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ヘリオスオーブ・クロニクル(旧題:刻印術師の異世界生活・真伝)  作者: 氷山 玲士
第十一章・雪の国に生まれた迷宮
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クラテル迷宮第2階層

Side・フラム


 小休止を終えた私達はそのまま南西エリアに進み、無事にセーフ・エリアと第2階層へとつながる陣を発見しました。

 もちろん道中では魔物が襲ってきましたが、エンシェントクラスに進化した私やミーナさん、リディアさん、ルディアさんも戦闘に加わった事で、すぐに倒しています。

 グランド・ハンターズマスターをはじめとしたエンシェントクラスは、強大過ぎる魔力のせいで武具がすぐに痛んで使い物にならなくなっていたそうですが、大和さんが提案された合金や高ランクモンスターの素材を使っている私達は、武具を気にすることなく使えますから、本当に助かりました。


「情報通りと言えばそうだが、まさか火山がいくつも連なってるとは思わなかったな」

「ホントよね。この山は普通に草木が生えてるし、池まであるわ」


 私達が今いる火山は、アミスターにある山々とよく似ています。

 セリャド火山との違いは、雪が積もっていないことでしょうか。

 いえ、遠くには、うっすらと雪が積もっているように見える火山もありますから、ソルプレッサ迷宮第7階層と同じように、山によって環境が異なっていると考えるべきでしょう。


「第2階層でいきなり、ソルプレッサ迷宮第7階層と同じような環境か。難易度高いね」

「だね。もしかしたらクラテル迷宮って、ソルプレッサ迷宮やイスタント迷宮より難易度高いんじゃない?」

「そんな気がするな。ソルプレッサ迷宮は全7階層、イスタント迷宮は全6階層だが、ここはそれ以上あるかもしれない」


 アテナさん、ルディアさん、大和さんがクラテル迷宮の難易度と最深部の予想をしていますが、確かに難易度が高いことは、私にも分かります。

 階層が少なく、第1階層から高ランクモンスターが出てくる迷宮は、素材という観点では私達にはありがたいのですが、一般のハンターからすれば大変などという話ではありません。

 しかもクラテル迷宮はゴルド大氷河にありますから、ハイハンターですら通うのは躊躇する方はいるでしょう。

 迷宮ダンジョンに人が入らなければ、魔物が大量発生する迷宮氾濫を起こしかねませんから、クラテル迷宮の周辺をしっかりと整備するか、もしくは攻略してしまうべきなのです。

 ですがソルプレッサ迷宮やイスタント迷宮の守護者ガーディアンを見るに、クラテル迷宮の守護者ガーディアン(アダマン)ランクモンスターである可能性が高いですから、ハイクラスなら10人以上、エンシェントクラスでも数人いなければ、攻略は出来ない気がします。


「ともかく、調査を続けましょう。幸いこの階層は、山というか火山によって環境が違うから、見逃しはそうそうないでしょう」

「その分出てくる魔物も多岐に渡るでしょうから、むしろそちらの方が面倒ですね」


 この第2階層にある火山は、岩肌が剥き出しになった火山だけではなく、氷山と化している火山、草木が生い茂っている火山、密林のようになっている火山、溶岩が煮えたぎっている火山などがありますから、生息している魔物も火山によって異なります。

 同じランクでも、魔物によって生態や攻撃方法、脅威度などが違うのですから、どの火山にどんな魔物が出てくるのかは、しっかりと調査をしなければなりません。


「だな。第1階層同様、ここもしっかりと警戒して進もう」


 大和さんが視線を送ると、御者をしているヴィオラさんが合図を送り、ジェイドは天樹製多機能獣車を引いて進み始めました。


 20分程進んだ頃でしょうか、第2階層で最初の魔物が姿を見せました。


「これは……ファイア・リザードか?」

「はい、迷宮ダンジョンではそれなりに生息している(シルバー)ランクモンスターです」


 エオスさんが教えてくれましたが、もしかしてこのファイア・リザードが、セイバーが見たという巨大リザードなのでしょうか?

 ですがファイア・リザードは、確かに2メートル程の大きさなのですが、巨大という程では……。


「ファイア・リザードは(シルバー)(アッパー)ランクですが、(ゴールド)(レア)ランクのブレイジング・スケイルは5メートル以上ありますから、こちらを見たのかもしれません」


 エオスさんは5年程前にマルドッソ迷宮で、ブレイジング・スケイルと戦った事があるそうです。


「ブレイジング・スケイルはその名の通り、鱗が燃え盛っています。5年程前にマルドッソ迷宮で遭遇した事があるのですが、当時懇意にしていたレイドも大きな被害を被りました。ですから私も、完全竜化するしかなかったのです」


 エオスさんはその当時ハイクラスでしたから、完全竜化しても1戦ぐらいならば魔力を使い切る事はありません。

 ですが長期戦は危険ですから、エオスさんは完全竜化し、強化されたエーテル・ブレスを使うことで倒したそうです。

 それでもレイドは半壊、エオスさんもかなり魔力を消耗してしまったため、そこでマルドッソ迷宮を離脱し、エオスさんは竜化したままウィルネス山に戻って傷を癒すことになり、以降はそのままウィルネス山でバトラーをされていました。


「竜化したハイドラゴニアンが、竜化を解除出来ない程のダメージを受けたのか」

「はい。ブレイジング・スケイルはかなり素早いですし、力もあります。さらに鱗は常時燃えていますから、竜化しても近接戦は出来ませんでした。しかも場所が狭い峡谷地帯でしたから、私も満足に動く事が出来ず、まともに突進を受けてしまったのです。ダメージはそれ程でもなかったのですが、砕けてしまった鱗もありました」


 完全竜化したドラゴニアンは、ノーマルクラスでも(プラチナ)ランクモンスターを倒す事が出来ると言われています。

 もちろんドラゴニアンもダメージを負う事は珍しくありませんが、ハイクラスに進化していれば攻撃力も防御力も、一回り以上強力になります。

 そのハイドラゴニアンの鱗を砕く程の突進となると、他の種族では、ハイクラスに進化していても倒すのは難しいですね。


「となると、仮にセイバーが目撃した巨大リザードがブレイジング・スケイルだった場合、撤退を選んだセイバーの判断は正しかったって事になるわね」

「そうですね。っと、『シールディング』!せいっ!」


 話の最中に、ファイア・リザードがファイア・ブレスを吐いてきましたが、ミーナさんがシールディングを使って防ぎ、逆にメイス・クエイクで叩き潰してしまいました。

 ブレイジング・スケイルとは違い、ファイア・リザードの鱗は燃えていませんし、モンスターズランクも(シルバー)(アッパー)ですから、(ゴールド)ランクオーダーでありエンシェントヒューマンでもあるミーナさんにとっては、与し易い魔物でしょう。


「お見事。とはいえ第2階層で遭遇したのはこいつが最初だから、本当にブレイジング・スケイルなのかは、もうちょい調べてみないといけないか」

「そうですね。ブレイジング・スケイルじゃなくて、サウルス種やフレイミスト・ヒートヘイズの可能性も無いワケじゃありませんし」

「そういえば、セイバーってどこから第2階層に下りてきたの?」


 大和さんやユーリ様の仰るように、セイバーが目撃した巨大リザードがブレイジング・スケイルと決まったワケではありません。

 ですがルディアさんの言うように、セイバーがどこのセーフ・エリアから下りてきたのかが分からなければ、調査にはかなりの時間が掛かってしまいそうです。


「ヒルデ様、聞いてますか?」

「勿論です。ミレイ」

「かしこまりました。こちらがセイバーズギルドが記録している地図になります」


 ヒルデ様の指示を受けてステータリングに連動させているマッピングを使い地図を呼び出したミレイさんですが、ミレイさんってハンターズギルドにも登録されていたんですね。

 ミレイさんが呼び出した地図を見ると、セイバーズギルドは私達が現在いる山から見て南西側に下りてきたようです。


「ちょっと距離があるか」

「山を……3つは越えないとダメそうだね」

「調査しながらだと、第3階層に行くのは無理っぽいね」


 大和さん、ルディアさん、アテナさんが少し顔を顰めました。

 確かに火山は、見えるだけでも10は超えています。

 さほど高い山ではないのが救いですが、私達は調査のために来ているのですし、山によって環境が違うのですから、全ての山を回らなければなりません。

 季節はまだ冬の終わりですから、調査に掛けられる時間は5時間前後しかなく、全ての山を今日中に回る事は出来なさそうです。


「仕方がありません。ですが、わたくしも急いでいるというワケではありませんから、今回は先に進むよりも調査を優先しましょう」

「そうさせてもらいましょうか」

「わかった」


 ヒルデ様とマナ様が方針を決定された事で、今日は第2階層の調査を行う事が決定されました。


 私達が第1階層から下りてきた火山は、木々が生い茂り草花も生えていますが、出てきた魔物はファイア・リザードでしたから、アミスターの山々とは生態系が異なっていると考えておくべきでしょう。

 多くの火山は同じような高さで、だいたい標高500メートル程でしょうか。

 草原の火山と呼ぶことにした火山に出てきたのは、ファイア・リザード以外ですとトレント、ブラッディ・トレント、バスター・モンキー、キャノン・モンキー、シェル・グリズリー、フォレスト・ビー、サイレント・ビー、フォレスト・ビー・クイーン、そしてオークです。

 亜人は迷宮では1ランク上とされていますから、通常種であっても(ブロンズ)ランク相当となります。

 さすがに異常種や災害種はいませんでしたが希少種はいましたから、クラテル迷宮の難易度は相当に高いと判断せざるを得ません。


迷宮ダンジョンだから亜人がいてもおかしくはないが、第2階層でジャイアント・オークとか、ハンターを殺しにきてるとしか思えないな」

「同感ね。迷宮ダンジョン内だから(ゴールド)(レア)ランク扱いになるし、ノーマルクラスはもちろん、ハイクラスでも合金がないと厳しいなんてもんじゃないわよ」


 大和さんとプリムさんが呆れていますが、私も同感ですし、皆さんも同様に首を縦に振っています。

 第1階層から(シルバー)ランクモンスターが出てきているのですから、第2階層には(ゴールド)ランクモンスターが出てくる可能性は十分あったのですが、さすがに亜人の希少種やビー種のクイーンとなると、合金を使うハイクラスでも油断は出来ません。


「私としては、バスター・モンキーも鬱陶しかったわよ」

「名前からだと遠距離攻撃をしてきそうなのに、自分から突っ込んできましたからね。しかも威力は(ゴールド)ランクどころか(プラチナ)ランクに匹敵してたってのに、あれで(シルバー)(アッパー)ランクだったからたまらない」


 真子さんと大和さんが口にしているバスター・モンキーは、自らの体を強化し、風属性魔法ウインド・マジックを使って恐ろしい速さで突っ込んでくる魔物です。

 突進の速さはソレムネで開発された大砲の比ではなく、威力も遥かに上ですから、弓術士の私や精霊魔法士のユーリ様、魔導士の真子さんとアリアさんにとっては相性の悪い魔物と言ってもいいでしょう。


 あ、魔導士というのは魔法を主体として戦う人の総称として、新たにそう呼ばれるようになったんです。


 アミスターにも生息している魔物ですが、寒さに弱いため頂上が灼熱となっている山にしか生息していません。

 通常種は(ブロンズ)(ノーマル)ランクのバレル・モンキーというのですが、こちらも攻撃方法は同じですから、厄介さや対処法が共通しているのはまだ救いでしょうか。

 フィールやフロート辺りでは見掛けないのですが、特定の地域では最上位の難易度として扱われています。

 そのバスター・モンキーの希少種になるキャノン・モンキーは、さらに雷属性魔法サンダー・マジックを纏って突進してきますから、攻撃を防げたとしても麻痺してしまうことがありますため、ハイクラスであっても大きなダメージを負うことがよくあるそうです。


「ようやく山を下りられたわね。次の山までは……結構距離があるわね」

「本当にね。もしかしてここ、ソルプレッサ迷宮第7階層と同じぐらい広くない?」

「ありそうですね。ですがソルプレッサ迷宮と違って、裾野は見通しの良い草原ですから、魔物が襲ってきても分かりやすいのは助かります」


 リカ様、マナ様、リディアさんが口にしているように、山々を繋ぐ裾野はかなりの広さがありました。

 この光景は、アミスターに近いですね。

 ですがアミスターとは異なり木々がないために見通しは良いですから、魔物が襲ってきてもすぐに発見できます。


「ここだけは第2階層らしいんだね」

「油断させるための罠だったりしてね」


 ルディアさんの言うように、それもあり得るから困ってしまいます。


「その時はその時だろ。まあ、イスタント迷宮みたいなモンスターズ・トラップのこともあるから、通路以外を進むつもりはないが」


 イスタント迷宮第3階層にあったモンスターズ・トラップは、(プラチナ)ランクモンスターが、しかも大量に出てきましたからね。

 あの迷宮ダンジョンはかなり性格が悪い迷宮ダンジョンでしたが、ここも似たような所がありますから、通路以外を進むのは私としても遠慮したいです。

 皆さんも同じように思ったみたいで、誰からも反対意見はなく、私達は次の火山を目指しました。

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