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ヘリオスオーブ・クロニクル(旧題:刻印術師の異世界生活・真伝)  作者: 氷山 玲士
第九章・妖王国最大の危機
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女王の恋慕

Side・ヒルデガルド


 わたくしの妹ともいえるアミスター王国第二王女マナリース・レイナ・アミスター、バリエンテ連合王国公爵令嬢プリムローズ・ハイドランシア。

 彼女達の結婚を、わたくしは心から祝福しました。

 特にプリムは、一時は死亡したとまで伝えられていましたから、喜びもひとしおです。

 さすがに2人が、同じお相手を見初めていたとは思いませんでしたけれども。

 ですが同時に、わたくしは心から羨ましいと思いました。

 トラレンシア妖王国の女王であるわたくしは、望んだ相手と結婚することはできません。

 トラレンシア王家は国父カズシ様と国母エリエール様の血を引いていなければなりませんから、いずれ私は望まぬ男を王配として迎え入れるか、シングル・マザーとして子を成し、育てなければなりません。

 妹は2人いますが、1人はカズシ様やエリエール様の血を継いでいないため、王位継承権を持っていませんから。


「そんな感じですかね。ああ、できればシールディングを使うのは、ハイクラスが望ましいですね」


 ですがわたくしは今、目の前の御方に心を奪われそうになっています。

 我が国に侵攻を続けている憎きソレムネが開発した新兵器を見抜き、簡単に対策を立ててしまった客人まれびと、ヤマト・ハイドランシア・ミカミ様。

 プリムとマナの夫でもありユーリの婚約者でもありますし、他にも2人の妻、4人の婚約者がおられるエンシェントヒューマンにしてアミスター王国の(オリハルコン)ランクオーダー。


「ヒルデ姉様、さっきから大和の方ばっかり見てるけど、もしかして惚れちゃった?」

「な、何を言うのですか!?そそ、そんなワケがないでしょう?」


 立食形式の晩餐で、私の心の内を見抜いたかのように声を掛けてきたプリムですが、わたくしはそんなに分かりやすかったのでしょうか?


「言っておくけど、プリムには隠そうとしても無駄よ?私もヒルデ姉様と同じだったんだから」


 どういうことですか、マナ?

 話を聞くと、マナと再会した時には、既にプリムは結婚していたそうです。

 しばらくは様々な問題を含むため、プリムの生存は伏せられていたのですが、ユーリを助けたことがきっかけとなり、アミスター王家にもプリムの生存が伝えられ、プリムも直筆の書状をマナに送っていたとか。

 その書状はほとんどが惚気だったそうですが、だからこそマナは大和様に興味を持ち、尊敬へと変わり、いつしか思慕の念になっていたそうです。

 それはまさに、わたくしと同じ……。


「というか姉様、相手が大和なら、問題ないんじゃない?」

「どういうことですか?」

「確かに大和は(オリハルコン)ランクオーダーだから、アミスターの所属は動かない。でもトラレンシア王家に入った男性には、アミスターの貴族やオーダーだっているでしょう?しかも退位した後はアミスターに移り住んで、そこで生涯を終えた方もおられるじゃない」


 確かにマナの言う通り、トラレンシア王家はカズシ様とエリエール様の血を引いていなければ即位することはできませんから、結婚相手は国によって決められることもあります。

 ですがお相手は、トラレンシア国内の方とは限りません。

 国内以外で多いのは、主家筋に当たるアミスター王国の貴族やオーダーでしょうか。

 特にオーダーは、王家の女性と同年代の男性が選ばれることが多く、オーダーズギルドから出向という扱いになるそうですから、退位した女王もアミスターに移り住むことができます。

 もちろん、子育てが終わってからになりますけども。


「言いたいことは分かりますが、それまでは大和様も、トラレンシアに住んで頂くことになります。もちろんトラレンシアとしては大歓迎ですが、あなた方もいるのですから、そういうワケにはいかないでしょう?」


 エンシェントヒューマンが、わたくしの在位中だけとはいえトラレンシア国内に滞在することは、貴族達も歓迎こそすれ、疎むようなことはないでしょう。

 わたくしとの婚姻を望んでいる貴族は別ですが、トラレンシアの王位は女性と定められているためか、貴族家の当主もほとんどが女性ですし、男性は気ままに暮らすことが多いですから、そんな家はほとんどありませんが。


「少し前までならその通りだったんだけど、今はそうじゃないのよ。トラレンシアとの距離がどれほどあろうと、大和には大きな問題じゃないわよ」

「ということは、トラベリングを習得されたのですか?」


 プリムの発言に首を傾げてしまいますが、距離が問題ではないということは、大和様は長距離転移魔法トラベリングを習得なされているということなのでしょうか?


「ちょっと違うけど、似たようなものよ。後で招待するわ」


 招待、ですか?

 大和様と結婚されたことで、マナ達もフィールというアミスター北部の街に移り住んでいるはずでは?


「ちょっと話が面倒だから、直接見てもらった方がいいわ」


 話が面倒だというのは、分からなくもありません。

 さわり程度しか話していないのでしょうが、それでも意味不明ですから。


「招待するのは姉様だけになるけど、危険はないから安心して」


 プリムと大和様がおられるのですから、危険はないと判断していいでしょう。

 ですがそういうワケではなさそうです。

 同行した武官や文官は招待しないそうですが、それでもわたくし付きのバトラー ミレイは構わないそうですし、わたくしも興味がありますから、楽しみにさせていただきましょう。


Side・サユリ


 天樹城の中には、王連街と呼ばれる区画が存在している。

 過去の王や王配、王妃達が住むことを許された一角のことで、そこには現国王ラインハルト、先代国王アイヴァー、先々代を務めた息子、そして私の夫であり3代前の国王の屋敷が建てられている。

 私の夫や同妻は何年も前に亡くなっているから私は広い屋敷に1人暮らしになってるけど、それでも場所が天樹城の中ということもあって息子夫婦や孫夫婦、曽孫夫婦も近くにいるから、そこまで寂しいとは思わない。

 曽孫で現国王ライの屋敷は、まだ建造中だけどね。

 さらに今は、曽孫と結婚した私と同じ世界出身の客人まれびと大和君のおかげで、私の屋敷の一室にはゲート・ストーンが設置されているから、フィールという遠く離れた地に嫁いだ曽孫にも、いつでも会うことができるようになった。

 ゲート・ストーン、そしてゲート・クリスタルという魔導具を使うことで、大和君が見つけたアルカという天空島に転移することができるんだけど、今回はそれを利用して、特別ゲストを招待することになっている。


「サユリ様、本日はお招き頂き、ありがとうございます」

「もっと楽にしてください。それにここは中継地点ですから」


 その特別ゲスト、トラレンシア女王のヒルデガルド陛下は、王連街に来るのは初になる。

 今回は私の屋敷に宿泊することで話が通ってるけど、実際は私の屋敷じゃなくてアルカになるんだけどね。


「恐れ入ります。それとサユリ様、わたくしのことは以前と同じく、ヒルデとお呼びください」

「分かりました。一国の女王陛下に恐れ多いですが、それがお望みであれば」


 私もヒルデとは何度も会ってるし、マナやプリムとは特に仲が良く、姉妹同然の付き合いをしていることも知っている。

 その関係でプリムやヒルデも、私にとって曽孫同然ではあるんだけど、ヒルデはトラレンシア女王だから、いつまでも呼び捨てにするワケにはいかない。

 だけどヒルデは、以前と同じように接してほしいみたいだから、申し訳ないとは思うけどそうさせてもらおうかしら。

 私としても、そっちの方が気が楽だしね。


「それじゃヒルデ、改めて、ようこそ王連街へ。歓迎するわ」

「ありがとうございます。サユリ様のお屋敷には来てみたいと思っておりましたから、今回のご招待には心から感謝致します」

「もっと早く招待したかったんだけど、生憎と私が不在のことも多かったものね。だけどさっきも言ったけど、今回ここは中継点よ」

「先程も仰られていましたが、どういうことなのでしょうか?」


 マナもプリムも、詳しいことは説明してないか。

 まあ説明は面倒だし、大っぴらに広めるような事でもないんだけど、フィールやメモリア、総本部のオーダーは戦闘訓練の帰りに立ち寄って湯殿で汗を流していたと聞いてるから、遠くない内に噂は広まるでしょう。

 ヒルデ達が帰る際も、場合によってはアルカに泊まることを考えてるから、積極的に隠してるワケでもないしね。

 それよりも今は、アルカの説明ね。


「大和君、説明よろしくね」

「やっぱり俺ですか」

「それはそうでしょう。そもそもアルカは、大和君の所有物なんだから」


 その天空島アルカの所有権は、宝樹の根元にある石碑を手に入れた大和君にある。

 アルカは天樹を中心に回っているそうだけど、その位置関係からアミスター国内にあるみたいね。

 だけど高度2万メートルなんていう意味不明の高さにあるから、アミスター国内にあってもアミスターの国土とは言えない。

 それに、誰がアルカを建造したのかっていう問題もある。

 なにせアルカは、聖母竜マザー・ドラゴンガイア様が神託を受け、鍵となる石碑の存在を秘匿していたぐらいなんだから、一国の王程度じゃ口を出せる問題でもないし、出したいとも思わない。

 ライもそう考えて、早々に大和君にアルカの所有権を認めていたもの。


「そんな感じですね」

「そ、空に浮かぶ島、ですか?そんなものがあるとは……」


 そのアルカの説明を受けたヒルデは、引き攣った顔を浮かべている。

 そりゃ空に浮かぶ島なんて、ヘリオスオーブじゃ物語でもなかったしね。

 地球じゃその手の物語は、特に珍しくないんだけどさ。


「今回の滞在中は、夜はアルカにご招待します。ウイング・クレストの拠点で仲間もいますから、それでも良ければですが」

「いえ、構いません。ウイング・クレストの噂はトラレンシアにも届いていますし、その天空の島とやらにも興味がありますから」


 トラレンシアにも、ウイング・クレストの噂は届いてるのね。

 って、それは当然か。

 さすがに終焉種討伐は伏せられてるけど、それでもレティセンシアの魔手からフィールを救い、アライアンスでは中核戦力を担い、バレンティア最難関と言われているソルプレッサ迷宮、同様の難易度と予想されていたアミスターのイスタント迷宮を相次いで攻略してるんだから、噂にならないワケがない。

 もちろん噂だから尾鰭背鰭は付いてるだろうけど、ウイング・クレストの場合だとそれでも控えめな話になってそうだわ。

 明日はヒルデ達にも大和君達が入手した魔石を、オーク・エンペラーとオーク・エンプレスの剥製を含めて見せる予定になってたはずだから、ヒルデ達もそう思うんじゃないかしら?


 だけどそれより気になるのは、ヒルデの大和君を見る目ね。

 あれって完全に恋する乙女の目だけど、まさかヒルデまで?

 確かマナは、プリムからの手紙で大和君に興味を持って、同じハンターとして尊敬の念を抱き、さらに近々会えるってことで恋慕に変わったって聞いてるけど、もしかしてヒルデも、マナと同じような感じで思慕を募ったってことになるのかしら?

 ヒルデはハンターじゃないけどハイヴァンパイアだし、トラレンシアは結構遠いから、もしかしたらマナよりその念は強かったのかもしれないわね。

 そう考えると、特に不思議でもないのかしら?


 だけどその想い、叶えるのはそこまで難しくないのが救いね。

 代々のトラレンシア女王は婿を迎え入れるかシングル・マザーになるかだけど、ヒルデの母になる先代女王はシングル・マザーになっている。

 結婚相手と見初めた男性がアミスターのハイハンターだというのも理由だけど、そのハイハンターが王家に入ることを拒んだから、退位してから結婚するってことになっていたはずよ。

 だから先代女王はヒルデが成人すると同時に譲位して、今はそのハイハンターと正式に結婚しているわ。

 ヒルデや妹のブリュンヒルド・ミナト・トラレンシアも母の幸せを願っていたし、自分達の実の父でもあるから、反対はしていないわよ。

 これはアミスターのハイハンターがお相手だったから、シングル・マザーになるっていう選択しか取れなかった事が理由よ。

 歴代女王のお相手はアミスターの貴族やオーダーもいて、特にオーダーの場合はセイバーズギルドに出向扱いで、必ず王家に入っていたの。

 ヒルデの場合だとアルカという存在があるから、大和君との結婚に距離的な障害は発生しない。

 お相手がエンシェントヒューマンだということも、ソレムネの侵攻を受けているトラレンシアからすれば歓迎材料になる。

 (オリハルコン)ランクオーダーでもあるから出向は難しいけど、定期的にセイバーズギルドと交流を持つことは可能で、セイバーもレベルを上げることができる。

 こうしてみると、2人の結婚を阻む物は存在しないに等しい。

 もちろん細々とした問題はあるし、真面目なヒルデは国のために好きでもない男を受け入れる覚悟ぐらいは決めてると思うけど、あいつの曽孫に望まない結婚をさせるつもりはないわ。

 これが地球なら諦めてもらうしかなかったんだけど、ここはヘリオスオーブという一夫多妻が常識の世界。

 若い頃の私なら多少の抵抗は出たでしょうし、実際に私が結婚する時は躊躇したけど、ヘリオスオーブで80年以上も過ごしているから、そんな常識はとっくの昔に捨て去っているわ。

 だから私は、大和君達と一緒にトラレンシアに同行することに決めている。

 もちろん曽孫同然のヒルデのこともあるけど、久しぶりにあいつにも会いたいからね。

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