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ヘリオスオーブ・クロニクル(旧題:刻印術師の異世界生活・真伝)  作者: 氷山 玲士
第八章・アミスターでの出会いと冒険
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新たな加入者

 ロリエ村を去り、道中で石板を使うことで、俺達は無事に、フィーナの家族をアルカに招くことができた。

 夜にはリカさんが泊まりに来るが、その前に領代に報告しておく必要があるから、この後でフィールにも行かなきゃだが。


 フィーナの家族、お父さんでリクシーのダスクさん、実のお母さんでハーピーのリーナさん、もう1人のお母さんでエルフのカンナさん、2つ下の妹でリクシーのフィアナ、5つ下の妹でハーピーのレイナには、転移前に俺達の素性やアルカのことも含めて説明済みだ。

 さすがに俺がエンシェントヒューマンだったり、マナがアミスターのお姫様だったりってとこは盛大に驚いてたし、慌てて跪いてたな。

 アルカに残ってるメンバーもいるからそっちは改めてってことで、今は本殿で紹介中だ。


「……何と言ったらいいのか分かりませんが、この度はご招待いただき、ありがとうございます」


 そう言って頭を下げるダスクさんに、フィーナの家族が続く。


「獣車の中でも言ったけど、気にしないで。フィーナは私達の大切な仲間だから、助けるのは当然よ」

「あたしのこともあったから、尚更ね」

「いえ、プリムローズ様がご存命で、アミスターの(オリハルコン)ランクオーダーとご結婚されたことは、ロリエ村にも届いておりました。ギルファ王爵は認めていませんが、獣王陛下はお認めになられているとも伝わってきております。エンシェントフォクシーに進化されていたことは初耳ですが」


 プリムのこともロリエ村には伝わってたみたいだから、エンシェントフォクシーに進化してることも含めて説明済みだ。


「ロリエ村よりギルファの方が耳は早いから断言はできないけど、それでもギルファが何をしてくるか分からなかったから、これは助かったって言ってもいいわね」

「だな」


 プリムがエンシェントフォクシーだということをギルファが知っているかは微妙なところだったし、身請奴隷になったフィーナがプリムとユニオンを組んだことに気が付いているかは判断できなかったが、だからといって放置しとく訳にはいかなかったからな。

 フィーナやダスクさん達の前じゃ言いにくいが、この後ロリエ村のことを気に掛けなくてもよくなったことも大きい。


「今日は小峰殿で休んでもらうけど、明日からはフィールに住んでもらうことになるわ。こちらの都合でもあるから、住居はすぐに手配できることにもなっているから安心して」

「重ね重ね、ありがとうございます」


 そこまで説明してから、ユーリとキャロル、アプリコットさんが小峰殿から戻ってきた。


「お待たせしました。カンナさんは大丈夫です。もちろん、お腹の子も」

「ほ、本当ですか!?」

「ええ。しばらくは安静にしてもらう必要がありますから、出産されるまではヒーラーズギルドに厄介になった方がいいでしょう」


 経産婦でもあるアプリコットさんの見立てだと、体力がかなり落ちてたらしいから、栄養のある物を食べさせて、安静にしてもらわないといけないらしい。


「良かった……」

「あなた方がご自分の食事を食べさせていたからこそ、間に合ったと言えます。そうでなかったら、もっと早く流産していたでしょうね」


 それだけ、心身共に負担がかかってたってことか。

 フィーナの身請額を受け取ったくせに誰も手助けせず、それどころかこんなになるまで追い込んでたなんて、どこまで腐った村なんだよ。


「ありがとうございます……」


 感極まった表情で礼を述べるダスクさん。


「話を戻すわ。さっきも言ったけど、フィールへ移住してもらうのは私達の都合が大きい。だから家はこちらで用意するけど、生活に関してはあなた達が自分でやってもらうことになる。ダスク、あなたはクラフターよね?」

「はい。私だけではなく、妻達もクラフターです」


 ダスクさんが木工師、リーナさんが仕立師、カンナさんは調理師だったな。

 3人とも(シルバー)ランククラフターだったはずだから、フィールでも十分やっていけるだろう。


「そう。大きな仕事は終わった後だけど、いずれもフィールなら需要の多い職種だし、(シルバー)ランククラフターでもあるなら十分やっていけるでしょう」

「はい。私も妻達も、それなりに腕が立つと自負しております」


 なんでダスクさん達が(シルバー)ランククラフターなのかだが、これも理由は単純で、昇格試験を受けにいける余裕がなかったからだ。

 ロリエ村じゃ素材が手に入りにくいこともあるが、フィーナが身請してからは生きていくのがやっとだったから、それどころじゃなかったみたいだ。


「ですがカンナさんは、出産されるまで働くことを禁止します。これは王族ではなく、ヒーラーとしての忠告です」


 ユーリが厳しい一言を掛けるが、これはカンナさんの身を案じての言葉だ。

 調理師はけっこうハードな仕事でもあるから、妊婦には負担が大きい。

 立ち仕事でもあるから逆子になってしまう可能性も高くなって、母子ともに命を落とすことだってある。

 これは俺の世界でも同じだし、出産の際に命を落とす人だっていない訳じゃない。

 さらにカンナさんは、栄養失調で弱ってたし、大きなストレスも感じてたんだから、いつ流産しても不思議じゃなく、それが原因でカンナさん自身が命を落とす可能性だって低くはなかった。

 ヒーラーがそんな状態の人を働かせることに、賛成する訳がない。


「わかりました」

「当面の生活費やカンナさんの治療費は、俺達も出させてもらいます。フィーナの家族なんだから、俺にとっても家族だしな」

「同感だね」


 エドとマリーナは、生活費の援助をするつもりか。

 嫁さんの家族なんだし、それは分からんでもない。

 俺もフィーナには世話になってるし、少しぐらいは手助けしてもいいな。


「大丈夫です!私もクラフターズギルドに登録しますから!」

「あたしも!」


 そう思ってたら、フィアナとレイナがクラフター登録するって言い出した。

 いや、それはそれでアリだが、クラフターってけっこう金かかるぞ?


「娘にまで心配されるとは、情けない限りですよ」


 自嘲気味に笑うダスクさんだが、心から嫌がってる訳じゃないな。

 本来ならフィアナとレイナは、とっくにクラフター登録を済ませていたはずらしい。

 だが忌み子として疎まれていたこともあって、村の子供達がギルド登録に行く際に、大人達に同行を拒否されてしまったそうだ。

 2人がクラフター登録をできていたら、少しは生活も楽になっていたとは思うが、それすらも許さなかったって、マジでどうなってんだよあの村は。


「いっそのこと、フィアナとレイナは俺達が面倒みるか?」


 思い付きで口にしてしまったが、悪い提案でもないと思う。

 もちろん俺達が面倒みることになる以上、ウイング・クレストに加入してもらうことにはなるし、指導できるクラフターもエド、マリーナ、フィーナの3人だから、不足があるって言われてしまえばそれまでだ。

 俺とフラムはまだ(ティン)ランククラフターだから、教えてもらう立場だしな。


「あたしはいいと思うけど、みんなは?」

「俺は構わねえぜ。とはいえ、今は余裕がないから、教える時間は取りにくいが」

「あたしもかな。もちろん時間は取るし、頑張って教えるけど、あたし達だってまだまだ未熟だよ?」


 プリム達やラウス達は賛成、エド達も賛成だが、教える時間がとりにくい上に自分達も修行中って理由を押してきたか。

 実際その通りなんだが、それでもけっこう腕を上げてるはずだろ?

 その証拠にエドは(プラチナ)(ゴールド)ランク、マリーナは(ゴールド)(シルバー)ランクだし、フィーナも近い内に(ゴールド)ランクの昇格試験資格が出るって話だ。


「あたし、お世話になりたい!」

「その、できれば私も」


 元気よく答えるレイナと、遠慮がちに答えるフィアナが対象的だな。


「と、娘さん達は言ってるけど?」

「父親としては、フィーナのように教えてやりたい気持ちもあります。ですが今まで苦労をかけていた分、この子達の望むようにさせてやりたい気持ちもあるのです。どうしたものか……」

「いいじゃない。今生の別れになるワケじゃないし、彼らもフィールを拠点にしているそうだから、いつでも会えるわよ」

「それはそうだが……分かった。今まで散々苦労をかけてきたんだ。フィアナ、レイナ、お前達の好きにしなさい」

「ありがとう、お父さん!」

「ありがとう!」


 俺の思い付きだったんだが、フィアナもレイナも嬉しそうだ。

 まあ思い付きでも言ってしまった以上、責任は取らないとな。


Side・プリム


 翌日、フィーナの家族を連れて、あたし達はフィールにやってきた。

 説明のためにフィーナも来てるけど、エドとマリーナは今日もアルカで作業中。

 特にマリーナは、昨日の説明の後で大和が引き取ってきたドラグーンの革を目にして、ものすごくテンションが上がってたわね。

 ドラグーンの解体が全部終わって、やっと試作を作れるようになったんだから、気持ちは分からなくもないわ。


 あ、無事に領代への説明は終わったし、家も用意できてるそうだから、案内は領代に任せて、あたし達はフィアナとレイナのクラフター登録のためにクラフターズギルドにやってきた。


「この子達はまだ字を書けませんから、私が代筆します」

「ありがとう、お姉ちゃん」

「頑張って字を書く練習するね!」


 フィアナとレイナは、まだ字を書けないそうよ。

 本当ならロリエ村で教えてもらっていたはずなんだけど、文字を書くことも教えてもらえなかったそうなの。

 バリエンテにそんな村があったなんて、聞いた時はショックだったわ。

 大和達も殺そうとして火矢まで持ち出したそうだから、あたしの問題が解決したらロリエ村に行って、しっかりと処罰を加える必要があるわね。


「はい。ではこちらに血をお願いします」

「はーい!」


 おっと、もうほとんど終わってるわね。

 ユニオン加入手続きもあるけど、そんなに時間かかるものじゃないし、むしろ大和とフラムが受けてる昇格試験の方が時間かかるわ。

 現在大和とフラムは、クラフターズギルドの一室で昇格試験を受けている。

 フラムはけっこう勉強してたんだけど、大和は一夜漬けすらしてないから昇格試験を舐めまくってるわ。

 だけど大和曰く、(アイアン)ランクへの昇格試験は、大和の世界じゃ誰でも知ってるような内容らしいのよ。

 だから自信満々だったの。


「はい。それではフィアナちゃん、レイナちゃんのクラフター登録、ウイング・クレストへの加入手続きは終了です。ウイング・クレストの人達は常識が無いけど、頑張ってね」


 担当してくれたドワーフの女性職員に失礼なこと言われたけど、常識が無いって何度言われたかわかったもんじゃないから、意外にもあんまりダメージ来てないわね。


「これがあたし達のライセンスかぁ」

「やっとクラフターになれたね」


 フィアナもレイナも嬉しそうね。

 本当ならフィーナが奴隷になった直後にクラフター登録するはずだったのに、家族を救うために奴隷になったフィーナの身請額を全部奪い取られた上、それを理由に忌み子扱いまでされてたんだから、本当に大変だったと思うわ。


「じゃあ次は私ね。クラフターズマスターはいらっしゃいますか?」

「いるけど、何か用があるの?」

「はい。お話はしてあるんですが、ウイング・クレストで使う新しい獣車の件で、ご相談とご報告があるんです」


 フィーナはラベルナさんの秘書もしてたんだけど、ウイング・クレストに加入するにあたって別の人に引継ぎを行っている。

 だから気軽に会えなくなっているのよ。


「分かったわ。ウイング・クレストの件って言われたら、私達も断りにくいからね。ちょっと待ってて」


 そういって受付嬢は席を外した。

 フィーナの報告と相談は、先日大和が言ってた金属を使った船のこと。

 金属を使う以上鍛冶技術も必要になるんだけど、フィーナは本職の木工以外にも、けっこう手広く手伝いをしたりしてるから、店に売れる程度の金属製品を作ることができる。

 だから、人が3人乗っても沈まない鉄の船を作ることに成功していたりするわ。

 まだ改良の余地はあるけど、メルティングとデフォルミングっていう工芸魔法クラフターズマジックを使うことで効率良く作れるみたいだから、試してみる価値はあると思う。


「お待たせ、マスターズルームに行ってちょうだい」

「わかりました」


 思ったよりあっさりと通されることになったけど、あたし達はクラフターズギルドはもちろん、他のギルドでも比較的簡単にギルドマスターに面会できちゃうから、特に驚くようなことじゃない。

 フィアナとレイナは、こんな簡単にクラフターズマスターに会えるとは思ってなかったみたいだから、すごく驚いてるけどね。

 今回フィーナがラベルナさんに報告する技術も大和、つまり客人まれびと経由だけど、実際に試したのはフィーナだから、これが実用化されるようなことになったら、またアミスターの戦力が増強されそうだわ。

 レティセンシアどころかアバリシアへの対抗戦力にもなるから、悪い事じゃないし、あたしとしても大歓迎なんだけどね。

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