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ヘリオスオーブ・クロニクル(旧題:刻印術師の異世界生活・真伝)  作者: 氷山 玲士
第九章・妖王国最大の危機
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戦女神の葛藤

Side・真子


 誰か、この状況を説明して。

 いえ、説明はしてもらってるんだけど、理解が全く追い付かないわ。


 ここはヘリオスオーブっていう異世界?

 人間だけじゃなく獣人や竜人、エルフもいます?

 便利な魔法がたくさんあります?

 進化っていうのが出来れば、老化もしません?

 しかも私は、既に進化済み?


 何がなんだか全く分からないわよ!


 異世界がどうとかっていう話やゲームは知ってるし、真桜に誘われてそんなゲームをやったこともあるけど、まさか自分が異世界に来るなんて、考えたことすらなかったわ。


 だけど私は、本当にその異世界とやらに来てしまったし、しかも定番の勇者召喚や神様がっていうのじゃないから、地球に帰ることも絶望的だわ。

 いえ、仮に方法があったとしても、私にとっては無理って言った方がいいかもしれない。


 その理由は、私と同じ世界からやってきた1人の少年にある。


「それじゃあ飛鳥君は七師皇になって、世界中を飛び回ってるのね?」

「そこまで頻繁にじゃないですけど、年に何回かは」


 この少年の名前は三上 大和……今はヤマト・ハイドランシア・ミカミだっけ?

 驚いたことにこの少年は、私の親友である人達の息子、しかも3人兄弟の次男で末っ子っていう訳の分からない存在。

 その時点で地球の時間軸は、私がヘリオスオーブに飛ばされた時間より20年以上も経過してしまっていることになる。

 だから私は、とっくに行方不明か死亡扱いで処理されていることでしょう。

 一応私は称号持ちの生成者だから、警察とかもかなり探してくれたと思うけど、当の私は異世界転移なんていう荒唐無稽な体験をしていたんだから、どれだけ探しても見つかるワケがないもの。


 さらに頭の痛いことに、大和君がヘリオスオーブに来たのは4ヶ月程前らしいんだけど、既に結婚までしていて、しかも奥さん5人に婚約者も4人いるって言うじゃない。

 ヘリオスオーブは女性比が圧倒的に高い上に出生率も低いから、民間でも一夫多妻が常識で、中には結婚しなくても子供だけは生ませてもらうっていう女性までいるという。

 地球じゃ考えられない話だけど、世界が違うと常識も違うってサユリ様にも言われてしまったし、そのサユリ様も結婚する時は躊躇ったっていうお話だったわ。


 サユリ様は第三次世界大戦中の人だそうだけど、アミスターっていう王国の王様に嫁いだから、元王妃様ってことになっている。

 見た目は20代で十分通用するのに、実年齢は驚きの107歳。

 ヘリオスオーブはレベルが上がると人間でも進化するらしく、サユリ様はハイヒューマン、大和君はその上のエンシェントヒューマンっていうのに進化していた。

 かく言う私もハイヒューマンだったけど、大和君は刻印術師としての修練や実戦が影響してるんじゃないかって言っていた。

 心当たりがあり過ぎるから、反論できなかったわね。


「とりあえず、話は分かりました。正直頭が混乱していて、何をどうしたらいいのかは全く分かりませんが、運が良かったということだけは理解しています」


 一通り話を聞いた後、私はそう結論付けた。

 大和君もサユリ様もアミスターっていう国に所属しているんだけど、そのアミスターの最友好国のトラレンシアっていう国が、ソレムネっていう覇権国家に侵略戦争を仕掛けられていて、丁度大和君とプリムっていう狐の獣人、フォクシーだっけ?の子が派遣されていた艦隊を殲滅した所だったらしい。

 艦隊殲滅って何事かと思ったけど、話を聞くと蒸気戦列艦が実用化されているみたいだったわ。

 だけどヘリオスオーブには進化という概念があって、質が量を覆すことは常識にもなっているから、エンシェントクラスに進化している大和君とプリムさんの前では、鉄製の蒸気戦列艦であっても大した戦力にはならず、あっさりと殲滅されていたとか。

 血筋だって思わず納得しちゃったけど、どうやら私は、その戦場跡に転移してきたらしい。

 大和君達がここを通ったのは偶然で、ソレムネっていう国の艦隊を殲滅したのも偶然なんだけど、もし何か1つでも歯車が噛み合わなかったら、私はソレムネっていう国に捕らえられ、奴隷として一生を過ごすことになったかもしれないそうよ。

 フィリアス大陸統一を掲げるソレムネ帝国は、勝つためなら何をやってもいいと考えているし、支配した街の略奪だって当たり前だから、もし私がそんな国の軍艦の前に転移したりなんかしたら、どうなるかなんて考えるまでもない。

 本当に運が良かったとしか言えないわ。


「それでこれからなんですけど、さっきも説明した通り、俺達はトラレンシアっていう国に向かっています。女王陛下を送り届けるためですけど、他にも目的が出来たんで」


 そう大和君が口にすると、隣に座っているハイヴァンパイアっていう種族の女性が申し訳なさそうな顔をする。

 その人がトラレンシアの女王様らしいけど、元々送迎は大和君達が買って出たっていう話だから、その理由は理解できるし、新しく目的が出来たのも話を聞けば当然の話だわ。


「迷惑じゃなかったら、私も同行させてもらおうかしら。まだ心の整理は出来てないけど、異世界の街並みも見てみたいから」


 これは私の本音でもある。

 元の世界に帰れる方法があったとしても、私にとって幸せなことかどうかは分からない。

 いえ、年が離れてしまったとはいえ家族も親友もいるんだけど、どんな反応が返ってくるかが分からなくて怖い。

 そもそも地球への帰還方法は、私達以前にヘリオスオーブに来た客人まれびとが何十年もかけて探し、それでも見つからなかったそうだから、私も諦めるしかない気がする。

 神様がとか勇者召喚がとかなら、まだ帰れる可能性はあったんだけど、この世界に来てしまったことはほとんど事故のようなものだから。

 だけどそんな簡単に、異世界で生きていく覚悟なんて決められない。

 だから心の整理をしつつ気を紛らわせるためにも、このヘリオスオーブがどんな世界なのかを知っておきたい。


「俺は構わないけど、みんなは?」

「さすがに放り出すワケにもいかないし、仕方ないでしょうね」

「そうですね。真子さんなら大丈夫な気もしますが、お会いしたのも何かの縁ですから」


 縁か。

 確かにそうかもね。

 大和君もサユリ様も、転移した直後に騒動に巻き込まれたそうだけど、それを自分の力で乗り越えている。

 2人に比べたら、私はまだ恵まれていると言えるのかもしれないわ。


「ありがとう。それじゃ真子さんも、俺達に同行するってことで」

「ええ。ありがとう、みんな」


 だから私は、素直な気持ちで頭を下げることができた。


 これが私がヘリオスオーブに来た経緯で、ウイング・クレストと行動を共にすることになった理由になるわ。

 もちろん私もただ厄介になるだけのつもりはないから、近い内にハンターとヒーラー登録をするつもり。

 これでも私は医大生だからね。

 サユリ様も医大生だったそうだから、結構話は合いそうだわ。


「え?これって魔法で空間を拡張してるの!?」

「そうですよ。デッキには出られるから、案内しましょうか?」

「お、お願いするわ」


 私の同行が決まり、新たな話を聞いている最中、私は衝撃の事実を告げられた。

 ヘリオスオーブには馬車という言葉がなく、代わりに人に懐きやすい魔物が車を引いているため、獣車と呼ばれている。

 だけどその獣車は、魔法を使うことで内部の空間を拡張させることが出来るっていうから驚きだわ。


「な、何よ、これは!?」


 大和君に案内されてデッキに出た私は、本当に驚いた。

 リビングはもちろん、私が寝かされていた貴賓室も広かった。

 なのにこの獣車とやらは、小型クルーザー程度の大きさしかなかったんだから。

 確かに魔法で空間拡張でもしないと、入りきれないわね……。

 というかこの獣車、ドラゴンが運んでるの!?


「それも説明しますよ」


 そう言ってドラゴンについても説明してくれたけど、ドラゴニアンは竜族だから人間?

 ドラグーンって竜騎士じゃないの?

 なんて感じで、本当に地球とヘリオスオーブで全然違うんだということを実感する羽目になった。


「大和様」

「アリア?どうかしたのか?」


 大和君に展望席で色々と教えてもらっていたら、ラビトリーっていう種族の巫女さんアリアちゃんがやってきた。

 ウサミミが可愛いわ……。

 触りたいけど、さすがにそれは我慢しないと……。


「はい。先程神託が下りました」

「神託が?」


 アリアちゃんは神託の巫女っていう存在らしいんだけど、大和君の所にやってきたのは数日前らしいわ。

 客人まれびとは神託を受け取ることが出来ないから、神が決めた巫女が仕えることになったって聞いてるけど、そこがよく分からないのよね。


「はい。今回は簡潔に、一言だけでしたが」

「どういうことだ?」

「私も分かりません。ですが神託では「コンプリート」と」

「はい?」


 何それ?

 傍で聞いてても意味不明だけど、当事者であろう大和君も大混乱してるじゃない。


「私にも意味は分かりません。ですがそれを伝えるようにと」

「……もし会うことができたら、一発殴ってやりたい」

「それは構わないと思います。では、確かにお伝えしました」


 そう言って立ち去るアリアちゃん。

 神様を殴ってやりたいって言う大和君に苦言を呈するでもなく、むしろ無関心な感じだけど、それは許されることなの?

 いくらなんでも、不敬が過ぎるんじゃない?


『大和様、アウラ島が見えて参りました』


 そんなことを考えていたら、ドラゴニアンから声が響いた。

 驚いたけどドラゴニアンは竜族だっていう話だから、そりゃ喋れるわよね。


「ああ、分かった。それじゃ真子さん、俺はみんなに伝えてきます」

「ええ、いってらっしゃい。私はここで、空の旅を楽しませてもらうわ」


 竜が運ぶ車にのって空を飛ぶなんて、地球じゃ絶対に体験できないものね。

 獣車は結界魔法っていう魔法で覆われているから転落する心配はないし、風とかも遮ってくれてるそうよ。

 デッキも広々としているから、獣車での移動中でも閉塞感を感じることはないわね。

 この獣車の外観は地球のクルーザーらしいけど、こんな感じの獣車もアリだと思う。

 これでも試作らしいけど。


「あ、いたいた」

「あなたは……マリーナ、だっけ?」

「うん。フェアリーハーフ・ドラゴニュートのマリーナ。大和に頼まれたんだけど、真子の装備をどうするか聞きに来たんだ」

「私の装備?ああ、コートとか武器とか?」


 何のことかと思ってたけど、ヘリオスオーブには魔物がいるんだから、武器とか防具とかは必須よね。


「そうそう。このコートは、ウイング・クレストの標準装備ってことになってるんだ。基本デザインは同じだけど、装甲の配置とかで差別化を図っているよ」


 標準装備まであるのね。

 装甲の配置とか形で差別化を図ってるってことなら、これは結構悩む案件だわ。

 武器も、どうするかが問題ね。

 私は適正的に戦闘は不向きなんだけど、全く戦えないワケじゃない。

 だけど接近戦は経験が少ないから避けたいし、刻印具は壊れる可能性があるから絶対に使いたくないわ。

 そうなると刻印法具を生成するしかないんだけど、あれはあれで、ヘリオスオーブでも特殊な形状になると思うのよね。

 あ、そっか。

 武器と組み合わせるようなことができれば、多少は偽装できるかも?


「悩むけど、剣とか槍は使えないし、杖っていうのが無難かしら?」

「杖?意外な気もするけど、何か理由でもあるの?」

「ええ。私も大和君と同じく刻印法具を生成できるんだけど、多分ヘリオスオーブじゃ見たことも聞いたこともないと思うの。盗まれる心配はないんだけど、面倒な事になりかねないと思ってね」

「そうなんだ。じゃあその刻印法具を、武器に組み合わせられるようにってこと?」

「出来たらそんな感じがいいんだけど、出来るかしら?」

「よっぽどの物じゃなければ出来ると思うけど、まずは話を聞いてからかな」


 それはそうよね。

 出来ないって言われることも覚悟してたんだけど、出来るかもしれないってことなら、余す所なくしっかりと伝えないと。

 すぐに出来るワケじゃないし、これからしっかりとデザインも煮詰めないといけないから、出来るとしても結構先になりそうだわ。

 でも、これはこれで楽しみね。

 後は私の覚悟だけだけど、こればっかりはすぐに決められるものでもないし、割り切れるものでもないから、ゆっくりやっていくことにしましょう。

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