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ランクアップ

 エオスは本当に速く、夕方4時頃にはアミスターの王都フロートに到着した。

 俺達がフロートに寄ることは、駐バレンティア大使のローザリーさんからの手紙が届いていたこともあって、エオスが魔物と間違われるようなこともなかったし、到着してすぐに天樹城まで来るよう指示が出されていた程だ。

 そして天樹城の応接室でラインハルト陛下、エリス殿下、マルカ殿下と再会し、バレンティアでの出来事、俺とアテナの婚約、マナとエオスの竜響契約、ソルプレッサ迷宮の攻略、そしてナールシュタットの反乱とアバリシアの関与を報告した。

 そしてある程度終わったところで、ヘッド・バトラーズマスター、ヘッド・ハンターズマスター、グランド・クラフターズマスターが到着したと宰相のラライナさんが教えてくれて、すぐに3人が応接室に通された。


「そうですか、ユリアと正式に契約を。かしこまりました、後程私が手続きを行わせていただきます」


 ヘッド・バトラーズマスター シャイルさんが、優しい笑みを浮かべながら、手続きを請け負ってくれた。

 ユリアの祖母ミカーナさんも同行してるから、これでバトラーズギルドに寄る必要はなくなったんだが、だからといって久しぶりにおばあちゃんに会ったんだから、水を差すような野暮な真似をするつもりはない。


「こちらとしては、ものすごく頭が痛いわね……」

「同感だ。まさかドラグーンを、こんな大量に持ち込んでくるとはな……」


 ヘッド・ハンターズマスター シエーラさんとグランド・クラフターズマスターでエドの親父さんのアルフレッドさんが、ソルプレッサ迷宮の魔物リストを見ながら大きな溜息を吐く。


「気持ちはよく分かるぜ、親父」

「だよねぇ」


 エドとマリーナがアルフレッドさんに同情しているが、お前らは俺達が狩るたびに小躍りしてたよな?


「この中で売ってもらえるのは……


  デザート・ドレイク1匹

  ウインガー・ドレイク4匹

  エビル・ドレイク1匹

  ソード・ドレイク1匹

  ヴェロキラプトル10匹

  アロサウルス3匹

  プロトケラトプス1匹

  ブラキオサウルス1匹

  ティタノサウルス1匹

  マクロナリア3匹

  スカイ・スコーピオン1匹

  ウィッパード・モンキー2匹

  グラン・デスワーム1匹

  ブルーリーフ・エント1匹

  フォートレス・ホエール1匹

  レッサー・ドラグーン1匹

  レイク・ドラグーン1匹

  ムーンライト・ドラグーン1匹

  スパーク・ドラグーン1匹ね。」

「十分な数だが、討伐したドラグーンの数に比べると少ないな。エド、どういうことだ?」


 シエーラさんとアルフレッドさんの奥さんの1人、キャサリンさんが買取リストを見ながら首を傾げる。


「簡単だ。今使ってるクレスト・アーマーコートは、大和とプリムの魔力に耐えられなくなってきてるんだよ。だけどアーク・オーダーズコートは大丈夫らしいから、せっかくだから全員分のコートを、ドラグーンを使って新調する予定だ」

「そういうことか。確かそのコートは、ウインガー・ドレイクを使っていたな?」

「ああ。ウインガー・ドレイクは(シルバー)(レア)ランクモンスターだから、こいつらの魔力を受け止めきれねえってことだと思う」


 納得してくれたアルフレッドさん、エアリスさん、キャサリンさんだが、同時にエド、マリーナ、フィーナに羨望の視線が突き刺さっている。

 そりゃドラグーン素材を好き放題使えるようなもんなんだから、羨ましくなるのは当然か。


「そう言われると、ハンターズギルドとしては無理に売ってくれとは言えないわね」

「それはクラフターズギルドとしてもだが、それにしても手元に残しておく数が多過ぎないか?」

「色々と考えがあるんですよ」


 マリーナの構想としては、ゴールド・ドラグーンの革を表地、ディザスト・ドラグーンの革を裏地にして、そこに各人が希望する属性ドラグーンの革を繋ぎ合わせることで防御力の向上はもちろん、属性魔法グループマジックに対する親和性と使い勝手を上げることを考えている。

 ゴールド・ドラグーンもディザスト・ドラグーンも全長50メートル近い巨体だから、試作や陛下達に献上する分を含めても十分な余裕があることも大きい。


「それと陛下。大和さんのアーク・オーダーズコートなんですけど、ウインガー・ドレイクの革を使ってる箇所に、若干の劣化が見受けられます。グリフォンを全て献上させていただきますので、王代陛下に仕立て直しをお願いできないでしょうか?」

「そうなのか?いや、確かにアーク・オーダーズコートにもウインガー・ドレイクの革を使っているから、そのコートが大和君やプリムの魔力に耐えられない以上、当然の帰結か」


 フィーナの報告に、ラインハルト陛下が驚きの表情を浮かべる。

 クレスト・アーマーコートの魔力疲労や魔力劣化を防ぐために、俺はソルプレッサ迷宮ではアーク・オーダーズコートを多用していた。

 それでもクレスト・アーマーコート程劣化してる訳じゃないが、このまま使い続けるのはちょっと躊躇いが生じている。

 アーク・オーダーズコートでウインガー・ドレイクの革を使っているのは手甲と足甲、鎧下にトラウザー、あとはマントだから、ストレージに入ってるグリフォン2匹を献上すれば何とかしてくれるだろう。


「そういうことなら分かった。父上もグリフォンを使えることに加え、大和君の身の安全にも繋がるのだから、すぐに作業に入ってくれるだろう」

「ありがとうございます」

「私達のためにゴールド・ドラグーンとディザスト・ドラグーンを献上してくれるのだから、これぐらいはな。とはいえ、多少の時間はかかるだろう」


 そりゃ王代陛下だって暇じゃないんだからな。

 仕立て直してくれるだけでありがたい。


「そっちは私達が関与する問題じゃないけど、こっちはどうするの?」

「こっち?」


 シエーラさんが呆れた顔をしてるが、こっちってどっちだ?


「あのね、ほとんどの人がランクアップするんでしょ?その手続きをどうするのかって聞いてるのよ?」

「うむ。さらにフレデリカ侯爵は(ブロンズ)ランクオーダーに、ミーナに至っては(シルバー)ランクオーダーに昇格できるのだからな。昇格はするのだろうが、問題にならない訳がない」


 ああ、そっちか。

 確かにそうなんだよな。

 リカさんのオーダーズランクは後でトールマンさんが手続きをしてくれることになってるし、クラフターやヒーラー、バトラーは試験を受けなきゃいけないからランクアップはしないんだが、問題はハンターだ。

 多くが(ゴールド)ランクに昇格できるレベルになっているし、プリムなんて(ミスリル)ランクだ。

 だけどバレンティアから戻ってきた直後に一気に昇格したってことが知られたら、絶対に問題になるのが見えてるから、フィールに戻るまで昇格手続きはしない方がいいんじゃないかっていう考えもある。

 さらにミーナは、(ゴールド)ランクハンターになると同時に(シルバー)ランクオーダーにもなるんだから、問題にならない訳がなかったか。


「フィールで手続きをしても大差ないわよ。というより、そっちの方が問題になるわ。あなた達はそのフィールを拠点にしてるんだから、有象無象どころか他国のスパイだって入り込むわよ?」

「なんで?」

「あのね、あなた達がフィールを拠点にしてることは、既にアミスター中どころか他国にも広まってるのよ?だからいくつかのレイドが、フィールに向かっているって噂もあるわ。今フィールにいるハンターは少ないから、それは悪いことじゃないんだけど、その中にはアレグリアやトラレンシア、バリエンテ、リベルターのハンター、しかもハイクラスもいるっていう話もある。ハイクラスは国の上層部とも繋がりがあるんだから、そんな所でこんな派手なランクアップなんてしちゃったら、騒ぎになるに決まってるでしょう?」


 あ~、それは確かに面倒だ。

 しかもその場合、フィールを拠点にしてる以上、俺達に逃げ場はないじゃないか。


「それは確かに面倒ね。だけどここでランクアップしちゃったら、バレンティアの関与だって疑われるわ。それはどう思うの?」

「そこは私としても頭の痛い問題ですが、殿下方がソルプレッサ迷宮に行かれたのは間違いのない事実ですから、それで押し通すしかないでしょう」


 確かにみんなのレベルがここまで上がったのはソルプレッサ迷宮で狩りをしたからなんだし、押し通すもなにも事実なんですが?

 いや、それを信じるかどうかは、国次第か。

 トラレンシアは女王がプリムとマナにとって姉妹同然の人らしいし、アレグリアはグランド・ハンターズマスターがいるから、そこまで無茶なことはしてこないだろう。

 問題はバリエンテとリベルターのハンターか。

 リベルターにはまだ翡翠色銀ヒスイロカネ青鈍色鉄ニビイロカネの製法は公表してないから、それを調べるためっていう可能性もある。

 だけど問題なのは、バリエンテのハンターだ。

 レオナス元王子と繋がってる可能性もあるんだから、友好的どころか敵対的なハンターが来てる可能性も否定できないな。


「私からも言わせてもらうと、プリムも含めて、全員がこの場でランクアップをしてもらうべきだと思っている。進んで広めるようなことはしないが、それでも人の口に戸は立てられない。だから噂はフロートから広まるようにすることで他国、特にバリエンテを牽制することができると考えている。それに私の前でランクアップするのだから、アミスターの庇護下にあると強弁することもできるからな」


 アミスター国王陛下の前でランクアップすることで、国王陛下も正確に俺達のレベルやランクを把握することができるし、ユニオン全員がアミスターの庇護下に入ることができる。

 まあ(オリハルコン)ランクオーダーの俺がいる訳だから、余程の馬鹿でもなければ敵対しようとは考えない気もするが。


「そういうことなら、私としてはお願いしたいわ。みんなは?」

「異議なしよ」


 どうやらみんな、ランクアップについて異存はないみたいだ。

 これでプリムは(ミスリル)ランク、マナ、ミーナ、リディア、ルディア、ラウスは(ゴールド)ランク、フラムとレベッカは(シルバー)ランク、アテナは(ブロンズ)ランクに昇格か。


(ミスリル)ランク2人に(ゴールド)ランク6人、(シルバー)ランク3人で、全員がハイクラス、さらにエンシェントクラスまでいるのね。間違いなくヘリオスオーブ最強のレイド、いえ、ユニオンね」

「別にどうでもいいですね」

「同感。もっとも手を出してくるなら、相応のお礼はさせてもらうけど」


 それは同感だ。


「それについては、やりすぎないようにとしか言えないな」

「そうですね。ともかくランクアップ手続きは、お話が終わってからさせていただきます」


 話が終わってからって言われても、ほとんど終わってるようなもんだけどな。

 この後はハンターズギルドで魔物を売るぐらいだと思うが。


「いや、もう話は終わっている。ヘッド・ハンターズマスター、ヘッド・バトラーズマスター。手間をかけるが手続きをお願いする」

「かしこまりました」


 シャイルさんはミカーナさんに指示し、持ってきていた契約書をユリアの前に出す。

 シエーラさんはマナ達のライセンスを受け取って、狩人魔法ハンターズマジックを使ってランクアップ手続きを開始する。

 これでハンターは昇格し、ユリアも正式にウイング・クレストのメンバーになった。


 後はハンターズギルドに行って、さっきのリストの魔物を売るだけだな。

 今日は天樹城に泊まることになるが、明日はメモリアでリカさんのお母さんに婚約のご挨拶をしなきゃだから、緊張するが今からしっかりと考えておかないとな。

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