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ヘリオスオーブ・クロニクル(旧題:刻印術師の異世界生活・真伝)  作者: 氷山 玲士
第一二章・変革するフィリアス大陸
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令嬢姉妹の狩人登録

Side・キャロル


 天樹城の庭園で、ラウスさんの新たな婚約者となられたリヒトシュテルン大公令嬢セラス様に双剣とクレスト・ディフェンダーコートをお渡した後、私、ラウスさん、レイナ、ユリアは、セラス様を連れてハンターズギルドに向かう事になりました。

 姉君のシエル様もハンター登録をされたいとの事ですから、同じ王妃になるという事でマルカ様、護衛として大和さん、プリムさん、真子さん、ミーナさん、フラムお姉様、エオスさんも同行されます。

 大和さんはハンターズギルド・アミスター本部にも、クラテル迷宮の調査結果を報告に行くという目的もあります。


「お、お待たせしました……」

「ど、どうだ、ラウス?」


 その前に、着替えにいかれていたシエル様、セラス様が庭園に戻って来られました。

 お2人ともラインハルト陛下、ラウスさんに見てもらうためではありますが、ものすごく緊張されていて、お顔が真っ赤になっています。

 初々しいですね。


「似合っているぞ、シエル」

「セラス様もですよ」


 セラス様はクレスト・ディフェンダーコートですが、シエル様は王代アイヴァー様が仕立てられたコートと帽子を纏っておられます。

 真っ白な左右非対称のコートに踝まである白いロングスカート、そして大きな羽がついたツバの広い白い帽子です。

 ゴールド・ドラグーンとディザスト・ドラグーンの革を使っていますから、数打ち品のプレートメイルよりも防御力が高く、帽子もマジック・サークレットの技術を応用されていますから、頭部もしっかりと守られています。

 星球儀は左腰に用意されている、小型のストレージ・バッグに収納出来るようになってるそうです。

 ポケットから物を出す感じで取り出せるよう調整されているそうですから、凄く使い勝手が良さそうですね。

 セラス様のクレスト・ディフェンダーコートにはストレージングの付与はありませんが、代わりに私達が使っていたストレージ・バッグをお渡しする予定です。

 そのセラス様ですが、クレスト・ディフェンダーコートを纏われたお姿は、姫騎士と呼んでも差し支えありません。

 腰にはラウスさんから贈られた双剣が、左右で1振りずつ下げられています。


「そ、そうか!」

「ありがとうございます、陛下」


 お2人とも、とても嬉しそうなお顔をされていますね。

 ではハンターズギルドに、といきたいところですが、その前にお2人にはやっていただかなければならない事があります。


「それじゃあセラス様、双剣の銘を決めて下さい」

「シエルも、その星球儀に銘を付けてくれ」

「「え?」」


 ところがお2人は、キョトンとした顔をされてしまいました。

 私もラピスライト・ロッドに銘を付けろと言われた時は同じような顔をしましたから、お気持ちはよく分かります。


「銘とは……もしや、この双剣の名の事か?」

「ええ、そうです。銘が無いと、イークイッピングが使えませんからね」

「えっと、陛下?銘は決まっているのではないのですか?」

「いや、店売りの場合は製作者が決めているが、オーダーメイドの場合は実際の使用者が決める事になっている。そうだろ、エド?」

「ええ。使用者が銘を決める事で、武器との一体感が、より強くなりますからね。実際にどうかは分かりませんが慣例でもありますし、自分で銘を付けた武器ですから愛着も沸きますし」


 私も同じ説明をして頂きましたから、納得して銘を付けさせていただきました。

 ラインハルト陛下方も同様で、ラインハルト陛下の片手直剣はグロリアス・ソード、エリス殿下の細剣はヴィナス・レイピア、マルカ殿下の双斧はドラゴネス・アクスという銘が付けられています。


「そ、そうなのか……。だから自分で銘を……」

「では私は……そうですね、エレメンタル・タロット、などどうでしょうか?」

「良い銘だと思うぞ」

「ありがとうございます」


 ラインハルト陛下に褒めて頂いた事で、シエル様の星球儀はエレメンタル・タロットに決まりました。


「妾はラピスライト・ソードウィップだ。双剣ではあるがこちらは多節剣になっているし、柄尻を合わせて使う事も出来るからな」


 セラス様は双剣としてではなく、両刃多節剣として、さらに瑠璃色銀ルリイロカネを意識した銘にされました。

 両刃剣を使っているハンターはいませんが、両刃槍ならば使い手は存在しています。

 プリムさんのスカーレット・ウイングも石突きがランスになっていますから、両刃槍の一種と言えるでしょう。


「セラス様も、良い銘ですよ」

「ありがとう」


 ラウスさんに銘を褒められて、セラス様が破顔されていますね。

 お気持ちは分かります。

 特にセラス様は、ようやく今日からアルカに来られるワケですから、喜びもひとしおでしょう。


「じゃあ銘も決まったし、ハンターズギルドに行くとするか」

「そうしましょう。まだ時間はあるけど、早いに越したことはないもの」

「そうですね」

「私も同行したいところだが、さすがに今日は勝手には動けないからな」


 残念そうな顔をされるラインハルト陛下ですが、さすがに今日は遠慮して頂かなければなりません。

 私達と共に天樹城に来られたヒルデ様はもちろん、シエル様とセラス様の御父君であらせられるライアー大公、ソレムネへの進軍と同時に解放したデネブライトのウルス議員、さらに無事だったリベルター橋上都市の議員も数名来城されているのですから。


「今日は諦めなさいな。私やユーリだって、今日は勝手に動けないんだから」


 マナ様とユーリ様も、今日は王族の一員として動かれる事になっています。

 ですからハンターズギルドには、同行出来ないのです。


「分かっているよ。エリスも行きたかっただろうが、今日はこっちを手伝ってくれ」

「そのつもりよ。マルカ、シエル様の事をよろしくね」

「もちろん。なるべく早く帰ってくるよ」


 本来でしたらマルカ様もなのですが、シエル様も王妃になられるという事で、ハンターの先輩として同行される事になりました。


「それじゃ行ってきます。なるべく早く戻ってきますよ」

「ああ。大丈夫だと思うが、気を付けてな」


 陛下方に見送られて、私達はハンターズギルドに向かう事になりました。


Side・ミーナ


 天樹製獣車に乗ってハンターズギルドにやって来た私達は、受付でシエル様のハンター登録、セラス様のウイング・クレスト加入手続きを行いました。

 その間大和さんとプリムさんは、ヘッド・ハンターズマスターにクラテル迷宮の詳細報告に行かれています。


「これでシエル様の登録は完了になります。ご確認下さい」

「ありがとう」


 嬉しそうにハンターズライセンスを受け取ったシエル様は、すぐさま確認の為に目を通されています。

 私も拝見させて頂きました。


 シエル・リヒトシュテルン

 20歳

 Lv.22

 獣族・ラビトリー

 ハンターズギルド:アミスター王国 フロート

 ハンターズランク:(カッパー)(ティン)


 シエル様は戦闘経験が無いとお聞きしていますが、レベルは平均といったところのようですね。


「こっちも手続き終わりましたぁ」

「これで妾も、ウイング・クレストの一員になれたのだな」


 喜ぶセラス様ですが、私達は苦笑を返す事しか出来ません。

 いえ、セラス様に無茶な戦闘を強いるつもりはないんですが、結果的に無茶な戦闘に巻き込んでしまって、私も経験した急性魔力変動症に罹患してしまうような気がして仕方ありません。

 あ、こちらがセラス様のライセンスです。


 セラス・リヒトシュテルン

 12歳

 Lv.27

 妖族・ラビトリーハーフ・ラミア

 ユニオン:ウイング・クレスト

 ハンターズギルド:リベルター連邦 リヒトシュテルン

 ハンターズランク:(カッパー)


 セラス様のレベルは23だったと伺っていたのですが、27になっていますね。

 いえ、そのレベルはソレムネ進軍前のものですから、あれからレベルを上げられたという事でしょう。

 魔法の効率的な使い方はラウス君がお教えしていましたから、それを実践されていたんですね。


「おいおい、いつからハンターズギルドは、ガキの溜まり場になったんだ?」


 ですがその喜びに水を差すかのように、ガラの悪い一団が現れました。

 またですか……。


「何こいつら?」

「さあぁ?」


 マルカ殿下とレベッカちゃんも、呆れたようなウンザリしたような顔を隠す事もしていません。

 私もですから、人の事は言えませんが。


「自分の時は大丈夫だったから、完全に油断してたわね。というよりそこのお馬鹿さん達、周りを見てみたら?」


 真子さんも頭を抱えながら溜息を吐いていますが、同時に声を掛けてきた男性ハンターに周囲を見るよう促しています。

 

「ああん?誰が馬鹿だってんだ!死にてえのか!!」

「私達に絡んでるから、迂遠な自殺志願者と勘違いされてるって言ってるのよ。相手の力量も見抜けないで、よくハンターなんてやってられるわね?」


 真子さんが辛辣ですが、仰る通りです。

 なにせエンシェントクラス4人にレベル60前後のハイクラスも3人、極めつけとして王家の関係者が3名もいらっしゃるのですから、自殺願望でもあるんじゃないかと思ってしまいますよ。


「真子の言う通り、周りを見てみなよ。みんなあんた達を憐れんでるでしょ?」

「俺達を憐れむだぁ?そんな馬鹿なことが……」

「いや、その通りだぞ」

「よくもまあ、彼女達に絡んだもんだな。あまりに予想外過ぎたから出遅れちまったよ」


 そういってドワーフとウルフィーのハンターが前に出てきました。

 あ、リリー・ウィッシュのアイゼンさんとヴォルフさんじゃないですか。


「て、てめえらは!?」

「馬鹿だ馬鹿だとは思ってたが、本当に救いがねえな、てめえらは」

「俺達に絡んできた時に、次は無いって言ったはずなんだがな?」


 もしかしてこのハンター達、リリー・ウィッシュにも絡んできたんですか?

 命知らずにも程がありすぎませんか、それは?


「アイゼン、ヴォルフ。この馬鹿達、知り合いなの?」

「な訳あるか。心外にも程があるぞ」

「こいつらはバリエンテのハンターだ。レオナス王子の部下と言ってもいい、な」


 レオナス王子の、ですか。

 それだけで彼らがどんな存在なのか、分かった気がします。


「なるほど、バリエンテにいられなくなったからアミスターに流れてきたけど、やってる事は変わってないって事ね」

「正解だ。俺達がサユリ様に同行しなかった理由の1つに、こいつらの身辺調査もあったからだ」

「身辺調査?」

「はい。オーダーズギルドにも協力してもらって、こいつらの行動を監視してたんですよ。何度かオーダーが注意してます」


 オーダーズギルドも知っていたんですか。

 いえ、レオナス王子の部下のようなハンターという時点で要警戒ですから、当然といえば当然ですか。


「う、うるせえよ!俺らはハイクラスだ!たとえハンターズギルドやアミスターだろうと、処罰なんざ出来る訳ねえだろうが!」


 なるほど、そういう事ですか。

 バリエンテはハイクラスには甘い国ですから、アミスターも同じだと勘違いして、無法を働いていたわけですね。

 残念ですが、アミスターはハイクラスだろうと容赦しない国ですから、オーダーズギルドに目を付けられた時点で終わっていますよ。


「ついでに言えば、レオナス王子の部下って事はバリエンテにとっても反逆者だから、バリエンテがあなた達を庇う事もないでしょうね」

「まあ、マルカ殿下に絡んだ時点でアウトなんだけどな」

「リヒトシュテルン大公令嬢のシエル様、セラス様もいらっしゃるしな。特にシエル様は、陛下との婚約が成立している。マルカ殿下はもちろんだがそんな方にまで絡むとなると、陛下が直々に処罰に乗り出してくるんじゃないか?」


 だんだんと顔色が悪くなってきましたね。

 王家の方々もギルドに登録が義務付けられているアミスターですから、市井の方との間でトラブルが起こる事はままあります。

 ですからその程度で処罰される事はありませんが、明確に悪意を持って接触してきた場合は別です。

 この事はどこのギルドも明言していますから知らない人はいないはずなんですが、ハイクラスが特別だと思っている彼らにとっては、気に留める必要もない事柄だったのでしょう。


「トドメとして、こいつらウイング・クレストに絡んだ事だな」

「ああ。なにせ目の前にエンシェントクラスが4人もいるってのに、自信満々にケンカ売りやがったからな」

「この子達だって、レベルは60前後だからな。お前らみたいなゴロツキが何十人集まろうと、結果は決まりきってる」


 アイゼンさんとヴォルフさんのセリフに、信じられないものを見るような視線が、周囲から私達に突き刺さってきました。

 目の前のハンター達もですが、他の方達も知らなかったみたいですね。


「なんだ、お前らも知らなかったのか。いや、ある意味じゃ仕方ねえか」

「真子ぐらいは顔を知られてると思ってたんだがな。スリュム・ロードを討伐した1人なんだし」

「ちょっと、こんなとこで言わなくてもいいでしょ」


 あ、真子さんに視線が集まりましたね。

 スリュム・ロードはトラレンシアで解体されて、妖王家はもちろんアミスター王家にも素材が献上されています。

 長年トラレンシアを苦しめていた魔物ですし、180年前の討伐戦は劇にもなっていますから、知らない人はいないと言っても過言ではありません。


「逃げるのは構わねえが、既にお前らは、オーダーズギルドからも目を付けられてるからな」

「他の街や村にも、お前らの事は通達済みだ。何かしでかせば、その時点で捕縛が決定している。これからは大人しく、真面目に活動するんだな」


 コソコソと逃げ出そうとしていたハンター達ですが、アイゼンさんやヴォルフさんが見逃すはずがありません。

 最後通牒を叩きつけていますが、既にそこまで話が進んでいたんですね。

 それを聞いた瞬間走って逃げ出しましたから、もうフロートにはいられないでしょう。

 他の街にも通達が届いているなら、アミスターにすらいられないかもしれませんね。


「久しぶり、アイゼン、ヴォルフ」

「お久しぶりです、マルカ殿下。シエル様の登録ですか」

「そそ。というか、リリー・ウィッシュはサユリおばあ様についてったって聞いてたけど、2人は残ってたんだね」

「俺もアイゼンも結婚しましたからね。ああ、もちろんサユリ様には見届けて頂きましたよ」

「結婚してすぐに嫁と離れるのは問題でしかないって事で、俺とヴォルフはフロートに残ってたんですが、何もしない訳にはいかないんで、あの馬鹿どもの監視依頼を受けてたって訳です」


 お2人とも、ご結婚されたんですね。


「おめでとう、アイゼン、ヴォルフ」

「おめでとうございます」

「おう、ありがとよ」

「ただ俺達が結婚してから、サヤがなぁ……」


 あー、それは何となく想像がつきますね。

 リリー・ウィッシュのリーダーでエンシェントラビトリーのサヤさんは、結婚どころか恋人の影すらありませんから。


「さすがに、次期グランド・オーダーズマスターは厳しいだろうからな」

「いや、サヤならいけるんじゃないかしら?」

「全然楽勝でしょ。というかライも、諸手を上げて歓迎してくれると思うよ」

「グランド・オーダーズマスターって事はフロートに移動が確定してるから、サヤもリリー・ウィッシュから離脱する必要もないか」

「かといって勝手に話を進めたりなんかしたら、サヤに殺されるぞ?」

「まあな。とりあえず、帰ってきたらこんな話があるって事を伝えておくか」

「だな」


 サヤさんのお相手は、兄さんになる可能性もあるんですね。

 次期グランド・オーダーズマスターの兄さんですが、奥さんは同じオーダーのマリー義姉さんとミューズ義姉さんの2人だけで、お2人ともエンシェントオーガだったりします。

 そこにエンシェントラビトリーのサヤさんまで入ってくると、ちょっと前のウイング・クレストに近い感じになりますね。

 あ、でもサヤさんが義姉さんになる事は、イヤじゃありませんよ。

 これでも妹として、兄さんの幸せは願っていますから。

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