ラオフェン迷宮での再会
ラオフェンの町は、ソレムネ進軍中に立ち寄った事がある。
だから俺達は、ネージュさんに魔物を何匹か献上し、ハンターズギルドに売っ払ってから、トラベリングを使って転移した。
ラオフェンの近くじゃ戦闘は行われていないようで、町にも大きな変化は見られない。
「来てすぐ戦いになるかと思ってたけど、違ったわね」
「そうですね。町も平気みたいですし、ラオフェン迷宮の近くで戦っているという事でしょうか?」
「そうでしょうね。ラオフェン迷宮の迷宮氾濫は、ガグン迷宮みたいに一気に溢れたワケではなく、まだ予兆の段階だったはずです」
プリムとミーナの疑問に、帝王城の会議に参加していたリディアが答える。
確かにラオフェン迷宮の迷宮氾濫は予兆段階だったが、迷宮放逐された魔物の数も数だから、近いうちに確実に迷宮氾濫を起こすと予想されていた。
だからこそソルジャーズギルド主導で会議が行われ、対策が立てられている最中だった。
その最中に、ガグン迷宮が迷宮氾濫を起こしたって言われたんだよな。
「ここで話してても仕方ない。ラオフェン迷宮の場所は聞いてるから、向かってみよう」
「そうね。獣車で行きたいけど、繋いでる時間も惜しいわ。従魔に乗っていきましょう」
それが無難だな。
俺も獣車を使いたいと思ったし、展望席があるからフラムや真子さんも攻撃しやすくなるんだが、魔物に囲まれたりしたら身動きできなくなるばかりか、逆にやられる可能性が高くなる。
急がないといけないが、だからといって俺達の安全を疎かにする訳にもいかないし、アテナもエオスも今日は竜化済み、しかも戦闘後だから、無理はさせられない。
今日はもう休んでていいって言ったんだが、竜化しなければ問題無いとか言って、ついてきてるんだよ。
「よし、急ごう」
「ええ」
急いで従魔を召喚し、背に乗る。
フラムとアテナ、エオスは、フリーズ・バードに進化したシリウスに乗った。
フラムはリドセロスのフロウと獣魔契約しているが、リドセロスの足はグラントプスより遅いから、今回みたいに急ぐ場合は使いにくい。
リドセロスは水陸両用の魔物で、陸上生活の方が長いんだが、水中の方が動きが機敏だ。
4本の足にヒレがあって、それが陸上だと邪魔になるみたいだな。
稀少種のキャナル・リノセロスに進化すると、ヒレは伸縮自在になるから、陸上での動きもかなり良くなるって聞いてる。
契約したばかりだから、フロウが進化するとしてもまだまだ先の話だろう。
従魔に乗って移動すること1時間、太陽が西に傾いてきた頃、ようやくラオフェン迷宮が見えてきた。
近くにはソルジャーだけじゃなくハンターもいるが、特に戦闘があったようには見えないな。
「あれ?特に戦闘があったようには見えないけど?」
「本当ね。既に鎮圧して経過観察中なのか、それとも迷宮氾濫自体が起きてないのか……」
「聞いてみれば分かるでしょう」
プリムの言う通りだな。
グランド・ソルジャーズマスター デルフィナさんだけじゃなく、グレイシャス・リンクスとブラック・アーミーも来てるから、俺達も話はしやすい。
「えーっと……ああ、いたいた」
一番手前の多機能獣車は、グレイシャス・リンクスのだな。
リーダーのスレイさんが、俺達がやって来た事を確認して、獣車から降りてきた。
「スレイさん」
「大和君、久しぶりね」
「はい、お久しぶりです」
グレイシャス・リンクスと会うのは、結婚披露宴以来だな。
ソレムネとの戦争終結後、いくつかのレイドと協力してイスタント迷宮に入って守護者を討伐してきたらしいけど、その後にグレイシャス・リンクスだけで入ってみたとも聞いている。
残念ながら、守護者はリポップしてなかったそうだが。
エンシェントフェアリーとエンシェントヒューマンがいるホーリー・グレイブはソルプレッサ迷宮を攻略したって言ってたから、フィリアス大陸にある未攻略の迷宮は、近いうちに全部攻略されそうな気がする。
「スレイさん、迷宮氾濫はどうなったんですか?」
「そうね、2時間ぐらい前に200匹ぐらい倒したんだけど、これで終わりなのか、まだ後続があるのか、判断が出来ないのよ。だからってワケじゃないけど、今はブラック・アーミーが中に入ってるわ」
ブラック・アーミーの獣車が見えないと思ったら、中に入ってたのか。
第3階層までに出てくる魔物はCランクが最高って話だから、けっこう深いんじゃないかって気もするな。
あと迷宮氾濫を起こしてる迷宮に入るなんて、けっこうヤバいんじゃなかろうか?
「え?迷宮氾濫を起こしてる迷宮に入ってるの?」
「大丈夫なんですか?」
口を開いたルディアとフラムだけじゃなく、みんなも驚いている。
迷宮氾濫は迷宮が抱えきれなくなった魔物を外に放出する現象だから、迷宮内も相当凄い事になってるって聞いてるからな。
トラベリングやエスケーピングみたいに魔法的な感じで放出するらしいから、下の階層から上がってくる訳じゃないが。
「魔物次第だけど、多分ね。予想でしかないけど、グラン・デスワームが迷宮放逐されてることから考えて、ラオフェン迷宮は22か23階層ぐらいだと思う。3階層でCランクって事は、他の迷宮と比べてみると、10階層を超えてようやくGランクが出てくるぐらいね。だから守護者もPランク、もしくはMランクだと思ってるのよ」
そんな話は聞いた覚えがあるな。
ラオフェン迷宮は第3階層からCランクモンスターが出てくるが、Tランクモンスターも生息している。
これはラオフェン迷宮に限らず、他の迷宮でも似たような感じらしい。
他の迷宮の生態と比較すると、だいたい第6階層辺りまで進むとTランクモンスターは出現しなくなり、代わりにSランクモンスターが出てき始めるんだったか?
「ああ、そうか。16階層辺りでPランク、21階層ぐらいからMランクが出るようになるから、M-Iランクのグラン・デスワームが迷宮放逐されてる以上、20階層以上あるのはほとんど確実ね」
「仰る通りです。もっと深い可能性もありますが、先程倒した魔物は、最高でもGランクでしたから、後続がなければその判断が下されるでしょう」
迷宮氾濫は町や村どころか国が傾きかねない災害ではあるが、迷宮の深層まで行かなくても、ある程度の魔物を観測できる機会でもある。
だから討伐はもちろん調査もしっかりと行われるし、その情報を基に速やかに迷宮の攻略を行う。
事実、迷宮氾濫を起こした迷宮は、8割以上が攻略されているそうだ。
全部じゃない所が気になるが、A-Iランクのディザスト・ドラグーンが溢れたレティセンシアの迷宮は、身勝手なレティセンシアの行動のせいで放置されてるから、他もそんな感じの理由なんだろうな。
「数はどれぐらいだったんですか?」
「Iランク29匹、Cランク53匹、Bランク48匹、Sランク57匹、Gランク18匹、Pランク3匹だな」
ランクの幅が広いが、数的にはPランクが突出して少ないな。
逆にCランクからSランクまでは、そんなに大差ない感じだ。
M-Iランクのグラン・デスワームが迷宮放逐されてる以上、Mランクモンスターが生息してるのは間違いないが、数はそんなに多くないって事か。
「グラン・デスワームの事があるからここも大変な事になると思ってたんだけど、予想と違ってたね」
「そうですね」
ルディアとミーナの意見に、俺も同意だ。
迷宮氾濫、迷宮放逐ともに、迷宮から放り出される魔物は高ランクモンスターが多い。
理由は分からないが、高ランクモンスターが生息してるのは深層だから、人入りどころか調査すらロクにされない事もよくある。
だから迷宮氾濫や迷宮放逐では、高ランクモンスターが出てくる傾向が高い。
一応迷宮の魔物も繁殖して増えてるみたいだが、迷宮核が突然生み出す事もあるらしいから、管理されてないと際限なく増えていくって事なんだろう。
その際限なく増えた魔物を、迷宮が抱えきれなくなって外に放出する、これが迷宮氾濫や迷宮放逐と呼ばれる現象だ。
「ガグン迷宮の迷宮氾濫は、そこまで凄かったの?」
「はい」
スレイさんやグレイシャス・リンクスも、ガグン迷宮が迷宮氾濫を起こした事までは知っている。
本当は俺もラオフェン迷宮に来るはずだったんだが、そのせいで来れなかったから、グレイシャス・リンクスやブラック・アーミーにもその旨は伝えられているからな。
「A-Cランクが、そんな大量に出てきたとはね。となるとガグン迷宮は、かなり深いって事になるわね」
あらましを説明すると、グレイシャス・リンクスが顔を顰めた。
エンシェントリクシーのスレイさんがいるとはいえ、グレイシャス・リンクスのハンターはハイクラスが多いから、2,3匹ならともかく20を超えるAランクの相手は厳しい。
「ええ。早めに調査なり攻略なりするつもりです。ただガグン大森林の奥に向かった魔物も気になるから、まずはそっちの調査ですね」
「ガグン大森林……ハヌマーンか。しかも溢れて奥地に向かったと思われる魔物は、カトブレパスにクレストホーン・ペガサス。厄介にもほどがあるな」
本当に同感だよ。
しかも既に影響が出てる可能性があるから、調査に行くなら早めにしないと、マジで取り返しのつかない事になりかねない。
「本当に厄介だわ。だけどブラック・アーミーが中に入ってる今、私達はもちろんオーダーも動けないわ」
ガグン大森林の調査は、出来れば手伝ってほしかったが、ラオフェン迷宮を放置する訳にもいかないし、他の未攻略の迷宮だってそれは同じことだ。
だからエンシェントクラスを要するレイドは、ほぼ間違いなく攻略に駆り出されるだろう。
場所によっては、ガグン大森林と同じような問題が起きる可能性もあるし、攻略しておけば迷宮氾濫も迷宮放逐も心配せずに済むようになるからな。
そういやオーダーも派遣されてきてるって聞いてるが、レックスさん達はどうしたんだ?
「スレイさん、兄さん達はどうしてるんですか?」
「レックス君達は、少し西の様子を見に行っているよ。そっちにはシュライエンという街があって、この辺り一帯を治める領主もいるらしいからね」
なるほど、レックスさん達オーダーは、溢れた魔物がシュライエンっていう街に向かってないかを調べに行ってるのか。
確かに魔物が向かったのが、ラオフェンだけとは限らないからな。
「じゃあ俺達も、しばらくはここで待機か」
「済まないが、そうしてくれると助かる」
そうなるよな。
ブラック・アーミーがラオフェン迷宮に入ったのは2時間ぐらい前らしいが、話を聞く限りだと第3階層までは到達してると思われる。
レックスさん達オーダーも、同じ頃にシュライエンに向かったそうだから、領主と話し合うにしてもこれからだろう。
となると、日が沈むかどうかってくらいにならないと、レックスさん達は戻ってこない気がする。
それまでに魔物が出てくる可能性はあるし、そういう事なら待機するのは仕方ないか。
「分かりました」
「ありがとう」
ラオフェン迷宮の迷宮氾濫を鎮めるために来たんだから、待機するのは問題無い。
グレイシャス・リンクスもいるし、近況報告でもしあってれば時間は潰せるだろう。
そのままグレイシャス・リンクスとは、クラテル迷宮の内部やガグン迷宮の迷宮氾濫、リベンジに行ったイスタント迷宮の話で盛り上がってしまった。
なんでもイスタント迷宮でリベンジを成し遂げたグレイシャス・リンクスは、ハンターズギルドで話を聞いて、クラテル迷宮に向かいたいと考えるようになったそうだ。
特にスレイさんはエンシェントリクシーだから、普段着の問題もある。
だからクラテル迷宮第5階層で、グランシルク・クロウラーを狩りまくりたいらしい。
気持ちはよく分かるが、第4階層をどうするのかという疑問がある。
だけどそっちも対策済みで、俺達の天樹製獣車のオプションになってる船体を、フィールのクラフターズギルドで依頼しているんだそうだ。
既に採寸は終わってるから、あと数日で完成するみたいだな。
それまでデセオ迷宮に入ろうって事になってデセオに来たら、ラオフェン迷宮が迷宮氾濫を起こしたって事で、急遽ここまでやってきたっていうのが流れらしい。
運が良いのか悪いのか、判断難しいとこだよな。
活動報告でもあげましだが、仕事がシャレにならなくなってきたので、次話から週1になります。




