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ヘリオスオーブ・クロニクル(旧題:刻印術師の異世界生活・真伝)  作者: 氷山 玲士
第一三章・披露宴に向けて
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竜都での結婚儀式

Side・リカ


 天帝陛下の戴冠式から、今日で1ヶ月が経つ。

 連邦天帝国参加国の復興は順調に行われているし、ソレムネの情勢も少し落ち着いてきたと聞いている。

 相変わらず天与魔法オラクルマジックが使えるのは棄民扱いされていた者達だけだけど、ヒルデ様が見せしめも含めて周知を徹底させていたから、棄民の扱いはかなり緩和されたそうよ。

 元々ソレムネは天与魔法オラクルマジック無しで蒸気戦列艦を作りあげた国でもあるから、魔法に頼らない技術力という点じゃアミスターより上になる。

 派遣されたクラフターが唸る程の技術を持ってた職人も少なくないし、その技術を活かす事でクラフターとしてはそれなりのランクになれる人もいるらしいわ。

 他の街にも、ヒルデ様やグランド・ソルジャーズマスター デルフィナが直接出向く事も増えたから、貴族達も処罰を恐れて唯々諾々と従っているみたいね。

 最もそんな貴族は、いずれ問題を起こすに決まってるから、遠くない内に何かしらの理由を付けて処罰されるでしょうけど。

 その中でもソレムネ最北の街を治めている領主は、ヒルデ様からの評価が高かったわね。

 詳しくは聞いてないけど、いずれ独立もあり得るとか仰っていたわ。


 逆にレティセンシアは、元々確実視されていた自滅がより確実になったわね。

 北方から魔化結晶で進化させたと思しき異常種がレティセンシア中に散らばっているそうだし、災害種すら数体確認出来たとスカウト・オーダーが報告してきたそうよ。

 レティセンシアとの国境はオーダーやソルジャーによって封鎖されてるし、討伐された異常種もいるみたいだから、連邦天帝国に被害は出ていないわ。

 スカウト・オーダーからの報告によると、魔族と化した輩が対処に当たってるそうだけど、災害種どころか異常種の相手もロクに出来てないらしく、被害は甚大なんですって。

 魔族でその有様なんだから、レティセンシア軍なんて何の役にも立ってないんでしょうね。


 だけど全てレティセンシアの自業自得なんだから、私達が手を差し伸べることはないし、私にとっては目の前の大事業の方が大切だわ。


 何故なら私が領主を務めているアマティスタ侯爵領、それも領都メモリアに、大和君が提案していた総合学校を建設するという話がもたらされたから。

 メモリアの桜樹園は、今年は一番都市側の区画を伐採している。

 私はその伐採跡地を整備して、夫の大和君が開発している魔導具MARS(マーズ)を使った施設を建設し、桜樹園は倍の広さに拡大する計画を立てていた。

 だけどその話を聞きつけたラインハルト陛下を始めとした各国の王が、総合学校の建設を持ち掛けてきたのよ。

 いずれはフロート、ベスティア、ドラグニア、グラシオンにも建設する予定だけど、総合学校みたいな大きな施設となると、どこの街も拡張に区画整理をしなければ建設は不可能だから、着工されるとしても数年は先の話になる。

 対してメモリアは、桜樹の伐採を終えた直後という事もあって、丁度広大な土地を使えるようになったばかり。

 さらにメモリアはフロートからも近いし、私は侯爵であると同時に天爵夫人でもあるから、アマティスタ侯爵領以上の立地は無いとまで言われたわ。

 元々MARS(マーズ)施設を建造するための土地だから、それが総合学校に変わった所で大きな違いはないし、アマティスタ侯爵領にとっても利のあるお話だから、受けるしかなかったわね。

 ただアマティスタ侯爵家にとって、桜樹園の拡張は最優先にすべき事業だから、陛下方には申しワケないけどそちらを優先させてもらっているわ。


 だけど今日は、そんな忙しない事業から離れて、私達は久しぶりにドラグニアを訪れている。


「汝、夫となりし者、ヤマト・ミカミ・フレイドランシア」

「はい」

「汝、妻となりし者、リディア・ハイウインド」

「はい」

「汝、新たな妻を迎え入れし者、プリムローズ・ミカミ・フレイドランシア」

「はい」

「汝ら、聖なる女神へ祈りを捧げたまえ」


 ドラグニアを訪れた理由は、リディアとルディアが17歳の誕生日を迎えたからよ。

 だから今日、大和君との結婚儀式を行う事に決まっていたの。

 今はドラグニアにあるプリスターズギルド・バレンティア本部で、結婚儀式を行っている最中になるわ。

 ああ、当然だけどヒルデ様やユーリ様も休暇を取って、参列されているわよ。


「リディア・ハイウインド、汝が彼の者の新たな妻になることを、新たなる名と共に女神像に告げよ」

「私リディア・ハイウインドは、ただ今よりリディア・ミカミ・フレイドランシアとなることを誓います」


 誓いの言葉を口にしたリディアの前に、ライブラリーが開かれた。

 それを確認したリディアはライブラリーを閉じ、プリムさんの隣に移動する。


「汝、夫となりし者、ヤマト・ミカミ・フレイドランシア」

「はい」

「汝、妻となりし者、ルディア・ハイウインド」

「は、はいっ」

「汝、新たな妻を迎え入れし者、プリムローズ・ミカミ・フレイドランシア、リディア・ミカミ・フレイドランシア」

「「はい」」

「汝ら、聖なる女神へ祈りを捧げたまえ」


 重婚儀の場合、同妻は必ずしも参加する必要はないんだけど、初妻だけは参加が義務付けられている。

 初妻は妻達の纏め役であり、妻達の代表でもある。

 結婚に関しては妻達の総意が必要だけど、それでも初妻の発言力はかなり高い。


「ルディア・ハイウインド、汝が彼の者の新たな妻になることを、新たなる名と共に女神像に告げよ」

「あたしルディア・ハイウインドは、ただ今よりルディア・ミカミ・フレイドランシアとなることを誓います」


 ルディアの前にもライブラリーが開かれた。

 無事にリディアとルディアも、大和君と結婚出来たわね。

 それを確認すると、儀式を取り仕切って下さったヘッド・プリスターズマスターが、参列者と共に儀式の間を後にする。

 まだ婚約者という立場のユーリ様、真子、アテナ、アリアも、同じく後に続いているわ。


「やっと結婚出来たけど、特に何かが変わるってワケじゃないんだね」

「名前以外はそうだろうな。だけど改めてよろしくな、リディア、ルディア」

「はい!大和さん、皆さん。改めてよろしくお願いします」

「よ、よろしくお願いします!」

「こっちこそ」


 大和君に抱き着く双子のドラゴニュート。

 これであと結婚していないのはユーリ様、真子、アテナ、アリアの4人だけど、アテナは8月が誕生日だから、その日に結婚する予定になっている。

 ユーリ様は14歳、アリアは15歳だから、結婚は3年後かしらね。

 真子は結婚はともかく、重婚や天爵夫人っていう肩書に頭を抱えてたから、アテナより遅くなりそうだわ。

 地球とは結婚観が違うから、こればっかりは仕方ないわね。


Side・真子


 昨日ドラグニアで、リディアとルディアが大和君と結婚した。

 だけど私は、未だに決心がつかないでいる。

 ここは地球、日本とは違う世界で、常識や結婚観も私のそれとは違う。

 それでも結婚するつもりは出来たつもりだったんだけど、本当につもりだったみたいだわ。

 だから私は、偉大なる先達に相談するために天樹城にやってきた。


「何度目かも分かりませんけど、私には相談できる人がサユリ様しかいませんから」

「気持ちは分かるわよ。私もそうだったから。最も、私にはユカリさん以外にも相談出来る人が何人かいたし、嫁ぐ先が後のアミスター王になる事は分かってたから、後は覚悟を決めるだけだったけど」


 サユリ様が嫁いだのは、ラインハルト陛下やマナ様、ユーリ様の曽祖父で、3代前のアミスター国王。

 出会った時点でその方は既に結婚されてたそうだけど、サユリ様は紆余曲折を経て無事に結婚し、唯一子を成した王妃様にもなっている。

 元々王家や貴族が多くの妻を娶っている理由は後継問題を回避するためだから、ある意味じゃサユリ様が嫁がなかったらアミスター王家は途絶えていた可能性があるし、だからこそ他の王妃様との仲も良好なものだったそうよ。

 そういう意味じゃ、大和君も天爵という貴族になったし、三天家となるフレイドランシア、ラピスラズライト、エスメラルダ家はもちろん、アマティスタ侯爵家やトラレンシア妖王家の後嗣も作らないといけないし、分家もあった方がいいだろうから、妻が多くなるのは当然だと思う。

 その貴族こそが、私にとって一番の問題になってるワケだけど。


「そこは考え過ぎね。元々アミスターの貴族は、横柄な者はほとんどいないわ。稀に権力志向に凝り固まった馬鹿が出てくるけど、そういった輩は相手にされないし、国の中枢からも離されるから、結局権力を手にする事は出来ないのよ」


 それも気になるけど、私が気にしているのは生まれてくる子供の事なんですよ。

 サユリ様もご存知だと思うけど、地球じゃ後継問題とかで血で血を洗う抗争が起きる事は今でもある。

 別に私は、自分の子をフレイドランシア天爵家の後嗣にしようとは思ってないけど、周りが勝手に動く事だってあるでしょう。

 私の子だけじゃなくプリム達の子とそんな事になったらって思うと、どうしても……。


「それがあなたが結婚を躊躇ってる理由か。難しい問題だけど、そこを気にしてたら結婚なんて出来ないわよ?それにあなたも聞いてるでしょう?ガイア様の予知夢の話を」

「はい。最初に大和君の子を産むのはマナ様で、次がリカ様、その次はプリムかフラムのどちらかだと」


 マナ様とリカ様が大和君の子を産む以上、ラピスラズライト天爵家とアマティスタ侯爵家の後嗣については問題ない。

 男の子か女の子かは分からないけど、ヘリオスオーブは男尊女卑とは縁遠い世界だから、どちらでも歓迎されるでしょう。

 もちろん跡取りの問題から男の子が望まれてはいるんだけど、男の子の出生率は10人に1人ぐらいだと言われているし、妖族なんて生まれてくる子はハーフ以外は全て女の子なんだから、多くの貴族家は女子が跡を継いでいる事も多いわ。

 アミスター王家の場合は、長子は男の子になる事が多いらしいし、バレンティア竜王家に至っては女の子が生まれることはほとんどないそうだけど。


「あなたもいずれは子を産むだろうけど、プリムとフラムの後になるのは確定している。それに多分だけど、大和君はフレイドランシア天爵家の跡取りに、プリムの子を指名すると思うわ」

「そ、そうなんですか?」

「ええ。これも聞いてない?プリムは大和君が決闘を挑んで勝利して、それで結婚したのよ。それに大和君は、しばらくはプリム以外と結婚するつもりもなかったの。今じゃグダグダになってるけど、それでもミーナやフラムを受け入れるのは大変だったそうよ」


 その話も聞いた事あるわ。

 ヘリオスオーブに転移して10日ぐらいで、大和君はプリムにプロポーズするために決闘したって。

 プリムは自分より強い男との結婚を望んでいたけど、大和君に一目惚れしてたのも間違いない。

 大和君はプリムの気持ちに気付いてなかったそうだけど、プリムに認めてもらうために決闘を挑み、そして勝ったから、2人は結婚した。

 次の日にはミーナと、その次の日にはフラムと婚約したそうだけど、大和君としては数ヶ月はプリムとの新婚生活を送りたかったらしい。

 だけどそのプリムに諭されて、今じゃ2人とも結婚してるし、マナ様にリカ様、ヒルデ様まで加わって、更に昨日リディアとルディアとも結婚している。

 1年足らずで8人と結婚してるワケだけど、それは大和君が、ヘリオスオーブで生きていく決意を固めたって事でもある。

 さらにまだ未成年のユーリ様とアテナも控えているし、アリアちゃんもこないだ寝室に行ったそうだから、残ってるのは私だけ。

 一番年上なのに、一番女々しいって言われても仕方がないわ。


「私の経験を言わせてもらうと、一度受け入れてみるべきだと思うわ。私も最初は躊躇したけど、慣れると楽しいわよ?」

「そういうものなんですか?」

「そういうものよ。2人きりでっていうのは運が絡んでくるけど、大和君もそこは分かってるはずだしね」


 さすがにサユリ様でも、曽孫夫婦の夜の生活は聞いてないか。

 まあ身内にはし辛い話だし、それも当然だけど。

 いえ、アプリコットさんっていう前例もあるから、もしかしたら聞いてるかもしれないわね。


「というか、あなたがまだ処女だって事が驚きだわ。学生時代、恋人とかいなかったの?」

「いたらここまで悩んでなかったと思います」


 私の21年の人生で、恋人がいた事は一度もない。

 高校に入ってから彼氏を作ろうと思ってはいたのに、誰かさんの両親に自信とプライドを粉々に打ち砕かれた事もあって、3年間ずっと刻印術の腕を磨く事に費やしていたし、大学に進学してからは勉強に次ぐ勉強でそんな暇は一切無かったから。

 まあ、その人達の息子と結婚する事になるとは、さすがに思わなかったけどね。


「ともあれ私から言える事は、案ずるより産むがやすしって事だけね。あなたは頭が良いから、考え過ぎるのよ。ここは地球じゃないんだから、もう少し素直に感情を出しても良いと思うわよ」

「そうかもしれません。もうちょっと自分に素直になってみます」


 まあそれでも、奥さんに婚約者合わせて11人の前でって事になるワケだから、恥ずかしいっていう気持ちはどうしようもないのよね。

 だけどヘリオスオーブでは、夫婦仲はもちろん妻同士の仲が悪くならないようにっていう意味もあるから、体調不良や気分が乗らない時以外は一緒に寝る事になっている。

 本来なら私はとっくに大和君と結婚してるはずなんだけど、異世界からの客人まれびとって事で大目に見てもらっていた。

 それに甘えてたのも間違いないから、サユリ様の仰る通り、もう少し自分に素直になってみよう。

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