリーナ
大和とプリムに急かされて、エドが工房に寝かせておいたインゴットを持ってきた。
魔銀合金と金剛鉄合金が各3個、三種混合合金が4個の全部で10個。
エドはフェアリーハーフ・ドワーフだから普通のドワーフより魔力は多いんだけど、そのエドでも三種混合合金は一度に2つ、頑張っても3つ作れるかだって言っていたから、実際に作れるクラフターはかなり少ないと思うんだけど、大和にアドバイスをもらって試してみたら、すっごく楽になったって言ってたよ。
「緑色のインゴットが魔銀合金、くすんだ色のインゴットが金剛鉄合金、青色のインゴットが三種混合合金ね。どれも綺麗だわ」
プリムのお母さん アプリコットさんには初めて会ったけど、親子だけあってプリムによく似ていて、綺麗というより可憐な人だよね。
「それじゃ早速試してみるぞ」
「ええ、お願い」
「わかった。それじゃ相性が良いだろうから、魔銀合金から頼む」
「おう。『メジャーリング』」
魔銀と晶銀は、同じ鉱山から採れるんだから、確かに相性は良いだろうね。
アミスター在住のクラフターとしても、けっこう興味深いよ。
エドがそれぞれのインゴットの魔力強度、硬度、魔法伝達率を調べるために、メジャーリングを使うと、一番左の緑色をしたインゴットに、エドの魔力が吸い込まれるように消えていった。
メジャーリングは工芸魔法の1つで、色んなものを計ることができる魔法だよ。
精度は使用者の魔力に左右されるけど、大まかな大きさとか重さとかはちゃんと計測できるから、工芸魔法の中でも使用頻度はかなり高いかな。
ちなみに鉱物の重さはそういうものだって認識されてるから普段は気にしないんだけど、今回は魔銀のみたいに軽い金属になるかも重視してるから、しっかりと確認してるよ。
このインゴットの重さは鉄だと1キロだから、1,000グラムってことにして、それを基準にすることになるかな。
「6,6,7,800か。微妙だな、こいつは」
だね。
確かそのインゴットは、魔銀と晶銀を一本ずつ使ったやつだ。
金属は魔力強度、硬度、魔力伝達率の順番に、鉄をオール5として10段階の数字で表してるんだけど、魔銀は6、5、8、晶銀は4、3、9、金剛鋼は8、8、3、神金は9、7、7が平均と言われている。
四つ目の数値は重さになってて、800グラムあるってことになるね。
だけどこのインゴットは、魔力強度は魔銀と同じ、硬度は少し上、だけど魔力伝達率が魔銀より下がってるから、これじゃ魔銀とほとんど変わらない。
これじゃあ合金にする意味はないし、普通に魔銀を使うよ。
「まあ、最初から成功するとは思ってなかったしな。それにこういうこともあるって思ったから、配分を変えていくつか作ってるんだろ?」
「まあな。一応、合金ってのができそうってわかっただけでも良しとしとくか」
確かに、実際に硬度は上がってるしね。
っと、エドが真ん中にある緑色のインゴットにメジャーリングを使ったから、結果を待たないと。
「マジか、これは……」
「どうかしたんですか?」
エドが驚愕してるっぽいけど、マジでどうしたのさ?
アプリコットさんも心配そうだし、大和やプリムも眉を顰めてるよ?
「マリーナ、お前も見てくれ。俺の見間違いじゃなきゃ、こいつはとんでもないぞ」
マジで?
「それじゃあ、『メジャーリング』。何これ!?」
あたしは驚いた。
そりゃあもう、心の底から驚いたよ。
だってさ!
「7,7,8,600って、嘘でしょ……」
「やっぱり俺と同じ数値か」
エドも同じ数値だったか。
でもこれ、マジでとんでもないよ。
魔力伝達率こそ魔銀と同じだけど強度と硬度は上だし、重さも600グラムしかない。
魔銀は500グラムだから少し重くなってるけど、これだけの性能なら十分許容範囲だよ。
総合的に見たら、金剛鉄を超えてるんじゃないかな?
「す、すごいわね……」
「だな。俺としても、いきなりこんな高性能なもんができるとは思わなかった」
これは魔銀2:晶銀1のインゴットか。
ホントにこんなすごい金属ができるとは思わなかったけど、これは革命だよ!
「まあ待て。気持ちはよくわかるが、インゴットはまだまだ残ってるんだぞ?他のもちゃんと見てみてくれよ?」
あ、ごめん。
けっこう舞い上がっちゃってたけど、確かに大和の言う通りだし、あたしとしても他のインゴットはすごく気になってきた。
「だな。それじゃ最後の魔銀合金といくか。『メジャーリング』。5,5,7,700か。鉄よりはマシだが、それだけだな」
最後のは魔銀1:晶銀2のインゴットなんだけど、確かに鉄と変わらないね。
晶銀ベースだから、仕方ないのかもしれないけど。
「ってことは魔銀合金としては、この真ん中のが成功ってことになるな」
「そうなるわね。総合的には神金に少し劣るけど、金剛鉄は超えてる感じかしら?それに思ったよりも軽いから、取り回しも魔銀と変わらなさそうだし」
あたしもそう思うけど、さすがに槍だと魔銀製と比べると重いってのはわかると思うよ?
まあフィジカリングがあるし、ハイフォクシーのプリムなら、本当に変わらないかもしれないけどさ。
「さすがにテンション上がってくるな」
「気持ちはわかるよ。じゃあ次は、金剛鉄合金で頼む」
「あいよ!今度は3つまとめて行くぜ!」
あ、これはマズい。
エドは数字が苦手だから、目分量でやることも珍しくはない。
いつか手痛い失敗をするんじゃないかって思ってるし、リチャードじいさんやタロスさんからも口を酸っぱくして言われてるのに、全然反省してないよ。
仕方ない、あたしも使っておこう。
1つぐらいは、絶対に間違えるからね。
「左が7,8,6,2200、真ん中が8,7,4,2000、右が7,9,2,3400だ!」
ほらね。
「左と真ん中は合ってるけど、右のは間違ってるよ。7,6,4,3400だよ」
「げ、マジだ……。悪ぃ……」
まったくもう。
でもこの金剛鉄合金は、一番最初に鑑定した左のインゴットが成功だね。
魔力強度は金剛鉄より下がっちゃったけど硬度は変わってないし、魔力伝達率なんて金剛鉄の倍になってるから、総合的に見ても金剛鉄は超えてるよ。
「こっちのインゴットは、神金より1ランク下って感じね。さすがに金剛鉄を使ってるからか重さは鉄の倍以上だけど、それでも金剛鉄よりは軽くなってるわ」
プリムの言う通り、そこが引っかかるところだよね。
金剛鉄を使う人は、重量武器を好む傾向がある。
重量武器は金剛鉄の重さを活かしているからすっごく扱いにくいんだけど、それでもハイクラスの人からすれば、どうってことはないみたい。
鉄の倍以上は重いから、そんなに使い勝手が変わるとは思わないけど、それでも人によっては不満がでるかもしれないなぁ。
「魔力を加減しながら使うより断然使いやすくはなりそうだから、そこまで気にしなくても大丈夫じゃないか?」
「俺もそう思う。そもそも重量武器を好む奴らだって、最終的に行き着くとしたら神金だったんだ。その神金は、鉄と同じぐらいの重さなわけだしな」
そういえばそうだった。
むしろ神金より重いってことで押せば、普通に喜ばれそうだね。
「それにしても、魔銀合金も金剛鉄合金も、あたし達の予想以上にすごいわね。こうなると、残ってる混合合金にもすごく期待できるわ」
それはあたしも同感。
さすがに神金を超えることはないだろうけど、匹敵する性能にはなるかもしれないから、あたしの期待値もマックスだよ。
「だよな。それじゃ行くぞ。『メジャーリング』。5、4、6,1100か。こいつはダメだな。3種類ともってことだし、どうやら晶銀は、基にするのは向かないみたいだな」
魔銀1:金剛鉄1:晶銀2のインゴットか。
確かにこれはダメだね。
もともと晶銀は、魔力伝達率以外は鉄より低い金属だから、メイン素材として使われることはほとんどない。
魔道具には多く使われてるけど、それは魔石をはめ込む基幹部とかに組み込むと魔道具の性能も一段上がるからだから、合金の場合も必要以上に使わない方がいいってことなのかも。
「それも大きな収穫だろ」
「ああ、デカいな。っと、次は6,7,7,800か。悪くはないが、これなら魔銀合金や金剛鉄合金の方がいい」
全部の金属を、1:1:1にしたインゴットか。
確かに悪くはないんだけど、さっきの成功を見た後だと、すっごく微妙だね。
これなら3本も使う意味はないね。
「他の2種類もそうだが、配分比を同じにすると金属の性能が食い合ってる感じがするな」
ああ、そうかもしれない。
3種類とも微妙な性能だしね。
これも収穫かな。
「確かにそうかもしれねえな。となると、残ってるのは金剛鉄ベースと魔銀ベースだが、どっちかに期待ってことになるか」
「そうなるわね。あたし達としては軽い金属が希望なわけだから、楽しみは後に取っておきましょう。先に金剛鉄ベースの方を見てもらってもいい?」
「了解だ。『メジャーリング』。8,7,5,2400か。普通に考えたら成功なんだが、金剛鉄合金と大差はねえな」
むしろ魔力伝達率が低い分、こっちの方が性能的には下だね。
それに大和もプリムも、軽い金属の方がいいんだから、魔銀1:金剛鉄2:晶銀1配分の合金は失敗って言ってもいいかもしれないよ。
「残念ながら、そうなるか。さすがに三種混合ともなると、配分が難しいな」
それはあるね。
魔銀合金や金剛鉄合金は、使ってる金属は2種類だけだから楽だったけど、これは3種類の金属を混ぜてるんだから、配分比によってすごく違いがでてきてる感じがする。
「比率ともなると、凄まじい数を試す必要があるからな。まあ、そこまでする必要はないだろうし、まだ1つ、魔銀ベースのが残ってるんだから、試すにしてもそれを見てからでいいだろ?」
あたしも大和に賛成。
というか、配分比まで考えてたら、いくらお金があっても足りないよ。
「まあな。それじゃ、最後行くぞ。『メジャーリング』。おおっ!」
エドの顔がほころんだってことは、成功って判断してもいいよね?
「ああ。8,8,7,700だ」
いや、ちょっと待って。
それって強度がちょっと低いだけで、ほとんど神金と変わらなくない?
それって魔銀2:金剛鉄1:晶銀1だったよね?
もしかして配分比を上手くすれば、神金を超えることもできるってことにならない?
「落ち着けよ、マリーナ。できなくはないかもしれないが、いくらかかるかわからないぞ?」
「あ、ごめん。まさか本当に、神金に近い金属ができるとは思ってなかったから」
思ったより舞い上がっちゃったよ。
だけどこの合金、完璧に近い感じで大和の理想通りだと思う。
「確かに俺としても、神金に匹敵する合金ができるとは思ってなかったな。だけど、これは決まりだな。俺とプリムの武器は、こいつで作ってもらおう」
「異議なしよ。こんなすごい金属ができるなんて、思ってもみなかったし」
ホントにそうだよ。
この技術が広まれば、間違いなくヘリオスオーブの歴史が変わるよ。
「俺としてもけっこう楽しかったし、実際に出来たんだから感無量だ。だけど、まだ完成じゃねえぞ?」
いや完成でしょ。
もう少し配分とかをいじれば神金を超えられるかもしれないけど、どれだけお金と時間がかかるかわかったもんじゃないよ。
いくら大和とプリムがお金を出してくれてるとはいっても、さすがにそれは無理じゃないかな?
「名前だよ。合金って言っても種類はあるんだろ?実際、この場だけでも3つもできたんだからな。それに、いずれ製法を広めるんだから、名前がなかったら不便すぎるだろ」
それは確かにね。
それならエドがつければ……いや、ここは大和がつけるべきかな。
大和が提案してくれなかったら、試そうとも思わなかったんだからね。
「というわけで大和、お前が決めろ」
「俺かよ?」
「俺達はお前の提案に乗ったが、あくまでも手伝いに過ぎない。それに金を出したのはお前とプリムなんだから、ここは言い出しっぺのお前が決めるのが筋ってもんだろ」
さっきの魔法の意趣返しって気もするけど、あたしもその意見に賛成。
プリムもうんうんって首を縦に振ってるし、アプリコットさんも期待するような顔をしてるから、大和に逃げ道はないよ。
「わかったよ。それなら日緋色金、は無理がありすぎるな……。確か日緋色金は……色か。よし、こっちの魔銀合金が翡翠色銀、金剛鉄合金が青鈍色鉄、そしてこの三種混合合金が瑠璃色銀ってのはどうだ?」
「悪くはないと思うが、何か意味でもあるのか?」
「ああ。俺の世界、というか暮らしてた国には日緋色金っていう伝説の金属がある。だけどその日緋色金は、太陽とか火とかの色をしているって伝説にはあるから、この合金の名前にするのは無理がある。だから、インゴットの色と日緋色金の名前を合わせてみたんだ。俺の世界じゃ、こういった深くて鮮やかな青色は瑠璃色とも言う。それにこのインゴットは魔銀がベースになってるから、瑠璃色の銀ってことで、瑠璃色銀だ」
なるほどね。
そうすると翡翠色銀は翡翠色の銀、青鈍色鉄は青鈍色の鉄ってことになるのか。
響きも良いし綺麗な見た目も取り入れてるんだから、あたしはけっこう好きだな。
「綺麗な名前じゃない。あたしもそれでいいと思うわ」
「ああ。大和の世界の、伝説の金属にあやかった新金属か。客人の知識で作られたヘリオスオーブ初の合金なんだから、由来としても悪くない」
あたしもそう思うよ。
それじゃあ三種混合合金は瑠璃色銀、魔銀合金は翡翠色銀、金剛鉄合金は青鈍色鉄に決定だね。




