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ヘリオスオーブ・クロニクル(旧題:刻印術師の異世界生活・真伝)  作者: 氷山 玲士
第二章・フィールの暗雲
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獣具、獣車製作依頼

「まさか依頼してからたった2日で、これ程の数を狩ってくるなんてね……」


 ハンターズギルドでエビル・ドレイクの討伐報告とビスマルク伯爵の依頼を終え、牧場でクズどもからジェイドとフロライトを守った俺達は、クラフターズギルド・フィール支部にやってきた。

 グラス・ボアはまだ狩ってないが、フェザー・ドレイクならビスマルク伯爵に渡したのを除いても12匹あるし、希少種のウインガー・ドレイクも7匹あるから、すげえ驚かれたな。

 ウインガー・ドレイクは俺達も装備を注文する際に使いたいから、売るとしても3匹ぐらいだが。


「全部襲ってきたのを返り討ちにしただけですし、まだグラス・ボアは狩れてないんですけどね」

「いやぁ、グラス・ボアはオーダーズギルドの方でも動いてくれているから、私達としてはこっちの方がありがたいね」


 この人はクラフターズマスターで、フェアリーのラベルナ・シュナイダーさん。

 (ミスリル)ランクの仕立師で、クラフターズマスターに就任した今でも現役だ。

 フェザー・ドレイクの皮と羽毛は、仕立師や裁縫師にとっては最上の逸品の1つで、肉も美味いから調理師にも喜ばれる。

 希少種のウインガー・ドレイクなんて1ランク上になる上に、フィールでも10年以上入荷してないそうだから、見た瞬間に血沸き肉躍ったらしい。


「ねえ、ウインガー・ドレイクだけど、本当に半分しか売ってくれないの?」

「俺達も使いたいですからね。俺達の防具はそれなりに値打ち物ですけど、ウインガー・ドレイクには及ばない」

「あたし達だって、希少な素材は使いたいしね」


 そういうことだから、3匹で勘弁してもらいたいところだ。

 ジェイドとフロライトがいるからマイライトに行くのは楽になったし、行けば狩れるだろうけど、さっきのことがあるからしばらく無理はさせたくないんだよ。

 というか、調査が終わったらになるが、エビル・ドレイクが使えるようになるんじゃなかったか?


「その防具、私が仕立てようか?魔銀ミスリル晶銀クリスタイトも使うし、あんた達の魔力に合わせて仕立てるから、今あんた達が着てるやつより数段上の物が作れるよ?」


 クラフターズマスターが仕立ててくれるのは願ってもないことだけど、エド達が試してる合金が成功すればそっちを使うことになるから、頼むとしたら鍛冶師のエドと仕立師のマリーナになるだろうな。


 合金が成功した場合、クラフターズギルドに報告するのはいいんだが、レティセンシアにもクラフターズギルドはあるから、そっちに情報が行くのは絶対に阻止したい。

 まあ、レティセンシアはクラフターや職人を軽視してるから、クラフターズギルドとしても撤退を視野にいれてるみたいだが。


 ちなみにソレムネには、ギルドは1つもない。

 昔はあったらしいが、帝王が追い出したって聞いた覚えがある。

 何考えてんだかって話だよな。


 それはそれとして、どうせなら頼みたいことがあるんだよな。

 だけど俺の独断ってわけにもいかないから、プリムにも聞いてみよう。


「プリム、例の件なんだけどな、ここで頼むってのはどうだ?」

「いいわね。作るとしてもクラフターズギルドに頼むことになってたんだから、獣車の件と合わせて聞いてみましょう」

「何の話だい?」


 よし、プリムも賛成してくれた。

 ラベルナさんは何のことかわかってないが、あれも仕立師ならできなくはないだろうから、多分やってくれるだろう。


 俺はエビル・ドレイク討伐の際にヒポグリフを助けて従魔にしたこと、群れの長がジェイドとフロライトのために自分の体を遺してくれたことを話し、そしてその体を使って獣具を作ってもらえないかを聞いてみた。


「是非ともやらせてもらうよ!ヒポグリフなんて、扱ったことがないからね!」


 するとラベルナさんは、二つ返事で引き受けてくれた。


 獣具は従魔に乗るためには必須の物で、頭絡とうらく手綱たづなくらあぶみが、最低限必要な防具と一体になっている装備品のことだ。

 さらにヒポグリフは体も大きく、空を飛ぶ翼を持っているから、体型が馬やバトル・ホースと似ていても使うことができない。

 空を飛ばなければ使えるそうだが、それじゃ意味がないから買うことにしてたんだよ。


 だけど牧場にはヒポグリフ用の獣具は売ってなかったし、クラフターズギルドはもちろんフィールにはないってフィアットさんが教えてくれたから、特注で作成依頼をクラフターズギルドに出すしかないってことで、獣車の製作依頼と一緒に頼むことにしていたんだ。


「でだね、ヒポグリフの皮とかを、少し融通してもらうことってできるかい?」


 かなり遠慮がちにだが、ラベルナさんが報酬を要求してきた。

 ヒポグリフはただでさえ少ないって話だし、積極的に人を襲う魔物でもないし、(ゴールド)ランクモンスターってこともあって、素材はほとんど流通しない。

 ラベルナさんが欲しがるのも、無理もない話だ。


「申し訳ないんですが、さっき話した通りの事情がありますから」

「そうだろうね。残念だけど仕方がない。ああ、獣具の件は私が引き受けるよ。明日牧場に案内してもらってもいいかな?」


 あっさりと引いてくれたな。

 こっちとしても助かるけど、ジェイドとフロライトがよければ羽の数枚ぐらいは報酬に加えてもいいかもしれない。

 明日の昼頃に牧場でジェイドとフロライトを紹介して、今の体格で寸法を測って、さらにどれぐらい成長するかを予測して、素材を選んで、試算して、それから製作に取り掛かるってことになるか。


 ジェイドとフロライトがまだ子供ということもあって、今獣具を作っても、成獣になるまでに何度か作り直さなければならない。

 当然金もかかるし素材も必要になるが、アジャスティングという着衣調節の工芸魔法クラフターズマジックを上手く使うことで、作り直す回数を大幅に減らすことができるらしい。

 これはラベルナさんが考えだした製法で、予め大きめに作っておいて、それをコネクティングっていう工芸魔法クラフターズマジックを使って折り畳んで、アジャスティングでサイズを調整するんだそうだ。

 コネクティングを上手く使うことが大切らしいから、製作者の力量に左右される技術でもある。

 だが難易度的にはさほど難しくないってこともあって、今じゃ獣具だけじゃなく服なんかもこの製法が一般的になっているらしい。

 ラベルナさんはこの技術の開発が評価されて、(ミスリル)ランククラフターになったそうだ。


「ええ、お願いします」

「私としても、ヒポグリフの素材を使ってヒポグリフの獣具を作るなんてことは、多分この先二度とないだろうからね。楽しみにしているよ」


 クラフターズマスターに頼めるとは思わなかったが、これは俺達としてもありがたいな。

 どれだけ金がかかるかはわからんが、バトルホースの獣具は1万エルからだし、素材もメインとなるヒポグリフは持ち込みだから、そこまで高額ってことにはならないだろう。

 (ミスリル)ランククラフターへの製作依頼だから報酬の方が高くつくが、今日もけっこう稼いできたからな。

 ああ、ウインガー・ドレイクを丸々1匹報酬にしてもいいのか。


 獣具は武器や防具並に命を預ける道具だから、腕の立つ人に頼めるってことはそれだけ信頼性も高いし安心もできる。

 馬とかバトル・ホースとかならよっぽど下手なもんでもない限り大丈夫だろうけど、ヒポグリフは空を飛ぶんだから、万が一の時がシャレにならん。


 とりあえず獣具はラベルナさんに任せることになったから、あとは獣車だな。


「いやラベルナさん、まだ話は終わってないですからね?」

「あ、ごめん。年甲斐もなく舞い上がっちゃったよ」


 気持ちはわからんでもないけど、まだフェザー・ドレイクやウインガー・ドレイクを買い取ってもらってないし、報酬も貰ってないんですから勘弁してください。

 というか獣車を頼むって話は、依頼を受けた時にも伝えてあるでしょうが。


「悪かったって。それで獣車だけど、ヒポグリフ用の厩舎を追加するってことだから、結構な時間と費用がかかるよ?」

「具体的にはどれぐらい?」

「まだ設計図すらできてないから確かなことは言えないけど、おそらく1ヶ月は見てもらうことになるだろうね。費用も、安く見積もっても70万エルは下らないだろう」


 ハイドランシア公爵家の獣車並か。

 まあ一番金がかかるのは、間違いなく風呂になるだろうから仕方ないんだが。


「予想はしてましたし、神金貨が必要になるかもしれないって思ってましたから大丈夫ですよ」

「わかった。腕のいいクラフターを紹介するから、詳しくはそいつと煮詰めてほしい。私もできないワケじゃないけど、やっぱり専門外だからね」


 仕立師なんだから当然だよな。

 それに獣車も大事だが、獣具がないと遠出しにくい。

 マイライトからフィールまで飛んで戻ってきたけど、そのわずかな時間だけでもケツが痛くなったから、獣具は早めにほしいんだよ。

 そういえば、獣具ってどれぐらいでできるんだろう?


「ラベルナさん、獣具ってどれぐらいでできそうですか?」

「まだ何とも言えないね。私もヒポグリフ用の獣具を作るのは初めてだし、実物を見たこともない。成獣がどれぐらいの体長になるかは知ってるけど、それでも一度見てみないことには、体型とかの問題もあるから答えられないっていうのが正直なところだよ」


 なるほど。

 確かにヒポグリフは、馬やバトル・ホースとよく似た体型をしているが、前脚はライオンの足に鷲の鉤爪、後脚はライオンみたいな脚線にバトル・ホースの蹄になってるし、何より前脚の付け根から翼が生えてるんだから、獣具が干渉しないようにしなきゃ飛べなくなる。

 見てからでないと判断できないってのは、当然の話だな。


「わかりました。幸い依頼は受けてないんで、明日牧場でジェイドとフロライトを見てもらってから、獣具と獣車の製作を依頼したいと思います」

「そうだね。もうじき日も暮れるし、明日にした方がいいだろう。こっちも急いで担当を決めておくよ。多分、あの子になるだろうけどね」


 あの子っていうのは、フィーナっていう木工師のことだろうな。


「あの子って、フィーナですよね?」

「そうだよ。って、知ってるのかい?」

「エドやマリーナの友達ってことで、2人から話だけは聞いてるんですよ」


 当たりだった。

 フィーナはクラフターズギルドに勤めている身請奴隷のハーピーで、元々はバリエンテにある村に住んでいたらしい。

 2年前に起きた飢饉のせいで村が危うくなったため、家族を守るために自らフィールの商人に身請奴隷になることを申し出て、そのままフィールに連れてこられたんだが、木工師としての才能があったためにラベルナさんが買い取り、それ以降はクラフターズギルドで修業をしながら働いている。

 元々アミスターは身請奴隷に対しても寛大、というか普通の人と変わらずに接するから、フィーナも特に問題なく過ごせていると思う。

 実際、俺もエドからフィーナの名前を聞いてたし、近いうちに紹介してくれるって話だったからな。


「ああ、あの2人経由か。それなら納得だ。明日紹介できると思うよ」

「わかりました」


 獣車を作ってもらう以上、フィーナも牧場に同行するって思っておくべきだな。

 それにフィーナはラベルナさんの奴隷でもあるから、ついてきてもおかしなことはない。

 同じバリエンテ出身で、しかも貴族出身のプリムは思うところがあるみたいだが、魔物に畑を荒らされて、さらにはその村で起きた火事で蓄えが全滅したことが原因だから、プリムには直接関係ないだろう。

 フィーナの家には幼い弟妹がいたってことだから、働けるフィーナが身請奴隷になることで、家族を助けようとしたこともわからない話じゃない。


 とはいえ、俺は奴隷っていう言葉には抵抗があるから、身請奴隷ぐらいは言葉を変えてもいいんじゃないかと思ってる。

 俺には手に余る問題だが、できることなら何とか変えたいもんだ。

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