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ヘリオスオーブ・クロニクル(旧題:刻印術師の異世界生活・真伝)  作者: 氷山 玲士
第九章・妖王国最大の危機
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ソレムネの秘密兵器

Side・サユリ


 既にトラレンシアの海は氷っていて、船で進むことはできなくなっているはずなのに、まさかそれを知っているはずのソレムネが、大艦隊を率いて攻めてきてるとは思わなかったわ。

 エオスが抱える獣車から見下ろす限りじゃ、軍船の数は50を超えている。

 あの軍船全てに大砲が積まれているとしたら、さすがにセイバーズギルドでも追い返すのは難しいわね。

 だけどどうやって、氷の海を越えるつもりなのかしら?


「大和君、どう思う?」

「ヘリオスオーブなら砕氷船を作るのは簡単だと思うんですが、ソレムネは天与魔法オラクルマジックは使えないから、魔導具を作るのも難しい。となるとあとは、火属性魔法ファイアマジックを使って無理矢理氷を融かすっていう力技ぐらいしか思い付きませんね」


 大和君も同意見か。

 私も全く同じなのよね。

 確かに魔法を利用した砕氷船は、ヘリオスオーブなら作ることは難しくないと思う。

 だけどそれは天与魔法オラクルマジックを使えることが前提で、ギルドを廃しているソレムネは一切使うことができないから、魔導具を作ることもできないはずよ。

 もちろん魔法を使わない技術を開発していれば話は別だけど、魔法に頼っているヘリオスオーブではそんな技術は発展しにくいし、考える人も多くはない。


「というか、ヘリオスオーブの船って魔物が引いてるはずじゃありませんでしたっけ?」

「そうだけど、それがどうか……なるほど、完全に新技術を開発したって断定できるわね」

「あ、やっぱりですか」


 最初は大和君の言ってることが分からなかったけど、確かにソレムネの軍船を引いている魔物は見当たらないから、魔物を使わずとも航行できる船の開発に成功したと見て間違いないわ。

 いくつか考えられるけど、煙が出てる所を見るに、火を使った動力船ってところかしら。

 確かアバリシアがもたらした新技術が、フィリアス大陸のいずこかで実用化されたっていう神託がアリアに下ったそうだけど、そのいずこかっていうのがソレムネだったってことか。

 厳密には神託じゃないけど、似たようなものだし神託で構わないでしょう。


「煙が鬱陶しいですね。だけど常に火を焚いてるから、余熱を利用して氷を融かそうってとこか。どこまで効果あるかは知らんけど」

「同感だけど、全く効果が無いってワケでもないでしょうね。火属性魔法ファイアマジックを併用すれば、少しは効率も良くなるでしょうし。氷を融かすことが副次的な効果なのか、船を動かすことが副次的な効果なのかまでは分からないけど、これは非常に面倒な事になったわ」

「そ、そんな……」


 海が氷ってしまうからこそ、トラレンシアは冬の間だけは、ソレムネからの侵攻を警戒せず過ごすことができていた。

 もちろん全くの無警戒ってことはないけど、それでも大きく警戒度を下げられるわ。

 なのにその氷を何とかできる手段が開発されてしまった以上、トラレンシアは冬でも侵攻の危機に脅かされることになる。

 もちろんあれだけの数の動力船の開発は大変だったろうし、燃料の問題もあるからすぐに数が増えることはないと思うけど、あの船1隻だけでも200人近い軍人が乗っているだろうから、上陸されたりすれば面倒な事になるわね。


「全部沈めてきましょうか?」


 なんてことを言う大和君だけど、確かに大和君ならできるんでしょうね。


「そうした方が良いわね。気になることもあるから、あの船は私も調べてみたいわ」

「え?どこが気になるんですか?」

「あの船、多分だけど鉄船よ」

「えっ!?」

「そ、それって、試作の船体に使われたのと同じ技術なんじゃ?」

「そうね。だけど同じ時期に別の場所で、同じような技術が開発されることもないワケじゃないから、多分偶然でしょう。そもそもソレムネは砂漠が多いから、木材は入手し辛い。それでいて鉄鉱山は豊富な国だから、代わりに鉄を用いようと考えることは、それ程不思議なことでもないわ」


 地球だって代用品を使った結果、それが主流になるようなことはよくあったはずだからね。

 何がって聞かれても、地球の歴史はもうかなり忘れてしまってるから、答えられないけど。


「じゃあ1隻はトラレンシアに、1隻はアミスターにってことで?」

「そうしましょう。アミスターが関与することになるけど、鉄と火を使った動力船を開発してたとなると、さすがに無視するワケにはいかないわ」


 しかも大砲まで積んでるでしょうから、トラレンシアどころかリベルターだって早期に落ちるかもしれない。

 トラレンシアとリベルターが落ちたら、次の標的はレティセンシアとバリエンテになるでしょうけど、バリエンテは内戦寸前の状態だし森も多いから、ソレムネとしても避けるでしょう。

 そうなるとレティセンシア一択だけど、トラレンシアとリベルターを落とすような国が相手だと、レティセンシア程度じゃひとたまりもない。

 魔化結晶があるけど、それでも遠距離から一方的に攻撃されてしまえば対処は難しいし、何よりレティセンシアの皇都コバルディアは海面都市だから、海の上から一方的に攻撃されて終わりだわ。

 エンシェントクラスを抱えるアミスターとアレグリア、ドラゴニアンと契約しているバレンティア相手にどう出るかは分からないけど、これ程の兵器を開発したんだから、強気に出てくる可能性は否定できないわね。


「おばあ様、本当によろしいのですか?」

「よろしいかよろしくないかで聞かれたら、確実によろしくないわよ。だけどマナ達は、あの船がどういう価値と戦力を持っているか分かりにくいでしょうけど、私や大和君からすれば、あの船はフィリアス大陸征服を成すことが出来る重要な兵器だって断言できるの。ね、大和君?」

「ですね。一気に時代が進んでる気がするけど、多分あの船にはこないだ話した大砲が、だいたい50門は積まれてると思う。それが数キロの距離から一斉に砲撃してくるんだから、大抵の街は木端のごとく吹き飛ぶ。そういった軍船は戦列艦って呼ばれてるが、地球でも数百年に渡って使用されていたんだ」

「な、何よ、それは……」


 軍事関連は、やっぱり大和君の方が詳しいわね。

 でも戦列艦って、確か100門級とかもなかったっけ?


「ありますね。120門級が最大じゃなかったかな?その分船も大きくなるし、砲弾も用意しなきゃならないけど、短時間での制圧力は跳ね上がると思います」


 でしょうね。

 救いかどうかはわからないけど、ソレムネは天与魔法オラクルマジックを使えないから、砲弾も燃料も直接船に積んであるはず。

 1隻ぐらいならミラーバッグやストレージバッグを使ってる可能性もあるけど、それだけで全てが賄えるワケじゃないことは変わらない。


「だけど戦列艦にも、弱点はあるんだよ」

「そ、そうなの?」

「ああ。いや、弱点っていうのは少し違うか?まあ戦列艦は、50門っていう数字の通りの数の大砲を積んでるんだが、どうやって一斉に撃つと思う?」

「どうやってって、そんなの船の側面にでもないと、並べきれないんじゃないかしら?」

「そうですね。それでも並びきれるとは思いませんから、至る所に穴を空けて、それで何とか活用できるのではありませんか?」


 大和君の言う戦列艦の弱点は、私も知っている。

 日本が異世界に転移したらっていう話がアニメになってたから、当時の人ならそれなりに知ってるんじゃないかしら?

 だけどヘリオスオーブの人達からすれば、戦列艦は未知の兵器だから、対策なんて簡単には思いつかないし、事実マナもヒルデも自信なさげだわ。

 自惚れるワケじゃないけど、この場に私や大和君がいたことは、ソレムネにとっては手痛い事態でしょうね。


「それで合ってますよ。つまり戦列艦が最大の攻撃力を発揮するためには、側面を向く必要があるんだ」

「そうか。正面や後方には大砲がないから、そっちから攻めれば大砲とやらのに集中攻撃をされることはないのね」

「正解。もちろん正面や後方に大砲がゼロってことはないと思うが、側面に比べれば大分減る。もちろん多少は角度を変えられると思うが、あくまでも多少だな」


 それはそうね。

 甲板上にある大砲ならともかく、側面に備え付けてある大砲なんて、無理に角度を変えたりしたら、そのまま海に落ちるに決まってるわ。


「というわけで行ってくる。プリムも上から見ててくれ」

「あたしも行くわよ。いくら大和でも、あの数の船を沈めるのは大変でしょ?」


 それもそうね。

 何隻かは鹵獲するつもりだけど、その分時間が掛かるのは間違いないわ。

 だけどプリムには船を沈めることを優先してもらえばいいし、何よりプリムの極炎の翼(フレア・ウイング)は鉄ぐらいなら簡単に熔かせるから、あちらからすれば相性最悪のはずよ。


「そうして頂戴。プリムは遠慮なく沈めてもらって構わないけど、大和君は出来るだけ鹵獲できるようにして。死体に関しては、処理は任せるわ。あれだけの大きさだと、確認するだけでも手間でしかないから」

「分かりました」

「了解。それじゃ行ってくるわ」


 大和君はアーク・オーダーズコートに着替え、プリムと共に獣車から飛び降りた。

 いきなりエンシェントクラスを投入する事態になるとは思わなかったけど、あの2人が同時に動いてくれるんだから、この場は何とかなるでしょう。

 ライには事後報告になるけど、こんな事態なんだから勘弁してもらうしかないわ。

 手土産に動力船を付ければ、事の重大さも分かるでしょうしね。


Side・大和


 大砲もなく船も木造っていう世界で、いきなり全鉄製で蒸気駆動か何かの戦列艦に出会うとは思わなかった。

 ソレムネの内情は不明な点が多いって話だったが、まさかこんなもんを開発してたとはな。

 何もないとこから、いきなり戦列艦なんてもんが出てくるのも疑問だが、今回に関してはアバリシアが関与してるっていう神託があるから、俺やサユリ様も知らない客人まれびとが関与してるっていう可能性はほとんどないだろう。


「な、なんだ、貴様らは!?」

「そ、空を飛んでいる、だと!?」


 旗艦かどうかは分からないが、偉そうなちょび髭軍人がいる船の前に、俺とプリムは下りることにした。

 さすがに上から来るとは思わなかったようだが、俺としても長時間飛び続けるわけにはいかないから、早いとこ勝負を決めないといけない。

 フライ・ウインドのような干渉系術式を使い続けると、人体に取り返しのつかないダメージが残り、最悪の場合は命の危険まであるって話だからな。

 だから俺は念動魔法を使い、ライセンスをちょび髭のおっさんに向かって投げつけた。


「ば、馬鹿な!アミスターのエンシェントヒューマンだと!?」

「ここにいる以上、トラレンシアへの侵攻が目的なんだろ?だけどトラレンシアは、アミスターの最友好国だ。これ以上進む様なら、まずは俺が相手になる」


 念動魔法でライセンスを回収してから、俺とプリムはマストの上に着地した。

 生殺与奪権を握ってることを見せ付けるためだが、ここで退くって言われても信じられるかは限りなく怪しいけどな。


「て、帝王陛下の崇高なる目的のために、我らは死を恐れたりはせん!各艦に告げる!アミスターのエンシェントヒューマンを、如何なる手を用いてでも殺せ!奴さえいなくなれば、トラレンシアはもとよりアミスターも恐るるに足りん!」


 思い切った命令を下したな。

 なら遠慮なく、全部沈めさせてもらうとするか。


「プリム、この船は回収する。アルフヘイムとヴィーナスの積層結界で空気を抜くから、適当な船を沈めといてくれ」

「空気を抜くって、また凶悪なことするわね」

「後始末が面倒だが、手っ取り早いんだよ」


 窒息死ってけっこう悲惨だからな。

 だけど戦列艦の数は50を超えてるし、空気を抜くことで動力も無力化できるだろうから、マジでこれが一番手っ取り早いんだよ。

 というわけで俺は、早速足下の船にアルフヘイムとヴィーナスの積層結界を発動させた。

 どちらも風性A級広域系術式だが、アルフヘイムは対象系、ヴィーナスは干渉系だから、両方を同時に使うことで術式強度を上げられるし、プリムを対象外にすることも簡単だ。

 そのプリムは極炎の翼(フレア・ウイング)を纏い、隣の戦列艦に向かってフレア・ペネトレイターで突っ込んでいた。

 鉄船だから強度は木造船より上だが、魔力で強化されてる訳じゃないから、その装甲はプリムのフレア・ペネトレイターの前じゃ紙切れも同然だ。


「確かに大砲?っていうのがいっぱいあるけど、ミスリル・コロッサスの魔銀弾程じゃないし、素早く動けば狙いも定められないでしょう!」


 それも戦列艦の弱点だな。

 いや、普通は高速で動く人間大の生物相手なんて想定されてないんだから、弱点って呼べるものでもないか。

 さらに大砲を上に向けることもできない戦列艦は、プリムのフレア・ニードルによって成す術もなく沈んでいく。

 一気に5隻減ったが、こっちも急がないと俺の分が無くなりそうだ。

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