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ヘリオスオーブ・クロニクル(旧題:刻印術師の異世界生活・真伝)  作者: 氷山 玲士
第十一章・雪の国に生まれた迷宮
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多種多様な階層

 第2階層に下りてから4時間が経った。

 俺達は2つの火山を越え、今はセイバーが巨大リザードを目撃したという火山にいる。


 途中の火山も、なかなかに厄介なとこだったな。


 簡単に言うと、2つ目の火山は雪に覆われてて、ホワイト・レオにコールド・ドレイク、アイランド・ドレイク、ヘイル・アント、アイス・ロック、オークが生息していた。

 ホワイト・レオは(ゴールド)(ノーマル)ランクモンスターで、トラレンシアにしか生息していない、3メートル程の白いライオンだ。

 といってもゴルド大氷河の東の果てにいるらしいから、トラレンシアでも見る機会は皆無に近いみたいだが。

 コールド・ドレイクはその名の通りドレイク種で、寒冷地に生息している亜種になる。

 ランクは(ブロンズ)(ノーマル)だし、ドレイク種の相手は慣れてるから、相手するのは楽だったな。

 アイランド・ドレイクはコールド・ドレイクの希少種で、(シルバー)(レア)ランクモンスターだ。

 寒冷地に生息してるからなのか全長5メートル近くあったが、やっぱりドレイク種って事で、こいつの相手も楽だったぞ。

 逆に(シルバー)(ノーマル)ランクのヘイル・アントは、最低でも10匹以上の群れで現れる体長50センチほどの蟻型の魔物で、しかもすぐに援軍が駆け付けてきやがるから、相手をするのが非常に面倒だった。

 アイス・ロックはマナの召喚獣シリウスの同族だから、別の意味で戦いにくかったな。

 シリウスが全く気にせず相手してたから、俺達もそんな遠慮は捨て去ってるが。


 3つ目の山は、砂に覆われた火山だ。

 さすがに全部が砂って訳じゃなかったが、それでも砂漠かと思ったな。

 ここで出てきた魔物はアントリオン、ビートル・アントリオン、ダミー・カクタス、フェイク・カクタス、サンド・ワーム、スカイ・スコーピオン、サンド・スパイダーだ。

 砂漠と見紛う火山だからなのか、亜人はアントリオンと上位種のビートル・アントリオンが生息していた。

 1ランク上扱いとはいえ、こいつらはソレムネとの戦争で大量に狩りまくったから、特に苦労した覚えはない。

 スカイ・スコーピオンは、ソルプレッサ迷宮第3階層の砂漠地帯にも出てきた(シルバー)(ノーマル)ランクモンスターで、空飛ぶサソリだ。

 尻尾の針には毒があるから、注意すべきはそこだけだな。

 サンド・ワームは巨大ミミズだが、皮は利用価値が高いから、なるべく傷付けないように倒すのが少し手間だった。

 ここで一番面倒だったのはダミー・カクタス、フェイク・カクタスっていうサボテンだ。

 ランクはダミー・カクタスが(シルバー)(ノーマル)ランク、フェイク・カクタスは(ゴールド)(アッパー)ランクになるんだが、普段はサボテンに擬態していて、獲物が射程距離に入ると、某ゲームとほとんど同じように大量の棘を飛ばして攻撃してきやがる。

 正確には棘を模した土属性魔法アースマジック水属性魔法アクアマジックのようだが、ランクの割には魔力が高く、弾切れになる事はないとも言われているらしい。

 攻撃力は1ランク下の魔物と同じぐらいらしいが、それを数の暴力で補ってやがるから、近接戦で倒すのは不可能とまで言われていると聞いた。

 いや、俺もプリムも腹が立ったから、俺は水性A級広域干渉系術式ネプチューンと土性A級広域干渉系術式マルスの積層結界で棘を封じ、プリムはセラフィム・ペネトレイターで真っ向から棘を蒸発させながら突っ込んで、近接戦で倒したけどな。


「1つの火山に生息してるのは、亜人1種と魔物が4種ってことみたいね」

「確かに3つの火山はそのようでしたが、断定しても良いのですか?」

「高難易度の迷宮ダンジョンとはいっても、火山の大きさが大きさだからね。これ以上魔物がいたら、魔物同士で食い合うことになるわよ」

「なるほど、そういうものなのですね」


 プリムの予想に疑問を呈したアリアだが、マナの説明に納得したようだ。

 迷宮ダンジョンの魔物は、亜人でもなければ魔物同士で食い合うことは無いみたいだが、皆無というわけじゃない。

 迷宮ダンジョン内にいる限り、魔物は迷宮ダンジョンの魔力のおかげで食事をする必要はなくなり、地上の魔物よりも好戦的になると言われている。

 そして積極的に人間を襲うようになるが、どうやらそれは亜人に対しても同じらしい。

 人間を相手にするよりは大人しいみたいだが、亜人は人間と魔物の中間的な生物らしいから襲われるってことのようだ。

 だからなのか、亜人は迷宮ダンジョンでも飯が必要で、襲ってくる魔物を狩って餌にしている。


 だが、魔物同士が食い合う事もある。

 別の種族の縄張りに迷い込んでしまうと縄張りを侵す敵と見なされて、魔物が相手でも普通に戦い、食い合う。

 だから迷宮ダンジョンは、魔物の縄張りを確保するために広くなっている。


 このクラテル迷宮第2階層も同じだが、火山ごとに生息している魔物が異なっている。

 だから亜人を除く4種の魔物の縄張りがかち合わないよう東西南北で区切られているみたいだ。

 亜人の縄張りが確保されていない理由は、魔物と違い集落を作って生息していて、食うために魔物を襲っているからだろう。

 それでも集落は縄張り扱いらしく、魔物が入り込んでくる事は滅多にないみたいだが。


 などと迷宮ダンジョンに生息している魔物の生態というか特徴というかを話していると、目的の火山の麓に到着した。

 聞いていた通りの岩山で、所々溶岩が噴出している、如何にも火山っていう雰囲気だ。


「確かにセリャド火山に近いけど、雪は積もってないし、植物もないわね」

「ええ。しかも溶岩溜まりもあるし、気温も結構高いわ」


 確かに溶岩溜まりが至る所にあるから、気温も上がっている。

 実際刻印具の温度計アプリを見ると、43度になってるな。


「それはまた……。コートに付与してある暑さ対策の魔法が無かったら、かなり大変なことになってたわね」

「あとは獣車もだな。救いなのは、湿度が低いことか」


 さすがに湿度計アプリはないから分からないが、この火山はかなり乾燥している。

 湿度が高いとジメっとするし、汗も張り付いて気持ち悪いから、これだけは助かったと言えるだろう。


「とはいえ火山だから、山頂に近付くほど湿度も高くなるんじゃない?」

「あー、それもあり得るか……」


 真子さんがげんなりした顔で予想するが、火山噴火には水蒸気爆発もあるから、確かにその可能性もあるな。

 出来る事なら近付きなくないが、調査に来てる以上そんな訳にはいかない。

 諦めるしかないか。


「それはいいとして、あいつらはどうする?」


 ルディアが示す先にいるのは、ファイア・ドレイクの群れだ。

 ドレイク種は群れで暮らしているから、ファイア・ドレイクも群れていることに不思議はないんだが、問題なのは2メートル程の大きさのファイア・ドレイクの中に、一回り大きな、多分3メートル強程の大きさの個体がいることだ。


「『クエスティング』。あれはクレイター・ドレイクですね」

「マジでいやがったのか。だが……」


 ファイア・ドレイクの希少種クレイター・ドレイクがいるとは、エオスの予想がドンピシャだ。

 だが問題なのは、クレイター・ドレイクが思ってたより小さいことだな。


「はい。セイバーズギルドが目撃した巨大リザードは、10メートル近かったと報告されています。もちろん誇張されていたり、見間違いという可能性も残されているのですが、それでも大きさが違い過ぎます」


 ヒルデの言うように、3メートル程の大きさの魔物を10メートル前後だと見誤ることは、いくらなんでもないと思う。

 目撃したセイバーは2人で、それもほとんど一瞬だったらしいから正確性には欠けるが、それでもハイセイバーが魔物の大きさを間違えるとは思えない。


「となると、クレイター・ドレイク以外の、別の魔物がいると考えておく必要がありますね」

「そうですね」

「ファイア・ドレイク以外にどんな魔物が出るのか、それを調べてからですね」


 ユーリ、アリア、リディアが話を纏めるが、差し当たってやることは、ファイア・ドレイクごとクレイター・ドレイクを狩ることだな。

 って、もう終わってるのかよ!

 いや、希少種っていっても(ゴールド)(レア)ランクだから、俺達の敵じゃないんだが。

 実際ファイア・ドレイクは、プリムとマナ、アテナが、クレイター・ドレイクはエオスを中心にマリサさん、ヴィオラ、ミレイのバトラー4人が倒してたからな。


「エオス、ファイア・ドレイクって食べられるのよね?」

「はい、勿論です。肉質はフェザー・ドレイクに比べると脂肪分が多いですが、その脂肪は油としても質が高いです。肉自体は少し硬く、味ではフェザー・ドレイクに劣ってしまいますが」


 なるほど、フェザー・ドレイクの方が美味いのか。

 だけど脂肪が油になるんなら、利用方法は多そうだ。

 ちなみに皮や牙、爪は、ファイア・ドレイクが火属性のドレイク種ってことで、火属性への耐性や攻撃付与がされるようだ。

 希少種のクレイター・ドレイクは、ファイア・ドレイクより1ランク上になるから、素材はともかく肉は確保しておこう。


「回収完了。次行こっか」

「だな」


 アテナがファイア・ドレイクとクレイター・ドレイクをストレージに回収し、俺達はこの岩と溶岩に囲まれた火山の調査を開始することにした。


Side・ヒルデ


 セイバーズギルドが下りた火山の調査を始めてから、かれこれ2時間程経ったでしょうか。

 わたくし達が調査を行っている火山は、岩に囲まれ、所々溶岩溜まりが噴出しているため、調査も簡単ではありません。

 唯一の救いは、山道に溶岩が溢れてこないことでしょう。


「この火山、他と違って険しいわね」

「険しいというより、入り組んでると言った方がいいかもしれませんね」

「だな。迷路かってんだよ」


 マナ、フラム、大和様が面倒そうな声を出されていますが、仰る通りこの火山は、岩と溶岩によって複雑に入り組んでいます。

 確かに山道はあるのですが、迷路のように入り組んでいますし、行き止まりに出てしまった事も一度や二度ではありません。


「しかもその行き止まりが、決まってコボルトの集落ってどうなのよ」


 プリムがウンザリとした表情をしていますが、気持ちは分かります。

 この火山に生息している亜人はコボルトだったのですが、山道の行き止まりには決まってコボルトの集落があり、多ければ50近い数のコボルトが生息していたのですから。

 さすがに異常種や災害種はいませんでしたが、迷宮ダンジョン内の亜人は1つ上のランク相当とされていますから、希少種であってもコボルトならば(ゴールド)(レア)ランク相当となり、しかも複数体存在している事もありましたから、生息している個体数によっては並のハンターズレイドでは壊滅してしまうでしょう。


「それも面倒だったけど、マグマ・スパイダーとかプテラノドンとかも鬱陶しかったわね」

「あー、確かに溶岩の中から火を纏った糸を吐いてきたり、空から雷を纏って強襲してきたりで、確かに面倒だったね」


 真子とルディアも面倒くさそうな顔をしていますが、遭遇した魔物が魔物ですから、わたくしも気持ちはよく分かります。


 マグマ・スパイダーは溶岩の中に生息している蜘蛛で、(ゴールド)ランクモンスターです。

 糸で行動を阻害しつつ火属性魔法ファイアマジックを使ってくるのですが、その際の糸は可燃性が高いためによく燃えます。

 そのくせ獲物を捕らえた際は簡単には切れず、数トン程度ならば容易に吊り上げる事が出来る程の強度を持っていますから、一度糸に捕らえられてしまったら脱出は困難どころの話ではありません。

 しかも溶岩の中に生息しているため、こちらの攻撃は簡単に命中させることが出来ず、討伐の難易度はランク以上に高い魔物です。

 幸いというべきか、溶岩の中に生息しているために(ゴールド)ランクモンスターに分類されていますが、実際の攻撃力は(シルバー)ランク相当ですし、防御力に至っては(ブロンズ)ランク相当とかなり低いですから、攻撃を当てることさえ出来れば討伐は難しくありません。


 そしてプテラノドンですが、こちらはトラレンシアにはいないはずのサウルス種で、ワイバーンの上位亜種、というよりワイバーンの進化前の種と言うべきでしょうか。

 ワイバーンは(カッパー)ランクモンスターで、空を飛ぶ騎獣として一般的な魔物ということもあって、多くの国で飼育されています。

 プテラノドンは(シルバー)(ノーマル)ランクモンスターなのですが、空を飛ぶ騎獣として昔は従魔、召喚契約をする人が多く、今でも契約している者はいると聞いています。

 ワイバーンは、その飼育したプテラノドンから進化した種と言われているのです。

 他にもグラントプスはトリケラトプスから、プレシーザーはプレシオサウルスから進化したとされていて、今では生活に欠かせない魔物になっています。


 話が少しそれましたが、プテラノドンは(シルバー)(ノーマル)ランクモンスターの中でも攻撃力が高く、また動きも素早いため、姿を確認した次の瞬間には接近されている事も珍しくありません。

 嘴や鉤爪は鋭く、雷属性魔法サンダーマジックも自在に使いこなしますから、並のハイクラスでは手も足も出ないと聞いた事があります。

 わたくし達が調査を行っている火山は切り立った岩山ですし、所々溶岩が流れていますから、場所によってはスカファルディングを使わなければ行動が制限されてしまいますし、見通しもかなり悪いです。

 逆にプテラノドンにとっては、山道を進むわたくし達の動きは良く見えているでしょうから、常に周囲を警戒しておかなければならず、精神的な疲労が加速されていってしまいます。


「あれだけ動きが早いと、探索系で探知できても、すぐに懐まで潜り込まれるからな」

「本当にね。あれで(シルバー)ランクって、絶対にランク間違ってるわよ」


 わたくし達が使っている天樹製多機能獣車には、大和様と真子の探索系という刻印術を付与させた天魔石が装備されており、索敵に多大な効果を発揮しています。

 ですがプテラノドンの飛行速度は、その探索系刻印術の索敵範囲ギリギリからでも、僅か数秒で到達出来てしまう程ですから、油断していると迎撃が間に合いません。

 しかもプテラノドンは、個体によっては(ゴールド)ランクモンスターですら屠れるそうですから、真子が口にしたようにランクが間違っていると言われる事もよくあるのです。


「もう少し行けば縄張りも変わるだろうから、少しは楽になるんじゃないかしら?」

「それに期待するか。それにしても第2階層でこんな難易度だと、この迷宮ダンジョンは思ったより浅いかもしれないな」

「それは私も思ったわ。ソルプレッサ迷宮が全7階層、イスタント迷宮が全6階層だから、クラテル迷宮もそれぐらいか、もしかしたら全5階層ぐらいの可能性もあるわね」


 大和様達は最難関と言われているソルプレッサ迷宮とイスタント迷宮を攻略されていますが、ソルプレッサ迷宮は全7階層、イスタント迷宮は全6階層とかなり浅い迷宮ダンジョンです。

 浅い階層から高ランクモンスターが出てきますから、名うてのハンターにとっては良い狩場になるのでしょうが、一般的なハンターにとっては死地と変わりません。

 難易度としてはソルプレッサ迷宮、イスタント迷宮は、第3階層まではハイハンターならば活動可能な難易度ですから、ここクラテル迷宮はソルプレッサ、イスタント両迷宮(ダンジョン)より難易度が高く、そのために階層も浅いのではないかというのが大和様とリカ侯爵の予想です。


「とはいえ、今日は第2階層で野営するしかありませんから、今回は行けたとしても第4階層まででしょうね」

「そうなりますね。いえ、セイバーズギルドが見たという巨大リザードが(プラチナ)ランクモンスターの可能性が残っていますから、場合によっては第2階層の調査で終える必要もあるかもしれません」

「そうだよねぇ」


 わたくしとしては、クラテル迷宮は早急に攻略しておきたいと考えていますが、ここまでの難易度となると、調査を優先させた方が良いという考えも理解できます。

 幸いと言うべきか、第2階層は火山によって生態系が異なっていますから、第1階層から下りてくる場所を間違いさえしなければ、ハンターの生存率が下がるようなことはないのではと思います。

 ですから第1階層からの入口を、出来る限り網羅しておくべきだというミーナの考えに、わたくしも賛成致します。

 もっともそれも、第3階層への入口がどこかにもよるのですが。

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