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ヘリオスオーブ・クロニクル(旧題:刻印術師の異世界生活・真伝)  作者: 氷山 玲士
第十一章・雪の国に生まれた迷宮
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アルカでのひと時

 ラウス達が馬鹿どもに絡まれたと聞いた時は驚いたが、無事で良かったよ。

 いや、ラウス達がその辺のゴロツキに遅れをとるはずないから、そこまで心配してた訳じゃないんだが。


 クラテル迷宮の調査を終えた俺達は、クラテルやフィールで魔物の買取と解体依頼を出して、久しぶりにアルカに帰って来た。

 俺はすぐに工芸殿で通信具制作に入ったが、女性陣は湯殿で汗を流していたな。

 マリーナとフィーナ、フィアナは工芸殿で作業中だったが、帰って来たレイナ達に湯殿まで連行されていった。


「クラテル迷宮って、そんなに厄介なところだったのね」


 晩飯後、本殿2階のリビングでのんびりしながらお互いの報告をしているんだが、プリムの母のアプリコットさんも参加している。

 アプリコットさんはソレムネとの戦争前からヒーラーズギルドで非常勤治癒士として活動していて、急患なんかが出たらすぐに駆け付けられるように待機している。

 ランクアップ試験も合格して(プラチナ)ランクヒーラーに昇格しているんだが、その上の(ミスリル)ランクヒーラーへの壁はかなり厚いらしく、2度ほど落ちているそうだ。

 真子さんは一発で(アダマン)ランクヒーラーに昇格しているが、これは基本知識の差が大きいんだろうな。


「次は俺達も行こうかと思ってたが、そんな面倒なとこだと足手纏いにしかならねえな」

「別に構わないが、本気でついてくるつもりなら武器ぐらいはあった方が良いと思うぞ」

「だよなぁ」


 エドも、クラテル迷宮の難易度に驚いている。

第1階層で(ゴールド)ランク、第2階層で(プラチナ)ランク、第3階層で(ミスリル)ランクが出てくるような迷宮ダンジョンは、ヘリオスオーブには存在してなかったからな。


 それでも、ついてくるのは構わないんだよ。

 ただエド達はクラフターが本業って事で、武器を持っていない。

 ソルプレッサ迷宮やイスタント迷宮でも武器は持ってなかったが、あれらより難易度が高いとなると、護身用の武器ぐらいは持っておくべきだと思う。


「武器については、何か考えておく」

「そうしてくれ」


 ドワーフだと斧とかハンマーとかがイメージだが、経験の無いエドが使うとなると問題でしかない。

 アリアやレイナみたいな星球儀がベストだと思うが、あれは作るのも使うのも面倒みたいだから、短剣っていうのが無難か。


「エド、カメリアの大剣は見せてもらったけど、シエル様やセラス様の武器は出来たの?」


 マナの質問は、俺も興味がある。

 カメリアは戦争後に心機一転して、片手直剣から両手持ちの大剣に武器を変更した。

 今まで片手直剣を使っていた理由は、ハンターとしては基本の武器で、使い手も多い事が挙げられる。

 だがソレムネで孤児院の仇を討ったカメリアは、何か思う所があったのか、武器を大剣に変えたいと申し入れてきた。

 大剣と片手直剣だとまるで使い方が異なるが、それでも本人の希望だから受け入れて、エドに頼んで瑠璃色銀ルリイロカネで作ってもらうことになった。

 デザインは当然のように、俺の刻印具に入っているゲームの物だ。

 同時にラインハルト陛下と婚約された、リヒトシュテルン大公令嬢シエル様、ラウスと婚約したシエル様の妹セラス様の武器も、エドに頼んでいる。

 明後日にはフロートで正式な婚約が発表される事になっていて、その席でラインハルト陛下もラウスも婚約の証として武器を渡すことになっているから、既に完成していてもおかしくはない。

 あ、短剣は既に手渡し済みだぞ。


「出来てますよ。これです」


 エドがストレージから出したのは、星球儀と双剣だ。

 星球儀はシエル様、双剣はセラス様の武器になる。


「へえ、いい出来じゃない」

「なかなか大変だったがな」


 星球儀は、核となる天魔石を起点に丸い枠で囲い、上下左右にクリスタルのような装飾を施し、下側に小さな幕のようなものを配置している。

 周囲を巡る星はゲームと同じくカード型をしている関係で、属性の天魔石は丸枠に嵌め込まれている。

 アリアやレイナの星球儀と同じくシエル様の星球儀にもギミックが組み込まれていて、周囲に展開しているカードは瑠璃色銀ルリイロカネ製だから、真子さんの魔扇・瑠璃桜と同じように遠隔武器としても使えるし、盾としても使える。

 カードの大きさはA3サイズぐらいあるから、それだけでも盾としては十分だと思う。

 だけどシエル様は戦闘経験がないから、丸枠に付けられているゴールド・ドラグーンの革を使った幕に工芸魔法クラフターズマジックコネクティングで接続する事で、最大でA1サイズの盾としても使えるようにしてあるし、要所要所を防御する事も出来るようになっている。


 対してセラス様の双剣は、見た目は普通の双剣だが、柄の部分にコネクティングとロッキングが付与してあるために接続する事ができ、しかも右手用が多節剣になっているから、変幻自在の攻撃が可能になっている。

 使いこなすのは大変だが、セラス様はリベルターの騎士として生きるつもりだったそうで、しっかりと剣術を学んでいるから、成人するまでには使いこなせるんじゃないかと思う。


「どっちも希望通りですね。ありがとうございます、エドさん」

「いつもの事だが、楽しんでやってるからな」

「あと、セラス様のクレスト・ディフェンダーコートも仕上がってるよ。はい、ラウス」

「ありがとうございます」


 マリーナも、セラス様用のクレスト・ディフェンダーコートを仕立て終わってたか。

 セラス様のクレスト・ディフェンダーコートも、本人の希望が反映されている。

 色は唐紅色で、両腕はシールディングを付与させたマジック・ガントレットだ。

 本人が大公令嬢という事もあってアーマードレスっぽいデザインになっているが、装甲は少なめだな。

 肩甲は最小限、胸甲は中に着込むタイプなんだが、スカートの装甲は少しだけゴテゴテしているか。

 ちなみにシエル様の防具は、王代アイヴァー様が仕立てられている。

 こっちもシエル様の希望を聞いてるし、アイヴァー様なら期日までにしっかりと仕上げてくれるだろう。

 そのクレスト・ディフェンダーコートと双剣を受け取ったラウスは、大事そうに自分のストレージに仕舞った。

 明後日にはラウスから直接渡すんだし、それからはセラス様もアルカで暮らす事になっている。

 ユニオンに加入って事になるが、そのためにセラス様はハンター登録も済ませてるって言ってたな。


「武器とコートが出来たって事は、フロートに行く準備は整ったって事ね」

「はい。後は当日、副作用が出るかどうかですが、こればっかりはその時になってみないと何とも言えなくて」


 あー、ハイクラスに進化した際の副作用によるキツい筋肉痛、というか成長痛か。

 確かにこればっかりは、その時になってみないと分からないよな。

 一応ヒーラーがいればヒーリングとディスペリングを使ってもらう事でマシになるらしいが、それでもその日は狩りなんかやってられないそうだから、当日に症状が出ない事を祈るしかない。


「私や真子も、継続的に治癒魔法ヒーラーズマジックを使いますが、当日に症状が出るかどうかは、確かに運が絡みますね」

「ですね。治癒魔法ヒーラーズマジックを付与させた天魔石を作ったとしても、効果があるかは分からないし、症状が出なければ無用の長物ですから、判断に悩みます」


 どのタイミングで発症するかは、本当に予測がつかない。

 3日連続で発症した事もあれば、1週間発症しなかった事もあったからな。

 治癒魔法ヒーラーズマジックを付与させた天魔石は良いアイディアだと思うが、ハイクラスへの治癒魔法ヒーラーズマジックは天魔石であっても魔力の消耗が激しいから、どれぐらい持つかも不明だ。

 あとユーリが継続的に治癒魔法ヒーラーズマジックを使うとか言ってるが、ユーリだってたまに激痛で動けなくなってるから、他人の事より自分の事を心配した方が良いと思う。


「私は大分楽になってきていますが、ユーリ様もラウスさんもレベッカも辛そうですからね」


 キャロルは15歳だが、春になれば16歳になるらしく、症状は大分緩和されているようだ。

 成人するまでは大変だと思ってたんだが、良く考えればリディアとルディアは16歳の未成年なのに症状が出てないから、16歳前後がポイントなのかもしれない。

 アテナも16歳相当だが、ドラゴニアンって事もあって実年齢は84歳だから、こっちはよく分からないんだよな。


「そういえばレイナとカメリアは、レベルいくつになったんだ?」


 レイナもカメリアも、急激なレベルアップが原因の急性魔力変動症には何度か罹ってるが、その次のハイクラスへの進化はかなりの激痛を伴う成長痛に見舞われるから、俺達も気にしておかなきゃいけない。

 まだ12歳のレイナと違ってカメリアは16歳だから、大丈夫だと思うけどな。


「レベル37になりました!」

「私はレベル42ですね。まだ進化は出来てませんが」


 2人共、良い感じでレベルが上がってるな。

 特にカメリアは、ハイヒューマンへの進化が目前だ。


「カメリアはいつ進化してもおかしくないけど、レイナは少しペースを落とした方が良さそうね」

「あたし達は大丈夫だったから、カメリアも大丈夫だろうしね」


 リディアもルディアも、自分達の経験からカメリアは大丈夫だろうと判断しているな。

 既に2人はエンシェントドラゴニュートに進化してるから、その言葉や経験には重みがあると言える。


「ハイヒューマンへの進化に憧れはあるけど、こんなに早くなんて思ってもいなかったわ」

「それは私達もですけどね」

「ハイクラスどころか、気が付いたらエンシェントクラスに進化してましたしね」


 カメリアの気持ちが分かるのか、ミーナとフラムが苦笑している。

 まあ確かに、ハイクラスに進化してから数ヶ月でエンシェントクラスに進化したから、早かったといえば早かったよな。


「フィアナはどうなの?」

「私はレベル33になりましたけど、クラフターの勉強を優先させてますから」


 フィーナの妹でレイナの姉になるフィアナも、レベル33になってたか。

 この数日、狩りにこそ行ってないが、元々フィアナはクラフターズギルドにしか登録してないし、エドについて鍛冶師を目指してるから、焦る必要はないな。

 それでもエドやマリーナ、フィーナがハイクラスに進化してるから、フィアナとしてもハイクラスへの進化は目指すんだろうが。


「まだ15歳だし、焦って進化する必要もないか」

「はい。ですけど今度迷宮(ダンジョン)に行く時は、私も連れて行って欲しいです」


 それぐらいは全然構わない。

 というよりウイング・クレストに加入している以上、厄介事に巻き込まれるケースは十分考えられる。

 ゲート・クリスタルがあるからアルカに逃げ込む事は可能だが、それでも自分の身を守れるぐらいの強さはあって困るもんじゃない。


「それは構わないんだが、しばらくは忙しいから、早くても夏ぐらいになると思うぞ」


 だけど現実問題として、しばらくは迷宮ダンジョンに入る余裕は無かったりする。

 ソレムネの統治問題だけじゃなく、バリエンテの方でも何か動きがあったみたいだし、リベルターの復興だって重要だ。

 そして何より、アバリシアがどう動くかが分からないから、傀儡となっているレティセンシアの動きにも十分気を払わないといけない。


「それは大丈夫です」


 フィアナは大人しくてあまり自己主張してこないから、出来れば早く連れて行ってやりたい気持ちもあるんだけどな。


「あたし達も早めにクラテル迷宮に行きたいけど、こればっかりはね」

「だよねぇ。あ、ところで明日ってさ、大和はベスティアに行くけど、みんなはどうするの?」


 明日か。

 アテナの言うように、俺はヒルデと一緒にベスティアのハンターズギルドでクラテル迷宮の調査報告をする予定だが、全員で行く必要はないから、基本的に休養日になっている。

 だけどみんながどうするかは、確かに決まってなかったな。


「あたし達はマイライトが気になるから、ちょっと様子を見てくるつもりよ」

「私達は雪中戦闘に不慣れですから、少し狩りをしてみるつもりです。ああ、カメリアの試し斬りにも付き合いますよ」


 プリムとマナ、ミーナにフラムの4人はマイライトの様子見、リディア、ルディア、アテナの3人は、カメリアを連れて雪中戦闘に慣れるための狩りか。


「私は溜まってるであろう執務を片さないとだわ」

「私はヒーラーズランクの昇格試験対策のお勉強ね」


 リカさんは領主で領代なんだから、お仕事しかないよな。

 アプリコットさんは、(ミスリル)ランクヒーラーへの昇格試験にリベンジするためのお勉強か。

 頑張ってください。


「私もヒーラーズランクの昇格試験勉強をと思っていましたが、大和様がご迷惑でなければご一緒させて欲しいと思っています」

「私も特に予定はありませんから、ベスティアに同行させてください」


 ユーリとアリアは、俺と一緒にベスティア行きを希望か。

 それぐらいで迷惑なんか感じないし、全然構わないぞ。


「私も買いたい物があるから、ベスティアに行くわ」


 真子さんもベスティアか。

 買いたい物があるって事だが、フィールやフロートじゃ売ってないんだろうか?


「俺達はいつも通りだな」

「そうですね」

「俺達は……どうしよっか?」

「普通にアルカでのんびりでいいよぉ」

「そうですね。狩りでも構わないと思いますが、この3日ずっと狩りをしていましたから、私達はともかくレイナは疲れているでしょうし」


 エド、マリーナ、フィーナ、フィアナの4人は、工芸殿に籠って作業、ラウス、レベッカ、キャロル、レイナはアルカで休息か。

 それにしても、ウイング・クレストも大所帯になってきたな。

 最初は俺とプリムだけだったんだが、今じゃ25人もいるし、ヒルデ、ミレイ、セラス様、アプリコットさんも加入予定だから、バトラーをスカウトしたら30人を超えるぞ。

 そんな集団のリーダーを俺がやってていいのかとも思うが、レベルの一番高いハンターがリーダーをやるのが慣習だし、メンバーの安全にも繋がる話だ。

 とはいえ、未だに慣れないんだが。

 まあ、みんなフォローはしてくれてるし、出来る事からコツコツと頑張って、ウイング・クレストを守っていかなきゃな。

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