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ヘリオスオーブ・クロニクル(旧題:刻印術師の異世界生活・真伝)  作者: 氷山 玲士
第一三章・披露宴に向けて
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プラダ村開発開始

 各国の戴冠式も終わって1週間が経った。

 今日からプラダ村の開発が行われる。

 ユーリが立てた計画はラインハルト陛下にも支持され、すぐに人員が招集された。

 水中での作業となるため、ウンディーネや水竜のドラゴニュートが中心だが、総勢100名程になる。

 オーダーはウンディーネや水竜のドラゴニュートのみで35名だが、クラフターは少数ながらいる他種族も含めて68名だ。

 フラムにレベッカもしばらくは掛かりっ切りになるし、ラウスにキャロルも護衛として参加する事になってるぞ。

 後はマリーナも、たまに手伝うとか言ってたな。

 当然俺達も手伝うんだが、水中での作業だからそっちはあまり手伝えない。

 オゾン・ボールを使えば水中でも活動出来るが、それでも最長で30分が限界だし、クールタイムに最低でも1時間は必要だから、ヤバ気な魔物が出た時に入るぐらいだけどな。


 作業に関しては朝の9時から夕方5時までで、昼飯は領主持ち。

 宿に関しては、プラダ村に仮設住居を建設して対応する。

 契約は2ヶ月だが、それだけの期間で出来るかは分からないから、状況によっては延長もあり得る。

 但しウンディーネや水竜のドラゴニュートが優先されるから、クラフターからは苦情も上がってきてたりする。

 事前にクラフターズギルドにはしっかりと説明してたんだが、条件が良い上に(カッパー)ランク以上って事で募集を掛けた事が理由だろうな。

 低ランククラフターの収入なんて、クラフターズギルドの納品依頼で何とかって食っていける程度でしかないから、文句を言ってくる奴らの気持ちも分からんでもない。

 だけど作業場所がベール湖の底なんだから、こればっかりはどうしようもないんだよ。

 水中呼吸の魔法は昔から奏上が試されてたが成功したことはないし、俺も全くダメだったからな。


「皆さん、本日はよく、私の呼び掛けに応えて下さいました。本日から行う事業は、ナダル海に面しているこのプラダ村に港を作るためのものです。この場に港があればと、どれほどの貴族やトレーダーが願ったかは分かりません」


 アミスターはナダル海に面した港を持ってないから、アレグリアやリベルターとの取引はバリエンテかレティセンシアを経由するか、空を飛べる騎獣を使うかしか方法がなく、どちらも多大の経費が必要だった。

 だから過去のアミスター王や領代もプラダ村に港を建設しようと考えた者は多いんだが、ベール湖側の水深がネックとなって、その度に断念されていた。

 それだけじゃなく、ウンディーネや水竜のドラゴニュートなら水中でも作業できるんだが、問題となったのはやはり魔物の存在だ。

 ベール湖で有名なのは(カッパー)ランクモンスター ブルーレイク・ブル、ブルー・シャーク、レイク・ビーだが、当然のように(ブロンズ)ランクもいるし、プラダ村の近くじゃ(シルバー)(ノーマル)ランクモンスター リドセロスも確認された事がある。

 水棲の魔物は水中ではランク以上の強さを発揮するから、護衛も無しに作業をさせる訳には行かない。

 だが水中で護衛が出来るのはウンディーネや水竜のドラゴニュートしかいないし、ハイクラスに進化している人も少ないから、今までは大規模な開発を行えなかった。

 実際、今回動員したハイオーダーは7人しかいない。


 だが今はフラム、レベッカというエンシェントウンディーネが2人もいるし、フラムはエンシェントクラフターでもあるから、護衛戦力としてのみならず作業員としても中心的な役割を担える。

 しかもプラダ村はフラムとレベッカの故郷でもあるから、領主のユーリも話を持っていきやすい。

 ユーリがプラダ村の開発を実行しようと思ったのも、フラムがいたからという理由が大きいな。


「事前に説明した通り、作業は水中で行って頂きます。そのために護衛も揃えていますから、クラフターの皆さんは安心して作業を行ってください」


 当然エンシェントウンディーネが作業中の護衛に入る事は、クラフターにも伝えられている。

 だからこそ、これだけのクラフターが集まってくれたんだよな。


「必要な物は随時搬入します。また週末の夜には、慰労を兼ねて酒も用意しましょう。希望者はフィールで英気を養って頂く事も考えています」


 これもトラベリングを使えるエンシェントクラスがいるからこその提案になる。

 プラダ村からフィールまでは、騎獣に乗っても6時間、徒歩だと10時間近く掛かる。

 とてもじゃないが1日で往復できる距離じゃない。

 作業期間中は、ロクに街にも繰り出せないっていうのも、開発が敬遠されてた理由だな。

 ユーリは今回の開発に、かなり力を入れている。

 だからこそ作業員には不満が出ないよう護衛も揃えているし、酒や食事なんかにも気を遣っているぐらいだ。

 作業員が嫌がれば効率は悪くなるし、最悪の場合は開発そのものが中止になりかねないから、俺も同じ待遇で雇う事を考えるだろうな。


「作業が予定より早く終われば、規定通り報酬の増額もあります。大変ではありますが、奮起して下さい。それから監督官ですが、私の姉マナリース・ミカミ・ラピスラズライト天爵、私の婚約者である大和様の奥方プリムローズ・ミカミ・フレイドランシア夫人、ミーナ・ミカミ・フレイドランシア夫人の3名となり、作業中の指示はフラム・ミカミ・フレイドランシア夫人が行います。特にフラム夫人はエンシェントウンディーネですから、何かあれば遠慮なく頼って下さい」


 ユーリが言った通り、マナとプリム、ミーナはこの開発の現場監督に、フラムは作業監督に任命された。

 毎日来る必要は無いし、フィールに派遣された文官も連れて来てるから任せても構わないんだが、作業は対岸の森でも行われるし、ここもマイライトの麓には違いないから、オークを警戒しておく必要がある。

 だからリディア、ルディア、アテナも含めて、誰か1人は必ずプラダ村に来る事も決めてある。

 当然俺もなんだが、俺はプラダ村だけじゃなくメモリアやデセオにも顔を出す必要があるから、週に2回ぐらいしか来れないだろう。

 今日は初日だからプラダ村に来てるが、明日はデセオで明後日はメモリアと、既に予定はびっしり詰まっている。

 自分で言ってて悲しくなってきたな……。


Side・フラム


 今日からプラダ村の開発が始まりました。

 フィールとプラダ村の領主となられたユーリ様が、プラダ村に呼び集めたクラフターとオーダーに改めて条件を伝え、作業開始です。

 私やレベッカにとっては故郷の開発ですから、否が応でも力が入ります。


「フラムさん、レベッカちゃん。よろしくね」

「こちらこそ、よろしくお願いします」


 最初に私達に声を掛けてきたのは、トラレンシア派遣部隊第1分隊に参加されていたハイウンディーネで、プラダ村護衛隊のファースト・オーダーに任命されたマリンさんです。

 トラレンシアでは共にスリュム・ロード討伐戦に参加しましたし、ソレムネ進軍の際はウイング・クレストが所有する天樹製多機能獣車に乗っていましたから、同じウンディーネという事でよくお話をさせていただきました。

 マリンさんはアミスター南方の港町の出身で、帰還後はロイヤル・オーダーに任命されています。

 今回集められたオーダーは、レックスさんが自らアミスター中を巡って該当者を探して下さったのですが、ハイウンディーネや水竜のハイドラゴニュートは7名しかおらず、オーダーズマスターやサブ・オーダーズマスターに就かれていた方もいました。

 ですからラインハルト陛下のご意向で、ロイヤル・オーダーのマリンさんが派遣されてきたんです。


「レベッカちゃんまでエンシェントウンディーネに進化したとか、話を聞いた時は何事かと思ったわ」

「マリンさんだって、レベル59じゃないですかぁ」

「そうだけどね。まあ私はそこまで進化に拘ってるワケじゃないから、今のレベルでも満足してるけど」


 確かに進軍中に私が進化した時も、そんな事を仰っていましたね。

 その証拠にマリンさんのエメラルド・オーダーズコートは、ウインガー・ドレイクの革が使われた初期の物です。

 マリンさんも翡翠騎士エメラルド・オーダーの称号を賜って(アダマン)ランクオーダーに昇格しているんですが、素材の関係で(アダマン)ランクオーダーの半数は、未だにウインガー・ドレイク製のエメラルド・オーダーズコートのままです。

 現状では問題ないのですが、エンシェントウンディーネに進化してしまうと魔力疲労による劣化が早くなりますから、ラインハルト陛下やレックスさんは、なるべく早めにエメラルド・オーダーズコートも(プラチナ)ランクモンスターの革で仕立てられるようにと考えられています。


「ですがそこまでのレベルになってると、進化してしまう可能性はありますからね。早めに新しいコートに交換していただいた方が良いですよ」

「ウイング・クレストは、それで苦労したって話だものね。まあ、そっちはおいおい考えるわ。それより作業員の準備が出来たみたいだから、先に入って待ってましょう」


 準備が出来たんですね。

 魔物がいるか確認をしなければなりませんから、私達が先に入るのは当然です。

 でしたらここは、私が先に行きましょう。


「分かりました。ではお先に入りますね」


 靴やブーツが濡れてしまいますから、ウンディーネは地上で人化魔法を解除してから水に入っていましたが、移動するのが手間でした。

 ですが真子さんが奏上されたスカファルディングを使えば、水の上でも立つ事が出来ますから、その状態で人化魔法を解除し、後は落下するだけといった使い方が出来るようになったんです。

 私やレベッカはもちろん、マリンさんも同じ方法で人化魔法を解除されていますから、今ではウンディーネは、こちらの方法で水に入っている方が多いと思います。


「この辺りには、魔物はいないみたいですねぇ」

「みたいね。じゃあレベッカちゃん、作業員に伝えて来てくれる?」

「分かりましたぁ」


 マリンさんに頼まれたレベッカが岸に戻り、しばらくすると護衛に守られた作業員達を連れて泳いできました。


「最初の作業は測量と掘削、整地になります。最低でも、水深10メートルは確保しなければなりません」


 作業中は、私が指示を出す事になっています。

 理由は私がエンシェントハンターでありエンシェントクラフターでもあり、フレイドランシア天爵夫人でもあるからです。

 ハンターズランクこそ(エメラル)ランクですが、クラフターズランクは(ゴールド)(シルバー)ランクですから、指示を出すなんて正直おごがましいと思っています。

 ですが私はフラム・ミカミ・フレイドランシア天爵夫人としてここに来ていますから、私がやるしかないんです。

 私も毎日来れるワケではありませんが、その場合はレベッカかマリンさんが代理として指示を出す事になっていますし、クラフター側のリーダーはフィール出身の(プラチナ)ランククラフターですから、私が不在でも作業に滞りが出る事はないと思います。


「よし、まずは測量から始めるぞ。各人割り振られた担当をこなせ」


 そのリーダー、水竜の男性ドラゴニュート グラバさんの指示に従って、クラフターが測量道具を手に泳ぎ出しました。

 グラバさんは一流の建築士でして、エスメラルダ天爵邸の設計や建築も行って下さいました。

 その縁もあってグラバさんに開発チームのリーダーを打診したんですが、大事業ですから二つ返事で引き受けて下さったんです。

 あ、エスメラルダ天爵邸は2日前に完成しましたから、今はお引越しの最中です。

 ですからユーリ様は、フィールに戻られています。


 事前調査でベール湖側の水深は7メートルと判明していますが、場所によっては6メートル程しか無かったりもしますから、正確に計測しなければなりません。

 今日は測量で終わると思いますが、明日からの作業を円滑に進めるためにも手を抜く事は許されませんし、フィールやプラダ村が更に発展するための開発でもありますから、フィールやプラダ村出身のクラフターはやる気に満ちています。

 その様子を見ながら、私とレベッカ、マリンさん率いるオーダーは、周囲に油断なく目を配ります。

 プラダ村に近い事もあって魔物の姿は見えませんが、プラダ村は結界で覆われているワケではありませんから、油断は禁物です。

 本当は私も測量を手伝いたいのですが、私は裁縫師として勉強中で、建築士としての勉強はほとんどしていません。

 大まかな指示は出せますが、専門的なお仕事はグラバさんを始めとしたクラフターに任せるしかないんです。


 特に大きな問題や魔物の襲撃もなく、測量はスムーズに終わりました。

 常に水の中での作業ですから、クラフターもオーダーもかなり疲れています。

 ですがおかげで、明日から整地作業に入れます。

 湖底を掘削する必要もありますから、明日からは私も作業に加わる予定ですが、護衛もしっかりと行いますよ。

 頑張って港を作り、プラダ村が発展できるように頑張ります。

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