刻印剣士と光晶竜の戦い
Side・アテナ
戦い始めて、どれぐらい経ったかな?
魔物の数は半分ぐらいになってるんだけど、元々が多いし大型種もいるから、たいして減ってるように見えないよ。
「数も多いが、20匹に1匹ぐらいは異常種が混じってるから面倒だな」
大和がボヤくけど、気持ちはよく分かる。
迷宮氾濫で溢れた魔物はGランクが多く、稀にPランクがいるんだけど、その中にときたま異常種か災害種が混じってるんだ。
ランク的にはP-IランクからM-Cランクが多く、A-IランクとかA-Cランクが混じる事もあるんだけど、そいつらがいるとこっちも相応の対処をしないといけないから、本当に大変なんだ。
ほら、言ってるそばから、また出たよ。
「今度はクエイクフット・モアかよ。また面倒なのが」
クエイクフット・モアはアース・ロックの災害種で、ランクはM-C。
アイス・ロックとかの亜種で土属性魔法を使うんだけど、アース・ロックは飛べない鳥型魔物なんだ。
その代わり足が強靭だから足も速いし、その足で蹴られたりしたら大怪我じゃ済まない。
大和はダチョウとかって言ってたけど、大きさは5メートルぐらいあるから、ちょっと違うとも言ってたっけ。
「あれ?大和、あのクエイクフット・モアって、なんか違くない?」
「違うな。まさかとは思うが……『クエスティング』。げ、Wランクじゃねえか」
Wランクって事は、翼があるって事だよね?
鳥型魔物だから分かりにくいけど、Wランクって事なら、あのクエイクフット・モアは空も飛べるって事になる。
うわぁ、すごく面倒だよ。
「アテナ、周囲のハードクラック・バードは、俺とジェイドが仕留める。悪いがしばらく、クエイクフット・モアを頼めるか?」
「分かった。じゃあ竜化するね」
G-Rランクモンスター ハードクラック・バードは、アース・ロックの稀少種になる。
だけど30匹近い数がいるから、先に倒しておかないとクエイクフット・モアが何をしてくるか分からない。
だから大和は、ジェイドを伴って先にハードクラック・バードを倒すつもりでいるんだけど、その間クエイクフット・モアは、ボクが引き付けておくことになった。
竜化しなくても何とか出来ると思うけど、大和と一緒に使う固有魔法も使ってみたいから、今のうちに竜化しておきたいんだ。
「分かった。じゃあクエイクフット・モアは、あれで倒そう」
「うん!」
だから大和って好きなんだ。
気合も入ったし、やっちゃうよ!
竜化したボクは、そのままマグマライト・ブレスを吐いた。
ボクは元々はアースライト・ドラゴニアンで、アースライト・ドラゴニアンは光属性のドラゴニアンになる。
光属性のドラゴニアンは、光の他にもう1つ属性を持っていて、ボクの場合は土属性。
だから天嗣魔法竜精魔法エーテル・ブレスも、光と土のブレスになる。
ボクはそのエーテル・ブレスを使った固有魔法マグマライト・ブレスを開発したけど、使い勝手も良いから竜化した状態のブレスもこっちをメインにする事にしたんだ。
威力もだけど、ボクの意思で相手の後を追えるから、すっごく便利なんだよ。
そのマグマライト・ブレスはハードクラック・バードを数匹巻き込んで、クエイクフット・モアに直撃した。
だけどM-Wランクなだけあって、クエイクフット・モアはボクのマグマライト・ブレスの直撃を受けても倒れてはいない。
これはこれで、少しムカつくな。
空を駆けながら接近してきたクエイクフット・モアの嘴を、爪に纏わせた固有魔法ブレイズライト・ブレードで受け止める。
うわ、思ってたより力が強い。
でも体は竜化したボクの方が大きいから、何とか力負けせずにすんだよ。
竜化してなかったら危なかったけど。
『こんのおおおっ!』
受け止めた腕と反対の腕を振るってクエイクフット・モアを振り払うけど、クエイクフット・モアはすぐにボクから離れてしまった。
なんか一瞬で20メートル近く離れちゃったけど、動きが速いどころの話じゃないよ。
もう一度マグマライト・ブレス吐いても、避けられるどころか簡単に懐に潜り込まれちゃうんだろうなぁ。
『それでもやるしかないんだよね!』
ボクは再度両の爪にブレイズライト・ブレードを纏わせてから、マグマライト・ブレスを吐いた。
するとクエイクフット・モアは空に避けて、もの凄い勢いでボクに向かってきた。
ボクもすぐにマグマライト・ブレスを吐くのを止めて、突進を受け止める。
よし、狙い通り!
『捕まえた!』
突進の勢いが強かったからボクもノーダメージってワケにはいかなかったけど、左の爪をクエイクフット・モアに突き刺せた。
ボクはクエイクフット・モアに爪を突き立てたまま、牙にもブレイズライト・ブレードを纏わせて、一気に噛み付く。
口の中に血とかが入ってくるからイヤなんだけど、爪より牙の方が威力は大きいし、慣れれば大丈夫って聞いてるから頑張ってみるよ。
あ、血に慣れるとかじゃなくて、体の中に血を入れなくなるようになるって事ね。
固有魔法の使い方を工夫すれば、噛み付いても口の中が血塗れとかにならなくて済むらしいんだ。
エオスもまだ完璧には出来ないって言ってたから、今度クリスタル・パレスに帰ったら、ハイドラゴニアンのみんなに聞いてみようって思ってる。
「アテナ、待たせた!」
頑張ってクエイクフット・モアに噛み付いていると、ハードクラック・バードを倒した大和が、ジェイドに乗って駆けつけてくれた。
ボクは大和の姿を確認すると、牙を離し、左腕を大きく振るってクエイクフット・モアを投げ捨てた。
「あー、これは別に試さなくても、放っておけば死ぬんじゃないか?」
がっちりと首筋に噛み付いてたから、クエイクフット・モアは見るからに瀕死だって分かる。
ボクも必死だったから気が付かなかったけど、もう少し噛み付いてれば倒せたっぽい。
『だけどさ、まだ実戦じゃ使った事ないんだから、テストにもなるでしょ?』
「それもそうか。それじゃあアテナ、行くぞ」
『うん!』
大和はジェイドを空に放してから、ボクの背中に飛び乗った。
それを確認してから、ボクはウイング・バーストを纏って、空に舞い上がる。
大和も同じくウイング・バーストを使って翼を生やしてるから、準備は万端だよ。
「行くぞ!」
『任せて!』
大和が刻印術を使ったのを合図に、ボクはマグマライト・ブレスを吐いた。
マグマライト・ブレスは念動魔法も組み込んでるから、ボクの意思で自由に相手を追い続ける。
だけど今回は途中で分散させて、雨みたいな感じにしてるから、さすがにそれは無理。
一撃の威力も下がってるけど、これはクエイクフット・モアを攻撃するためのものじゃないからこれで良いんだ。
「大地に食われろ!」
そして大和が、天嗣魔法付与魔法マルチリングを付与させたニブルヘイムとヨツンヘイムっていう刻印術が、同じくマルチリングを付与されたボクのマグマライト・ブレスを吸収して、大きく牙を剥いた。
比喩でも何でもなく地面が大きな口を開けて、クエイクフット・モアを飲み込み、その口の中では、大和のS級刻印術アイスミスト・エクスプロージョンも発動している。
そのアイスミスト・エクスプロージョンは、ボクのマグマライト・ブレスも付与されているから、威力は大きく向上しているんだ。
やがて大地の口が開くと、アイスミスト・エクスプロージョンとマグマライト・ブレスの威力によって、クエイクフット・モアが大きく空に向けて吐き出された。
既に絶命しているのが分かるけど、まだ生きてたりしたらこのまま追撃も考えてある。
これがボクと大和の竜響魔法グランバイト・イラプションだよ。
「なかなかだな」
『うん。慣れてくれば、竜化しなくても使えるようになると思う』
「ああ、そういや竜響魔法は竜化して使うのが普通だけど、ハイドラゴニアン以上なら、慣れれば竜化しなくても使えるんだったっけか」
大和が言うように、竜響魔法は竜化しないと使えない。
完全竜化は竜の姿に変わるだけじゃなく、体の大きさに合わせて魔力も増大するし、魔力の制御力も上がるから、威力が高すぎる竜響魔法は、竜化してないノーマルドラゴニアンじゃ制御出来ないんだって。
全種族中最大の魔力量を誇ってるドラゴニアンでも、完全竜化しないと制御出来ないから、ボクも開発中からけっこう大変だったんだ。
だけどハイドラゴニアンに進化すると魔力はさらに増大するし、魔力の制御力も上がるから、竜化しなくても竜響魔法が使えるようになる。
それでも大変な事には違いないから、慣れるまでは竜化しておかないと、万が一の事故が起こる事も珍しくないみたいなんだ。
ボクはエンシェントドラゴニアンだけど、その話を聞いて怖くなったから、本当に慣れるまでは、完全竜化してからじゃないと竜響魔法を使わないって決めてるんだ。
「分かった。そういう事なら、あいつらもグランバイト・イラプションで倒すか」
『え?あっ!』
グランバイト・イラプションでクエイクフット・モアを倒したボクは、ちょっと気が抜けちゃってた。
大和が指を指すと、そこには別の魔物の群れが、ボク達に向かってきてたんだから。
「メガロサウルスの群れとか、何の冗談だよ。しかもティラノサウルスっぽいのもいるが、明らかに違う」
メガロサウルスはアロサウルスの稀少種で、ランクはGーU。
クラテル迷宮で何回か狩ったけど、絶対に群れない魔物なんだ。
だけどそのメガロサウルスが、10匹以上の群れでボクと大和に向かってきてるし、メガロサウルスより一回り以上大きなティラノサウルスみたいな魔物までいる。
「『クエスティング』。あいつがアルパガスか」
アルパガスって……あっ、災害種だ!
AーCランクモンスターで、迷宮でしか確認された事がないヤツ!
うわあ、M-Iランクのティラノサウルスでさえバレンティアを滅ぼしかねなかったのに、その上のA-Cランクモンスター アルパガスまで出てくるなんて……。
ガグン迷宮が放置されていたから今回みたいな迷宮氾濫が起きたって考えられてるんだけど、それにしても出てくる魔物のランクが高すぎないかな?
「それは俺も気になってた。だから迷宮氾濫を鎮めたら、一度ガグン迷宮に入る必要があるんじゃないかと思ってる。もっとも、それで理由が分かるかどうかは微妙だが」
おっと、思わず声が漏れちゃった。
だけど大和も気になってるみたいだし、本当に数は多いしモンスターズランクも高いから、それは仕方ないよね。
迷宮氾濫で異常種や災害種が出てくるのは珍しくないけど、出てくるのは過去の例を含めても1匹っていうのがほとんどで、多くても5匹だったって伝わってる。
なのにガグン迷宮の迷宮氾濫は、災害種だけでも20匹ぐらいいるから、多過ぎるなんて話じゃない。
迷宮の調査は迷宮に入らないと出来ないから、迷宮氾濫の後で入るっていうのはボクも賛成だよ。
ついでに攻略してきてもいいかもね。
「ついでで攻略できるかはともかく、それもアリだな。それは後で考えるとして、今はあいつらを倒すぞ!」
『うん!』
そっちも問題だけど、今はこっちを何とかしなきゃいけないもんね。
大和がボクの背中に乗った事を確認すると、ボクはもう一度空に舞い上がった。




