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ヘリオスオーブ・クロニクル(旧題:刻印術師の異世界生活・真伝)  作者: 氷山 玲士
第一五章・総合学園開校準備
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白狐の公女

Side・プリム


 王達のメモリア総合学園視察から1週間後、あたし達はフリューゲル獣公国公都プルマスにやってきた。

 フリューゲル獣公国は元フライハイト王爵領なんだけど、最後の領主だったシュトレヒハイト・フライハイトがソレムネに通じていたこともあり、領都フライハイトを公都にする事は出来なかった。

 だからフライハイトに次ぐ都市だったプルマスを公都に定めているの。

 獣公は元々はバリエンテ4公爵家の1つグランシャリオ公爵家だったんだけど、獣公家の1つとなる際にライ兄様からフリューゲルの名を下賜され、現在に至るわね。


 プルマスは元フライハイト王爵領第2の都市だったとはいえ、領都と比べると発展してはおらず、とてもじゃないけど公都と呼べる規模じゃなかった。

 実際プルマスは公都の中じゃ一番規模が小さいし、そればかりかエネロ・イストリアス伯国の伯都となるイストリアスよりも小さい。

 だけど反逆者として公開処刑された王爵シュトレヒハイトの居城があるフライハイトを公都にするのは憚られたし、他の町はプルマスより小さいから、選択肢が無かったのよ。

 ただシュトレヒハイトがソレムネに通じていた裏切り者であり、フリューゲルの国土はバリエンテ内乱の際にギムノス陛下が派遣したシュトレヒハイト討伐隊以外の軍事行動が無かったこともあって、それほど荒れてはいなかった。

 だからフリューゲル獣公家は、プルマスの拡張を最優先にしているの。

 フライハイトを放棄するのは難しいけど、いずれは改名した上で規模を縮小する予定でもあるわ。


 そのプルマスにやってきた理由は、フリューゲル獣公女アウローラ・フリューゲルに会うため。

 ローラはあたしと同じ白狐のフォクシーだし、少し前までは同じ公爵令嬢だったのに今じゃ2人とも獣公女になってしまっているから、結構親近感を感じてるのよ。

 元々顔見知りだったし、あたしに憧れてくれてたみたいだから、あたしの事を姉のように慕ってくれてるっていうのもあるわね。


「お久しぶりです、プリムお姉様!」

「久しぶり、ローラ。元気だった?」

「はい!」


 あたしに憧れてるからなのか、ローラはハンター登録を考えていて、ビースターから斧の手ほどきも受けている。

 だからなのかレベルも年齢の平均より少し高いレベル19で、既に魔物の討伐も何度か経験済みだって話ね。

 伝聞風に聞こえるけど、実はあたしも2度ほど一緒に狩りに行ってるんだけどさ。


「ローラ、こっちがあたしの夫と同妻。こっちがあなたの同級生になるハンターよ」


 今回あたしがプルマスに来た理由は、今言った通りの理由だったりする。

 あたしはフリューゲル建国後に何度か足を運んでいるし、同妻の中じゃマナと真子、ミーナ、アリアもそうなんだけど、大和やフラム、リディア、ルディア、アテナは訪れた事が無かったの。

 ヒルデ姉様とリカさんは執務や統治の仕事があるから来てないけど、ユーリは同級生って事になるから、何とか時間を作ってくれたわ。

 同じく同級生になるラウス達も連れてきてるんだけど、実はウイング・クレストの事はローラも興味津々で色々聞いてくるから、ラウスとレベッカがエンシェントクラスに進化してる事も教えてしまっているの。

 ラウスとレベッカだけじゃなくキャロルも進化目前と言えるレベルだし、ユーリもそうだから、先に正式に紹介しておいて、しっかりと口止めをしておかないといけないのよ。

 レベルや進化の事は機密っていうワケじゃないけど、率先して広めるような話でもないからね。


「お初にお目にかかります。フリューゲル獣公国第一公女、アウローラ・フリューゲルと申します。皆様のご高名は、ここフリューゲルでも轟いております」


 スカートの裾を軽く摘まみ、名乗りを上げるローラ。


「初めまして、ヤマト・ミカミ・フレイドランシアと申します」

「ラウス・ウッドランドライトと申します。お見知りおきを、ローラ殿下」


 クレスト・ディフェンダーコートを身に纏った大和とラウスも、胸に手を当てて答礼し、妻や婚約者達を紹介していく。

 煩わしい慣習ではあるけど、これも礼儀なのよ。

 とはいえ、最初の挨拶さえ終えてしまえば、後は比較的融通が利くから、あくまでも初対面の人向けの挨拶ね。


「お初にお目にかかります。リヒトシュテルン大公国第三公女、セラス・リヒトシュテルンと申します」


 忘れてたワケじゃないけど、リヒトシュテルンも独立してるから、セラスの肩書も公女になってるんだったわ。

 ローラにもセラスの事は話してあるんだけど、自分と同じ身分で年の近い子はあたしぐらいしかいなかったから、ローラはセラスに興味があったようね。

 セラスの方が年下になるけど1つしか違わないし、これからは学友になるんだから、仲良くなってくれるとあたしも嬉しいわ。


 挨拶が終わると、あたし達は獣公家のプライベートスペースにある応接室に案内された。

 セントロを公都としているホルン獣公国はかつての獣王城をそのまま使ってるけど、他の4獣公国は新たに獣公城を建設し、先日南のブルーメ獣公城も完成している。

 フリューゲル獣公城は2ヶ月前に完成しているんだけど、さすがにまだそれだけしか経ってないから、城内の施設も新品同様だわ。


「フリューゲル獣公城って、獣王城とよく似てるんですね」

「フリューゲルに限らず、獣公城は獣王城を参考にしていますから」


 ヴァルト獣公城もそうだし、短期間で建造するとしたら、どうしたって既にある城を参考にするしかないしね。

 それでも外観はなるべく差別化を図っているから、隣に並んだとしても間違えるような事はないでしょう。


「ところで皆様はハンターとお聞きしていますけど、どの学科を選択されるのですか?」


 総合学園は、2年目から学科別授業が開始される。

 ローラはハンター志望だから騎士・狩人学科を選択するつもりだし、獣公を継ぐ身でもあるから領地経営に関する授業が行われる貴族学科も取るでしょう。

 だけど残る1つを何にするか、決めきれてないみたいなの。

 だからっていうワケじゃないけど、ラウス達がどの学科を選択するか、興味があるんでしょうね。


「俺……私はオーダーでもあるので、騎士・狩人学科を選択します」

「わ、私も登録したばかりなので、騎士・狩人学科を選ぶつもりです!」


 ラウスは翡翠騎士エメラルド・オーダーの称号を持つ(アダマン)ランクオーダーだけど、アウトサイド・オーダーでもあるから、騎士の心得とか知識とかはあまり持ってない。

 だからラウスはそれを学ぶために騎士・狩人学科を選ぶって言ってたんだけど、あと2つをどの学科にするかは、まだ決めきれてないって言っていた。

 緊張気味のレイナだけど、ハンターの常識を学ぶために騎士・狩人学科を、既に登録済みの工芸学科を選ぶ事は決めてるわ。

 あと1つは、意外にも宗教学科が候補なんですって。


「私は騎士・狩人学科以外ですと商業学科と貴族学科の予定です」


 キャロルは選択学科を決めたのは一番早かったんだけど、弟がまだ1歳にもなってない事もあり、現時点ではベルンシュタイン伯爵家の正当な後嗣という事になっている。

 治癒学科を選ばなかった理由は、既に(ミスリル)ランクヒーラーでもあるから基礎から学ぶ意味が無く、学ぶとしても同じユニオンに(アダマン)ランクヒーラーの真子がいるし、(オリハルコン)ランクヒーラーのサユリ様からも手ほどきを受けているから、そちらの方が有意義だからよ。


「私は博物学科と貴族学科の予定です」

「私も博物学科を選ぶつもりですけど、あと1つはまだ未定ですぅ」


 セラスとレベッカは、魔物について勉強するために博物学科を選ぶ事にしている。

 魔物がどんな攻撃をしてくるのか、事前に知ってるのとそうじゃないのとじゃ全然違うからね。

 情報を軽視してるハンターもいるけど、そういった連中は長生きできないし、運良く生き残る事が出来たとしても、結局はハンターを引退する事が多いわ。


「なるほど……。でしたら私も、博物学科を選ぶ方が良いのでしょうか?」


 そこは微妙なのよね。

 騎士・狩人学科でも魔物の生態については学ぶけど、博物学科の方がより詳しく学べる。

 だけど博物学科はその名の通り、魔物についてのみを学ぶワケじゃない。

 というより、魔物についての授業は一部でしかないわ。

 博物学科を選択するという事は、魔物以外についても学ぶ事になるから、多分ローラが思ってるより大変だと思うわよ?


「それもアリだと思いますけど、博物学科は魔物だけじゃなく、樹木や金属、水質に関する事もあるそうですから、学ぶ範囲は一番広いんじゃないかと思ってるんです」

「え?そんなことまで学ぶのですか?」


 ラウスも同じ事を思ってるから、博物学科を選ぶかどうかは凄く迷ってるのよね。

 ローラはそこまでとは思ってなかったみたいで、すっごく驚いているけど。


「まだ決まった訳ではないそうですが、博物学科を選ぶなら最低でも何か1つ、自分でしっかりと研究する事になると聞いています」

「学ぶ範囲が広すぎますから、3年ではとても足りないというのも理由のようです」

「ですが水質や材質については、統治に役立つ事もありますから、フリューゲル獣公を継がれるアウローラ殿下でしたら、選択されるのもアリだと思います」


 ラウス、セラス、キャロルの話に、ローラは少し顔を引き攣らせた。

 さすがにここまでとは思ってなかったんでしょうけど、そもそも博物学科はスカラーズギルドの学科だし、研究が大変だって事はあたしもこの目で見て知ってるから、簡単に選ぶと大変な事になりかねないわ。


「そうなんですかぁ?」


 そう思ってたら、レベッカもローラと同じく、顔を引き攣らせていた。

 あんたは博物学科の授業がどんなものになるか、説明を聞いてたでしょうに。


「いや、レベッカ。こないだ大和さんやリカ様が説明してくれてたでしょ?」

「それだけではなくクラフターの皆さんが、工芸殿で色々な検証を行っていた事も知っていますよね?研究とは、ああいった事の積み重ねですよ?」


 ラウスとキャロルにそう言われて、レベッカは露骨に目を逸らした。

 話聞いてなかったわね、この子。


「まったく。ですが3学科も選ぶのは、現実的にかなり大変です。時間も限られていますから、選択学科は2つにしてはどうかという意見も出ているそうです」

「そ、そうなのですか?」

「はい。入学される王家の方々も、2つまでは決められるのですが、3つ目については難儀されているようですから」


 さすがキャロルは、しっかりと話を聞いてるわね。

 3学科を選ぶっていうのは大和の意見だったけど、学科別の授業が加わるのは2年目からになる。

 だから3年間で選択した3つの学科の知識を得るって事になるんだけど、卒業後は選択した学科のギルドで活動する事になるから、3つは多過ぎるんじゃないかっていう意見も出始めているの。

 提案者の大和も、ラウス達が困ってる姿を見てそう思いだしてるから、選択学科については多分だけど見直しが入るんじゃないかしら?


「まだ仮ですが、第一選択学科は必修学科に変更し、第二希望第三希望の学科を選択学科としてはどうかという意見が出ています。必修学科は当初の予定通りギルドに登録した上でしっかりとした授業を行いますが、選択学科については基本学科より少し進んだ内容を行う程度に留め、登録をするかどうかは本人の意思に任せる事になる予定です」


 昨日の会議で提案されて、多くの賛同者が出ている案だと大和が教えてくれた。

 当初の予定だと、選択した学科のギルドへ登録した上で授業を行う予定だったけど、そうすると強制的に3つのギルドに登録する事になってしまう。

 ギルドに登録するという事は仕事をこなさないといけないっていう事になり、ミスなんかしたら罰金が発生する場合もあるし、最悪の場合は除名って事にもなりかねないから、学生には酷なんてもんじゃない。

 だからこそグランド・スカラーズマスターの提案は、大和にとっても盲点で、むしろそうしないと将来に差支えが出ると理解せざるを得なかったらしいわ。


 その話を聞いたローラとレベッカは、互いに視線を交わし、何を思ったのか頷き合っている。

 どうせ博物学科を選ぶのは止めて、騎士・狩人学科一択で行こうって考えてるんでしょうけど。

 レベッカはそれでもいいかもしれないけど、ローラは次期フリューゲル獣公だから、貴族学科は必修になる。

 そのレベッカだって、もう1つ選ばないといけないんだから、問題はあんまり解決してないわよ?

 ラウスがちょっと青い顔してるけど、あたしもちょっと怖いわ。

 仲良くなるのは構わないしあたしとしても嬉しく思うけど、不安の方が大きいのはなんでかしらね?

 なるようにしかならないのは分かってるけど、大事にだけはしないでもらいたいわ。

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