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祝勝会の光と影

Side・真子


 ソレムネ軍を撃退した夜、小規模ながら宴会が催された。

 お酒もふるまわれているけど、行軍中だし夜番も必要だから、全員ってワケにはいかない。


 だからといってお酒を飲めない人がっていうのも不公平だから、くじを作ってそれを引いてもらうことになった。

 その結果、計60人が夜番という貧乏くじを引いたんだけど、その中には大和君、レックスさん、スレイさん、クリフさん、コールさん、そして何故かくじを引いたラインハルト陛下まで含まれていたりする。

 レックスさんは元々下戸だから自分から立候補してるし、スレイさんもあまり嗜まないから構わないみたいなんだけど、クリフさんはけっこうな飲兵衛だし、コールさんもそうみたいだから、この結果には絶望していたわ。

 私は当たりを引いたから、今日は夜番をせずにすむ。

 だから飲ませてもらうつもりよ。

 これでも私、お酒には強いから。


「美味しい、白雪?」

「ミャウン!」


 私の傍らでは、召喚獣スノーミラージュ・タイガーの白雪とバトル・ホースの楓が、美味しそうにお肉を食べている。

 白雪はすぐに楓と仲良くなって、寝る時も一緒にいる事が多いの。


 白雪は生まれたばかりだからご飯とかどうしようかと思ってたんだけど、生まれてすぐに走り回ってたし鋭い牙も生えてたから、初日からお肉をいっぱい食べてるわ。

 今も楓と一緒に、仲良くお肉を、美味しそうに食べてるの。

 他にも従魔や召喚獣を連れて来てる人は多いから、しっかりと従魔・召喚獣達もお呼ばれしてるわよ。


「それで、大和君はどうしたの?」


 手にしたグラスになみなみと注がれた果実酒を飲んでいる私だけど、目障りなくらい落ち込んでる男が視界の片隅にいるから、せっかくの美味しいお酒の味が、ものすごく微妙な感じになっている。


「ハズレを引いたから、今日はお酒を飲めないのよ」


 苦笑するプリムが教えてくれたけど、そんなことだとは思ったわよ。

 大和君もお酒が好きだし強いのも知ってるけど、ハズレを引いたのは大和君なんだから、呪うなら自分の運の悪さを呪いなさい。

 というか本当に目障りだから、落ち込むなら私の視界の外でしてくれない?


「真子の気持ちはわかるよ。同じ理由でライも沈んでるから、目障りで仕方ないんだ」


 ラインハルト陛下もなのか。

 余興とはいえシャレでくじなんて引くから、そんな羽目になるのよ。

 一国の王でありながらハンターでもあるからなんだろうけど、出来ればこれを教訓にして、もう少し大人しくしてもらえると助かるわ。


「ミャウ!ミャウ!」

「白雪?どうかした……って、クラール?」


 白雪が嬉しそうに鳴くから何事かと思ったら、フリーザス・タイガーのクラールに甘えていた。


 スリュム・ロードに左前脚切断の重傷を負わされたクラールだけど、サユリ様の治癒魔法ヒーラーズマジックリヴァイバリングのおかげで、失った左前脚も再生している。

 私もリヴァイバリングを使えるようになりたいんだけど、(オリハルコン)ランクヒーラーへの道ってものすごく険しいのよ。

 (アダマン)ランクヒーラーまでは昇格試験に合格すれば良かったんだけど、(オリハルコン)ランクヒーラーだけは例外で、自力でリヴァイバリングを使えるようになる事が条件なの。


 って、今はそれはいいわね。


 白雪とクラールが初めて会ったのはスリュム・ロード討伐戦の後で、クラテルに戻った時になる。

 最初はクラールは、スリュム・ロードの匂いがする白雪の事をものすごく警戒してたんだけど、私と召喚契約を結んでる事、白雪がまだ仔虎だって事をセルティナさんに説明されて、それでようやく近付いてきて、互いの鼻を突き合わせて挨拶をしていたわ。

 それ以来白雪は、同族ってこともあってか、クラールに懐いちゃってるのよ。


「お邪魔するよ」

「セルティナさん、こんばんわ」

「ええ、こんばんわ。今日は大役、お疲れだったね」

「いえ、言う程大変じゃなかったですから」


 私の役目は、大和君と一緒にニブルヘイムとヴァナヘイムの積層結界を使い、ソレムネ軍の退路を塞ぐ事だったしね。

 アルフヘイムでも良かったんだけど、たまには他の属性も使っておかないと腕が鈍るし、私の刻印法具スピリチュア・ヘキサ・ディッパーを部分生成したスピリット・ディッパーは、それぞれの属性に特化した特性がある。

 だから今日は光属性に特化しているディライト・スピリットを生成したんだけど、そのおかげで私はそれ程疲れてはいない。

 大和君は滅多にしないどころかほとんど初めてと言ってもいい戦い方をする羽目になったし、あそこまで精密な制御をしたのも初めてみたいだから、かなり神経を擦り減らしてたけどね。


「セルティナさんだって、活躍してたじゃないですか」

「あそこまで戦意喪失してたら、誰でも同じ事が出来るさ。もっとも、そのおかげでこちらに犠牲者は出ていないんだから、文句を言うつもりもないが」


 今日の戦闘では、連合軍側に死者は出ていない。

 まあソレムネ側は逃げ惑ってる兵がほとんどだったし、実力差も理解せずに無謀にも向かってきた兵はエンシェントクラスやハイクラスが、文字通り鎧袖一触で消し飛ばしてたのよ。

 怪我人は出たけどそこまで酷かったワケじゃないから、既に治癒魔法ヒーラーズマジックやポーションで回復済みで、宴会にも参加してるわ。


「とはいえ、あれだけの戦果を目の当たりにしたからな。自分達が参加する意味があるのかという疑問が大きくなってきてるのも事実だ」

「それは仕方ない気もするけど、あたし達としてもいてもらわないと困るわよ?」

「わかっているさ」


 確かにセルティナさんの言いたい事も分かる。

 セイバーだけじゃなくトラレンシア・アライアンスのハンター達も、今まで目立った活躍はしていない。

 その理由は、アミスターに所属している16人のエンシェントクラスよ。


 同じハイクラスでも、レベルによっては明確に魔力の差が出るのに、それがエンシェントクラスともなると、比べるのも馬鹿馬鹿しくなる程らしい。

 だからトラレンシア・アライアンスは、自分達がいなくても良かったんじゃないかって思ってしまっているみたいだわ。


 それは確かに事実だし、エンシェントクラスをアテナかエオスに運んでもらえば、それだけでデセオを落とせるのも間違いないんだけど、それをやるワケにはいかない。


 今回連合軍が組織された背景には、トラレンシアへの援軍やバシオンの救援、リベルターの解放がある。

 アミスターが直接攻撃を受けたワケじゃないから、いくらソレムネが非道な行いをしようと、アミスターが直接介入する理由としては少し苦しい。

 私はしてもいいと思ってるんだけど、生き残ったリベルター議会の議員がどんな難癖をつけてくるか分からないし、何よりそれじゃソレムネと同じ、力に溺れたならず者国家に成り下がる恐れだってある。

 だからリヒトシュテルン大公家からは救援要請だけじゃなく、デネブライトからの逆進攻の承認ももらってるのよ。


 トラレンシアも同じで、直接攻撃を受けていたトラレンシアへの援軍をセイバーと共にソレムネに送り込む事で、アミスターはトラレンシアの援護を買って出たという事にしているの。

 だからセイバーやトラレンシア・アライアンスがいてくれないと、この進攻の正当性が失われてしまうのよ。


 まあ量も質もアミスターの方が上だから、トラレンシア側が不安に思ったりするのも分かるんだけどさ。


「さすがに私達でも、万単位の軍を相手取るのは現実的じゃないですよ」

「そうね。多分今日戦ったのは、先遣隊に近いでしょう。もちろんそれでも十分だと判断してたとは思うけど、今日の結果はデセオにも伝わるから、次は全軍を招集してくるかもしれないし」

「やはり気付いていたか」

「当然ですよ」


 戦場には、デセオから派遣されていたであろう観戦武官らしき者達もいた。

 それは誰かが倒してたんだけど、それとは別に、遠くから監視をしてた部隊らしき連中もいたの。

 倒しても良かったんだけど、せっかくだからって事で今回は見逃して、帝王へのメッセンジャーになってもらったわ。

 あまりにも一方的な展開だったから、報告する方としても大変だろうけどね。


「ミャウ!ミャウ!」

「グル」


 そんな話をしてる最中も、白雪は楓とクラールにじゃれついて遊んでいる。

 お気楽な気もするけど、見てるとすごく和むわ。


 トラレンシア・アライアンスの事も気になるけど、デセオに近付けばソレムネ軍も、文字通り全軍が動員されるだろうから、そこで活躍してもらう事になるでしょう。

 問題の先送りにしかならないけど、今は宴会なんだから、しっかりと楽しませてもらいましょう。


Side・大和


 ソレムネ軍を撃退した夜、小規模ながら宴会が催された。

 酒もふるまわれているが、行軍中だし夜番も必要だから、全員って訳にはいかない。


 だからといって酒を飲めない者がっていうのも不公平だから、くじを作ってそれを引いてもらった。

 その結果、計60人が夜番という貧乏くじを引いたんだが、その中にはレックスさん、スレイさん、クリフさん、コールさん、そして何故かくじを引いたラインハルト陛下まで含まれていたりする。

 レックスさんは元々下戸だから自分から立候補してるし、スレイさんもあまり嗜まないから構わないみたいなんだが、クリフさんはけっこうな飲兵衛だし、コールさんもそうみたいだから、この結果には絶望していたな。

 俺?

 普通に外れくじを引きましたが何か?


 宴会の料理は、バトラーや料理の得意なクラフターが請け負ってくれた。

 食材はロングフット・イヤーサイスがメインだが、他にもドラグーンやフォートレス・ホエールなんかの超高級肉が少量ながらも提供されたため、一部を除いて飲めや歌えの大騒ぎだったな。

 さすがに酒が飲み放題って事は無いんだが、俺も飲みたかったよ……。


「では担当を決めたいんだが……大丈夫ですか?」


 そんな宴会を尻目に、夜番を請け負う事になる60人が恨めしそうな視線をレックスさんに向ける。


「くじ運が悪かったと思って、今回は諦めて下さい。陛下もですよ?」

「分かっている」


 ラインハルト陛下も酒は強い方だから、今日は少し飲むつもりだったんだが、まさか夜番担当になるとは思わなかったらしい。

 引いた瞬間固まってたが、余興とはいえ引いたんだからって事で、エリス殿下にマルカ殿下、果てはサユリ様までが面白がってそそのかしたもんだから、ラインハルト陛下はほとんどなし崩し的に夜番をする羽目になっているんだよ。

 その3人もくじを引いてるが、しっかりと当たりを引き当ててるから、ラインハルト陛下としても何も言えないのが辛い。


「基本的には、くじで割り振っている時間を担当してもらいます。20人ごとに纏まり、3時間交代ですね。ですが戦力を偏らせる訳にもいきませんから、それを今から調整していきます」


 それは仕方がない。

 今回貧乏くじを引いたのは、ノーマルクラス37人、ハイクラス20人、そしてエンシェントクラス3人だが、担当する時間帯はくじで割り振られているから、戦力が偏る事も十分あり得る。

 夜でも魔物は普通に襲ってくるんだから、戦力は均等に分散させた方が良い。


「これはまた……予想はしてましたが偏っていますね」


 レックスさんが苦笑するが、俺もそう思う。

 最初の担当は、ノーマルクラス13人、ハイクラス5人、エンシェントクラス2人、次の時間はノーマルクラス16人、ハイクラス4人、最後がノーマルクラス8人、ハイクラス11人、エンシェントクラス1人だから、真ん中の時間帯の戦力が薄くなり過ぎだ。


「まずエンシェントクラスですが、私が中番に移動します」


 最初の時間帯に当たってたエンシェントクラスは俺とレックスさんなんだが、そこはレックスさんが移動する事で解決した。

 次にハイクラスだが、ここが一番揉めたな。

 だけど最後の担当が多過ぎるから、1人は最初に、2人は中番に移動となった。

 そしてノーマルクラスは、中番の3人が最後に回る。

 その結果、最初と中番はノーマルクラス13人、ハイクラス6人、最後がノーマルクラス11人、ハイクラス8人、エンシェントクラスは各時間帯に1人ずつとなった。


「では本日の夜番は、この体制で行きます。夜番に支障が出ないよう、上限はグラス2杯までとさせてもらいますから、飲み過ぎないようにして下さい」


 デセオを落として凱旋したら、大宴会が予定されている。

 だが違反した場合は、その大宴会への参加を考えるなんて言われたもんだから、夜番担当からは悲鳴が上がった。

 こっそり飲もうと考えてた奴もいるって事だろうな。

 かく言う俺も、その口だったし。


「では受け持つ時間も決まりましたから、これで解散します。楽しんでください」


 なんて言われた俺達だが、酒が飲めないから楽しみも半減だ。


 俺とラインハルト陛下は、違反しても立場的に大宴会に不参加って訳にはいかないから、こっそりと酒を飲もうと企んでたんだが、レックスさんにはお見通しだったようで、俺にはプリムとマナが、陛下にはエリス殿下とマルカ殿下がお目付け役として付けられてしまったから、涙を飲んで諦めるしかなかった。


 次は絶対、当たりを引いてやる。

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