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連邦の戦況

 ソレムネの蒸気戦列艦、バリエンテの反獣王組織とレイン・エスタイト王爵からバシオンを守り切ってから5日後、アミスターの王都フロートで重大発表が成された。


「此度のソレムネは、宣戦布告も無しにバシオン教国教都エスペランサに現れ、攻撃を行った。幸いにも派遣していたオーダーやハンターのおかげで事無きを得ているが、いつまた、非道な行為を行うかは分からない。よって私は、以前よりの嘆願に聞き届け、バシオン教国のアミスター王国複領を認める。さらにこのフロートに、新たなプリスターズギルド総本部を建立する事も宣言する!」


 天樹城のテラスから、ラインハルト陛下がそう宣言した。

 既にイデア教皇を始めとしたプリスターズギルドの幹部達はフロートに移り、アミスターのヘッド・プリスターズマスターを務めていたニコラス総司教はエスペランサに移動している。

 ホーリナーズギルドはプリスターズギルドの下部組織だが、アミスターへの複領と同時にオーダーズギルドの下部組織にもなった。

 とはいえホーリナーズギルドは200人程しかいないから、多くはエスペランサに駐留したままで、3分の1程がフロートに移動し、グランド・ホーリナーズマスターはプリスターズギルド総本部を守る事になっている。


「さらにその戦いにおいて、非道にも教皇猊下の拉致を目論んだレイン・エスタイト王爵、並びに反獣王組織を率いるレオナス元王子も処断し、エスタイト王爵領をアミスターに併合することになった。既に獣王には話を通してある。今日よりバシオン教国とエスタイト王爵領は、アミスター王国王家直轄領となる」


 ここで民衆から、大歓声が起こった。

 バシオンもエスタイトも王家直轄領ってことになってはいるが、どちらもまだ体勢が整っておらず、領主や代官を任命する事も出来ていない。

 バシオンにはエスペランサを含む街に代官がいるから、そっちは任せることになるんだが、エスタイトは王爵がバリエンテを裏切ったってこともあるから、エスタイト王爵家を代官に任命は出来ない。

 だからソフィア伯爵が、仮の代官として赴任する事になっている。

 さらにエスタイトは治安や反乱の問題が無いとは言い切れないから、急遽選抜したオーダーも50名程派遣し、獣騎士団と共に警備に当たる予定だ。

 エスタイト獣騎士団はマナの言葉を信じて兵を引いてたそうだから、ソフィア伯爵にも危険はないだろうが。


 エスタイトの併合については、バリエンテのギムノス獣王にも話を通しているんだが、予想よりあっさりと認められた事を、ラインハルト陛下は不気味がっていた。

 確かに北のロッドピースに南のトライアルは、ソレムネの蒸気戦列艦によって壊滅しているから、そちらの復興が優先されるのは分かる。

 だけど文句もなくあっさりとエスタイト王爵領の併合を認めた事は、俺としても腑に落ちない。


 だけど今は、これからをどうするのかっていう問題の方が重要だ。


 テラスでバシオンとエスタイト併合の宣言を終えた後、俺達は天樹城にある応接室に通され、ラインハルト陛下の話を聞くことになった。


「先だってのエスタイト併合の返事に、ギルファ・トライアルの生存が同封されていた。どうやら奴はトライアルを見捨てて落ち延び、今はフライハイト王爵領にいるようだ」

「そこで獣王じゃなく宰相の下に落ち延びたっていう時点で、黒だって言ってるようなものじゃない」

「同感だ。後はシュトレヒハイトとギルファがソレムネと繋がっていた事を証明出来れば、バリエンテの問題は片付いたと言ってもいいだろう」


 確かに。

 元々アミスターがバリエンテを警戒していたのは、レオナス元王子の存在があったからだ。

 誰にそそのかされたのかは知らないが、反獣王組織のトップとして好き放題の限りを尽くし、ソレムネとの繋がりまで持ってたんだから、警戒しないなんてのはあまりにも物騒な話だった。


 だけどそのレオナスは、プリムによって討ち取られている。

 隠し持っていた隷属の魔導具をプリムに使ったって聞いた時は本気で焦ったが、プリムに塵すら残さず焼き尽くされたって事だから、俺も少しは溜飲が下がった。

 本音を言えば、俺が殺りたかったが。


 そのレオナスは死に、同じくソレムネと繋がっていたレイン・エスタイト王爵も捕らえてあるから、先代獣王暗殺の黒幕と言われているシュトレヒハイト王爵の戦力はガタ落ちだろう。

 南のトライアル王爵領もソレムネの蒸気戦列艦の攻撃を受けてたようだし、王爵で領主のギルファは真っ先に逃げたそうだから、再起も出来んだろうよ。


 だからといって、その2人を放置しておくつもりもないんだが。


「一度セントロに行って、獣王と直接会った方が良いですか?」

「そうしてもらいたいが、トラレンシアの様子も気になる」

「確かにここ10日程は、バシオンの方に掛かりっ切りだったものね」


 だな。

 プリムの言う通り、ソレムネの蒸気戦列艦を西のオヴェストで殲滅してからは、俺達はバシオンで警戒していた。

 そしてその懸念通り、バシオンは蒸気戦列艦に襲撃を受けたんだが、さらに反獣王組織まで出てきやがったから面倒だった。

 どっちも殲滅してあるし、捕虜にしたレイン王爵は連日オーダーの尋問を受けているが、さすがに王爵だけあって、結構有益な情報も引き出せているらしい。


 だがその間、俺達は一度もリオに、というかトラレンシアに行けていない。

 なにせソレムネと反獣王組織の殲滅が終わったら、事後処理はもちろんロッドピースやトライアルへの偵察もしなきゃだったし、バシオンの複領とエスタイト王爵領の併合の問題もあったから、俺達も西へ東へと駆けずり回っていたんだよ。

 機動力があるっていうのも考え物だと思ったね。

 ちなみにバシオンに派遣したアライアンスとオーダーの皆様は、もう少しエスペランサで警戒を続けてもらう事になっている。


「そうね。ハイハンターが蒸気戦列艦を相手に出来る事も確認出来たから、リオのみんなにも伝えておかないといけないわ」

「そうですね」


 エスペランサ沖では、初めてハイクラスが蒸気戦列艦と相対したし、フライングやスカファルディングの有用性もしっかりと証明されたから、トラレンシアに派遣されてるアライアンスにも伝えておかないといけない。

 トラレンシアの海は氷で覆われてるから、ソレムネの蒸気戦列艦が攻めてくるのは難しい。

 だけど絶対に無いとは言い切れないし、戦果は最上と言っても良い物だから、出来れば早めに伝えておきたい内容でもある。


「トラレンシアといえば大和君、ヒルデとも婚約した以上、ヒルデにもウイング・クレストの装備を贈るんだろう?」

「ええ。エド達が頑張って製作中です」


 トラレンシア女王のヒルデだが、ソレムネとの戦争が終わり次第退位し、俺と結婚する事になっている。

 その際にハンター登録をして、ウイング・クレストにも加入する事になっているから、ヒルデにもウイング・クレスト専用のクレスト・ディフェンダーコートと武器の大鎌の製作をエドに依頼中だ。


「そうか。という事はヒルドの即位も、そう遠くはないな」

「トラレンシアを出る前に聞いた話じゃ、徐々にブリュンヒルド殿下が引継ぎを行う事になってましたね。ソレムネを落とす際は、ヒルデも俺達に同行するからっていう理由もありますが」

「そっちの問題もあったな。いっそのことロッドピース辺りに転移して、そこから北上を……いや、プライア砂漠を通過する事になるから、陸路では無理だな」


 それも頭痛いんだよな。

 ロッドピース王爵領は、トレンテ海峡を挟んでソレムネと隣接している。

 昔はその先にある街と交易が盛んだったそうだが、今はソレムネが他国に宣戦布告をしまくってる影響で、ほとんど交易は無い。

 さらにその街のすぐ北には、ソレムネの4分の1を占める広大なプライア砂漠が広がっているんだが、そのプライア砂漠にはアントリオンの終焉種アントリオン・エンプレスがいる。

 バリエンテに話を通して、ロッドピース王爵領から陸路でソレムネの帝都デセオを落とす場合、必ずプライア砂漠を通過しなければならないから、こちらのリスクが高すぎる。

 俺達なら倒せると思うが、他のアントリオンも出てくる事は間違いないし、下手したらスリュム・ロード討伐戦より過酷な戦いになる可能性だって低くない。

 だからバリエンテから陸路っていうのは、俺達も一切考えていなかったんだよ。


「ええ。だから陸路を使うとしたら、リベルター側しかないわ。でも大和や真子、サユリおばあ様は、蒸気戦列艦の図面をリベルターに渡したくないそうだから、こっちも難しいのよ」

「気持ちは分からなくもない。私もあのような兵器は、二度と日の目を見ないように封印すべきだと思っているからな」


 いや、俺や真子さん、サユリ様の場合、ヘリオスオーブに似つかわしくないとか、有用性が低いって判断したからなんですけどね。

 砲弾は鉄の塊だから、海の魔物相手でもそれなりに効果は見込めると思うが、それでも高ランクモンスターには無力だと思うし。


「そのリベルターだが、あまり状況が良くないようだ」

「そうなの?」

「ああ。こちらも正確には把握出来ていないが、既に国土の3分の1が制圧されている可能性が高い」


 リベルターの国土の3分の1が?

 確かリベルターって、国土はソレムネとそう変わらない、アミスターの3分の2ぐらいの面積だったはずだ。

 それに蒸気戦列艦は、俺達が100隻以上沈めてあるから、ソレムネにとっても大損害のはずだぞ?


「アミスターも把握しきれていないと言っただろう?だがいくつかの街が占領され、略奪までされているのは事実らしい。おそらくだが北側はエレクト海から、南側はナダル海から戦列艦を侵攻させたんだろう」


 海側の街は戦列艦数隻で足りるだろうから、その分の戦力を陸軍に回して、数で押したって事か。

 となると民間人はもちろん、リベルター軍の被害も大きそうだな。


「恐らくな。だがそうなると問題となるのが、リベルターの東側だ。レティセンシアにとっても、リベルターを占領される事は避けたいはずだ。だから東側は、レティセンシアが切り取りに動く可能性がある」


 確かに。

 アミスターはレティセンシアとの国境を封鎖し、交易すら停止しているから、アミスターの物資を頼りにしていたレティセンシアにとっては大きな打撃だ。

 だからその分リベルターを頼っていると思うが、リベルターだってレティセンシアには迷惑を被っているから、アミスターの国境封鎖を機に結構な関税をかけたって聞いた覚えがある。

 オーダーズギルドには劣るが、リベルター軍だってレティセンシア騎士団程度なら簡単にあしらえるからこその対応だが、ソレムネの蒸気戦列艦のせいでリベルター軍も大打撃を受けたようだし、ソレムネ側に戦力を回す必要も出てきた。

 その分レティセンシア側の戦力を減らす事になるんだが、レティセンシアがその隙を見逃すかと言われると、そんな事はないだろう。

 しかもベルンシュタイン伯爵領にあるポラルの街で、レティセンシアを食い止めていたトライアル・ハーツの話を聞く限りじゃ、魔族に変化した奴も少なくないようだ。


「つまりリベルターにとっては、前門の虎、後門の狼っていう状況なんですね」

「ん?それはどういう意味なんだ?」


 ありゃ、ヘリオスオーブには、真子さんが言ったような言い回しはないのか。


「ああ、すいません。私達の世界の言葉で、一つの災難を逃れても、またもう一つの災難が襲ってくることを意味してるんです。前方の虎と戦ってる最中に後方から狼が出た、って感じで」


 今のリベルターの状況が、まさにそれだよな。

 ソレムネっていう虎と戦ってるってのに、レティセンシアっていう狼が隙を付いて襲ってこようとしてるんだから。


「なるほどな。確かにその言い回しはピッタリだ」


 説明したら、ラインハルト陛下も納得してくれた。


 それは別にどうでもいいんだが、という事はリベルターにも向かった方が良いってことなんだろうか?


「お兄様、私達はリベルターに向かった方が良いって事?」

「いや、その必要はない。あの国は総領がトップではあるが、議会の意向を無視する事は出来ない。救援要請も無いのに介入してしまうと、逆に問題視される恐れがある」


 それもそれで面倒くさいな。

 地球みたいに与党とか野党がある訳じゃないみたいだが、議員の何割かの承認を得ないと、総領でも勝手に事業を進める事は出来ないらしい。

 戦争についても同様で、多分2,3の村が襲われた時点じゃ、軍の派遣は検討されても、承認が下りなかったんじゃないかとラインハルト陛下は言っていた。

 救援要請も同様で、下手したら国土の半分以上を占領されても出さないかもしれないと予想しているな。


「民主主義の弊害ってやつか」

「リベルターの議会は貴族とかトレーダーって事だから、資本主義って言った方が良くないかしら?」

「ああ、確かにそうかも」


 リベルターの政治に民間人の意見は繁栄されにくいが、議会の意見は反映されやすい。

 どうもその辺は、地球と似たり寄ったりみたいだ。

 金のためなら何でもするトレーダーが議会に名を連ねていて、それに協力してる貴族もいるんだろうが、そいつらがソレムネに与してなんかいたら、救援要請なんて来ないだろうな。


 とはいえ、それで迷惑を被るのは民間人なんだから、ハンターとして適当な街に向かって、そこでバッタリ遭遇したら殲滅っていう手で行くのもアリか?

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