大氷河の死闘
Side・リディア
大和さんと真子さんがスリュム・ロードに向かって行った後、ハイセイバーとハイオーダー、そしてハイハンター達はアイスクエイク・タイガーに向かい、トライアル・ハーツはアバランシュ・ハウルを食い止めることになりました。
もう1匹のアバランシュ・ハウルはプリムさんとマナ様、ファリスさんが食い止める予定ですが、あまり時間を掛けるワケにはいきません。
本来なら私達も援護をしたいのですが、プリムさんの援護を行うお2人はPランクハンターでもありますから、私達がお役に立てるかは微妙な所です。
ですから私達も、アイスクエイク・タイガーを相手にすることにしています。
ラウス君とキャロルさんは、ノーマルクラスの方と協力し、残ったフリーザス・タイガーを相手にしています。
私とルディアが対峙しているアイスクエイク・タイガーは、巨体を活かし、後ろ足で立ち上がってから前足の爪を振り下ろしてきました。
その一撃を間一髪で避けたルディアは、出し惜しみせずに固有魔法ファイアリング・インパクトを纏わせたドラグラップルで、腹部に連撃を繰り出しています。
竜精魔法エーテル・チェインも組み込んだファイアリング・インパクトは、ルディアが攻撃を当てる度に炎が蓄積されていきますから、格上のアイスクエイク・タイガーにも十分な効果が見込めます。
「姉さん!」
「分かったわ!」
ルディアの合図で、私も固有魔法グランダスト・ブリザードを使用します。
結界魔法でアイスクエイク・タイガーを覆い、その中に竜巻を発生させ、氷と土の礫によってダメージを与える魔法ですが、本来は竜精魔法エーテル・ブレスも使うんです。
私のエーテル・ブレスは氷属性なので、迂闊に使ってしまうとルディアのファイアリング・インパクトの効果を消してしまいますが、ルディアが連撃を繰り出していたのは腹部が主ですから、私は動けないように前足に向かってエーテル・ブレスを放ち、爪も含めて地面に縫い付けるように使っています。
「たあああああっ!!」
結界に閉じ込められたアイスクエイク・タイガーに向かって、フライングを使って上空に飛び上がったルディアは、ドラグラップルの足甲に炎を纏わせた飛び蹴りを放ちました。
ファイアリング・インパクトの最終段階です。
飛び蹴りの直撃を受けたアイスクエイク・タイガーは、飛び蹴りを受けた場所から炎が生じ、さらにはエーテル・チェインの効果で蓄積されていた炎までが連動し、炎に包まれると同時に連撃を受けた場所が次々と爆発を起こしました。
ルディアはほとんど同じ場所を攻撃していましたから、その爆発は徐々に大きくなって、10メートルはあろうかというアイスクエイク・タイガーの体が徐々に宙に浮かんでいきます。
前足は私のグランダスト・ブリザードによって氷り付いていますから、傍から見れば逆立ちでもしているような恰好ですね。
「これで終わりだよ!」
トドメとばかりに、もう一度ファイアリング・インパクトを纏ったルディアが、フライングとスカファルディングを使いながら爆発の起こった腹部に左右の拳を叩き込み、そして回し蹴りを繰り出し、グランダスト・ブリザードで氷り付いた前足を砕き、本当に宙に舞い上げました。
私も追撃として、今度は全力のグランダスト・ブリザードを放ちます。
ルディアによって宙に舞い上げられたアイスクエイク・タイガーは、翡翠色銀にすら匹敵する硬度を持つ氷と土の竜巻によって体中を削られ、頭から地面に落下し、動きを止めました。
「またやっちゃったね」
「そうだけど……今回は大和さんでも素材の事を気にする余裕はないし、アイスクエイク・タイガーはまだまだいるんだから、今は倒す事が優先よ」
私のグランダスト・ブリザードとルディアのファイアリング・インパクトのせいで、アイスクエイク・タイガーの体表はボロボロになってしまっています。
それでもアイスクエイク・タイガーは氷と炎に高い耐性を持っているはずですから、素材として全く使えないわけではないことが救いでしょうか。
「そうだね。それじゃ姉さん、次に行こう!」
「ええ!」
まだアイスクエイク・タイガーは残っていますから、ここで話をしている余裕はありません。
見る限りでは既に倒されてしまった人も少なくないようですから、素材の事は本当に二の次です。
私は妹と頷き合い、最も暴れているアイスクエイク・タイガーを標的に定め、駆け出しました。
Side・ミーナ
私は今、アテナさんやヒルデガルド陛下と共に、アイスクエイク・タイガーと戦っています。
盾を持っているのは私だけですから、結界魔法や騎士魔法シールディングを使いながら、アイスクエイク・タイガーの巨体から振り下ろされる爪や牙、氷の一撃を確実に防ぐ事に重点を置いています。
「このっ!」
今もアイスクエイク・タイガーが爪を振るって飛ばしてきた氷の塊をシールディングで防いでいますが、さすがにM―Iランクモンスターだけあって、一撃一撃が重たいです。
「はあっ!」
「たああっ!」
その隙にヒルデガルド陛下の大鎌クイーンズ・シックルとアテナさんのドラゴネスピアが、アイスクエイク・タイガーを傷つけていきます。
ですがアイスクエイク・タイガーの皮は硬く、容易には貫けません。
私もメイス・クエイクを使ってアイスクエイク・タイガーに攻撃していますが、私のメイス・クエイクは剣や槍ではなく戦槌を模した固有魔法ですから、吹き飛ばしたり叩き潰したりすることは出来ますが、斬り裂いたり貫いたりする事は出来ません。
使い勝手は良いですから重宝しているんですが、こんな時はちょっと困るんですね。
「このままでは埒があきません、ねっ!」
「はい、決め手に欠けていますから!」
ヒルデガルド陛下はアイスクエイク・タイガーの攻撃を避け、私が結界魔法で追撃を防ぎながら距離を取りますが、私達には決め手が欠けています。
メイス・クエイクを全力で使えば、上手くすれば頭を潰す事は出来るかもしれませんが、そのためには私も魔力をかなり込めなければなりませんし、その間は攻撃を防ぐ事も出来ないでしょう。
今までの私はフラムさんと組んでいましたが、そのフラムさんは、今回は獣車のキャビンの上にある展望席から援護射撃を行っていますから、この場にはいません。
フラムさんの固有魔法は高い貫通力がありますから、私も頼りにしていたんですが……。
いえ、フラムさんも戦っているのですから、こんな所で甘えた事を言っている場合ではありません。
私はシルバリオ・ソードとシルバリオ・シールドを構え直し、もう一度メイス・クエイクを作り出しました。
そのタイミングでアイスクエイク・タイガーは、私の作り出した結界を破ってきましたが、その程度は想定内です。
「アテナさん、あれを!」
「うん、分かった!」
この場の切り札になるアテナさんの固有魔法は、光と土のエーテル・ブレスに風を送り込み、溶解した土石流を光と共に撃ち出す魔法です。
魔法名はマグマライト・ブレスと言います。
そのマグマライト・ブレスは通常のブレスとは異なり、一直線に、まるで光のようにアイスクエイク・タイガーに向かっていきました。
とっさに避けたアイスクエイク・タイガーですが、マグマライト・ブレスには念動魔法も組み込まれていますから、熱された光の土石流はアテナさんの意思でいつまでも追い続けています。
巨体のアイスクエイク・タイガーでは、避け続ける事は難しいでしょう。
事実アイスクエイク・タイガーの体は、徐々にではありますがマグマライト・ブレスの熱によって、体が焼け焦げていっていますから。
「はあああっ!」
マグマライト・ブレスを避け続けているアイスクエイク・タイガーに向かって、ヒルデガルド陛下が闇属性魔法と雷属性魔法を纏わせた大鎌を振るい、アイスクエイク・タイガーの左前脚を切り落としました。
足が1本切り落とされたことで、アイスクエイク・タイガーの動きが目に見えて鈍っていますから、ここがチャンスです!
私はメイス・クエイクを、今まで以上に大きく作り上げ、スカファルディングを使って上空に駆け上がり、勢いをつけて頭部に向かって思い切り振り下ろしました。
ですが同時にアイスクエイク・タイガーも私に気付き、残った右前足を、私に向かって振り上げてきています。
咄嗟にスカファルディングを使って避けようとした私ですが、突然アイスクエイク・タイガーが体勢を崩しました。
右足の付け根に矢が突き刺さっていますが、よく見るとその矢は水で作られており、雷すら纏っています。
これはフラムさんの固有魔法タイダル・ブラスターに間違いありません。
フラムさんの弓ラピスウイング・ボウは、弦や装飾にウインガー・ドレイクが使われていました。
ですがエンシェントクラスに進化した時のためにという名目で、大和さんとエドさんが瑠璃色銀とドラグーンを使って、新造してくれたんです。
基本はラピスウイング・ボウと同じですが一回り大きくなり、ウインガー・ドレイクに代わってゴールド・ドラグーンやディザスト・ドラグーンが使われていますから、性能はかなり向上しています。
フラムさんはその弓に、ラピスライト・ロングボウという銘を付けられました。
余談ですが、私のシルバリオ・シールドとルディアさんのドラグラップルにもウインガー・ドレイクの革が使われており、シルバリオ・シールドはゴールド・ドラグーンの革に、ドラグラップルはグラン・デスワームの革に差し替えられています。
タイダル・ブラスターは、フラムさんがハイウンディーネに進化した際に授かった天賜魔法融合魔法で水属性魔法と雷属性魔法を融合させ、風属性魔法で螺旋回転を加えて放つ魔法ですから、同じ属性を持つディザスト・ドラグーンとは最高の相性と言っても過言ではありません。
ですからラピスライト・ロングボウから放たれたタイダル・ブラスターは、ソルプレッサ迷宮で使用したそれよりも、格段に威力と精度が向上しているんです。
「たああああっ!!」
心の中でフラムさんに感謝しつつ、私は限界まで大きく、強くしたメイス・クエイクを、両手でしっかりと持ち、渾身の一撃をアイスクエイク・タイガーに向けて振り下ろすことで、何とか倒すことができました。
さすがに頭を潰されてしまえば、M―Iランクモンスターでも動くことは出来ませんね。
「お見事です。さすがは大和様の奥方様ですね」
「いえ、あちらにいるフラムさんのおかげです。フラムさんがタイダル・ブラスターで援護して下さらなかったら、私はアイスクエイク・タイガーの一撃を受けていた所でしたから」
私にとってフラムさんは、一番の相棒と呼べる方ですから。
「ですが陛下、まだ戦いは終わっていません」
「そうですね。わたくし達は他のハイクラスと協力し、次のアイスクエイク・タイガーを倒す事にしましょう」
「はい!」
アイスクエイク・タイガーの数は、3匹にまで減っています。
ハイハンターは本当に問題なく倒しており、ハイオーダーも同様のようです。
ハイセイバーは手間取ったようですが、それでもしっかりと討伐に成功しています。
ですが残った3匹は、特定の相手と戦う事を拒み、戦場を駆け回っていますから、セイバーはもちろん、オーダーやハンターにも犠牲者が出てしまっています。
一刻も早く動きを止めなければ、さらに被害は広がるでしょう。
私とアテナさん、ヒルデガルド陛下は、獣車を狙っているアイスクエイク・タイガーに狙いを定め、走り出しました。
Side・アルベルト
終焉種討伐隊を率いる事になった俺は、現在セイバー達と共にアイスクエイク・タイガーと戦っている。
オーダーは32名、ハンターは42名ものハイクラスを要しているが、我がセイバーのハイクラスは14名しかいない。
先日襲来したスリュム・ロードによって、クラテルのセイバーズマスターは左足を失い、サブ・セイバーズマスターは亡くなってしまったし、他にも30名以上の負傷者を出してしまった事もあり、セイバーズギルド・クラテル支部は戦力不足なのだ。
だが、それが何だ。
例えそうであろうと、ここは我らの故国なのだ。
我々が最前線に立たずして、誰が立つと言う?
相手が何であれ、我らセイバーズギルドに敗北は許されない。
そんな決意を全員が胸に秘め、我々は今回の討伐戦に臨んでいる。
「第2妖騎隊!左へ回り込め!第4妖騎隊は何としても食い止めておけ!」
「「はっ!」」
指示を出しながら、俺もアイスクエイク・タイガーに剣を振るう。
アミスターの第二王女マナリース殿下から授かった翡翠色銀という金属で打たれた剣は、魔銀の剣よりも数段使いやすく、私達ハイクラスの魔力を十全に刀身に伝えてくれる。
これ程の金属、合金だったか?を開発していたとは、さすがはクラフターズギルドの発祥国と言うべきか。
しかも急な事だったにもかかわらず、討伐隊に参加しているハイセイバー全員にこの翡翠色銀製の剣を授けて下さったのだから、本当に感謝しかない。
さらに俺が振るっている剣は、アミスターの王代となられたアイヴァー陛下御自らが打たれたと言う。
Mランククラフターに昇格し、名実ともに一流の鍛冶師となられたアイヴァー陛下の剣など、どれ程の金銭を積んでも手に入れられる物ではない。
俺はその剣を、眼前のアイスクエイク・タイガーに向けて上段から斬り降ろした。
「ちっ!掠っただけか!ぐっ!」
俺の一撃は僅かに掠めただけだったが、その俺に向かってアイスクエイク・タイガーは氷の槍を撃ち出してきた。
咄嗟に盾で防いだが、左肩と左足に命中してしまい、俺は少し体勢を崩してしまった。
「危ない!」
追撃として右の爪を振るってきたアイスクエイク・タイガーの前に、第4妖騎隊所属のハイセイバーが割り込んだ。
馬鹿野郎、逃げろ!
「あ、が……」
その爪はハイセイバーを盾ごと斬り裂き、そのまま命を断ってしまった。
盾は魔銀製ということもあり、アイスクエイク・タイガーの一撃を防ぐことは叶わなかったのだ。
「おのれ……!」
眼前で仲間を死に至らしめたアイスクエイク・タイガーに、俺は激しい憎悪をぶつける。
既に4人のハイセイバーが命を落としているから、これで5人目だ。
これ以上はやらせん!
「防御の際は、必ずシールディングを使え!魔銀の盾では防ぎきれん!」
とはいえシールディングを使っても、盾が魔銀製ではいつまで持つかわからない。
だがアイスクエイク・タイガーは、爪や牙だけではなく、氷の槍や土の槍まで撃ち出してくるのだから、到底避け切れるものではない。
予備の盾は用意してきているが、交換する余裕があるかも分からないから、我々に出来る事はアイスクエイク・タイガーの攻撃を分散させ、こちらは的確に攻撃を当てる事だけだ。
「そこだあああっ!」
第2妖騎隊の攻撃を避けたアイスクエイク・タイガーの着地を狙い、1人のハイセイバーが剣を腰だめに構えながら、体ごと突っ込んだ。
その一撃はアイスクエイク・タイガーの左前脚の付け根に突き刺さっている。
アイスクエイク・タイガーにとってもかなりの痛手だと思うが、空に向かって咆哮を上げた次の瞬間、鋭い牙がそのハイセイバーに突き立てられた。
剣を深く突き刺してしまっていたため、そのハイセイバーは避ける事も出来ず、そのまま牙によって、左半身を噛み砕かれて絶命した。
だがそのために、アイスクエイク・タイガーの右半身が無防備になっている。
これは千載一遇の勝機だ。
「今だ!右側から一斉にかかれ!」
俺はそのハイセイバーが作り出した勝機を活かすため、セイバー達に総攻撃を命じた。
もちろん隙を晒したとはいえ、我々セイバーズギルドの攻撃が、そう簡単にM―Iランクモンスターに通用するとは思っていない。
だがこの機を逃せば、俺達に勝機はないだろう。
俺も翡翠色銀の剣を握り直し、風と雷を剣に纏わせ、号令を掛けると同時に斬り込んだ。
左前脚に翡翠色銀の剣が突き刺さったままなのか、アイスクエイク・タイガーの動きは鈍くなっている。
アイスクエイク・タイガーもそんな事は分かっているようで、先程より多数の氷、そして土の槍を撃ち出してくるが、俺達は構わず接近する。
後方のノーマルセイバー達も魔法で援護を行い、少しでも土と氷の槍を相殺しようと頑張っている。
さらに獣車の展望席からは、弓術士の援護射撃が命中している。
水や氷、雷の矢まで突き刺さっているが、恐らくは弓術士の固有魔法だろう。
その矢はアイスクエイク・タイガーの右半身に命中し、大きなダメージを与え、体勢まで崩してくれた。
そのアイスクエイク・タイガーは、ハイセイバーに思う存分剣を突き立てられ、最後に俺が脳天を突き刺して、ようやく地に伏してくれた。
「……被害状況報せ」
「ノーマルセイバー10名、ハイセイバー6名が落命しました……」
「重傷者も多数。既に後方に下がらせ、傷の治療を行わせています」
「そうか。被害甚大だな」
M―Iランクモンスター1匹に、セイバーズギルドは半壊させられてしまった事になる。
いや、弓術士の援護や翡翠色銀の剣があったればこそ、この程度で済んだと言えるか。
「他方の戦況は?」
「ハンターは既に、各レイドでアイスクエイク・タイガーの討伐を終えています。オーダーもジェネラル・オーダー、ファースト・オーダーの指揮の下、それぞれの分隊で2匹ずつの討伐を成したようです」
その報告に、俺は驚いた。
俺達が1匹のアイスクエイク・タイガーに時間を掛けている間に、ハンター達はそれぞれのレイドのみで、オーダーも4匹という数を仕留めていただと?
確かにハンターはGランクが、オーダーもレベル50超が多い事は知っているが、それでもここまでの差が出るものなのか?
いや、今はそんな事を考えている場合ではない。
「アイシクル・タイガーやフリーザス・タイガーは?」
「そちらも討伐を完了しています。ウイング・クレスト所属のGランクハンターが援護を行ってくれたため、こちらの被害は最小限です」
それは朗報だが、確かアイシクル・タイガーとフリーザス・タイガーに当たるウイング・クレストのGランクハンターは、まだ14歳じゃなかったか?
いや、エンシェントヒューマン大和殿の弟子とも聞いているから、それぐらいの事は出来るのか?
それもこれも、今は考えるべき事じゃないな。
「わかった。アバランシュ・ハウルは?」
「1匹は既に、プリムローズ様によって討伐されています。残った1匹は、セイバーやオーダー、トライアル・ハーツに大きな被害を出していますが、今はマナリース殿下、ホーリー・グレイブのリーダー ファリス殿が戦闘中です」
「陛下は?」
「ウイング・クレストの方々と共に、アイスクエイク・タイガーを倒されたそうです。特に目立ったお怪我もされていないとの事」
それは良かった。
いくらヒルデガルド陛下がハイヴァンパイアとはいえ、アイスクエイク・タイガー相手に無傷などあり得ない。
だが目立ったお怪我をされていないということなら、セイバーとしては遺憾であるが、ウイング・クレストの側におられる方が、陛下の身は安全だろう。
「了解だ。では軽傷者はポーションで傷を癒した後、マナリース殿下の援護に向かう」
ポーションは自己治癒力を上げる効果だから、ハイクラスなら軽傷ぐらいはすぐに癒せる。
治癒魔法程の効果はないが、それでも非常に重宝している。
「はっ!」
マナリース殿下がファリス殿とたった2人でアバランシュ・ハウルと戦っているなど、セイバーとして見過ごす事は出来ない。
オーダーも向かっていると思うが、我々としても何もしない訳にはいかない。
他国の王女殿下とはいえ、我がトラレンシアのために命を賭けて下さっているのだから、ここで何もしないなど、セイバーとしての誇りが許さない。
他のセイバー達もその事は十分に理解しているようで、すぐにポーションを飲み、傷を癒す。
そして飲み干すと、私達は一丸となって、アバランシュ・ハウルと戦っているマナリース殿下の援護のために移動を開始した。




