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ヘリオスオーブ・クロニクル(旧題:刻印術師の異世界生活・真伝)  作者: 氷山 玲士
第二章・フィールの暗雲
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空飛ぶ従魔

 無事に仔ヒポグリフと契約を結ぶ事が出来た俺達だが、いつまでもここにいる訳にはいかない。


「こうなった以上、早めにフィールに戻った方がいいな。だけど、ジェイドとフロライトをどうするかが問題だ」

「ここに置いておくわけにはいかないわ。フィールには牧場があるから、そこで預かってもらいましょう」

「それしかないか」


 ジェイドもフロライトも、クワッ、と元気よく鳴いた。


「ところで聞きたいんだが、なんでヒポグリフ達は俺達に子供を託したんだ?」

「私も詳しくないんだけど、多分エビル・ドレイクを倒した私達を、信用してくれたってことじゃないかしら?それらしい話を聞いたことがある気がするの。確か子供を殺された魔物が、仇の魔物を倒してくれた人間と契約したっていう話だったと思う。ライナスさんなら詳しく知ってると思うから、帰ったら聞いてみましょう」

「そうするか」

「ええ。フロライト、ジェイド、私達は山を下りるから、しっかりついてきてね」


 なるべく早くフィールに戻った方がいいと判断した俺とプリムは、2匹に声をかけて歩きだした。


「クワアッ!」

「クワ、クワア!」


 だが止められてしまった。

 振り返るとジェイドもフロライトも、背中に乗れと促しているように見える。


「乗れってことか?」

「いいの?」

「「クワアッ!」」


 どうやらそうらしい。

 ヒポグリフは成長すると、馬より一回り大きくなる。

 まだ仔馬サイズのジェイドとフロライトだが、それでも背中に乗るのは問題ない大きさだ。


「もしかして、フィールまで飛んでくれるの?」

「クワアッ!」


 そのつもりらしい。

 ジェイドとフロライトの言葉?鳴き声?が、なんとなくだがわかるが、これが従魔契約の効果の1つか。

 便利なもんだな。

 だけど乗せてくれるのはありがたいが、子供にそんな無茶をさせたくはないんだけどな。


「クワッ!」


 怒られた。

 気を遣ったつもりなのに、なんでだ?


「ヒポグリフは(ゴールド)ランクだから、多分子供でも、並の魔物より力も体力もあるんだと思う。自分より大きな獲物を狩って、巣まで持ち帰ることもあるそうだから」


 なるほど、プライドを傷つけてしまったわけか。

 なら子供だからって、変に遠慮するのはよくないな。


「わかった。じゃあフィールまで頼む。道は指示するから」

「「クワアッ!」」


 元気よく鳴くとジェイドは俺を、フロライトはプリムを背に乗せて飛び立った。

 おお、思ったより快適だ。


「ヒポグリフに乗ったのは初めてだけど、気持ち良いわね」


 プリムも気分が良さそうだ。

 自分の翼じゃなくてヒポグリフの翼で飛んでる訳だが、契約することが珍しい魔物だから、それとこれとは別の話なんだろうな。


「それにしても、まさかヒポグリフと契約できるとは思わなかったわ」

「俺もだ。そもそも俺の世界じゃ、ヒポグリフなんて伝説上の存在だからな」


 それを言ったら、この世界の魔物のほとんどがそうなんだけどな。


「こうなった以上、早めに家を買いたいわね。この子達も庭に放せるようになるし」

「だな。厩舎じゃあんまり、自由にできないだろうからな。かといって牧場は人目につくから、のんびりしづらいだろうし」


 牧場はバトル・ホースやグラントプスなんかの育成施設で、運動不足にならないように日中は放牧できるように広大な敷地を有している。

 また車獣としてはもちろん騎獣としてのレンタルもしているため、遠出する際はお世話になるだろうと思っていた。

 同時に自分の従魔や召喚獣を預けることもできるから、ジェイドとフロライトも預かってもらえるはずだ。


 だけどヒポグリフはかなり珍しいから騒ぎになる可能性も高いし、2匹ともまだ子供だから、他の魔物を怖がるかもしれない。

 自分達で家を用意すればそこで飼う、というか面倒を見ることができるし、召喚のこともあるから都合がよくなる。

 実際貴族は屋敷の敷地内に、たいして広くはないが、従魔や召喚獣がゆっくりできるスペースを設けている。

 問題があるとすれば、ヒポグリフは空を飛べるということだな。


「それはおいおい考えるとして、あとはクラフターズギルドに依頼する獣車も、色々と考え直した方がいいわね」

「ああ、広くするのは難しいが、寝床ぐらいは作らないといけないしな」

「ええ。私達もこの子達も、ストレスなく旅ができるようにしないとね」


 それもこれも、ミラーリングがあればこそだな。


 ミラーリングは奏上魔法デヴォートマジックの1つで、鏡像を利用して空間を拡張することができる魔法だが、その特性から魔法付与に使われることが多い魔法だ。

 小さな穴を掘って蓋をして、そこにミラーリングを使うとそこそこの広さがある仮設の野営地を作ることもできるから、限定されるとはいえ使い勝手は悪くない。

 小さな鞄の中の空間を拡張することで容量を何倍にもすることもできるから、ストレージングを使えない人にはものすごく重宝されている。

 拡張した空間に入れた物は重さを感じなくなるそうだが、理由は拡張した空間が疑似空間だかららしい。

 ストレージングと違って時間は止まらないが、大量の荷物を持ち運びできることに変わりはないから、それだけでも非常に便利だ。

 しかもお値段もそんなに高くないから、ハンターやトレーダーに限らず、多くの人が持っている。


 そのミラーリングを使えば、獣車内の空間を拡張させ、リビングや寝室なんかを備え付け、さらには獣車を引く魔物の寝床も用意することができてしまう。

 街道とかで野営をする場合、グラントプスやバトル・ホースがやられることは滅多にないが、寝静まった頃に盗賊に殺されたり魔物に食われたりしまうことも、決して珍しいことじゃない。


 だが獣車の中に寝床を作れば、襲われる危険性を減らすことができる。

 雨風をしのぐこともできるから、従魔や召喚獣にとっても悪くはないんじゃないかって思う。


 まあそれだけ広い空間を作るってことは時間も魔力もかかるから、当然ながら金もかかる。

 確かハイドランシア公爵家の獣車で、80万エルだったか?

 って、高すぎるわ!


「実際にどうするかは、クラフターズギルドに聞いてからになるけどな」

「まあね。それにしてもこの子達、けっこう速いわね」

「ああ。もう見えてきたぞ」


 湖の上を飛んだから、30分もかからなかったな。

 行きはベール湖を迂回しなきゃいけなかったから、麓まで4時間かかったってのに。


「このままフィールに入るわけにはいかないから、門から少し離れたとこに降りるか」

「そうね。幸いというか、人は少ないみたいだし」


 ヒポグリフが降りてくれば驚かれるのは間違いないが、俺達がいるからそこまで混乱はしないだろう。

 ……しないよな?


「よし、ジェイド、フロライト、降りてくれ。オーダーズギルドに説明しなきゃいけないからな」


 そうこうしているうちにフィールに到着。

 門まで数十メートルといった所に2匹を降ろし、ゆっくりと歩いてもらう。


 すると当然のように、門からオーダーが大勢出てきて、しっかりと迎撃態勢を整えていらっしゃる。

 けっこう練度高いよな、オーダーズギルドって。

 さすがはアミスターの精鋭だ。


「オーダーズマスター!あのヒポグリフには人が乗っています!」

「なんだと?ということは、もしや従魔なのか?」

「まさか……ヒポグリフと契約した……?」

「いったい誰が……」


 あとで聞いた話だが、やはりヒポグリフが現れたことで、混乱しかけていたらしい。

 オーダーがしっかり態勢を整えていたから街の人はそうでもなかったが、ハンター達は我先に逃げ出そうとしてたってのが一番の問題だったそうだ。

 そいつらのライセンス剥奪しろよ、マジで……。


「オーダーズマスター!あれは大和さんとプリムさんです!」


 お、ミーナもいたのか。

 オーダーズマスターって呼んでるってことは、公私混同しないようにしてるんだろうな。


「なんだと?いや、あの2人か。何故だろうな、納得した自分がいる」

「自分もです」

「実は私も」


 ヒポグリフに乗っていたのが俺達だとわかると、オーダー達はあっさりとその場から撤収し、持ち場に戻っていった。

 それもそれで、納得がいかないんだけどな。


「大和君、プリムローズさん、驚かさないでくれよ」

「そんなつもりはないんですけどね。契約できたのも偶然でしたし」

「ヒポグリフと契約ですか。お2人なら不思議とは思いませんが。それにしても、どこで契約したんですか?」

「マイライトです」


 レックスさん、ローズマリーさん、ミーナが驚きながらも近寄ってきた。

 この辺り、というかアミスター王国でも、ヒポグリフはかなり珍しい。

 棲み処は高い山の上だから、山の多いアミスターには多く生息してそうなものだが、肉や果物より魚を好むらしいので、内陸にはほとんどいない。

 海や湖に近い山にいることが多いんだがアミスターの沿岸部には高い山は少ないから、トラレンシアやレティセンシアにはそれなりの数が生息しているらしい。


「可愛いですね、この仔達」


 なんかジェイドとフロライトが、ミーナに懐いてる気がするな。

 喉を鳴らしながら甘えてるぞ。


「まだ生まれて1,2ヶ月ってとこでしょうからね。空を飛べるようになったのも最近じゃないかしら?」


 ヒポグリフは生まれて1ヶ月ぐらいは飛ぶことができないが、ジェイドとフロライトは飛ぶことができるから、プリムは飛べるようになったばかりじゃないかって推測したようだ。

 俺もそうだと思う。


「子供だったんですね。これだけの大きさですから、もう大人だと思ってましたよ」


 ヒポグリフに限らず、魔物の生態って謎なところが多いからな。

 まあヒポグリフは、こっちから手を出したり、縄張りを犯したりしなけりゃ、襲ってこないらしいが。


「それにしても、マイライトですか。まさか、ヒポグリフがいたとは知りませんでしたよ。ですがベール湖には魚も多いですから、よく考えれば不思議なことではないのかもしれませんね」


 ローズマリーさんが驚きながらも納得している。


 ベール湖はかなり大きく、魚も豊富に生息している。

 多分ローズマリーさんの予想通り、ベール湖に魚がいることを知ったから、マイライトを住処にしたんだろうな。


「ビスマルク伯爵、領代、それからクラフターズギルドからの依頼も完了しましたから、一緒に報告しますよ」

「も、もう片付いたのか!?」


 たった数日、マイライトに向かったのが昨日だって考えると実質的には2日で、エビル・ドレイクはもちろんフェザー・ドレイクまで狩って帰ってきたら普通は驚くか。

 ジェイドとフロライトがいなかったら、もう1日2日はかかってたと思うが。

 空を飛べる従魔って、本当に便利だな。


「はい。この子達にも関係があることなので、まとめて報告させてください」

「さすがに早いな……。わかった。なら私も、ハンターズギルドへ向かおう」

「すいません、あたし達は先に、この子達を牧場に預けたいんですが」

「それは構わない。街の人も君達と契約していると知れば、安心するだろうからな」


 マイライトにヒポグリフが住み着いたって話は聞いたことがなかったそうだから、フィールの人からすれば、ヒポグリフは普通に(ゴールド)ランクモンスターってことになる。

 ランクだけで見ればエビル・ドレイクやブラック・フェンリルと同じなんだから、ヒポグリフの生態を知らなけりゃ驚くのも当然の話か。


「すいません、なるべく急いでハンターズギルドに行きますから」

「わかった。ミーナ、案内を任せる」

「わかりました」


 またしてもミーナを案内係につけてもらって、俺達は牧場に向かった。

 そこでも驚かれたが、牧場でも俺達のことは知れ渡ってるようで、快くジェイドとフロライトを預かってもらうことができた。

 しかも、ヒポグリフの面倒を見たことある人もいたから助かった。

 久しぶりにヒポグリフの世話ができるってことで、すごく喜んでいたな。

 別れ際、ジェイドもフロライトも寂しそうに鳴いていたが、用事が終わってから顔を出すからと言い聞かせて、断腸の思いで俺達は牧場を後にした。

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