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ヘリオスオーブ・クロニクル(旧題:刻印術師の異世界生活・真伝)  作者: 氷山 玲士
第一二章・変革するフィリアス大陸
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新王妃のハンターデビュー

Side・シエル


 今日は待ちに待った私のハンターデビューの日ですが、残念な事に婚約者となったラインハルト陛下は不参加です。

 各国の要人を招いての大会議が終わったばかりですから仕方ないのですが、初めての狩りは陛下と一緒が良かったというのが、私の正直な気持ちです。


 ですがウイング・クレストから贈られた武器、星球儀というそうですね。

 とても武器には見えませんが、一緒に受け取った仕様書を読み進めて行くと、とんでもない武器であることが発覚しました。

 宙に浮く8枚の札は攻防どちらにも使え、枠に埋め込まれた8つの天魔石が属性魔法グループマジックの発動補助や威力増幅を行い、核となっている天魔石に至っては国宝級の逸品です。

 念動魔法を付与させているために手で持つ必要はなく、また札を自在に操る事が可能、結界魔法は(ゴールド)ランクモンスターまでの攻撃はほぼ完全にシャットアウト、私の天賜魔法グラントマジック回復魔法も付与されているために、回復魔法も使いやすくなっているんだとか。

 さらにアイヴァー王代陛下が、私の婚約を祝って仕立てて下さったコートや帽子も、国の宝物庫にあってもおかしくないような性能になっています。

 ラインハルト陛下やエリス殿下、マルカ殿下とは少し異なるデザインですが、付与させた魔法は、各々が授かった天賜魔法グラントマジック以外は同じだそうです。

 ですから強化系の奏上魔法デヴォートマジックが使いやすくなるのはもちろん、天賜魔法グラントマジックの効果も向上しています。

 その上でゴールド・ドラグーン、ディザスト・ドラグーンという(アダマン)ランクモンスターの素材を使っていますから、私のような戦闘未経験のルーキー・ハンターが持つ装備ではありません。

 いえ、もちろん嬉しいですし、星球儀もコートもデザインを選んだのは私自身ですから、文句はないのですが。


「ふーん、イデアル連山でグリフォン狙いか。でも大和君達が狩りまくってる上にイスタント迷宮も攻略済みだけど、いるのかな?」

「いればラッキー程度の認識ですから。それに探してもいないのに、いないって決めつけるのもどうかと思うし」


 その私の初めての狩りにマルカ殿下も同行して下さっていますし、護衛として次期グランド・オーダーズマスター レックス卿、奥方のローズマリー卿、ミューズ卿まで付けられましたからとても心強いのですが、私の耳には信じられない言葉がいくつも飛び込んできています。

 イデアル連山でグリフォン狙い?

 確かイデアル連山はフロートの南東に位置する山々の総称で、最も高い山の頂には宝樹があると噂されていたはず。

 ですがその辺りは(ゴールド)ランクモンスターの巣窟にもなっているため、危険度の高い未踏破地域でもあったはずですよね?

 さらにグリフォンといえば、限りなく(アダマン)ランクに近い(ミスリル)ランクモンスターで、出会ったら死を覚悟しなければならず、逃げるならば人里とは反対側に逃げろと言い聞かされている魔物ではありませんか?


「申し訳ありません、シエル様。これが俺達にとっての普通なんです」

「慣れないとは思いますが、御身は私達がお守りしますのでご安心ください」


 ウイング・クレストのメンバーで妹セラスの婚約者となったラウス君、セラスと同じラウス君の婚約者キャロルさんが、とても申し訳なさそうな顔をしてそう告げてきます。

 確かにウイング・クレストには10名ものエンシェントクラスがいますし、終焉種すら討伐してしまった実績までありますから、私の身の安全は保障されていると言っても過言ではありません。

 ですがそんな魔物の巣窟に向かうのですから、私の抱いた恐怖心はいかんともしがたいですね……。


「まあ午前中だけだし、(ゴールド)ランクモンスターはともかくグリフォンはさすがに見つからないと思うから、そこまで緊張しなくても大丈夫だよ」

「本格的に探そうと思ったら、1日や2日じゃ足りませんからね。さ、出発しましょう」


 イデアル連山は広いですから、マルカ殿下やミーナさんの仰る通りでしょう。

 ですが、もう少しぐらい心の準備をさせてくれてもいいのではないでしょうか?

 宝樹まではトラベリングを使って行くから、そんな暇はない?

 大和様、ミーナさん、リディアさん、レックス卿、ローズマリー卿が先行して魔物がいないか確認するから、いきなり魔物に襲われる心配もない?

 それはすごく助かります。

 それでも私の心は、不安でいっぱいですけど……。


 フロートを出ると、予定通り大和様、ミーナさん、リディアさんがトラベリングを使って、宝樹へと向かわれました。

 すぐにリディアさんが戻って来られたのですが、戸惑ったような顔で苦笑されています。

 何かあったのでしょうか?


「リリー・ウィッシュが本格的な狩りをしていました。それだけじゃなく、ロイヤル・オーダーも戦闘訓練を行っているみたいです」


 リリー・ウィッシュとロイヤル・オーダーが、ですか?


「はい。リリー・ウィッシュはアクアにいたそうですが、サユリ様の思い付きで狩りをする事になったそうです。ロイヤル・オーダーは戦力アップのためですね。10名程ですが、ミランダさんも同行されています」


 ロイヤル・オーダーで、次期アソシエイト・オーダーズマスターと言われているミランダ卿もおられるのですね。

 さらにリリー・ウィッシュにはエンシェントクラスが2名もいたはずですから、(ゴールド)ランクモンスターの巣窟と恐れられていたイデアル連山の中枢地域でも、苦も無く魔物が狩られていそうな気がしてきます。


「ロイヤル・オーダーは、確かに戦闘訓練を行うって話があったからまだ分かるけど、まさかリリー・ウィッシュまでいるとは思わなかったわね」

「いつから狩りをしてたかにもよるけど、エンシェントクラスもいるんだから、魔物がいなくなってる可能性もありそうだわ」

「見た限りでは、宝樹近辺にはいませんでしたね。リリー・ウィッシュもロイヤル・オーダーも来たばかりだそうですが、どうするかは少し話し合ってる最中で、そこに私達がやってきた形になります」


 そうなのですか。


「そういう事なら、私達も行った方が良さそうね」

「そうしましょう。リディア、トラベリングをお願い」

「分かりました」


 確かに私達はフロートを出たばかりですから、ここでまごついていても仕方がありません。

 予想外ではありましたが、私達はリディアさんのトラベリングで、イデアル連山の宝樹の下へ転移しました。


 話には聞いていましたが、イデアル連山の山頂は周囲に何もなく、ただ宝樹があるのみでした。

 最も高い山の頂という事もあって、とても荘厳で幻想的な光景です。

 もっとも山肌に転がっている、いくつもの魔物の死体がその光景を台無しにしていましたが。


「いらっしゃい、マルカ」

「いらっしゃいって……サユリおばあ様も来てたんですか」

「そりゃ素材狩りを頼んだのは私なんだから、当然じゃない」


 驚いた事に元王妃殿下でラインハルト陛下やマナ様、ユーリ様の曾祖母でもあらせられるサユリ様もおられました。

 なんでもシェル・グリズリーの肝が切れてしまったらしく、このままでは治療に差し支えが出てしまうという事で、リリー・ウィッシュにお願いしてここまで来たんだとか。


「いや、確かにシェル・グリズリーもいるって聞いてるけど、宝樹の辺りで出てくるのはヘビーシェル・グリズリーですよ?」

「むしろそっちの方が欲しいわね」


 シェル・グリズリーの肝は、滋養強壮や自己回復力を高める効果があり、ポーションには必須の素材なんだそうです。

 上位種になる(ゴールド)(アッパー)ランクのヘビーシェル・グリズリーの肝ならば、さらに高い効果が得られるそうですから、ヒーラーとしては是非とも入手しておきたい逸品という事で、リリー・ウィッシュの反対を押し切りサユリ様も同行されたと、疲れた顔でリリー・ウィッシュのリーダー サヤさんに説明されました。


「アイゼンとヴォルフは新婚だから置いてきたけど、こんな事なら連れて来れば良かったわよ」

「まあまあ。せっかくなんだし、話でもしてきたら?」

「誰とよ?」

「次期グランド・オーダーズマスターと」


 真子さんがサヤさんを慰めていると思っていたら、話が少し飛んでいませんか?

 なのにサヤさんの顔が少し赤くなっていますが……もしやこれは、そういうことなのですか?


「姉上、皆も、ここが危険地帯だという事を忘れていませんか?」


 呆れたように口を開くセラスに、私ははっとしました。

 そうです、ここはアミスター有数の危険地域です。

 こんな和やかに、人様の恋愛事情に興味を示していいような場所ではありません。


「索敵はしっかりやってるよ。それにジェイドとフロライトが空の様子も見てくれてるから、何かあったらすぐに分かるから安心して」


 そう思っていたら、ラウス君がセラスに声を掛け、安心させてくれました。

 確かに空を見上げると2匹のヒポグリフが飛んでいますし、地上でも話に参加していないハンターやオーダーが、油断なく周囲を警戒しているではありませんか。


「ああ、シエルの訓練か。へえ、良いコートじゃない。武器も、星球儀だっけ?呼ばれ始めたばかりだけど、凄腕の魔導士っていう感じね」


 サユリ様にお褒め頂いて嬉しいのですが、気恥ずかしい気持ちと、まだまだ見た目だけでしかないという情けなさが私の中でせめぎ合っています。


「今の内だけよ、そんな気持ちは。それで、どうするか決まったの?」

「ええ。シェル・グリズリーやヘビーシェル・グリズリーは俺達も使う予定はないんで、サユリ様に献上します。なんでウイング・クレストは、リリー・ウィッシュに同行ですね」

「ロイヤル・オーダーは戦闘訓練中ですから、申し訳ありませんが別行動をさせて頂きます。エンシェントクラスが16名もいますから、我々が同行しても足手纏いという理由もありますが」


 (オリハルコン)ランクオーダーとなりアーク・オーダーズコートを下賜されたミランダ卿が、申し訳なさそうな顔でそう答えられました。

 普通でしたらロイヤル・オーダーが護衛をするべきなのですが、ウイング・クレストだけでもエンシェントクラスが10名もいるような状況では、さすがに厳しいですか。

 レックス卿達がおられるおかげで、オーダーの面目を潰さずに済むという理由もありそうですね。


「りょーかい。あ、ミランダ」

「何でしょうか?」

「ここに来てるハイオーダーは、行軍に参加しなかったオーダーでしょ?」

「はい、その通りです」

「なら仕方ないんだろうけど、無闇に足手纏いなんて言葉使わない方がいいよ?」

「……仰る通りですね。軽率でした、申し訳ありません」


 ウイング・クレストやリリー・ウィッシュと比べてしまうと、ハイオーダーの実力は一歩劣るというお話は聞いています。

 ですが元々ハイオーダーは優秀な方々であり、ヘリオスオーブでも上位に位置する実力を持っていますから、例えイデアル連山の中枢部という危険地域であっても、足手纏いになるような事はないと思います。

 とはいえ戦いの素人の意見ですから、実際には違うのかもしれませんが。


「それでは殿下方、サユリ様。我々はこれで失礼致します」

「ええ。無理はさせないようにね」

「心得ています」


 簡単な挨拶の後、ミランダ卿はロイヤル・オーダーと共に、宝樹の西側に向かって行かれました。


「じゃああたし達も行きましょうか。シエル様にとっては初の実戦だけど、肩の力を抜いて、いつでも魔法を撃てるようにしておいてね」

「は、はい。分かりました」


 そうです、今日は私にとって、初の実戦だったんです。

 和やかな雰囲気でしたから忘れていましたが、ここはアミスター有数の危険地域。

 登録したばかりのルーキー・ハンターとはいえ、警戒を怠るワケにはいきません。

 頑張らないと。

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