表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
260/626

反獣王組織壊滅

Side・プリム


 レオナスの挑発にあえて乗ったあたしの一撃は、レオナスの剣で受け流され、左手に隠し持っていた隷属の魔導具を押し当てられた。


「やった……やったぞ!これでプリム、お前は俺の物だ!!」


 歓喜の声を上げるレオナスだけど、獣騎士団や反獣王組織の連中は、逆に真っ青になっている。

 そりゃそうでしょう。

 今更レインが隷属の魔導具の使用を躊躇うとは思わないけど、反獣王組織や獣騎士団にとっては紛れもない禁忌。

 その禁忌の魔導具を、反獣王組織のトップでもある元王子が、躊躇なく使ったんだから。

 レインは多分、教皇猊下を拉致するために使うつもりだったと思うけど。


「プリム、お前は俺の物だ!さあ、その証として、この俺を受け入れろ!」


 人妻でも躊躇なく手を出すレオナスにとって、あたしが結婚してる事など何の問題にもならない。

 だけど正面からあたしに勝てる自信もなかったから、隷属の魔導具を用意していたって事なんでしょう。


 まあ、あたしには効かないんだけどさ。


「ぶへえっ!?」


 下卑た顔を近づけてくるレオナスに、あたしは左の拳を捻じ込んだ。

 気持ち悪いったらありゃしないわ。


「な、何故だ!?」

「あんたは知らなかったようね。エンシェントクラスには、隷属の魔導具は効かないのよ」


 200年近くも前に、実証された事実でもある。

 とはいえエンシェントクラスを隷属させようとしたソレムネはそのエンシェントクラス、バシオンのシンイチ様によって軍を壊滅させられ、危うく滅ぶ所だったみたいだけど。

 それ以来ソレムネは、エンシェントクラスに手を出す事はしていない。

 さらに天与魔法オラクルマジックを使えないソレムネは、魔導具を作り上げる事も出来ないから、この隷属の魔導具は、恐らくは過去の遺物かレティセンシア辺りから手に入れた粗悪品でしょうね。


「は?エンシェントクラス?え?プリム、お前がか?」

「あんたの事だから、隷属の魔導具ぐらいは持ってると思ってた。だからさっきは加減していたのよ。というか、気安く人の名前を呼ばないでくれる?……反吐が出るわ」


 本当にあたしがエンシェントフォクシーだって、知らなかったのね。

 レオナスにとっては反獣王組織ですら、自分が女を抱くためだけに利用してたにすぎないってことかもしれない。

 でも、そんな事はどうでもいいわ。

 躊躇なくあたしに隷属の魔導具を使ったという事は、今後も躊躇わないでしょうし、それどころか既に使っていた可能性も低くない。

 つまりこの男はあたしだけじゃなく、世界の害悪に成り下がったと断言出来るわ。


「な、なんだ……なんだ、そのバカげた魔力は……!」

「言ったわよね?あたしが欲しいのは、あんたの命だって」


 レオナス如きには勿体ないけど、この熾炎の翼(セラフィム・ウイング)で跡形もなく焼き尽くしてあげるわ。


「レ、レオナス様をお守りしろ!レオナス様にもしもの事があれば、私達は破滅だ!」


 血迷ったレインの号令で、獣騎士団と反獣王組織が武器を構え、こちらに向かってくる。

 でもそれは、巨大な斬撃によって阻まれた。


「邪魔はさせないわよ?」


 マナのスターリング・ディバイダーで、地面には大きな斬撃跡が刻まれた。

 突然目の前の地面に大きな斬撃跡が刻まれた事で、獣騎士や反獣王組織は足を止め、レインも驚愕の表情を浮かべている。


「な、ななな……」

「じゃあね、レオナス。死体は残さないから、死下世界には行けないけどさ」


 その隙にあたしは熾炎の翼(セラフィム・ウイング)に魔力を込め、セラフィム・ストライカーを放つ。

 セラフィム・ペネトレイターの炎だけを撃ち出すセラフィム・ストライカーは、風で勢いを増した炎に雷を纏い、レオナスに襲い掛かる。

 そしてレオナスに命中し、体を貫くと同時に巨大な炎の柱となり、地面から立ち上る稲妻と共にレオナスの体を焼き尽くし、この世界から消滅させた。


「な、何が……」

「さて、レイン。次はあんたの番よ。自らの野望のために民を裏切り、国を裏切り、そしてあたしの父様まで裏切ったんだから、その罪は償ってもらう」


 父様が処刑されたのは、ギムノスの独断じゃなかった。

 宰相にして中央の王爵シュトレヒハイト・フライハイト、南の王爵ギルファ・トライアル、そして東の王爵レイン・エスタイトが自らの野望のためにギムノスに父様を売り、父様は止む無く処刑されてしまった、それが真相だった。

 だからギムノスは私と母様の亡命をあっさりと認め、謝罪までしてきている。

 まだ自分の目で確認出来たワケじゃないけど、少なくともレインはバシオン教皇猊下を拉致するために獣騎士団を率い、反獣王組織とも連携してこの場にいるんだから、この女の関与は疑いの余地が無い。


「レイン・エスタイト、あなたに伝えておくわ。アミスターはバシオン教国を守るため、アミスターの国土に復領させる準備を進めている。これは既に、教皇猊下も同意して下さっているわ。同時にバリエンテには、此度の不始末の代償として、エスタイト王爵領の割譲を要求します。これが何を意味するかは、あなたでも分かるわよね?」

「なっ!?」


 マナのセリフに、レインが絶句した。

 バシオンをアミスターに複領させる事は、既にライ兄様が教皇猊下にも伝えてある。

 バシオン上層部は昔からアミスターへの複領を願い出ていたから、二つ返事で了承してくれたわ。

 まだ正式な公表はされてないけど、近日中にバシオン教国という国は無くなり、アミスター王家の直轄領として扱われる事になる。

 エスタイト王爵領の割譲はあたしも初耳だけど、レインは既に生きる害悪に成り下がっているから、レインを討つ事は既定事項。

 だけど領主がいなくなったエスタイトは、必ず荒れる。

 だからそれを防ぐために、アミスターが自国に組み込む事で治安の悪化を防ぎ、ソレムネの影響力を削ぎ落すつもりなんでしょう。


「獣騎士に告げる。この場から引き返すなら、あなた達の罪は問わない。領主の命令があった以上、忠誠を誓っている誇り高き獣騎士が、逆らうことはできないでしょう。だけどその領主は国を裏切り、民を裏切り、あなた達すらも裏切っている。そのような愚かな領主に、誇り高き獣騎士が仕える必要はないわ」


 さらにマナが、獣騎士達の誇りに訴えかける。

 これで獣騎士がレインに付き従うようならあたし達も遠慮はしないけど、そうじゃなければエスタイトに戻って、領民の為に働いてもらいたい。


 そう思ってたら、1人の獣騎士が前に出てきた。


「マナリース殿下、先程の話は真でしょうか?」

「ええ、本当よ。エスタイト王爵領の併合については獣王陛下にも伝える必要があるけど、此度の件はアミスターとしても見過ごせない。そもそもその女は、自分が王位に就くためだけにソレムネに与している。ソレムネがそんな約束を守るかもわからないし、何よりバリエンテがソレムネに併合、あるいは属国に成り下がるようなら、アミスターだって動かないワケにはいかないわ」


 マナの言う通り、バリエンテ全土がソレムネに支配されてしまったら、恐らくソレムネ本国と同様に全てのギルドは追い出される事になるでしょう。

 そんなことになったらバリエンテは間違いなく荒れるし、各地で反乱だって起こる。

 属国となってしまった場合はさらに質が悪く、バリエンテの民はソレムネに魔導具を供給するための奴隷と変わらない状態になってしまう。

 あたしだってそんな状態は望んでないから、そんな事になるぐらいならアミスターに併合してもらった方が良いに決まってるわ。


「……分かりました。マナリース殿下のお言葉、信じさせて頂きます」

「だ、団長!?アミスターに下るというのですか!?」

「レイン様を裏切るおつもりか!?」

「そう思うなら、好きにするがいい。俺はソレムネなどに与するつもりはない。民を守るために獣騎士の道を選んだというのに、これ以上その民を裏切り続けるなど、獣騎士の風上にも置けん愚行だ」


 どうやら獣騎士団の団長は、しっかりとした人物のようね。

 その団長に口答えしてる獣騎士がいるけど、あいつらはレインの私兵と思ってもいい気がするわ。


「ありがとう。最大限の努力をさせて貰うわ。ああ、反獣王組織はここで殲滅するから、巻き込まれないように離れておいて」

「かしこまりました」


 そういって団長と団長に従う獣騎士は、戦線から離脱した。

 残ったのはレインの私兵と思われる獣騎士20人程と反獣王組織ね。

 でもこっちも、オーダー達の準備は整ってるのよ。


「オーダーに通達!残っている獣騎士と反獣王組織を殲滅しなさい!ソレムネに与している以上、彼らは私達にとっても大敵よ!」

「各員、マナリース殿下、プリムローズ様に続けっ!」

「「「おおおおおおっ!!」」」


 マナとミランダさんの号令に続いて、オーダーが鬨の声を上げながら進撃を開始した。


 それからの戦闘は一方的だった。

 ロイヤル・オーダーは全員ハイクラスだし、リディアとルディアなんてエンシェントクラス間近。

 さらにあたしとマナはエンシェントクラス、加えて主力となるであろう獣騎士が抜けた反獣王組織は、全く相手にならなかったわ。

 だけどレオナスを失ったことで反獣王組織は後がないから、本当に必死だった。

 そのせいでノーマルオーダーには、少なくない犠牲者が出てしまっている。


「は、離せ!離せ、無礼者が!」


 捕らえる事に成功したレインが喚くけど、命があるだけありがたいと思いなさい。


「あなたには聞きたい事があるわ。今回の件、どこまでソレムネが関与していたのか、他に誰が関わっていたのか、そしてソレムネが何をしようとしていたのか、知っている事を全てね」


 父様の仇の1人でもあるから、あたしとしてはここで仇を討ちたかった。

 だけどレインが持っている情報を捨てるワケにはいかないし、何よりあたしはレオナスを滅しているんだから、これ以上勝手な事はできないわ。


「ミランダ、被害状況は?」

「はっ。負傷者32名、死者6名。いずれもノーマルオーダーです」

「……そう。全体的な被害は最小限と言えるけど、無茶な戦いに付き合わせてしまったわね」


 第3分隊はノーマルクラス43名、ハイクラス7名で構成されているから、弓術士以外のノーマルクラス全員が死傷した事になるのか。

 ハイクラスは無傷だけど、これは相手側のハイクラスが20人もいなかった事が大きな理由でしょう。

 多分獣騎士団のハイクラスを当てにしてたんだと思うけど、マナの宣言でほとんどの獣騎士が戦線を離脱しちゃったから、こちらもこの程度の被害で済んでいる。

 それでも死者は出ているから、この程度っていうのもどうかと思う。


「バシオンに連行後、レインには隷属魔法を使ってもらうわ。それまでは縛り上げて、デッキ上で厳重に監視するように」

「はっ!」


 うん、牢屋は作ってないし、隷属の魔導具は預かってきてないから、厳重に監視するしかないわよね。

 かといって獣車の中に入れると、内側から魔法を使われる恐れがあるから、デッキの上に置いておくしか出来ないわ。


「なんだ、もう終わってたのか」

「さすがに早かったわね」


 そのタイミングで大和と真子が、ジェイドに乗って到着した。

 そういえば蒸気戦列艦の方が終わったら、こっちに来るって言ってたわね。


「まあね。反獣王組織は思ってたより多かったけど、教皇猊下を拉致するっていう目的を考えれば、全戦力を投入してきても不思議じゃないわ」

「なんか獣車の上に、グルグルにふん縛られたのがいるけど、もしかしてあいつがレイン王爵か?」

「ええ。レオナスもいたけど、そっちはプリムが跡形も残さずに焼き尽くしてるわ」

「ハイクラスですし、隷属の魔導具まで使ってきましたから、捕まえるのは難しかったですしね」

「隷属の魔導具だと?もしかして、プリムにか?」


 大和の顔に、焦りと怒りの色が浮かんだ。

 大和もエンシェントクラスに隷属の魔導具が効かない事は知ってるけど、それとこれとは別問題だって思ってるんでしょうね。

 あたしとしては、嬉しい限りだけど。


「うん。だけどプリムも、わざと隷属の魔導具を使わせるように仕向けてたよ。効かないって分かってても、普通はしないよね」


 それを言われるとあれだけど、レオナスを追い詰めるためには必要だったのよ。

 いえ、よくよく考えたら、別にそんなことしなくても、普通に焼き尽くせば良かっただけかもしれないけど。


「だ、大丈夫なのか?」

「ええ、大丈夫よ」

「そうか。しかしそんなもんまで持ってたとは、俺がこっちに来れば良かったな」

「大和さんはジェネラル・オーダーなんですから、そういうワケにはいきませんよ」


 そうなのよね。

 今回の戦いでジェネラル・オーダーに任命された大和には、絶対にソレムネの相手をしてもらう必要があった。

 セカンダリ・オーダーに任命されたミーナもだけど、こっちは絶対に来るかどうか分からなかったし、保険の1つでもあったんだから、ジェネラル・オーダーやセカンダリ・オーダーが来るなんてあり得ないわ。


 その大和から蒸気戦列艦戦の報告を聞くと、こちらの圧勝だったみたい。

 ハイクラスには死者どころか負傷者すらいないって事だから、圧勝って言うより完勝ね。

 でもこれで、蒸気戦列艦に対抗出来る事は証明されたから、トラレンシアにも良い報告が出来そうだわ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ