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ヘリオスオーブ・クロニクル(旧題:刻印術師の異世界生活・真伝)  作者: 氷山 玲士
第一五章・総合学園開校準備
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王家からの入学者

 ラウス達が、メモリア総合学園の入学を決めてから1週間経った。

 入学手続きはリカさんが引き受けてくれたおかげで、4月になったらラウス、レベッカ、キャロル、レイナ、セラス、そしてユーリとアリアは学園生となる。

 リカさんによれば、さすがに貴族家の当主は他にいないが、跡取りを含む令息令嬢はそれなりの数がいるみたいだ。

 なのでそういった令息令嬢向けに、貴族科っていうのも用意されることになった。

 貴族科の内容は領地経営に関する事が多いが、茶会とか夜会とかの作法も学ぶ事になるみたいだ。


 それからレイナとセラス以外が進化している事は、基本的に伏せられる。

 さすがに学園長を始めとした教師陣には説明しておかないといけないが、余計なトラブルを起こす事になりかねないから、生徒には余程の事がない限りは説明しない。

 まあ未成年でハイクラスに進化したって人は、歴史を紐解いても10人もいないみたいだし、エンシェントクラスに至っては皆無だから、簡単には信じられないだろうが。


 以上の事も含めて、今日は天樹城で国際会議(サミット)が開催される。

 ヒルデやソルジャーからも評判が良く、ソレムネ統治の今後を左右すると思われるクエルボ・イストリアス伯爵も、今回グランド・ソルジャーズマスター デルフィナさんのトラベリングで来城し、年が明けると同時に独立する事も決まったそうだ。


「クエルボ・イストリアス、以前より話していたが、其方を正式に王と認め、イストリアス伯爵領に隣接する2つの地域と共にエネロ・イストリアス伯国として独立を許可する」

「はっ!天帝国のため、そして民のためにも、粉骨砕身の覚悟で全うする所存です」


 男性ヒューマンのクエルボ伯爵は年が明けてからになるが、自らの家名を冠した国の王となる。

 ラインハルト陛下やヒルデの中では、ソレムネ地方は12の国としての独立を最終的な目標としており、エネロ・イストリアス伯国はそのための第一歩だ。

 最初は伯国から始まり、過不足なく国を治め続ける事が出来たら侯国となり、その後天帝、三王、三公全てが認めると新たな国名を名乗る事が出来るようになるらしい。

 王の立場としては三公どころか天帝位継承権を有する天爵家より下になるが、これはソレムネが敗戦国だからという理由が大きいそうだ。


「以前にも伝えたが、エネロ・イストリアス伯国が侯国となる条件は、来春メモリア総合学園に入学する嫡男ラルヴァ・イストリアスが瑕疵無く卒業し、立太子する事だ。現状では厳しいと思われるが、もしもの場合は一歩一歩成果を上げていってもらう」

「心得ております。ラルヴァの再教育は行っておりますので、陛下のご期待に応えられるよう、奮励努力致します」

「期待している」


 伯国、侯国は地球でもあったが、国土は伯爵領や侯爵領のままという事もあり、正式な独立国というより治外法権を得た自治体といった方が近いかもしれない。

 俺はあんまり詳しくはないし、真子さんもゲームの知識しかないそうだから、正確には違うのかもしれないが、ラインハルト陛下やヒルデ、王達はソレムネ地方の独立に丁度いいと思ったようだ。

 そのためエネロ・イストリアス伯国には不定期で監査が入るし、ソルジャーズギルドへの指揮権もグランド・ソルジャーズマスターの方が上になっている。

 領主貴族より権力はあるが、酷過ぎるようなら王位剥奪の上で国土は天帝国の直轄地になってしまう。

 まあ、これは領主貴族でも同じ事だが。


「そのメモリア総合学園だが、ハイクラスとエンシェントクラスも数名入学する事になった」

「な、なんですって!?」

「驚くのも無理もないし、そなたの子息の監視も依頼しているが、そちらはついででしかない」


 さすがにハイクラスやエンシェントクラスが入学するとなると、驚かれるよな。

 全員未成年だし、普通なら頭がおかしいと思われても仕方ないんだが、実際にラウスとレベッカは14歳でエンシェントクラスに進化してるから、クエルボ伯爵が信じなかったとしてもどうにもならない。


「彼らの素性は後程資料を渡すが、他言する事は禁ずる。もちろん子息にもだ」

「それはもちろんですが、息子にもですか?」

「そうだ。学園内では身分は通用しないが、身分そのものが消える訳ではない。それ故に自らの身分を笠に着て、彼らに無茶を強要する可能性もあるだろう?」

「それは……無いとは申せません」


 領内で傍若無人に振る舞ってるようだし、入学してからも問題を起こすのは分かり切っている。

 だけどハイクラスやエンシェントクラスが監視についてるって知ったら、そのバカ息子の更生は難しい。

 だからユーリ達が進化してる事は、一部を除いて伏せておかないといけない。

 学園の教師陣には説明しておかないといけないが、生徒にまで報せておく必要は無いしな。


「万が一の話だが、更生の余地がないと判断された場合、即座に退学となる。退学となってしまえばギルドへの登録にも支障が出るが、その時点で継承権は剥奪となり、国外へ出る事は禁止となる。これは三王国並びに三公国も賛同しているため、私でも覆す事は出来ない。そのつもりもないが」


 最後に小さな声で呟いたラインハルト陛下だが、事実として三王国に三公国も、ラルヴァ・イストリアスの更生に失敗した場合、エネロ・イストリアス伯国からの出国を禁じている。

 国外追放にした場合、自国は一切関与する必要は無くなるが、追放された国としては何をされるか分かったもんじゃないし、元とはいえ王家となる者でもあるから対処に困ってしまう。

 それにその場合、そのバカ息子の自業自得って事にもなるし、今は復興や開発でどこの国も大忙しだから、余計な些事にかかわってなんかいられないっていう理由も大きい。

 だからいかなる理由があろうと一切の出国は禁じ、後はイストリアス伯王家でどうしようと関与しない方針で纏まっている。


「はっ、我が子の不始末は、親である私の責任です。万が一の場合ラルヴァは廃嫡とし、母親共々生涯幽閉と致します」


 万が一の場合に備えるのは当然のことなんだが、そのバカ息子の場合、更生は無理だという意見の方が多い。

 だからこそ次期伯王の座には弟の方をっていう声も大きいんだが、ソレムネ貴族はどこもかしこも無能ばかりだったこともあって、処罰を受けた者がほとんどでもある。

 そのため未成年には、更生の機会を与えてみようって事にもなった。

 ラルヴァ・イストリアスのメモリア総合学園入学は、そのための第一歩でもあるんだよ。


 年明けにエネロ・イストリアス伯国が独立する事でラルヴァは王子となるため、身分としては総合学園の中でも上から数えた方が早い。

 だけど総合学園では身分は通用せず、そればかりか天帝をはじめ三王、三公からも教師陣の立場は保証されているため、身分を笠に着た態度はフィリアス大陸最高権力者達を敵に回す暴挙となる。

 だからこそ、身勝手な振る舞いをしているラルヴァを入学させるという手が取れるともいう。


「うむ。では私や各王の指示で入学する者を紹介する。とはいえこの場には来ていないから、リストに目を通してもらうだけになるが」


 ラインハルト陛下が参加者に配ったリストに、俺も目を通す。


「王族に関しては、ユーリアナ殿下とセラス殿下が加わった以外、特に目新しい変更点はありませんな」


 王族に関しては以下の通りだ。


・アミスター天帝国

  ユーリアナ・エスメラルダ天爵(15歳)


 ユーリは天爵であり、現時点では天帝位継承権第二位でもあるため、本来なら護衛される側になるんだが、ハイクラスに進化してるだけじゃなくレベルも60近くになっている。

 だから今回は護衛する側って事になるんだが、身分は入学生の中で最も高い上に年齢も上の方だから、その点がちょっと心配だ。


・トラレンシア妖王国

  ルシア・ミナト・トラレンシア第二王女(12歳)

  ディアナ・ミナト・トラレンシア第三王女(10歳)


 トラレンシアの2人はヒルデの従妹で、ルシア殿下がヒルデの母の一番上の姉の長女、ディアナ殿下はすぐ上の姉の長女で、どちらもヴァンパイアだ。

 ヒルデの次のトラレンシア女王は妹のブリュンヒルド殿下だが、その次に即位するのがルシア殿下、さらにその次がディアナ殿下になる予定らしい。

 2人は正確には王の従妹になるんだが、母親がどちらも王位に就いた経験があるため、トラレンシアの慣例に従うと王女って事になるそうだ。

 ヘリオスオーブだと男女問わず生まれた順番に第一第二と数えるんだが、トラレンシアの場合のみ王位継承権を持つ王女の年齢順になるからややこしい。


 ちなみに王位継承権が発生しない種族だった場合、王子や王女とは呼ばれるが、成人と同時に王家から離れることにもなっているそうだ。


 どちらも、俺達と面識があり、ルシア殿下はスカラーズギルドに、ディアナ殿下はクラフターズギルドへの登録を考えてると聞いている。


・アレグリア獣王国

  デイヴィッド・アレグリア王太子(10歳)


 デイヴィッド殿下も何度か会った事がある。

 ウルフィーの王子で、先日10歳の誕生日を迎えると同時に、正式に王太子として立太子された。

 丁度ガグン迷宮とラオフェン迷宮の迷宮氾濫(スタンピード)が終息した直後でもあったから、残念ながら立太子の儀を見る事が出来なかったが、アレグリアにとって数代ぶりの男性王になるって事で、アレグリア国内じゃしばらくはお祭り騒ぎが続いたと聞いている。

 そのデイヴィッド殿下だが、ハンター登録をしてみたいと思ってるみたいだな。


・リヒトシュテルン大公国

  セラス・リヒトシュテルン第三公女(12歳)


 セラスは面識があるどころかウイング・クレストのメンバーで、ラウスの婚約者でもある。

 姉で第一公女だったシエル様はラインハルト陛下に嫁ぎ、すぐ上の兄で第二公子のアドライン殿下は、リヒトシュテルン大公国建国と同時に公太子として立太子済みだ。

 アドライン殿下はキャロルと同い年で入学も希望していたんだが、既にハンターに登録済みで、しかも(ブロンズ)ランクに昇格しているため、残念ながら見送ったと聞いている。


 ここまでが、俺達と面識がある王族になる。


・アクアーリオ橋公国

  ネブリナ・アクアーリオ公太子(13歳)


 ネブリナ殿下はウンディーネで、アクアーリオ橋公国唯一の橋公位継承者となっている。

 これはアクアーリオに限らないんだが、三公国の独立はあまり時間も無く唐突だったっていう理由もあって、どこも公位継承者は不足気味だ。

 現アクアーリオ橋公のイザベラ陛下は32歳だが、現在第二子を妊娠中って話だから、他国よりはまだマシなのかもしれないが。

 ネブリナ殿下の問題点は大人しいというか引っ込み思案な事らしく、立太子こそしているがこのままでは橋公としての務めが果たせるか疑問がもたれているらしい。

 だから学園生活で、少しでも変わってくれることを期待しているんだそうだ。


・デネブライト橋公国

  ライオ・デネブライト第一公子(12歳)

  イルミナ・デネブライト第二公女(12歳)


 この2人は男女の双子で、どちらもドワーフになる。

 ただ能力的にはほとんど差がないらしく、ウルス橋公陛下もどちらを公太子にするかで日夜頭を悩ませているそうだ。

 どちらもクラフター登録を希望しており、さらに橋公位に就くとクラフターとしての活動時間が削られてしまう事を嫌っているとの事だから、他の三公国に比べると跡継ぎには恵まれているんだが、別の意味で頭の痛い問題だな。

 入学させる理由は、どちらが公太子に相応しいか見極めるためでもあるみたいだ。


・フリューゲル獣公国

  アウローラ・フリューゲル第一公女(14歳)


 そして獣公国から唯一の入学者が、フォクシーのアウローラ殿下となる。

 元はバリエンテの公爵令嬢でプリムとも面識があるそうだが、今では2人とも公女かつ獣公位継承権第一位という立場になっているから、アウローラ殿下にとってプリムは良き相談相手であり姉でもあるそうだ。

 プリムに憧れている事もあって、入学後はハンターになりたいと公言しているな。

 いずれ会おうと思っていたが、今の今まで会えずじまいだから、そこは申し訳ないと思う。


 ここに、エネロ・イストリアス伯国第一王子ラルヴァ・イストリアス(12歳・ヒューマン)が加わる形になる。


「2人増えた形にはなるが、彼女達は学ぶためというより監視や護衛の意味が強い」

「エンシェントクラス2人にハイクラス3人ですか。彼らが進化していたとは思いませんでしたが、ウイング・クレストの一員というだけで納得できるものですな」


 さらにウイング・クレストで入学するメンバーも、しっかりと紹介されている。

 驚かれたのはやっぱりラウスとレベッカだが、ユーリ、アリア、キャロルもハイクラスどころかエンシェントクラス間近って事は信じられなくても仕方がないだろう。


「天爵殿下に大公女殿下が護衛する側とは、さすがにどうかと思ってしまいますが、このレベルでは護衛される意味もありませんか」

「対外的には、彼らが護衛という事になる。とはいえ王族といえど、学園内では護衛は付けない規則になっているがな」

「そうでしたね」

「クエルボ伯爵、改めて伝えるが、子息が看過出来ない問題を起こした場合、またはこのリストの者に無礼を働いた場合、即座に退学となり、王位継承権を剥奪する」


 ラインハルト陛下から改めてクエルボ伯爵に告げられるが、ラルヴァは王族の中では最も身分が低くなる。

 学園内で身分が通用しない理由は、ギルドがそういった対応をしているからであって、学園も同様の対応をするっていうだけになる。

 だから上の身分の者には礼儀が必要になるし、そのための授業も組み込まれているんだが、イストリアス伯爵家は正式にイストリアス伯王家となるため、ラルヴァが増長してしまう可能性は否定できない。

 だが伯王家は、三公家どころか天爵家より下になるから、下手をしたら入学と同時に退学なんて事もあり得てしまう。


「心得ております。入学までの間、ラルヴァは母親から引き離し、徹底的に再教育を行う予定です」


 その事はクエルボ伯爵も理解している。

 今までの統治が認められて伯王家となるのに、バカ息子の所業によっては一瞬でお取り潰しになるかもしれないし、その場合は自分ばかりか下の息子に妻達まで処罰が下されるかもしれないんだからな。

 だからクエルボ伯爵は、決意の宿った瞳でラインハルト陛下にそう宣言した。


「期待している。それでは次の議題だが……」


 学園関係の議題は、未だ尽きる事は無い。

 初の総合学校であり、連邦天帝国初の共同事業みたいなもんでもあるから、どれだけ会議しても足りないし、時間も足りない。

 大事な話だってのは分かるんだが、それでも1日中はさすがにキツい。

 そろそろ帰りてえよ……。

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